54・トラック野郎、久し振りに弄る
アルルが家に来て二週間。俺は早起きをして運転席に座っていた。今日も配達で忙しいから、トラックのアップグレードを済ませておこうと思ったのだ。
今日の配達が終われば明日は休み。キリエが考案したスケジュールで仕事を始めてからだいぶ余裕が出てきた。四日の配達日と二日の事務仕事、そして一日の休みのサイクルは楽でいい。看板も出来上がり会社の外に設置してあるのでお客様の目に付きやすい。今のところ問題は出ていない。
アルルはさっそく学校に通い始めた。母親に会えるかもしれない希望とシャイニーのおかげでかなり明るくなり、友達も出来たようで毎日とても楽しそうだ。これなら心配ないだろう。
「ふぁ······」
眠いけどやる事はやらないと。
今日の配達は午前中で終わり。午後はニナに会いに行き、土砂崩れの撤去作業の手伝いを申し出るつもりだ。そのために新しいフォームを手に入れる。
最近仕事が忙しく、禄に経験値を稼いでいない。でも経験値は四十万ほどあるしアップグレードも特に必要ないと思って改造はしていない。居住ルームや温泉も設置してあるのに殆ど使っていなかった。
俺はフロントガラスを眺めながら、久し振りのアップグレードにワクワクしていた。
「久し振りだし、いろいろ改造してみるか」
『社長。各項目が更新されています。まずはどの項目をご覧になりますか?』
「まずはステータスを見せてくれ。ここ最近全く見てなかったから、確認しておきたい」
『畏まりました』
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【機体名】デコトラカイザー[レベル40]
【運転手】 吾妻幸太
【機体スペック】
○最大速度 200km/h
○最大積載量 5.5t
【武装】【車内設備】【車体強化】
【ドライブイン】【追加装備】【カイザーカスタマイズ】
【車体換装】【従車販売】【ポイント貯金】
[経験値ポイント・400300]
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「うん。また見やすく表示されてるな」
『各項目をタッチすると詳細が表示されます』
項目が増える度に画面も変化していくな。フロントガラスがタッチパネルになってるのは現代っぽくていいね。
俺は【車体換装】の項目をタッチして画面を切り替える。
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【車体換装】
[トラックフォーム]標準設定
[ユニックフォーム]
【換装一覧】
[ダンプフォーム][ブルフォーム][??????]
[??????][??????][??????]
[??????][??????][??????]
《次期開放・レベル60》
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「よし。ブルフォームを取得してくれ」
『畏まりました。テレッテッテー[ブルフォーム]習得。トラックフォームからブルフォームに変形しますか?』
「ああ。それと前々から気になってたけど、その棒読み効果音なんとかならないのか?」
『仕様です』
「そうですか······お、ぉぉぉっ⁉」
すると運転席が思い切り変化した。メカメカしいトランスフォーマーみたいな変形ではなく、魔法のようにモヤが掛かり気が付いたら運転席が切り替わる。
ハンドルはそのままだがレバーがいくつも増設されてる。車高もやや高くなりフロント部分も広くなった。補助椅子が付いてるからこれも二人乗りだけど、シートは硬くて座りにくい。
外に降りて確認すると、ボディカラーは黄色。工事現場にあるブルドーザーそのままだ。
大型特殊免許も持ってるから運転は出来るが、久し振りだからちょっと怪しい。
『変形完了。変形に伴い【カイザーカスタム】項目が更新されました。デコトラカイザーの新たな変形機構を獲得出来ます』
「あ、ああ」
運転席に戻りトラックフォームに再び戻す。やっぱり乗り慣れたトラックが一番だ。
「じゃあ【カイザーカスタム】を見せてくれ」
『畏まりました』
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【デコトラカイザー】レベル40
【スキルコマンド】
○パンチ[赤] ○キック[緑] ○ジャンプ[黄] ○武装[青]
○ショートアッパー[↓↘→赤] ○ラッシュパンチ[赤連打]
【特殊武装】
○『ドライビングバスター』
【特殊形態】
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「今更だけど格ゲーだな······」
『デコトラカイザーの新しいコマンドを習得しますか?』
「まぁ一応見せてくれ」
『畏まりました。新項目【コマンド習得】を表示します。新項目習得に伴いカスタム項目が整理されました』
「またかよ。いちいち変わるのも面倒だな」
『社長のスキルが成長している証です。ご容赦下さい』
「はいはい。悪かったよ」
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【コマンド習得】 [習得経験値2000]
○ロケットパンチ[↑↑赤] ○ジャンプキック[黄・緑]
○スウェイ[移動方向キー2回] ○チャージパンチ[赤長押し]
○ラッシュコンボ[赤赤赤緑]
○以下項目未開放
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「うーん、格闘系が多いな」
『トラックフォームは特化した能力がない平均的なフォームです。戦闘スタイルとしてはトラックフォームで相手の戦力を探りつつ戦い、相手の能力に合ったフォームへ変形する戦法が一般的です』
「そんな一般論は知らん。っていうか運送屋にロボットは必要ないだろ······」
『そうでしょうか。また魔王四天王のような強敵と出会う可能性はゼロではありません。トラックの強化をする事は社長や社員達の生存に関わると進言します』
「うむむ······」
否定できないな。玄武王を倒せたが他の四天王と会う可能性だってある事だし、タマの言う事も間違ってはいない。トラックの強化は必要だと思う。
『デコトラカイザーに新フォームの習得をお勧めします』
「新フォームねぇ······」
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【特殊形態】
○ユニックデコトラカイザー[15万]
○ブルデコトラカイザー[15万]
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「うーん·········やっぱ高い」
十五万のポイント消費は高い。今すぐの強化が必要とは思えないから躊躇してしまう。強敵が待ち構えているわけでもないし、やっぱり新フォームはまだいいや。特撮ヒーローではお決まりだけど、俺はヒーローじゃなくて運送屋だ。カッコいい要素はそんなに必要ない。
「とりあえず保留だ。次は【従車販売】を見せてくれ」
『畏まりました』
タマの忠告を無視する形だが、タマは特に何も言わなかった。
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【従車販売】
○軽トラック[80万] ○軽冷凍車[90万] ○軽ワンボックス[100万]
○ハイエース[200万] ○軽自動車[120万] ○フォークリフト[170万]
○以下項目未開放
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「やっぱ高い······」
今のポイントじゃどれも買えない。ポイントを稼いだら一台くらいは購入したいな。配送が二倍になれば配達も早く終わるし、配達だけではなく集荷も行えるかもしれない。夢が広がるけど現実では無理だ。
「コツコツとポイントを貯めよう。なんか車を買うって大変だな」
俺は車を持っていない。会社までは電車通勤だったし、特に欲しいとも思わなかった。だが異世界でこんなにも車を欲しくなるとは思わなかったよ。
『現在の【ポイント貯金】はゼロ。戦闘をこなしポイントを稼ぐ事をお勧めします』
「戦闘か······」
玄武王と戦って以来、戦闘は全くしていない。
ポイントが必要なのはわかるけど、仕事は忙しいし街道にはモンスターが出ないし戦う機会がない。
『社長。《ウスグレー参道》の先に《森林都市モリバッカ》があり、さらにその先は《スナダラケ砂漠》です。砂漠を超えた先に《水上王国ウツクシー》があります』
「ん、ああ、どうしたんだよいきなり」
『スナダラケ砂漠は危険種の住処がいくつもあり、通称《死の砂漠》と呼ばれ冒険者達からは恐れられている地域です。ウツクシーに向かう場合、その砂漠を経由してポイント稼ぎをするのが望ましいと思われます』
「お前はまたそんな危険ルートを······」
『危険度はデンジャー山脈とほぼ同じ。トラックなら問題はありません』
「······ま、まぁそうだな。デンジャー山脈なんて殆ど素通りに近かったよな」
多分、このルートでみんな賛成すると思う。ビビってんのは俺だけだ。一番年上なのに情けないぜ。
土砂崩れの撤去作業を終えたらウツクシーに向かおうと考えてたし、ここはいっちょやってみるか。
「わかった。そのルートでいいかみんなに確認しよう。誰も反対しないと思うけどな」
『畏まりました』
俺だってこの世界に来てそこそこ経つし、いつまでもモンスターにビビってられない。少しくらい危険なルートでもトラックを信じて進むだけだ。とはいえ怖いけどね。
「コウタさーん、ご飯ですよー」
「ん、ああ、今行く」
ミレイナの朝ご飯だ。忙しい運送屋には欠かせない。
「よし、とりあえずここまで。タマ、今日もよろしくな」
『はい社長。今日も元気に頑張りましょう』
俺はトラックから降りて、みんなの待つ居間へ向かった。