52・トラック野郎、大変な予感
「すごーいっ‼」
「ほら、危ないぞアルル。気をつけてな」
「はい、おじさん」
アルルを助手席に座らせてトラックはゼニモウケへ。アルルは初めてのトラックに興奮し、窓から身を乗り出そうとしてる。何度も注意してるけど我慢できないのは子供らしいな。というかおじさんは勘弁してくれ。
ちなみにシャイニーは居住ルームにいる。アルルがトラックに乗りたがったので、自動的にシャイニーは居住ルームに居ることになった。二人乗りだから仕方ないよな。
「アルル、お菓子でも食べるか?」
「おかし? 食べたい‼」
「よーし」
ここはシャイニーが好きなポッキーと、子供だしカフェオレじゃなくてフルーツジュースにしよう。
「タマ、ポッキーとフルーツジュースを購入。ポイントは俺に付けといて」
『畏まりました·········購入完了』
「わ、なんかしゃべった」
おっと、タマの紹介をしてなかった。
『初めましてアルル様。私はタマと申します』
「タマ? かわいー名前だね」
『ありがとうございます。それではこちらをどうぞ』
「わわっ、なんか出た」
「それがお菓子だよ。ちょっと待ってろよ」
俺はトラックを一時停止させ、ポッキーの箱とジュースの蓋を開けてやる。するとアルルはさっそくポッキーをこりこり齧り、ジュースをこくこく飲む。
「おいしい‼」
「はは、ゆっくり食べろよ」
「はい‼」
暫しのお菓子タイム。ゼニモウケまではまだ掛かるし、アルルにいろいろ聞いておこう。
「ところで、アルルはいくつなんだ?」
「わたし? わたしは十歳です」
やっぱり小学生か。まぁ見た感じそうだとは思ってたけど。蒼いツインテールを揺らしながらポッキーをこりこり齧る姿は可愛らしく、幼い頃のシャイニーもこんな感じだったのかなと思ってしまう。
「アルル、俺たちの家にはあと二人のお姉さんがいる。二人とも優しいから、困った事があれば何でも言えよ?」
「お姉ちゃんから聞いたよ。ミレイナちゃんとキリエちゃんだよね?」
ちゃん付けとは、なんとも可愛らしい。いくつか質問をしてみたが、どれも子供らしい返答だ。母親の事は聞きにくいけど、聞かない訳にはいかないな。
「それと、母親の事だけど······」
「お母さん······」
「仕事の関係ですぐには行けないけど、時期が来たらウツクシーに行こう。お母さんはアルルを待ってると思うから、元気な姿を見せてやろう」
「······うん。ありがとう、おじさん」
俺は左手を伸ばし、アルルの頭をなでてやる。
「えへへ······お父さんみたい」
「そ、そうか」
何とも複雑だが、何故か悪い気はしなかった。
ゼニモウケへの帰り道、疲れきった冒険者達とすれ違う事が多かった。足取りが重そうなグループや、汚れてボロボロの冒険者、街道の途中で爆睡してる冒険者グループなど、今まで見たことないような光景だった。
「おいおい、何だよこれ」
「うーん······危険種でも出たのかしら。でもそれにしては怪我人が少ないわね、怪我人っていうか疲れてボロボロになってるような······あ、もしかして」
シャイニーが何かに気が付いたようだ。ちなみにアルルはお腹いっぱいになったのか寝てしまった。なので居住ルームのソファに寝かせ、助手席にはシャイニーが座ってる。
「たぶん、土砂崩れの復旧作業を終えた冒険者よ。手に包帯を巻いてる冒険者が多いのは、きっとスコップ片手に延々と土砂を掘り進んでたからね」
「手作業······こりゃ地獄だわ」
規模が分からないから何とも言えないが、相当な労働だったのは間違いない。本来は重機を使って·········待てよ?
「なぁタマ、やるかどうかは別だけど」
『可能です。《ブルフォーム》を使えば土砂の撤去作業を行う事が出来ます』
「ブルフォームか·········確か、ダンプフォームかブルフォームかのどちらかを選べるんだよな?」
『肯定です』
「う〜ん·········」
ここで積極的に「よしやろう‼」と言わないのが俺だ。
ぶっちゃけ関係ないから面倒くさい。それに冒険者が賃金を貰って作業してるのに、冒険者ですらない俺が作業を手伝うのはおかしい。それに稼ぎを邪魔されたと冒険者達が怒る可能性もある。
「ねぇ、あれってニーラマーナじゃない?」
「え、あ、ホントだ」
前方から、冒険者を引き連れたニナが馬に乗ってやって来た。
ニナの後ろには数台の馬車が走り、それを引率するようにニナが前を走る。なんかカッコいいな。
目立つから仕方ないよな。するとニナは片手を上げると馬車は止まる。つまり停止合図を出した。
「ふん、素通りしちゃいなさいよ」
「アホ」
シャイニーを制してトラックを止める。ゼニモウケの冒険者達は見慣れたのか、トラックを見ても特に騒がなかった。
「やぁ社長。配達の終わりか?」
「まぁな。ニナはやっぱり土砂崩れの復旧作業か?」
「そうだ。知っていた······ん、シャイニーブルーか。良かったらお前も手を貸してくれ。復旧作業に人手が足りなくてな、暫くは冒険者交代で作業に当たらなくてはならないんだ」
「はっ、そんなのアタシには関係ないわ。もう冒険者じゃないし、アタシに命令しないでくれる?」
確かにその通りだが言い方が悪い。まるでケンカを売るような挑戦的な物言いだが、ニナは特に気にしていなかった。
「確かにそうだな。すまなかった」
「······ふん」
「おいシャイニー、やめろよ」
「いいんだ社長。引き止めてすまなかった、気を付けて帰ってくれ」
「あ、ああ。そっちも頑張ってくれよ」
「·········」
シャイニーは外を眺め、ニナと目を合わせる事はなかった。冒険者をクビになった原因が自分にあるとはいえ、他の冒険者達の前でクビを宣告されたからな。恨んでると言っても過言じゃない。
ニナは馬車を引き連れ去って行く。俺もトラックを発進させゼニモウケへの帰路へ着く。
「お前なぁ、ニナが嫌いなのは仕方ないけど、もう少し普通に接しろよ。ニナには世話になってるし、あんまり険悪なのも困るんだよ」
「······何よアンタ、ニーラマーナが好きなの? ああいうのがタイプなの?」
「違うっての。確かに美人だけど俺のタイプは······ってそうじゃない‼ 全く」
「ふーんだ」
こりゃ重症だな。放っておけば和解するなんてのは甘かったりするとタマが言う。
『社長。ここから十二キロ先の《ウスグレー参道》をスキャンしました。現在土砂崩れの復旧作業中です。その件について報告と提案があります』
「提案? なんだよ、言ってみろ」
『はい。現在、ゼニモウケギルド所属冒険者達による復旧作業が続いてますが、参道の復旧率は六パーセントです。このままのペースで作業をすると、参道の完全復旧は約七ヶ月後と予想されます』
「ええと、つまり?」
「あっ······しまった、土砂崩れはウスグレー参道······っ‼」
シャイニーはハッとして顔を上げた。あれ、どうしたんだ?
『《ウスグレー参道》は商業都市ゼニモウケと森林都市モリバッカを繋ぐ参道です。モリバッカを経由しないとウツクシーには到達出来ません。つまりアルル様をウツクシーに送り届けるのは、このままですと七ヶ月後になります』
「え。あ、そういえばコピ商会の社長も言ってたな、モリバッカへ続く参道に土砂崩れが起きたって」
つまり、七ヶ月後じゃないとアルルをウツクシーに連れて行けない。こりゃ参ったな、他の道で行くしかないか。
『そこで、《ブルフォーム》を習得し、参道の復旧作業に手を貸す事を提案します』
「え、他のルートじゃなくて? それに土砂崩れの復旧作業なんて、ブルドーザーでやる仕事じゃないだろ? 除雪作業とかならともかく」
『その通りですが、このトラックの特殊形態であるブルドーザーは普通のブルドーザーではありません。パワー、スピード共に規格外なので、除雪作業の要領で作業を行う事が可能です』
「うーん、他のルートはないのか?」
『整備されている街道では《ウスグレー参道》のみです。更に、ここで冒険者ギルドに恩を売る事で、後の会社経営のプラスになると判断しました。是非ご検討下さい』
「なるほど······」
「ニーラマーナに恩を売る、か······むふふ、面白いじゃない」
シャイニーは既にやる気だ。やる気の方向性は間違ってるような気がするけど。
「とりあえず、帰ってミレイナ達と相談してだな」
「そうね。それにアルルを七ヶ月も待たせられないし、アタシは手伝うのは賛成だけどね」
「······そうだな」
多分、ミレイナやキリエも賛成するだろうな。こりゃ大変な仕事になりそうだ。