51・トラック野郎、アルルを迎えに行く
アルルを引き取るのはいいが、決めなくてはいけない事もいくつか出てくる。
俺たちは席に座り直し、さっそく話し合いをする。ミレイナは孤児院で貰った書類に、丁寧な字で必要事項の記入を始めた。その間に俺たちはいくつか取り決めをした。
まず、アルルはシャイニーが責任を持って育てると言うことだ。親として姉としてアルルを支え、有事の際にはしっかりとサポートをする事。もちろん俺たちも手伝うが、言い出しっぺのシャイニーがアルルの臨時保護者として責任を持つ事になった。
次に、仕事の間、アルルはゼニモウケの学校に通わせる事。学費に関しては経費として落とすようにした。まぁシャイニーの薄給じゃ学費なんて払えないし、場合によっては長期間の通学になりそうだから、初めから経費で落とすように俺が指示を出した。シャイニーが驚きつつも喜んでくれたのはよかった。どうやら完全に自分で世話をするつもりみたいだしな。
そして、ウツクシーへの出発は暫く先。
会社の仕事が優先だし、アルルの母親はウツクシーに住んでるだろうという予想からだ。その根拠は知らないけど、とりあえず従っておく。
それにウツクシーへ続く街道は土砂崩れで暫くは通行できない。この辺の冒険者達は、みんな土砂の撤去作業に向かってるようだ。
そのことをシャイニーに言うと、懐かしむように言う。
「そういうのはギルドの臨時依頼として冒険者全員に出動義務が生じるのよ。報酬はギルド持ちだから、そこそこ良い稼ぎになるし、昇格への点数稼ぎにもなるし、新人冒険者にはかなり美味しい依頼でもあるわね」
「へぇ、じゃあシャイニーもやった事あるのか?」
「まーね。アタシがやったのは決壊した河川の修復作業だけど」
「なるほど。ですが女性には厳しいのでは?」
「ふん、冒険者に男も女もないわよ………とは言いたくないけど、その時ばかりは男女関係なく土嚢を運んだわね……」
どうやら思い出したくないらしい。あまり触れないでおこう。
「ねぇキリエ、明日は『ハズーレの町』に配達はある?」
「明日ですか?……確か、数件はありましたね」
「よし。じゃあ明日さっそく……」
「ちょっと待て。思い立ったが吉日なのはいいけど、アルルを迎える準備が出来てないぞ」
「準備? そんなの別に必要ないでしょ」
「あのな、アルルはお前の汚い部屋に住む事になるんだぞ。部屋の掃除くらいしとけ」
「うぐ……い、痛いトコ突くわね。って言うか汚くない!!」
「いいえ、汚いです。ではさっそく掃除を始めましょうか、シャイニー」
「キリエ、アンタまで………え、アンタが手伝ってくれるの?」
「はい。いけませんか?」
「いや、その……あ、ありがと」
うーん。二人の距離が近くなった気がする。これは良いことだ。
シャイニーとキリエは部屋に向かい、残されたのは俺とミレイナだけになった。ミレイナはせっせと書類を書き、ここでのやり取りも聞いてなかったみたいだ。
「ミレイナ、出来たか?」
「もう少しです……あれ? シャイニーとキリエは?」
「シャイニーの部屋掃除に行ったよ。ところでその書類、今日中に仕上がるか?」
「は、はい。もうすぐ終わります」
「よし。じゃあ明日にでも孤児院に持って行くよ」
「わかりました。出来上がったらキリエと確認して、明日コウタさんに渡しますね」
「頼む」
さて、今日はもう寝るか。明日も忙しくなりそうだしな。
翌日の午後。仕事の合間に俺とシャイニーは孤児院へやって来た。昨日のうちに掃除を済ませ、ミレイナの書いた孤児預かりの書類を鞄に入れて来た。こっちの準備は万全だ。
孤児院前にトラックを駐車して車を降りると、まるで待っていたかのように園長先生が出迎えてくれた。
「こんにちは運送屋さん。きっと来ると思ってましたよ」
「当然よ。アルルはいるかしら?」
「はい。では中へどうぞ」
穏やかな表情の園長先生と共に園内へ。シャイニーはアルルの元へ向かい、俺は書類を渡すため別室に案内される。
「お願いします」
「はい。では拝見します」
ソファに座るや否や、俺はカバンから書類を出して机の上に。
園長先生も数枚の書類をゆっくりと眺め、俺にいくつかの質問をする。
「······自宅は会社も兼ねているのですね」
「はい。一階が会社事務所で、二階が居住区です。生活スペースに問題はありません」
「なるほど。仕事の間はアルルは学校に通わせると」
「はい。会社を興したばかりで忙しいので。それに同世代の友人が出来ればアルルも喜ぶと思います」
「なるほど······」
園長先生は何度も書類を読み返し、俺に細かく質問をする。子供にとって幸せになれるかどうか掛かってるんだ。そりゃ慎重になるよな。
「わかりました。どうやら問題はないようですので、アルルの保護者として認めます。実はアルルもあの蒼い髪の少女と一緒に居たいと言ってたので問題はほぼなかったんですけどね」
「え、そうなんですか?」
「はい。『同じ色の髪と瞳を持つから姉妹なんだ、必ずわたしを迎えに来る』って、嬉しそうにしてましたよ。」
「そうなんですか······」
まぁ姉妹なのは間違いない。母親は違うらしいけどな。
「それでは、アルルを宜しくお願いします」
「はい。お任せ下さい」
俺と園長先生は立ち上がり、しっかりと握手をした。
「えへへ。おねえちゃん」
「ふふ、アルルは可愛いわね」
俺と園長先生が教室へ向かうと、子供たちに混ざってシャイニーが居た。しかも膝の上にアルルを座らせ、子供たち全員に本を読んでいる最中だ。
顔立ちはともかく、髪や瞳の色はどう見ても姉妹にしか見えない。他の子供たちも二人を興味深く眺めてる。
「ふぅむ、やはり姉妹にしか見えませんねぇ」
「俺もそう思います」
ポニーテールのシャイニーとツインテールのアルルはとても可愛らしい。仲良し姉妹だな。
俺はシャイニーに声を掛けようと教室に入る。
「シャイニー、手続きが終わったぞ」
「あ、コウタ。それじゃあ」
「ああ。アルルはいつでも連れて行けるぞ」
「やった‼」
まぁ孤児院とのお別れ会とか、私物の片付けや引っ越し準備もあるから、今日この場で連れて行くわけではない。
シャイニーはアルルを抱きしめて笑顔で言った。
「アルル、今日からアタシが本当のお姉ちゃんよ。ちゃんと約束は守るから安心してね」
「······ほんと? お母さんに会えるの?」
「ええ。アタシに任せなさい」
「ふぁぁ······やったぁぁぁっ‼」
アルルはシャイニーに胸元に顔を埋め、精一杯の喜びの声を上げた。新しい家族の誕生に他の子供たちも羨ましそうだ。
その後。アルルの卒業は二日後となり、俺とシャイニーはゼニモウケに帰ることにした。孤児院での卒園式やアルルの荷物整理などをする時間らしい。
それから二日後。仕事の合間にアルルを迎えに行き、卒園式を終えて綺麗な服を着たアルルが園長先生と抱き合ってる瞬間に俺たちは遭遇した。どうやらタイミングは良かったようだ。
アルルの服は孤児院からのプレゼントのようだ。なんとも粋な計らいだね。
子供たちもアルルに寄せ書きを送ったり、手作りの似顔絵や折り紙を送ってる。あまり子供たちに馴染んでいなかったアルルだが、その心遣いに感動して泣いていた。
こうしてお別れが済み、アルルは俺とシャイニーの元へ来た。そういえば俺は自己紹介してないな。
「初めましてアルル。俺はコウタだ、宜しくな」
「初めまして、わたしはアルルです。よろしくお願いします、おじさん」
「ぶふっ、ぐ、くく······お、おじさんだって」
「·········」
俺、そんなに老けて見えるかなぁ·········はぁ。