47・トラック野郎、シャイニーの過去に触れる
誠に申し訳ありません、暫くは語りがメインです。
トラックの活躍はもうちょい先になります。新しい機能も考えてますので、ご期待下さい
ミレイナ特製のオーク生姜焼きは絶品だった。甘じょっぱいタレにオーク肉がよく絡み、オーク肉の柔らかな食感とタレが混ざり何とも言えない美味しさだった。
この時ばかりはシャイニーの事情を忘れた。こんな美味い食事を前に、他の事なんて考えられる訳がない。
「やっぱミレイナのメシは美味い」
「そうね」
「はい。これだけはどんなに時間を掛けても勝てる気がしませんね」
「そ、そんなことないですよ」
うーん。謙虚なミレイナちゃんは可愛い。
食後に淹れてくれたお茶も美味いし、町で買ってきたらしい異世界リンゴも甘酸っぱくて美味しい。後はのんびり過ごして一日が終わり、明日からまたいつもの日常が始まるんだな。
「そろそろアタシの話を聞いてくれる?」
「あ、そういえばそうだった」
「え? お話ですか?」
「珍しいですね。今日遅くなった理由ですか?」
「そうよ」
シャイニーは頷き、俺たちを見回す。まずは今日の配達の出来事と、アルルとの出逢いについて説明した。
「コウタは異世界人、ミレイナは魔族、キリエは孤児のシスターって話は聞いたけど、アタシの事をちゃんと話してなかったわね」
「そういえばそうですね······まさかモンスターとか?」
「んなわけあるか‼ 全く、アンタはいつもふざけて」
「まぁまぁ、シャイニーもキリエも落ち着けって」
キリエがシャイニーをからかうと時間が掛かる。いつもは放っておくけど、今回はシャイニーに矛を収めてもらう。
「あの、シャイニーの事を教えてくれるんですか?」
「ええ、今回はアタシが直接絡んでるワケじゃないけど、放っておけないからね」
シャイニーは改めて俺たちに言った。
「アタシの出身は『水上王国ウツクシー』なの。五年前に国を出て·········ううん、追放されてこのゼニモウケに来たの」
「つ、追放だって⁉」
「ええ。アタシのクソ姉貴にハメられてね」
おいおい、不穏な感じがして来たぞ。一国から追放されるってどんだけだよ。しかも犯人は姉と来ましたか。
「お、お姉さんが······」
「ふむ。一国から追放されるとは、よほどの事を仕出かしたのですね?」
「あのね、ハメられたって言ったでしょ。姉貴の起こした犯罪をアタシのせいにされたのよ」
「ま、マジで?」
「な、何をしたんですか?」
シャイニーは憤慨してるのか、ギリギリと歯を食いしばる。
「ウツクシーの国宝である『水龍の涙』を壊したのよ。それをアタシのせいにして城から追放、さらに国から追放したのよ。しかもオマケ付きでね」
ちょっと待て、今なんて言った?
「お、おい、今······城って言ったのか?」
「そうよ? だってアタシ、ウツクシー王国の王族だもん」
シャイニーは、さらりと爆弾発言をした。
シャイニーは水上王国ウツクシーの王族。そして姉貴にハメられて国を追放された。ここまでは理解出来た。
「つ、つまりシャイニーは······お姫様なんですね‼」
「そーよ。まぁ第二十三番目の姫だけどね」
「そんなにいるのか······?」
おいおい王様は頑張り過ぎだろ。羨ましいワケじゃないぜ?
「うん。アタシの父親は元気一杯でね、愛人だけで三十人はいたわね。当然子供もたくさんいるわ」
おいおい、異世界って何でもアリだな。何度も言うが羨ましくないぜ。
「タチの悪い事に、バカ父は愛人全員を愛してたのよ。だから正妻って扱いの妻はいないし、そのおかげで後継者を誰にするかで揉めまくり。バカ父の知らない所で、愛人たちは揉めに揉めてたわ······アタシは王座になんか興味無かったけどね」
ま、何となくそんな気がする。というか似合わない。
「バカ姉貴は王座の最有力候補の一人なの。他の候補を蹴落とすために汚い事を平気でやるようなゲス女よ。いつか必ずアタシを陥れて追放した落とし前を付けさせてやるわ」
物騒だな、マジで止めてくれよ。やるなら辞表を提出して······というか行かせないけどな。
「ここで本題。アルルは間違いなく王族······アタシの腹違いの妹よ。孤児院に来た経緯は恐らく、バカ姉貴が売り飛ばしたか、追放したかのどっちかね」
「ちょっと待って下さい。どうして妹だと分かるんですか?」
「簡単よ。ウツクシー王族は、みんな同じ蒼い髪と瞳を持つの。この事を知ってるのは王族だけよ、しかも王族同士なら見れば分かるわ」
「へぇ、じゃあニナは? あいつも青髪だったよな」
「あれは染めてるだけよ。自分が『蒼』だから、それに相応しい姿を見せるためにね」
そうなのか。ニナも苦労してるんだな。
「なるほど、王族の証である髪と瞳ですか。ウツクシーといえば海に囲まれた絶景の王国でしたね。海産物が有名だったような」
「そうなんですか? 行ってみたいです」
「アタシも小さい頃は泳いでばっかりだったわ。素潜りで貝なんかを採ってきて焼いて食べたわね」
「ほぉ、羨ましい生活だな」
で、つまりどういう事だ?
「アタシのお願いは、アルルを引き取って母親の元に帰してあげたいのよ」
「·········つまり、ウツクシーに行くって事か?」
「そう。たぶんアルルの母親は城から追い出されてるはず。あのバカ姉貴の事だし、子供がいないのに城に居るなんておかしいって難癖を付けて追い出したはずよ」
そりゃ酷いな。やりたい放題じゃねーか。
すると、キリエがシャイニーに確認する。
「ちょっと待って下さい、その理屈ですと、シャイニーの母親は?」
「さぁね、ウツクシーの片隅でひっそり暮らしてるんじゃない? 死んでないと思うけど」
「か、軽くね?」
「まぁ嫌われてたからね。アタシは王座に興味無かったし、それがどうも気に食わなかったみたいだし」
「そんな······」
ミレイナがちょっと俯く。悲しげな表情も似合うけど、そんな顔はして欲しくない。それはシャイニーも同じみたいだ。
「いいのよミレイナ。ウツクシーを追放された時に、親子の縁は切られたから。五年も経ってるしあっちも新しい人生を歩んでるわよ」
「シャイニー······」
たぶん本音だろう。何とも言えないが。
俺はこれまでの話をまとめ、確認した。
「つまり、アルルを母親の元に帰してやりたいんだな?」
「そうよ」
「ですが、アルルの母親がそれを望んでいるのですか?」
「······何でそう思うのよ」
おいおい、キリエのヤツ何を言うんだよ。シャイニーも眉間にシワを寄せてキリエを睨んでるしよ。
「貴女の母親がそうだったように、母親もアルルの返還を望んでいないとしたら? アルルの事を忘れて新たな人生を踏み出してる可能性はゼロではありません。蒼い髪と瞳の少女を連れて生活するより、女一人でいた方が楽だと思ってるかも知れませんよ」
確かに、アルルを見ればウツクシーの王族だとバレるかも。それこそウツクシーを出て暮らすなら問題ないかも知れないが、アルルの母親がウツクシーで新たな生活を始めてる可能性もある。
もしアルルの事を忘れて新たな生活をしてるなら、邪魔しない方がいいのかも知れない。
するとシャイニーがヒートアップし、キリエは更に落ち着いた声になる。
「でも、でもアルルは母親に逢いたがってた。お母さんって泣いてたわ‼」
「しかし、もし母親に拒絶されたら、アルルに待ってるのは地獄です。それとも貴女が母親の代わりになりますか? 恐らくですが、母親はアルルを諦めていると思います。ウツクシーの王族が手を回したのですから、娘が戻って来るとは思わないはずです」
「そ、それは······」
「シャイニー、アルルの悲しみは私にも理解できます。ですが孤児院に連れて行かれたのは幸運かも知れません。奴隷商人や盗賊に売られる事がなかったのですから。母親を忘れ、人並みの生活や教育を受けて生きて行く事も一つの人生です」
「何よそれ‼ アンタは······アンタは母親がいないからそんな事を言えるのよッ‼」
「シャイニーっ‼」
俺は思わず怒鳴った。それは言ってはならない言葉だ。
シャイニーはハッとなり口を押さえ、キリエは黙ったまま微笑んだ。
「ご、ごめんなさい······アタシ、その」
「構いません。事実ですので。それに私も言い過ぎました」
キリエは笑ってる。本当に気にしていないように見えた。
俺はこのタイミングを逃さず締めた。
「今日はここまでだ。この話はまた今度な」
「·········」
ミレイナは、何故かずっと黙っていた。