46・トラック野郎、シャイニーの行動に驚く
少女は、シャイニーとよく似た髪と目の色をしていた。少女はずっと俯いていたが、ここで初めてシャイニーを正面から見て驚いていた。
「貴女、もしかして······」
「……お姉ちゃん、わたしと同じ色?」
「え、ええそうね」
なんだろう、お互いジッと見つめ合ってる。まさか生き別れの姉妹なんてオチじゃないだろうな。そんなテンプレがありそうだから異世界は恐ろしい。
「アタシはシャイニーブルー。貴女の名前は?」
「わ、わたしは······アルルです」
「そう······いい名前ね」
「あ、あの、もしかしてお姉ちゃん、ウツクシーの人?」
よく分からんが、その名前を聞いた途端、シャイニーの表情が固まったような気がした。気のせいかも知れんが。
「······さ、袋を取りに行きなさい」
「え、あの」
「ほら、みんな教室に向かってる。あとは貴女だけよ?」
「······うん」
少女はシャイニーをチラチラ見ながらも、孤児院の中へ入って行く。どうしよう、絶対これフラグだろ。
「あ、あのよシャイニー」
「コウタ、これが終わったらあの子の話を聞きたいわ。園長先生に取り次いでくれる?」
「は、はい」
何故か、逆らう事ができなかった。
宝拾いが終わり、孤児達はそれぞれ手に入れたおもちゃを持って遊んでいた。おもちゃの剣を持った少女が男の子相手に剣を振るい、女の子用の服を持った少年が同年代の少女に服を渡して照れていたり、何とも和む光景だった。
俺とシャイニーは、お礼にと園長先生からお茶をご馳走になっていた。
「いやぁ、こんなに盛り上がったプレゼントは初めてですよ。実に素晴らしいアイデアでした」
「いやいや、俺の子供時代の遊びでして」
楽しんで貰えたなら良かったぜ。せっかくだし、あの少女の事でも聞いてみるか。たぶん俺が聞かなかったらシャイニーが聞くと思うしな。
「あの、園長先生。子供達の中に、蒼い髪と瞳の少女がいたと思うんですけど」
「アルルの事ですか? あの子は最近入った子で、まだ周囲に上手く馴染めなくてねぇ」
「そうなんですか······」
「じゃなくて‼ あの子、どこから来たのかわかりますか?」
おっと、焦れたシャイニーが割り込んで来た。
園長先生はシャイニーを見て驚いている。どうやらアルルとシャイニーが似ていたからだろうな。髪や瞳の色なんてそっくりだしね。
「あの子の身内で?」
「違うわ。でも気になるの」
「······アルルは南の『水上王国ウツクシー』から連れて来られた少女です。ある日、冒険者らしき人が衰弱したアルルを連れて来たんです」
「やっぱり······」
「やっぱり? 知ってるのか?」
「まぁね」
シャイニーは怒ってるのか、拳を握って歯を食いしばってる。これは聞くべきだろうか。だけどぶっちゃけ俺たちには関係ないよな?
「コウタ、お願いがあるの」
「·········何だよ」
すっげーイヤな予感。このタイミングで出てくるお願いなんて一つしかない。
「あの子を······アルルを連れて帰りたいの。お願い」
はい来ましたー、こりゃ間違いなくシャイニーの事情に関係してるわ。というかそんな事していいのかよ。
「園長先生、アルルをアタシ達が引き取っても構わない?」
「······それは無理です。まず貴方達の事は運送屋としか知りませんし、生活の基準も分かりません。子供達を連れて行く以上、ちゃんとした環境でなければ引き渡す事は出来ません。それにアルルの了承も必要ですし」
「うぐ······」
悪いが俺も園長先生に同意する。理由もなしに子供を引き取るなんて出来ない。シャイニーには事情があるんだろうけど、それの説明もなしに子供を連れ帰るのはあり得ない。まずは俺やミレイナ達に説明するのが筋ってモンだ。
「そういう事だ。今日は帰るぞ」
「待って、せめてアルルと話をさせて」
「それは構いませんが······お呼びしますか?」
「いい、アタシが行くから」
「お、おい」
するとシャイニーは立ち上がり、園長室を出て行った。
残された俺も立ち上がると、園長先生が俺を呼び止める。
「あの、これをお持ち下さい」
「······これは?」
園長先生が出したのは何枚かの書類だ。詳しくは読めないが、どうやら孤児を引き取るために提出する書類らしい。
「事情は知りませんが、必要になると思いまして」
「ははは、そうかも知れないですね」
俺は書類の束を貰い、園長室を後にした。
「え〜っと······あ、いた」
園長室を出てシャイニーを探すと、外でアルルと喋る姿が見えた。こうして見ると姉妹にしか見えん。やっぱり血縁関係があるのかな。ちなみにアルルはプレゼントのぬいぐるみを抱いていた。
俺は外に出て二人に近付く。
「じゃあ、必ず迎えに来るわ。約束ね」
「うん。待ってる」
そんな会話を聞いてしまった。アルルもシャイニーを慕ってるのか笑顔を見せている。マジで訳がわからん、何だよこれは。
「シャイニー、そろそろ帰るぞ」
「ええ、わかったわ」
「お姉ちゃん······」
「また来るわ。それまで元気でね」
「うん、待ってる」
アルルの頭を優しく撫でる姿は俺の知ってるシャイニーじゃないな。まるで母親みたいな愛に溢れてるぜ。
「そうだ。これをあげるわ」
「え······わぁ」
すると何を思ったのか、シャイニーはポケットから青いリボンを二つ取り出し、アルルの蒼髪をツインテールに結ぶ。なんとも子供らしくて可愛い姿になったな。
「お守りよ。貴女を守ってくれるわ」
「ありがとうお姉ちゃん‼」
シャイニーはアルルに手を振ると、俺の隣に立つ。
「さ、帰るわよ」
「······ああ」
全く、マジで何なんだよ。
「帰ったらちゃんと話すわ」
帰りの車内で、シャイニーはそれだけしか言わなかった。
まぁ確かに俺にだけ話すのも変だし、ここで聞いてもミレイナ達に同じ話をする事になるから二度手間だしな。
推測だが、アルルとシャイニーは血縁関係にある。たぶんシャイニーの故郷が関係してるのは間違いなさそうだ。やれやれ、面倒な事にならなきゃいいけど。
「なぁ、もしかして面倒事になるか?」
「······さぁね」
マジで勘弁して欲しい。魔王とか四天王レベルの厄介事はもう懲り懲りだ。
俺の平和な運送屋としての日常が帰ってきたばかりなのに、あんな非日常の戦いとかロボットに変形するトラックとか、俺のスローライフに持ち込まないで欲しい。ホントに勘弁してくれ。
俺とシャイニーは珍しく無言になり、ゼニモウケまでの道をひたすら走る。こんなにも長い運転だと感じたのは久し振りだ。思ったより時間が掛かったし、洗車する予定はキャンセルだな。
ゼニモウケに到着し、寄り道する事なく会社へ戻った。事務所は暗くなってるから二階に行ったのだろう、夕食の支度をしてるのか、とてもいい匂いがする。
まずはミレイナ達にいろいろ話をしなくちゃな。
「ただいま」
「あ、お帰りなさいコウタさん、シャイニー」
「配送は孤児院だけのはずでしたが、随分と遅かったですね」
「ああ、いろいろあってな。まとめて説明するよ」
エプロン姿のミレイナとキリエは今日も可愛いな。帰ってきた感じがする。
「でもまずは夕飯ね。はぁぁ……オナカ減ったわ」
「確かに、今日はくたびれた……」
とにかく、話はメシを食ってからだな。