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異世界の配達屋さん~世界最強のトラック野郎~  作者: さとう
『第4章・トラック野郎と商売繁盛』
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40・トラック野郎、配送完了


 『新項目《機神変形デコトラ・フュージョン》を獲得しました。説明をしますか?』

 「た、頼む……」


 そう答えたのは、ほぼ無意識だ。

 何かを聞くより、この場でタマの言うこと全てを聞いた方がいい。俺は咄嗟にそう判断した。何より時間が無い。今この瞬間にも太陽が玄武王に捕まり捕食される。


 『《機神変形デコトラ・フュージョン》はトラックの完全戦闘形態です。その攻撃力は【武装】を凌駕し、戦闘形態専用の武器を操る事が可能です』

 「ま、マジか……そんな力があったのか」

 『変形には社長の音声認証コードが必要となります。八十デシベル以上の声で音声認証コードを入力して下さい』

 「……おい、なんだそりゃ」

 『仕様です』

 「俺、二十六なんだけど……そんな特撮ヒーローみたいに叫ばなきゃならんの?」

 『社長。時間がありません』


 この状況でふざけてる場合じゃないのはわかってる。だけどどうしても抵抗がある。

 割れてないパワーウィンドウに表示された文字が音声認証コードだ。これを大声で叫べばトラックは戦闘形態に変形する。つまり、あのカメ公をやっつけるチャンスがあるって事だ。


 「タマ、本当にアイツを倒せるんだな?」

 『可能です』

 「わかった……やってやるよ」


 俺は額の血を拭い、改めて確認する。

 ミレイナを抱きかかえるシャイニーとキリエ。月詠たちを守ろうと、気を失っても立ち上がった太陽。そして十メートルはありそうなバケモノ亀の玄武王バサルテス。

 俺は勇者なんかじゃない、ただの運送屋だ。だから四天王とか魔王とかは関係ない。これからやるのはただのモンスター退治だ。機銃でゴブリンを撃ったり轢いたりするのと何ら変わりは無い。


 「おいそこのクソッたれ亀野郎ぉぉぉぉっ!!」


 俺の叫びは届いた。

 亀だけじゃなく、シャイニー達も意識を取り戻した月詠達も俺を見た。

 横倒しの破壊されたトラックの中で叫ぶ俺は、きっと滑稽な姿に見えるだろう。

 だけど、ここからが俺の戦いだ。


 「機神変形きしんへんけい!! デコトラ・フュージョォォォォーーーンッ!!」

 

 俺は全力で叫んだ。羞恥心なんて欠片も無い。


 『音声認証コード確認。《デコトラカイザー》変形します』

 「で、デコトラカイザー?」


 次の瞬間、トラックが発光しボロボロの車体が起き上がった。

 破壊された部位が一瞬で修復され、フロントガラスもキレイに直る。


 「お、おわわわっ!?」

 『最終安全装置解除。変形シークエンス起動。両腕変形。脚部変形。胴体変形』


 トラックの車体が割れ、アルミボディも変形する。まるでトランスフォーマーみたいに車体がガチャガチャ変形する。

 視界が高くなり座席が揺れる。そして座椅子が何故かルーフ部分に移動した。

 だがそこはルーフ部分ではなくかなり狭い。前方と左右の視界は確保されたが、まるでロボットのコックピットみたいな形状をしてる。目の前にあるのは見慣れたハンドルだ。間違いない、ここはロボットの頭部だ。


 『変形シークエンス完了。最終認識コードを入力して下さい』

 

 すると前方の画面にまた文字が現れる。

 また叫べってのかよ。こうなりゃとことんやってやるぜ。


 「デコトラカイザー!! 配送開始!!」



 トラックはロボットに変形した。こりゃまんま特撮ロボだな。



 **********************



 「へ、変形した?」

 「ひ、人形ロボットだ······すっげぇぇぇッ‼」

 「まぁ······なんて事でしょう」

 「な、なにあれ、なにあれ⁉」

 

 勇者パーティーが騒いでるのがわかる。ここからでもちゃんと音声は拾える。


 『操縦方法を選択して下さい。タイプA操縦桿。タイプBハンドコントローラー』

 「え、ええと······」

 『お薦めはタイプBハンドコントローラーです。操作が簡易な上、社長には馴染みのある操作方法です』

 「じゃ、じゃあそれで」


 するとハンドル部分がパクっと割れ、中から見覚えのあるコントローラーが現れた。おいおい、これって家庭用ゲーム機のコントローラーじゃねぇか。


 『細かいサポートは私が行います。社長はゲーム感覚で操縦を行って下さい』

 「ははは、ぶっつけ本番でゲームやるようなモンか。まぁ俺は説明書を読まないでゲーム始めるタイプだからな······よーし、行くぞ‼」

 

 目線からして、デコトラカイザーは玄武王と同じくらいの大きさだろう。

 俺はコントローラーを握り、アナログスティックをゆっくり前に倒す。するとデコトラカイザーはゆっくり前進した。

 

 『な、なんだそれは⁉ 鉄の巨人だと⁉』

 「デコトラカイザーだこのカメ公がぁぁぁっ‼」


 アナログスティックを思い切り前に倒すと、デコトラカイザーは走り出した。


 『社長。コントローラーのボタンはアクションコマンドです。パンチ・キック・ジャンプ・武装を使用出来ます。武装に関しては私の一存で選択させて頂きます』

 「任せるぜっ‼ おりゃぁぁぁッ‼」

 

 俺はアナログスティックを倒しながら黄色いボタンを押す。するとデコトラカイザーはダッシュジャンプをして玄武王の頭上を通り越した。


 「喰らえやぁぁぁっ‼」

 『ぬぅぅっ‼ だがオレの甲羅はっがァァッ⁉』

  

 玄武王の背後からすかさず赤いボタンを押す。するとデコトラカイザーのパンチが玄武王の甲羅にヒビを入れた。

 どうやら玄武王は甲羅にヒビを入れられるとは思ってなかったようだ。


 『く、ふふふ、がははははッ‼ オレの甲羅にヒビを入れるとはなァァァァッ‼ 楽しくなって来たぞォォォッ‼』

 「こっちもだこの野郎ぉォォォぁぁぁッ‼」

  

 いつの間にか恐怖は消えていた。現実離れした光景に感覚がマヒしてる。だってロボットだぜ?

 だが、この手のゲームはそこそこやりこんでる。パチンコ帰りにゲーセンに寄る事もあるからな。格闘ゲームはキライじゃないぜ‼


 「おららららららららッ‼」

 『むぅぅぅぅッ‼』


 怒涛の赤ボタン連打。規則正しいパンチのラッシュが玄武王を襲う。たまに緑ボタンを押してキックを繰り出す。


 『[機銃]掃射します』

 『グぉぉぉっ⁉』

 「ナイスッ‼ 隙有りぃぃぃぃッ‼」

 『グッバァァァァッ⁉』

 

 俺の目線、つまり頭から機銃が掃射され、剥き出しの顔面に弾丸のシャワーが降り注ぐ。パンチをガードするのに両腕をクロスして胸の前で構えていたのが仇になったな‼

 その隙に十字キー下右ナナメ右+赤ボタンを入力……ショートアッパーで顎を捉え吹き飛ばしてやったぜ‼ 玄武王は吹っ飛び、仰向けに倒れた。


 「とんでもないパワーだな······」

 『完全な戦闘形態ですから。パワー、耐久性、スピードの全てが上昇しています』

 「へぇ〜······」

 『ポイントを使い強化する事も可能です。《機神変形デコトラ・フュージョン》が開放された事により、新たな機能も追加されました』

 「まぁそれは後ほど。トドメを食らわせるぜ」

 『畏まりました。デコトラカイザー専用武器・《ドライビングバスター》を展開します』


 すると、どこからか巨大な物体が飛来して来た。

 それはゴテゴテした大剣のような、それでいて太い大砲のような、特撮ヒーローが使う必殺武器のように見えた。


 『《ドライビングバスター》は大剣モードとキャノンモードのツータイプに変形する特殊武装です』

 「お、おぉ、なんかもういいや。ツッコミはなしで」

 

 顎をやられたおかげで玄武王はフラフラしながら立ち上がる。あんなに怖かったのに、今は全然怖くない。むしろさっさと終わらせたくて仕方なかった。


 『お、おのれ······この、このオレが······魔王四天王最強のオレが、人間ごときに』

 

 うわー······悪役のテンプレみたいなセリフだわ。巨大なカメの玄武王はフラフラしてる。ここで決めてやる。

 俺はコントローラーのエルボタンを押し、ドライビングバスターをキャノンモードに変形させ、砲身を玄武王に向ける。操縦席の画面は玄武王をロックオンしていた。


 「終わりだ玄武王。お前の命、あの世に配達してやるぜ‼」

 『フルチャージ』

 

 やっべぇ、今のセリフカッコいいかも。

 砲身からバチバチ光が溢れている。俺は青いボタンを押した。


 『《ドライビングキャノン》発射します』

 「喰らえぇぇぇッ‼」


 砲身から極太のレーザー光線が発射され、玄武王を包み込む。


 『グァァァァァッ⁉ こ、このオレがぁぁぁッ‼』

 

 徐々に玄武王の身体は崩壊し、光線が消える頃には玄武王の身体は完全に消滅した。これで俺の勝ちだぜ。


 『生命反応完全消失。玄武王バサルテスは討伐されました。パンパカパーン。レベルが上がりました。レベル四十になりました。新たな変形機構を獲得出来ます』

 「取りあえず全部後で。まずは外へ出してくれ」

 『畏まりました』

 

 シートがゆっくりと下降し外へ出た。なんとロボットの股下が出口みたいで何ともかっこ悪い登場になってしまった。頭上からシートを下降して股下から出る······こりゃマズいだろ。

 俺はシートベルトを外す。すると前から三人組の少女が走ってきた。


 「コウタさんっ‼」

 「コウタっ‼」

 「社長っ‼」

 「みんなっ‼ ミレイナ、怪我は平気なのか⁉」

 「はい。クリスさんがみんなを治療してくれました。これもコウタさんが玄武王を抑えてくれたおかげです‼」

 「そっか······良かった」

 「え、あ······」

 

 俺は目の前のミレイナを思い切り抱きしめた。

 正直、死んだと思っていた。あんなに吹っ飛ばされて転がって、血の気が引いたけどホントに無事で良かった。


 「ちょっと‼ くっつきすぎよ‼」

 「なんだよ、羨ましいのか? ほら来いよ」

 「な、なに言ってんのよバカ‼」

 「では遠慮なく、失礼しますね社長」

 「お、おお」


 キリエがギュッと抱きついてくる。俺とミレイナを巻き込むように、優しく抱きしめて来るので、俺も負けじと抱きしめ返す。

 しばらく女の子二人を堪能していると、焦れたシャイニーが怒鳴り散らした。


 「あぁもうおしまい‼ いい加減に離れなさーいっ‼」

 「わわ、シャイニー」

 「むう、いいところでしたのに」

 「全くだ。と、それより」


 俺は勇者パーティーを探すと、デコトラカイザーを見上げる四人の姿があった。おいおい何してんだよ。

 俺は改めてデコトラカイザーを見上げる。

 全長十メートルほどの白と銀のロボットだ。特撮に出てくるような外観で、所々にトラックの名残りがある。


 「カッけぇぇぇぇぇ······しかも強ぇぇぇ······」

 「この強さ、是非ともあたしたちのパーティーに欲しいわね」

 「確かに。凄いですね」

 「これがタイヨーの言ってた『ろぼっと』っていう鉄の巨人なのね〜」

 

 デコトラカイザーは役目を果たしたのか、派手な音を立てながら元のトラックフォームへと戻った。ホントにスゲぇな。まるでトランスフォーマーだよ。

 俺は太陽達の元へ向かうと、太陽が興奮気味に話し出す。


 「おっさんおっさん‼ このロボットスゲぇよ‼ 是非ともオレたちの仲間になってくれ‼」

 「断る。こいつは戦いの道具じゃなくて仕事道具だからな」

 「だ、だけど、これだけの力······」

 「悪いな。今回はウチの従業員がやられたから俺も手を出したけど、本来なら戦闘はお前達勇者パーティーの仕事だ。それとも、異世界に召喚された勇者は、死んで生き返ったトラック運転手の力が無いと戦えないか?」

    

 まぁ勇者パーティーなら俺を勧誘すると思っていた。

 今回一番面倒臭くなりそうなのは、この件だと俺は思ってる。

 俺の挑発的な物言いに、太陽は食ってかかる。


 「そんなことねぇよ‼ オレは最強の勇者だからな、もっと強くなって一人でも四天王を倒せるくらいになってやる‼」

 「そりゃいいな。だけど忘れるな、お前は一人じゃないだろ?」

 「あ······」


 俺にミレイナたちが居たように、太陽には月詠たちが居る。

 まぁ太陽ならまだまだ強くなれる。それこそ四天王なんて目じゃないくらい。

 俺の決意が硬いのを理解したのか、月詠も煌星も俺を勧誘しようとはしなかった。その代わり、健闘した太陽を称える。


 「太陽、その······カッコよかったわ。あたし、見直した」

 「気を失っても立ち上がり、わたくし達を守ろうと剣を構える······素敵でした、太陽さん」

 「もうサイコーだよ‼ ますます好きになっちゃった‼」

 「お、おう······へへへ」


 太陽は照れながら頭をボリボリ掻きむしる。何だかんだで太陽はカッコ良かった。正直な意見だが、かなり見直した。

 

 「さーて、帰るか。みんなボロボロだし、風呂にでも入って行けよ」

 「いいですね。じゃあ最初は女の子みんなで‼」

 「あ、あの、お風呂って?」

 「いいから来なさいよ、驚くわよ?」

 「ええと、わたくしには意味が······?」

 「ふふ、素敵な温泉です。クリス、貴女もいらっしゃい。妹の成長ぶりを確認したいので」

 「な、なによそれ‼ 私だって成長してるんだからぁっ‼」


 全員がトラックに乗り込み、俺は一人で運転席へ。

 女の子たちは風呂へ行き、太陽はソファに座るとそのまま寝てしまったようだ。


 「タマ、ありがとな」

 『お役に立てて光栄です』


 どうしても、タマにお礼が言いたかった。

 あの時、タマが居なければ玄武王は倒せなかった。

 変形だってタマのおかげだ。こうしてみんなと居られるのも、タマが居てくれたからだ。


 「じゃ、オレサンジョウに帰るか」

 『はい。最短ルートを検索します』


  

 帰ったら、キレイに洗車してやるか。



 *******************



 オレサンジョウで勇者達を降ろし、俺たちはゼニモウケに帰還した。

 どうやら自力で四天王や魔王を倒せるくらい強くなると太陽が張り切り、月詠達も自身の力不足を痛感していたようだ。さらなる鍛錬と武器のアップグレードをするらしく、休む間もなく鍛錬を始めるようだ。

 俺への勧誘がなくなったのはいい事だ。月詠も余計な事は言わないから、運送屋を頑張ってくれって激励してくれたしな。

 ゼニモウケに帰った俺たちは、数日の休暇を挟んでまた仕事を再開することにした。

 ちなみに、今日はみんなでトラックを洗車している。シャイニーと俺は車体を洗い、ミレイナとキリエは座席の掃除をしてる。


 「ふんふ〜ん、どうタマ、気持ちいい?」

 『快適です。ありがとうございますシャイニーブルー様』

 「キレイキレイにしましょうね〜」

 「ミレイナ、ご機嫌だな」

 「はい‼ 明日から仕事ですから、タマさんには頑張って貰わないと‼」

 「何だか久しぶりの感覚ですね。いや、本来有るべき姿に戻るだけですが」

 

 明日から運送屋を再開する。忙しくも楽しい、アガツマ運送会社の日常だ。もう魔王とか四天王とかそんなヤバい連中にはもう関わるのはゴメンだぜ。

 

 「タマ、明日から頼むぞ」

 『畏まりました。社長』

 「ふふ、いっぱい依頼が来るといいですね」

 「来るわよ。どうも再開を心待ちにしてるらしいからね。ニーラマーナが言ってたわ」

 「なら、今日は景気付けにご馳走にしましょう。激辛鍋なんてどうでしょうか?」

 


 俺たちアガツマ運送会社。明日から忙しくなりそうだ。


第四章完

ここまでが総合的な第一部となります。

ちょっと書き溜めしたいので、次の更新は25日になります。

駆け足で終わった感じですが、あとでちょこちょこ修正するかも。



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お読みいただき有難うございます!
最弱召喚士の学園生活~失って、初めて強くなりました~
新作です!
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