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異世界の配達屋さん~世界最強のトラック野郎~  作者: さとう
『第4章・トラック野郎と商売繁盛』
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38・トラック野郎、無力


 「ちっくしょう、なんでこんなことに……」

 「うっさいわね、いいから飛ばしなさいっ!!」

 「シャイニー、落ち着いて……」

 「ミレイナ、貴女も落ち着いて下さい。震えてますよ?」


 後部スペースから席に乗り出すようにシャイニーが騒ぎ、ミレイナもキリエも落ち着かないようだ。俺に至っては泣き出したいのを何とか堪えてる状況だ。

 俺の異世界生活に全く関係の無い要素だ。こんな命の危機は望んでいない。一度死んだのにまた命の危機に身を晒してる。


 「いい、とにかく勇者パーティーを回収するわよ、それ以外は無視!!」

 「わーってるよ!! ああもう!!」

 

 俺はトラックを目的地に走らせる。悪寒はしっぱなしだし手は震える。シャイニーたちのテンションが高いのは恐怖を誤魔化すためだとわかった。やっぱミレイナ達も怖いんだな。

 ここは一番大人の俺が……っていうか、俺は反対してたからな。


 「タマ、成功率が一番高い武装で突貫するぞ」

 『畏まりました。ただし、社長達の命を最優先で行動します』

 「それでいい、とにかく回収だ!!」

 

 ここまで来たらやってやる。トラック野郎の意地を見せてやるよ。

 走ること十分、ゾワゾワした悪寒も最高潮に達し、周囲の景色も変わってきた。

 何かが破壊されたような痕があり、木々がなぎ倒されている。まるで集団で何かが通り過ぎたような、嵐が過ぎ去ったような……怖い。

 そして、ついに到着した。


 「お、おい……アレって!?」

 「クリスっ!!」

 「ちょ、落ち着きなさいキリエ!!」


 事態は、最悪だった。

 一メートルはありそうなカメのバケモノにクリスと煌星が囲まれてる。煌星が矢を放つがカメには効果が薄いのか、甲羅に何本も矢が刺さっていた。しかも、カメはまだ二十匹以上居る。

 鎧を纏った太陽はボロボロで、鎧は至る所が砕け聖剣にもヒビが入ってる。さらに月詠も膝を付いて肩で息をしていた。どうやら雑魚は煌星たちが相手をしてるようだ。

 そして、太陽と月詠はとんでもないバケモノと戦っていた。

 

 「あ、あれが……玄武王バサルテスか」

 「変わってません。あの姿……」


 玄武王バサルテスは、人間みたいな亀だった。

 ムッキムキの四肢にトゲだらけの甲羅を背負い、顔はカメをそのまま凶悪にしたようで何故か緑色の髪が生えていた。しかもメッチャ逆立ってる。

 ヤバい、怖すぎる。しかもトラックに気が付きやがった。

 俺は一切構わず突っ込む。アクセルをベタ踏みしてカメのバケモノを何匹かはじき飛ばした。そしてボンネットが開き、武装が展開する。


 『[火炎放射器]展開。放射します』

 「うぉぉぉぉぉぉーーーッ!!」

 「行ってくる!!」

 「私も行きます!!」

 「は? ちょっと待て!!」


 なんとシャイニーとキリエがドアを開けて飛び出した。しかもかなりスピード出してるのに、シャイニーはともかくキリエも華麗に着地してるし。どうやらクリスと煌星の元へ向かうようだ。

 もういいや、俺は太陽達を回収する!!


 「行くぞミレイナ、タマ!!」

 「はいっ!!」

 『畏まりました』


 ここまで来ると太陽達の表情がよく見える。二人とも驚愕の表情でトラックを……運転手の俺を見てる。


 「ほぅ、援軍か。なんだあの珍妙な鉄の塊は?」

 「こ、コウタさん!?」

 「おっさん、なんで!?」


 俺は玄武王バサルテスが喋った事を気にすること無く叫ぶ。


 「[ガトリングガン]展開!! あのカメの親玉に向かって掃射ぁぁっ!!」

 『畏まりました。[ガトリングガン]展開。掃射します』


 ガトリングガンが展開され弾丸のシャワーが玄武王を襲う。

 その結果を見届けること無く、俺は窓から太陽達に向かって叫んだ。


 「乗れ!! 逃げるぞ!!」

 「な、なんでここに!?」

 「いいから来い!! お前らじゃこのバケモンは……え」

 「こ、コウタ、さん……」

 『危険度最大。危険。危険。危険』


 弾丸のシャワーは玄武王を直撃していた。だが玄武王は特に防御せずに弾丸を浴びたままこっちに向かってくる。その表情は……愉悦に満ちていた。


 「ふむ、くすぐったいな……だが、不愉快だ」

 「っ!!」


 俺はギアをバックに入れ、アクセル操作をした。

 だが遅かった。玄武王がガトリングガンの砲身を掴み、ねじ切った。

 ベギンと音を立てて砲身が千切れ、トラックを振動が遅う。


 「ぬんっ!!」

 「おわぁっ!?」

 『[ガトリングガン]損壊。使用不能。危険。危険。危険』

 「く……」


 車体を揺らしながらもバックをして距離を取る。

 玄武王は面白そうにトラックを眺めていた。

 くっそ怖い……俺はいつの間にか汗びっしょりでハンドルを握っていた。息が切れ、涙が出そうになる。なんで俺はこんな事をしてるんだ。俺は一般人なのに。


 『玄武王バサルテスはトラックを敵と認識しました。撤退を推奨します。危険レベル最大。危険。危険。危険』

 「わかってるよ!!」


 俺は他の武装を使うことも忘れ、ひたすら太陽達に呼びかける。


 「何してんださっさと逃げろ!! 早く!!」

 「っ!! 行くわよ太陽!!」

 「な、で、でも」

 「いいから!! コウタさんたちがここに来た理由を考えなさい!!」

 「……っくそ!!」


 よかった。太陽達が下がってくれた。あとはコイツを引きつけて……逃げる!!

 

 「コウタさん、シャイニーたちが!!」

 「え!?」


 俺は玄武王から距離を取るためバックしていたら、ミレイナの焦り声が隣から聞こえてきた。

 思わずミレイナ側のドアを見ると、カメに囲まれたシャイニー達が見えた。


 「キリエ姉ぇ、キリエ姉ぇぇ……」

 「大丈夫、私がいますから……泣かないで、クリス」

 「シャイニーさん、ムチャしないで下さい!!」

 「いいから!! アンタはサポートを!!」


 キリエが……負傷してる。

 クリスがキリエの腹部に手を当て、淡い光がキリエを包んでる。

 それを見た瞬間、俺は頭が熱くなった。


 「この野郎ぉぉぉぉっ!!」


 俺は方向を変え、シャイニーたちを囲んでるカメに向かってアクセルを踏んだ。

 トラックは一気に加速したが、全く前に進まなかった。


 「な、何!?」

 「まぁ待て、これは何という乗り物なのだ?」

 『危険。危険。危険。危険』

 

 そんな声が聞こえ、サイドミラーを確認する。すると玄武王がトラックのアルミボディを素手で掴んでいた。アルミボディがメキメキと軋み、タイヤが回転してるのに前に進まない。

 

 「ははは、こんな鉄の塊がオレに効くとでも? この玄武王バサルテスも舐められたモンだな」

 「こ、こんの……っ!!」

 「……っ、コウタさん、ごめんなさい!!」

 「ミレイナっ!? 何をっ!?」


 ミレイナがドアを開けて外へ出た。

 俺はここで初めて玄武王以上の恐怖を感じた。ミレイナが何をする気なのか分からなかった。


 「手を離して下さい!! バサルテス様っ!!」

 「ん?……ほぅ、貴様は魔族か、なぜこんな地に居る?」

 「わ、私は……私は、私だって……っ!!」 

 「止めろミレイナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 「やぁぁぁぁっ!!」


 ミレイナは素手で玄武王に飛びかかった。 

 俺はいつの間にかアクセルを踏むのを止め、シートベルトを外そうと手を伸ばしていた。だが間に合わない、玄武王はつまらなそうに手を振り上げた。


 「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 「ぬっ!?」


 ミレイナを庇うように太陽と月詠が飛び出し、強烈な斬撃と跳び蹴りを食らわせる。だが玄武王はノーダメージだ。

 しかし、その衝撃で玄武王の手が外れ、俺はハッとしてアクセルを踏んだ。ミレイナは慌てて距離を取り、俺はミレイナに構わずシャイニーたちを包囲するカメたちを轢き殺した。

 

 「キリエっ!!」

 「だ、大丈夫です……」

 「キリエは平気よ、アンタは向こうを回収して!!」


 すると後ろから月詠の声が響いてきた。


 「煌星!! クリス!! 今こそ切り札を使う時よ!! 太陽も根性見せなさい!!」

 「よっしゃ根性ぉぉぉぉぉぉーーーッ!」

 「行きますっ!!」

 「見ててキリエ姉ぇっ!!」


 太陽が聖剣を、月詠が籠手を、煌星が弓を、クリスが杖を掲げて叫んだ。


 「「「「『鎧身がいしん』!!」」」」

 

 太陽は黄金の鎧、月詠はスタイリッシュな赤の鎧、煌星も似たような緑の鎧、クリスは法衣のような白い鎧を装着した。恐らくここでケリを付けるつもりだ。


 「面白い!! かかってこいやぁぁぁぁっ!!」

 『行くぜぇぇぇぇぇぇっ!!』

 『ここが正念場よ、みんなっ!!』

 『はいっ!! 行きますよっ!!』

 『よくもキリエ姉ぇをぉぉぉぉぉぉーーッ!!』


 おいおい、こいつらホントに十六歳かよ。根性があるってレベルじゃねーぞ。

 回収に来たのに必要なさそうだ。それぞれの力が桁違いだし、徐々に玄武王を押している。

 俺はキリエを支えるシャイニーを確認し、ミレイナを回収するべくトラックをバックさせる。


 「ミレイナ、乗れっ!!」

 「はい、コウタさ」


 次の瞬間、ミレイナの背後で爆発が起きた。

 ミレイナは吹き飛ばされ地面を転がり、俺はその光景を呆然と眺めていた。

 砂利や岩だらけの地面を何度も転がったミレイナはピクリとも動かない。俺の心臓がドクドク跳ね上がり、何が起きたのかを確認する。

 

 「え……」


 すると、そこにはバケモノがいた。

 玄武王バサルテスは姿が変わっていた。太陽達が全員倒れていた。鎧は砕け、身体中が傷だらけになっていた。何が起きたのか理解出来なかった。


 『驚いたぞ。まさかここまでの力を持つとは……さすが勇者というモノか』


 玄武王バサルテスは、巨大化していた。

 人間のような身体が変異し、よりモンスターらしい体軀になっていた。まるでカメのバケモノが十メートルほどの大きさに巨大化したようだった。

 

 『くくく、久し振りにこの姿になったぞ。誇って良いぞ勇者たち、この姿を見たモノはそういない』


 なんだよこれ、なんでこんなことに。

 こんなバケモノ、倒せっこない。


 「こ、この……バケモノ、よくもミレイナを!!」

 「許しません、神の鉄槌を……!!」

 「や、やめろ……止めろシャイニー!! キリエ!!」

 

 シャイニーとキリエはミレイナの元へ向かい、玄武王に真っ向からケンカを売る。俺は全身が冷たくなり動くことが出来ない。だけど、このままじゃミレイナが、シャイニーが、キリエが……くそ、なんで、なんでこんなことに。


 『くっくっく、弱い弱い人間よ。ふむ……ちと腹が減ったな』

 

 その言葉を聞き、俺はようやく我に返る。

 ゆっくりと三人に伸ばされる手。俺は全力でアクセルを踏んで突進した。


 「やめろぉぉぉぉぉぉーーーッ!!」

 『ふん』

 『危険。危険。危険。危険』


 狙いは足。というかどこでもいい。

 この瞬間、俺は初めて自分よりも他人を優先した。トラックで玄武王に体当たりし、体勢を崩した隙に三人を連れて脱出する。太陽たちよりミレイナたちを助ける。俺の初めての会社の従業員を守る。社長として、男として。それだけが頭にあった。


 「ミレイナ、シャイニー、キリエーーーーーッ!!」

 『死ね』



 次の瞬間、恐ろしい衝撃が俺を襲った。



 ********************** 


 

 気が付くと、俺は横倒しになっていた。

 見えたのは割れたフロントガラス、しぼんだエアバッグ、そして火花が散ってる車内。

 頭がガンガンする。痛む右手で額を擦ると、ドロリとした血が手に付いた……どうやら額を切ったらしい。

 

 「…………う」


 滲む視界を確認すると、何人かが立ってる姿が見える。

 どうやら太陽らしい……ボロボロの状態で立ち上がり、折れた聖剣を玄武王に突き付けてる。

 まだ十六歳の少年なのに、たいした根性だ。


 「ミレイナ……シャイニー……キリエ……」

 

 ミレイナたちは、無事なのか? 

 頭がボンヤリする。トラックは……大破してるようだ。ここからじゃ分からないが、車体も相当やられてるだろう。玄武王が踏みつぶし、蹴り飛ばしたような気がする。


 「た、タマ……」

 『車体損傷率七十五パーセント。走行不可。全武装展開不可。ポイントを使用して修理する事をお勧めします』

 「み、みんな、は……?」

 『バイタルチェック……全員生存しています。社長は額の裂傷。ミレイナ様は数カ所の骨折と打撲。シャイニー様は軽傷。キリエ様は無傷です。ミレイナ様のバイタルが低下……一刻も早い治療をお勧めします』

 「ゆ、勇者パーティー、は?」

 『全員軽傷です。全身鎧が衝撃から身を守ったと思われます』


 こんなにトラックはボロボロなのにタマの声色は変わらない。そんな事に安心してる自分が居る。


 「なぁ……ここから逃げられるか?」

 『不可能です。現在の戦力では玄武王バサルテスを倒すことは出来ません』

 「じゃあ、どうすれば勝てる?」

 『回答不可。現時点では不可能です』

 

 この時、俺の中にあったのは生への執着ではなく、どうすれば玄武王バサルテスを倒せるかという事だった。

 俺だって男だ。ここまでされて悔しくないワケが無い。ミレイナ達を傷付けられ、トラックはボロボロにされて怒らないワケが無い。

 だから、もし可能ならあのカメ公をブチのめしてやりたい。


 「お前、言ったよな……『現時点』では不可能だって。方法があるんだな?」

 『回答不可』

 「頼む、教えてくれ……俺は、俺はアイツを倒したい」

 『回答不可』

 「こんな気持ちは初めてだ……会社に勤めてた時も、パチンコで大負けした時も感じなかった……ミレイナ達を傷付けられて、相棒のトラックをボロボロにされて……俺は、頭にきてる」

 『回答、不可』

 「頼む!! 教えてくれ……お前だって許せないだろ、仲間を、大事な従業員をやられて、頭にきてるんだろ!!」

 『回、答……不。可』

 

 玄武王の手が太陽に伸びる。

 よく見ると太陽は既に気を失っていた。どうやら月詠やミレイナたちを守るために、無意識のうちに立ち上がったように見える。アイツこそ真の勇者だと俺は思った。

 だから、こんな所で死なせたくない。こんなにも助けたいと思ったのは初めてだった。

 俺は泣きじゃくりながら叫んだ。


 「頼むタマ!! ここで何もしなかったら……俺は生きてる意味がない!! 俺はまた死んじまう!!」

 『…………………………』


 俺はただの運送屋だ。だけど誰かを助けたいと思う気持ちはある。

 勇者みたいなヒーローじゃない。だけど困ってる人に手をさしのべる優しさはある。

 そんな優しさを運ぶ運送屋は、きっとこの世界では俺だけだ。《デコトラ》はきっと、そんな人を救う為のスキルだって俺は思う。トラックを弄るだけが、このスキルの力じゃ無い。

 するとタマが、ポツリと呟いた。

 

 『…………………お守り』

 「え?」

 『ミレイナ様から頂いたお守りを、ダッシュボードの中へ入れて下さい』

 「は?」

 『お願いします。社長』

 「………わかった」


 俺は胸ポケットに入れておいたお守りを、ヒビだらけのダッシュボードの中に入れた。


 『パンパカパーン。ミレイナ様のお守りを経験値に変換しました。レベルが上がりました』

 「た、タマ?」


 この土壇場でレベルが上がった。

 そう言えば、コインや品物なんかも経験値に変換出来るんだっけ。



 『パンパカパーン。新項目《機神変形デコトラ・フュージョン》を獲得しました』


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お読みいただき有難うございます!
最弱召喚士の学園生活~失って、初めて強くなりました~
新作です!
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