33・トラック野郎、頼まれる
勇者たちと別れ、俺はミレイナたちを探しに城下町へ降りた。が、広すぎてワケわからん。ゼニモウケ以上に人が多いし、歩く人たちもみんな冒険者ばかりだ。
通りにはいろんな露店がある。屋台で串焼きやクレープを売ってたり、ケースを広げてアクセサリーを売ってる商人もいる。
ミレイナたちはやっぱりあそこかな。
「スターダスト·····ミレイナなら行くだろうな」
『位置情報確認。現在、ミレイナ様たちはスターダスト・オレサンジョウ支店にて買物中』
あ、そう言えばタマがいた。迷子になっても安心だね······この場合って俺が迷子なのか? いや違う。
俺はミレイナたちと合流するためにスターダストへ向かう。タマの案内があれば迷うことはない。歩くと露店からいい香りが漂う······腹も減って来たけど、ミレイナたちを差し置いて食べるワケにはいかないな。
道幅も広く運転しやすい。どこか広いところにトラックを停めて歩きたい気分になるね。ゼニモウケの場合は冒険者ギルドの裏に停めさせてもらったけど、ここではそうは行かないだろうな。
「タマ、この町の見どころは?」
『検索中············検索終了。見どころは《勇者の墓》と《地下ショッピングモール》です。勇者の墓は歴代の勇者たちが祀られてる場所で一般開放されています。そこで参拝をすると強くなれると言われ、この町に立ち寄った冒険者は必ず参拝して行くそうです』
「へぇ、有名人のお墓かぁ······ショッピングモールは?」
『地下ショッピングモールは、地上ではなく地下に建設された飲食店や商店が連なるスペースです。地上に店を構えることの出来なかった飲食店が苦肉の策として地下を掘り店を開業したところ、まるで隠れた名店と勘違いされ繁盛した事がきっかけでした。それから地下に店を構える事が流行となり、現在の形になったそうです』
「面白そうだな。ミレイナたちと合流したら行ってみるか」
『畏まりました。トラックの駐車スペースを検索·········検索完了。お薦めはマカセロ地区4番街の馬車の停車スペースです。そこからならスターダストからも近く、地下ショッピングモールへの入口もあります』
「よーし。じゃあ案内よろしくな」
『畏まりました』
タマはホントに頼りになる。俺もタマのために何か出来ればいいんだけどな。まぁゼニモウケに帰ったらキレイに洗車してやろう。
さて、ミレイナたちと合流しますか。
********************
「お、いたいた·········おぉ」
なんというか、華やかだね。
美少女3人が仲良くお買い物。しかもいろんな洋服を手に取ってお互いの身体に合わせてる。シャイニーは白い帽子を取りミレイナに被せ、キリエは青いスカーフをシャイニーに巻いてる。ミレイナはキリエに似合いそうな靴を探し始めた。
何だろう、俺が入ったらこの光景が壊れるような気がする。だけどミレイナと目が合ってしまった。
「あ、コウタさーん」
「悪い、待たせたな」
「全く、遅いわよ」
「ですが丁度いいですね。そろそろお昼の時間です」
3人の手には買い物袋が握られていた。どうやらそれぞれが好きな物を買ったらしい。
「あのさ、地下ショッピングモールって知ってるか?」
「地下、ですか?」
「ああ。お昼はそこで食べようぜ」
「いいけど、どこにあるの?」
「まずは荷物をトラックに置いてこよう。その後すぐに案内するよ」
「わかりました。お昼は激辛でお願いします」
悪いがその案は却下だ。フツーのお昼にしようぜ。
歩くと地下の入口らしきゲートが見えたので階段を降りる。すると地下に到着した。
地下ショッピングモールは天井がある以外はフツーの商店街と変わらない感じ。まぁ都会的だね。
お昼はカフェでランチを頼み、改めて地下を散策する。どうやらここは飲食店街らしく、オシャレな酒場やバーなんかもあった。こりゃいいね。
「じゃあ次は『勇者の墓』に行くか。なんでも歴代の勇者が祀られてる墓らしいぜ」
「あ、聞いたことあるわ。冒険者たちのお祈りスポットだとか」
「私も聞いたことあります。歴代の勇者様たちが、願いを叶えてくれるとか」
「私が聞いたのは神聖なる社があり、そこに神となった歴代勇者が祀られてるとか」
うーん。情報がまちまちだね。行けばわかるか。
ここからそう遠くないし、腹ごなしの散歩がてら行きますかね。
たぶん、墓なんて見てもつまんないだろうけどね。
********************
「歴代勇者、か······」
「わぁ〜、なんか雰囲気が違いますね」
「アタシも初めて見たわ······変な門ね」
「ですが、神聖な······う〜ん、形容し難い何かを感じます」
俺は驚いた。だってさ、勇者の墓の入口にデカい鳥居があるんだぜ? この時点で勇者は日本人で確定だ。勇者を祀ってる神殿だって寺みたいな建物だし。
境内と言っていいのか? 奥へ進むと神殿······いや神社の入口には参拝客······いや冒険者たちがお参りしてる。しかもご丁寧に賽銭箱まであるし、神社によくある鈴のガラガラまであった。
「ねぇ、なにこれ」
「いいか、あの箱にコインを入れるんだ。そしてこのガラガラを揺らして······」
俺は小銭入れからコインを取り出し賽銭箱へ投げ入れ、紅白の太い紐を揺らして鈴をガラガラ鳴らす。そして手を合わせお参りした。ミレイナたちは不思議そうだったが俺の真似をした。まぁマナーもいろいろあるけど俺は知らん。
「さーて、後はどうす······」
「おーいコウタさーん‼」
俺を呼ぶ若い声。聞き覚えあるというかさっき会ったばかりの奴だ。
「いたいた、やっぱここだと思ったぜ」
「ま、あたしたち日本人からすれば懐かしい場所だもんね」
「ふふ、先代勇者様は故郷を想う方でしたのね」
「ん〜、私にはよくわからないけど」
おいおい、何で勇者パーティーがいるんだよ。それぞれが貰ったばかりの武器を下げてるし、格好もこの世界に馴染んでる。
「へへ、実はコウタさんに頼みがあるんだ。ま、依頼ってことだ」
なんか小生意気なヤツだな。確か······太陽だっけ。げんきいっぱいのバカ少年って感じの主人公タイプだ。俺みたいな社畜ブラックお兄さんとはタイプがまるで違う。
「依頼? 悪いが仕事は終わったんだ。これからゼニモウケに帰らなくちゃいけないから、申し訳ないが他を当たってくれ」
「そんなこと言わねーでさ、同じ日本人だろ? お金は払うしこれから行く先々で運送会社の宣伝もしてやるからさ」
「·········」
こいつ何で上から目線なんだ?
それに俺は年上だぞ。多少なり敬語があってもいいんじゃないか? 勇者がどんだけ偉いか知らないけど、こんな態度のヤツの依頼を受ける気は全くない。
「バカ、言い方ってのがあるでしょうが。申し訳ありませんコウタさん、この世界に来てから太陽のテンションがおかしくて······」
「······ああ。そうみたいだな」
「おいおい月詠、なんだよ急に」
「いいから。煌星、クリス」
「はーい。太陽さん、こっちこっち」
「タイヨーっ、私とイチャイチャしよっ」
どうやらこの月詠とかいう少女はマトモらしい。
俺と月詠の会話をミレイナたちは黙って聞いていた。
「改めて、申し訳ありません。太陽はこの世界に来てからちょっとおかしくて。勇者って呼ばれて有頂天になってるみたいなんです」
「まぁいいよ。それで、俺に何か依頼か?」
「はい。荷物の運搬を」
「別に普通だが······何か特別なのか?」
「はい。運んでいただくのは······あたしたち、です」
「は?」
月詠は胸に手を当て、事情を説明した。
********************
「実は『魔王四天王』の1人、『玄武王バサルテス』の居場所はわかってるんですが、肝心の移動手段が見つからなくて。そこでコウタさんのトラックで運んで頂けないでしょうか」
「え? 馬車は使えないのか?」
「そんなことはないんですが······そこは超危険地帯で、馬が怯えてまともに進まないし、歩きですとかなり時間が掛かります。それに四天王相手となると、無駄な体力を消費したくありませんし」
なるほど、理由はわかった。
でも超危険地帯か、トラックの武装なら平気だと思う。それに勇者たちが同行するなら危険はさらに下がるだろうしな。
「トラックに馬車の車体を牽引して貰う形で構いませんので、お願い出来ないてしょうか。もちろん報酬は支払いますし、出てくるモンスターたちは責任を持って退治します。トラックを傷付けるようなことはありません」
「·········ちょっと待ってて」
俺は振り返り、ミレイナたちと話し合う。ミレイナは不安そうに、シャイニーは面白そうに、キリエはいつもと変わらない無表情だった。
「聞いてたよな、どうする?」
「······魔王四天王、ですか」
「面白そうじゃない。元冒険者としては強いモンスターにも興味があるわ。それがあの魔王四天王なら尚更ね」
「私は賛成です。怪我をしてもクリスが居ますし、何よりたった1人の妹ですから。いざとなったら最後くらいは看取りたいものです」
「不吉すぎるぞ⁉」
「冗談です。ですが賛成です」
「ミレイナは?」
「·········」
ありゃ、ミレイナが俯いてる。なんか様子がおかしいな。
「私は·········反対です」
「え」
それは、ミレイナ初の反抗だった。