32・トラック野郎、勇者と出会う
トラックはやはり検問で目立った。
もう慣れたしスルー。検問兵にゼニモウケ冒険者ギルドの書状を見せて難なく入国した。
隣にはシャイニーが乗ってる。まずはこのまま冒険者ギルドへ向かいギルド長に挨拶する。そしてそのままオレサンジョウ城へ向かい、武具を勇者たちに渡しておしまいだ。
正直、ギルドに武具を預けで終わりにしたいが、俺にも運送屋としてのプライドがある。勇者に届けろというなら届けますよ、はい。
「ここがオレサンジョウか〜······」
「俺でも分かるぜ、これみーんな冒険者だろ?」
町を歩く人々は武装してる奴らが多い。ゼニモウケみたいな商人たちは少なく、武器防具屋や酒場が多くあった。やっぱ勇者誕生の国となるとみんな熱くなるのかね。
シャイニーは元冒険者の血が騒ぐのか、道行く冒険者たちを眺めていた。
トラックは進み冒険者ギルドへ到着した。今更だか、ギルドの建物は全都市共通らしい。違うのはギルド毎に定められた紋章だけだ。
「よし、行ってくる。お前も行くか?」
「·········行く」
ミレイナとキリエはお留守番だ。ここでは挨拶だけだし、ニナから預かった書状を渡してそのまま城へ向かう手筈になっている。俺とシャイニーはトラックから降りてギルド内へ。
「おぉ〜、活気が違うなぁ」
「確かに。冒険者たちの質が違う、たぶん全員がC級以上の冒険者たちね」
「へぇ〜」
見た感じ、ギルド内に50人はいる。年代的には10〜20代が多い。みんな強そうだしなんか怖いな。スキンヘッドのヒゲ親父とか、筋骨隆々の世紀末な奴らとか、ここは無法地帯かよ。
とにかく、受付(もちろん女性)でギルド長を呼ぼう。
「おい、あの蒼······シャイニーブルーだぞ」
「『蒼き双月シャイニーブルー』だと? なんでオレサンジョウに?」
「おい、カワイイ顔してるじゃねぇか、声かけて来いよ」
「お前が行けよ、それにツレがいるじゃねーか」
なんかボソボソ言われてる。しかもこいつらシャイニーが冒険者をクビになったこと知らないみたいだな。
とにかく受付へ。さっさと用事を済ませて城へ行こう。俺は受付にニナの書状を出しつつ言う。
「すみません、ゼニモウケギルドから来た『アガツマ運送』です。ギルド長にご挨拶したいのですが」
「それでは書状を確認しますね·········はい。それでは少々お待ちください」
受付嬢さんは別室へ行くと、すぐに戻ってきた。
連れてきたのは、ガチムチのヒゲ男だった。なんか残念。
「初めまして。ワシはオレサンジョウ冒険者ギルドのギルド長、アルベロだ」
「初めまして。アガツマ運送社長のコウタです。本日は勇者様にお届け物をお持ちしました」
「聞いてる、さっそくだが城まで運んでくれ。勇者たちは城で鍛錬をしてるはずだ」
「わかりました。それでは失礼します」
アルベロさんとは数分で別れた。たぶんもう出番が無い気がする。
俺はギルドを出ると、黙ったままのシャイニーに言った。
「お前、アルベロさんとは知り合いじゃないのか?」
「ええ、初めて会ったわ。前のギルド長は高齢だったし、引退でもしたんじゃない?」
まぁいいや。とにかく次は城へ。
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「城······初めて見た」
「ここがオレサンジョウ城かぁ、デカいわね〜」
「勇者さんはここに居るんですよね?」
「そのようですね。久しぶりにクリスに会えます」
トラックで城まで向かい、門番に誘導されて城門先の広場で停車した。何でも勇者たちは野外でモンスターとの実地訓練をしてるらしく、もうすぐ帰ってくるのでこのまま城門前で待つことにした。
「なぁ、お昼はまだか?」
「えぇと、そろそろ時間ですね」
「そろそろ帰ってくるって言うし、待ってましょ。その後で城下町に食べに行きましょ」
「では激辛」
「ダメ。どうしても食べたいならアンタ1人ね」
「それは残念です」
ワイワイと楽しく話していると、1台の馬車が近付いて来た。俺たちは自然と馬車に注目する。そしてトラック前に馬車が止まり、中から若い男女が降りてきた。
「おいおい、何でトラックがあんだよ⁉ ここは異世界だろ⁉」
「落ち着きなさいよ·········って無理か。あたしも驚いてるし」
「まさかこの世界でトラックを見ることになるとは······驚きましたわ」
「とらっく? この鉄の塊が?」
若いな、全員が中学〜高校生くらいか。男女率は1対3、やっぱハーレムかよちくしょう。しかもイケメンに美少女と来た。中に一人だけ金髪の黒いシスター服を着てる。もしかしてこの子が。
「久しぶりですね、クリス」
「え······き、キリエ姉ぇっ⁉ なんでここに⁉」
「もちろん、貴女に荷物を届けに来たのですよ。私は『アガツマ運送会社』の経理ですから」
「け、経理? キリエ姉も大聖堂を出たんだ······」
姉妹は久しぶりの再会だ。邪魔しないでおこう。まずは仕事を済ませるか。
「お疲れ様です勇者様。このたびスゲーダロで開発された」
「おいおっさん‼ あんたもオレたちと同じく召喚されたのか⁉ このトラックは何なんだよ⁉」
このガキ、俺はまだ26だぞ。
「えー、スゲーダロで開発された最新型の聖剣と、勇者パーティーの皆様の専用武器を」
「驚いたわね。まさかあたしたちと同じ召喚者が居たなんて······しかもトラックの運転手?」
「あの、初めまして。わたくしたちは勇者としてこの世界に呼ばれたのです。宜しければお話を」
いや話を聞けよ。
俺はトラックからケースを運び出すと、ミレイナたちも手伝ってくれた。キリエはクリスとの会話を打ち切り、俺の側へ来る。
俺はケースを開けて中身を勇者たちに見せつける。すると勇者たちの興味は俺から武具へ移ったようだ。
「か、かっけぇぇーーーッ‼ これがオレの聖剣か‼」
「この籠手はあたしのね······うん、しっくり来る」
「この弓はわたくしですわね。うふふ」
「杖が私のね、イケてんじゃん」
全員に武具を渡し終え、俺は馬車を運転してた御者にサインを貰う。御者もわかってたのか、すんなりとサインをしてくれた。
「ではこれで、失礼します」
「ちょっと待てよおっさん‼ 話は済んでないぜ‼」
「そうよ、知りたいこともあるし、お話しない?」
「うふふ、まさかわたくし達と同じ日本の方に会えるとは······お互いの事情もあるし、少し話しません?」
どうやら、逃げることは出来ないようだ。
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場所を変え、城門近くにある兵士の詰め所を借り、俺は勇者たちと話す事にした。シャイニーたちは勇者を一目見て満足したのか、城下町に繰り出した。俺も行きたいからさっさと終わらせる。
「まずは自己紹介だ‼ オレは天空寺太陽、この世界を救う伝説の勇者さ‼ よろしくな‼」
なんかアホっぽい。ルックスはいいし名前もカッコいい。まさに勇者らしいが、醸し出す雰囲気が台無しにしてる気がする。
「あたしは獅子神月詠。太陽の幼馴染で腐れ縁よ。よろしくね」
黒髪ポニーテールの美少女だ。可愛いけど何か子供っぽいな。それに勇者の幼馴染ポジションとは、テンプレだと勇者にホの字だけど。
「わたくし、延寿道煌星と申します。宜しくお願いしますね」
ゆるふわウェーブのお嬢様キャラ。ここまでテンプレだと何か笑えるな。しかも全員の名前がカッコいいしよ。
「私はクリス・エレイソン。キリエ姉の妹で聖女でーす。宜しくね、おにーさん♪」
この子は可愛いね。お兄さんお小遣い上げちゃう。キリエとは正反対の元気系の妹キャラだな。しかも幼児体系のロリキャラだ。まぁ俺も自己紹介するか。
「俺は吾妻幸太。交通事故で死んだら神様とやらが生き返らせてくれた。しかも運転してたトラック付でな。せっかくだしトラックを使って運送会社を始めたんだ」
「し、死んだのか⁉ それで生き返った⁉ オレたちとは全然違うな」
「あたしたちは同じクラスで、一緒に登校して一緒に校門を潜ったらこの世界だったの。何でも魔王を倒すために勇者を召喚したとかでね」
「魔王を倒しても帰れないようですので、この世界で生きる為にも、わたくしたちは戦う決意をしましたの」
「ま、タイヨーなら楽勝だよ。強いしカッコいいし私の旦那様だしっ」
「うふふ、わたくし達、ですわよ? クリスちゃん」
「おいおい、結婚式は魔王を倒してからだろ? 気が早いぜ。それにエカテリーナ姫もいるしな」
「·········バカ太陽」
あ、こいつはハーレムキャラだ。
幼馴染の月詠が複雑な顔をしてるけど、これは照れ隠しだ。たぶん魔王を倒したらお姫様とこの勇者パーティーで結婚式を挙げる気だ。ヤバい、俺のデザートイーグルが火を吹くかも。
「そんなわけでよろしくな‼ この世界の平和はオレたちが守るから、コウタさんは運送会社を頑張ってくれ‼」
「あ、ああ。頼りにしてる」
「それと、実は最近モンスターが活発化してるの。その原因が『魔王四天王』が関係してると言われてる、帰り道に気を付けて」
「ま、魔王四天王?」
「はい。魔王軍の中でも特に強い力を持つ個体ですわ」
「ふふん、タイヨーがいれば楽勝だって。キララは心配症ねぇ」
「ま、そーいうことだ。へへへ」
魔王四天王ねぇ、こりゃまたテンプレだわ。絶対に会いたくない。それに俺は勇者でお腹いっぱいだぜ。町を観光したらすぐにゼニモウケに帰ろう。
ま、そういう時ほど上手く行かないんだよなぁ。