31・トラック野郎、オレサンジョウへ出発
現在、俺とシャイニーは近隣の集落に向けて配達中だ。
「シャイニー、オレサンジョウってどんなところなんだ?」
ニナの訪問から数日。俺たちは仕事をしつつオレサンジョウへの出発準備をしていた。会社は一時的に閉めるため、数日前から臨時休業することは告知してる。この為にわざわざ看板まで作り、会社の前に設置してあるくらいだ。
「あそこはかなりデカい国よ、多分このゼニモウケより大きいんじゃないかしらね。ここからだと馬車で2月は掛かるわ」
「へぇ〜······じゃあ、トラックでも2週間か」
こりゃ大変だ。食料をたっぷり備蓄してから行かないと。
「オレサンジョウの前にいくつかの町に寄りつつ進むのがベストね。さすがに補給もナシで進むにはキツいから」
「だな。食料は2週間分も保存出来ないしな。タマ、オレサンジョウまでの最適ルートを頼むぜ」
『畏まりました』
シャイニーはおやつのポッキーをコリコリ齧り、俺はペットボトルのお茶を飲む。ちなみに俺のお茶もちゃんと給料から引かれてる。シャイニーだけじゃないぜ。
「それにしても······新型の聖剣かぁ、見てみたいわね」
「俺もけっこう気になる」
だって俺の中の常識を覆した武器だしな。
伝説の聖剣に最新型とかいう概念があること自体かなりの衝撃だった。
そんな話から数日後、ついに聖剣がやって来た。
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会社を休業し、オレサンジョウへの出発準備を終えた頃、ニナと数人の冒険者たちが大きなケースを抱えてやって来た。
「失礼する。さっそくだが仕事の話をしよう」
いきなりっすねニナさん。美人でクールなギルド長さん。
ミレイナはお茶の準備をしようと立ち上がり、シャイニーは冒険者たちの抱えてるケースを見つめ、キリエは何故か手を組んで祈るようなポーズをしてた。
「まず、これが最新型の聖剣と、勇者パーティーたちの専用武器だ」
「ケースが4つ······まさか全部聖剣ですか?」
「違う。聖剣は1本だけ、あとは杖と弓と籠手だ」
「へぇ······」
「見てみるか? 気にしてる奴もいるしな」
「な⁉ だ、誰のことよ‼」
「さぁな。それでどうする? 見るくらいなら構わんぞ」
「せっかくだし、見せて下さい」
俺がそう言うと、冒険者たちはケースを開ける。
そこに収められていたのは、カッコいい武器だった。
「おぉ······なんかカッコいい、変形しそう」
「これは勇者たちの魔力に反応して高出力形態へ変形する。質量変化合金と呼ばれ、その名の通り魔力を流すと、合金に記憶された形態へ変化して戦闘能力を大幅に上げる効果がある」
すんません、何を言ってるのかサッパリです。それにその情報は俺たちには必要ないです。
「現在の聖剣では勇者の力を完全には引き出せない。なので勇者パーティーの身体に合わせた武具を再設計し、最新技術で作り直した最高の武具だ。これなら勇者パーティーも満足するだろう」
「·········」
俺はちょっと気になった。
何で新しい武器が必要なんだろう。まるで強大な敵でもいるような·····························まさか。
イヤな予感がすると同時に、ニナが微笑んで言う。
「ふ、これがあれば『魔王』も倒せるだろうな」
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魔王、魔王、魔王ってあの魔王? この世界に魔王なんているの? 冗談だろ? そんな危険なヤツがいるなんて聞いてねーぞ⁉
「最近、モンスターの動きが活発になってるのも、魔王軍の幹部が現れたからだ」
「やっぱり······あのマッドコングはそう言うことだったのね」
「魔王······怖いです」
「この辺りは被害がないと思ってましたが······」
あ、みんな知ってるのね。どうやらこの世界じゃ魔王の存在は当たり前みたい。どうやら俺はとんでもない依頼を受けたのかも知れない。
「と、とにかく、この武器を勇者パーティーに渡せば、魔王を退治してくれるんだな?」
「ああ、勇者はまだ若いが素質はある。鍛えればきっと強くなるさ」
「確か、今は旅の最中なのよね?」
「そうだな。旅というか勧誘だ。聖女クリスの癒やしの奇跡は魔王討伐に必要だったからな。現在はオレサンジョウで訓練をしている」
「ふーん」
それからいくつかの注意事項を聞き、ニナたちは去って行った。あとはこの武具を運搬して勇者たちに届ければいい。
「依頼自体は簡単だけど、オレサンジョウまでの距離が厄介ね」
「長旅になりそうですね、途中の町で補給しなきゃ」
「私は楽しみです。オレサンジョウは観光地としても有名ですし」
「よし、こいつを積み込んだら出発するか。さっさと運んで仕事を再開しないとな」
ゼニモウケでようやく運送会社が話題になってきたんだ。そう何回も留守にするのはイヤだしな。
俺たちは武器をトラックに積み、ゼニモウケを出発した。
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トラックに乗ると、隣にはシャイニーが乗る。今日のシャイニーは全身蒼の装備だ。
『勇者王国オレサンジョウまでのルートを設定しました。ケワシー山脈を越えた先にあるヘドロ沼を抜けるルートです。確認される危険種は2体。ケワシー山脈に生息するロックドラゴン。ヘドロ沼に生息するグリーンヴァイパーです』
「危険種······トラックの武装でいけるか?」
『問題ありません』
ないのね。まぁそんな予感はしてたよ。トラックの強化をしたのに、未だにノーダメージだしよ。もしかして魔王も倒せるんじゃね?
「相変わらずとんでもないわね。ロックドラゴンなんて言ったらヴェノムドラゴンと同様の危険種で、本来なら上級冒険者が集団で集まって倒すレベルよ?」
「お前は単体で挑んだじゃん」
「そ、それは仕方ないじゃん‼」
まぁシャイニーはヴェノムドラゴンの吐く毒が周辺の町や村に降り注ぐ危険を知ってたからな。冒険者を集める時間が惜しかったんだろ、わかってるよ。
すると、運転席の後ろから声が聞こえてきた。
「シャイニー、後で場所を交換して下さいね」
「休憩時間ごとに交代ですよ」
「はいはい。わかってるって」
助手席に誰が乗るかで少し揉めた。そこで俺が提案したのがくじ引きだ。こんな時に引きが強いのはシャイニーならではだね。
「それじゃ、私はお昼の支度をしてますね」
「私はお祈りの時間なので」
「それホントなの?」
「はい。シャイニーに面白可笑しい災難が起きるよう、神に祈りを捧げるのです。神は信じる者に救いの手を差し伸べます。きっと願いは届くでしょう」
「ふざけんなっ‼ アンタ負けたの根に持ってるでしょ⁉」
楽しくも騒がしいな。これなら退屈することなく走れるだろう。ついでにラジオを付けて行くか。
「よし、出発するぞ」
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街道ではモンスターは現れず、そこそこ速度を出しながら進んだ。先を行く馬車を追い抜き、すれ違う馬車に手を振る。すれ違うたびに馬車の御者が唖然とするのが面白い。
ちなみに、隣にはミレイナがいる。
「なんだか久しぶりですね」
「だな、隣にはいつもシャイニーが乗ってたからな」
「はい。だけど······コウタさんの隣は安心します」
「そ、そうか?」
「はい······」
なんだろう、すっごい照れる。
ミレイナも黙って前を向いてるし、カーラジオの音だけが響く。だけどそんなの気にならないくらいドキドキした。
「コウタさん、これ」
「······ん? なんだこれ」
「お守りです。安全に運転して下さいって、私の祈りを込めました」
「お、おぉ······」
ミレイナが差し出したのは、手作りの小さな袋だった。中に何か入ってるが、運転中なので確認出来ない。俺はお守りを受け取り、胸ポケットに忍ばせた。
「ありがとな、ミレイナ」
「いいえ、私の方こそ、ありがとうございます」
ミレイナとの時間は、安らかに過ぎていく。
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お昼を終え、次はキリエが隣に。
オーマイゴッドから乗ったときは、勝手を知らなかった事もあり、ずっと居住ルームに居たからな。ちゃんと助手席に座るのはこれが初めてかもな。
「社長、これは素晴らしい乗り物です。椅子は柔らか、馬車のような振動も少なく、何よりこんな速度で走れる事が素晴らしい」
「そりゃ良かった。何か飲むか?」
「······では、ミルクを」
「はいよ」
タマに頼み、俺のペットボトルのお茶とキリエ用にパックの牛乳を注文すると、ダッシュボードから袋が飛び出して来た。
「·········本当に、どんな仕組みなんでしょうか?」
「さぁな、神様の贈り物じゃね?」
「おぉ、それは素晴らしい‼」
冗談だったのに·········いや、あながち間違ってないのか?
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『[レーザーカッター]展開。発射します』
『ギャオオオオッ⁉』
ロックドラゴンを細切れにして瞬殺。
『[ガトリングガン]展開。掃射します』
『ジャァァァァッ⁉』
グリーンヴァイパーを蜂の巣にして進むこと1週間。途中で町に立ち寄り買い物をして、オレサンジョウへの旅は順調に進んでいた。
トラックのレベルは37まで上がったが、新たな武装は手に入らなかった。正直もういらない。十分過ぎるくらいあるからな。
街道がデコボコ道から整備された道へと変わり、ようやく見えてきた。
「お、あれか······」
『勇者王国オレサンジョウを確認しました』
女の子3人は温泉に入ってる。俺も混ざってアワアワごっこしたいですね。何言ってんだ俺は‼ 犯罪だろ⁉
「タマ、ミレイナたちを呼べるか?」
『可能です。アナウンス機能発動。映像も呼び出しますか?』
「···············声、だけで」
俺は悩んでないぜ? まさかミレイナちゃんたちのハダカを見たいなんて考えてないよ? だって犯罪だし。
『本当によろしいですか?』
「だから確認すんなっての‼」
タマのヤツ、俺をからかってやがる。