29・トラック野郎、仕事を楽しむ
朝食を終え、今日も変わらぬ1日が始まる。
ミレイナとキリエは受付、俺とシャイニーはトラックに荷物を運んでいた。
荷物を運び終わり、配達に向かおうとトラックに乗り込むと、シャイニーは調子悪そうに頭を抱えていた。
「うぅ〜······あたま痛い〜」
「お前は飲み過ぎだ。タマ、酔い覚ましドリンクってあるか? あるなら2本くれ」
『購入完了。どうぞ』
ダッシュボードから小さな袋が飛び出し、中には小さなビンが2本入っていた。俺はさっそく蓋を開けて一気飲みする。
シャイニーも頭を押さえつつ、ビンを開けてグビッと飲み干した。
「はぁ、お酒は嫌いじゃないけど久しぶりだから、加減を間違えちゃったわ。ミレイナの胸を揉みしだいたのは覚えてるけど······うぅ〜ん」
「俺も記憶がない。あの後どうなったんだ?」
正直、かなり気になります。
2人で百合百合してたのだろうか。ちくしょう、なんで俺はあそこで意識を手放した⁉ もしかしたら凄い光景を拝めたかも知れないのに‼
「う〜ん、いつの間にかベッドの上だったから覚えてないわ」
「そ、そうか」
残念でした。まぁいいや、とにかく仕事をしないと。
今日もゼニモウケ内の配達と、近隣の集落への配達だ。数は少ないから夕方前には終わるだろう。
「そう言えば、今日はシャイニーがメシを作るのか?」
「うぇっ⁉ あ、あの話ってマジなの⁉」
「さぁ? ミレイナに聞いてみるか?」
「······その、アンタは食べたい? アタシの料理」
「·········」
「何で黙るのよ‼」
さ、さーて、今日も頑張ろう‼
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『アガツマ運送会社』は、軌道に乗りはじめた。
速く、安く、安心の運送屋としてゼニモウケ内で名が知られ始め、仕事の依頼も徐々に増えていった。
そして何より、従業員が可愛いと言う評判も出始め、ミレイナやキリエ目当てで冷やかしに来る輩が出始めたのである。
もしミレイナやキリエに不埒な事をする奴が現れたら、俺のデザートイーグルが弾丸のシャワーを降らせる事は間違いない。やっぱりシャイニーは護衛として会社に置くべきと思ったが、意外な救いがあった。
ある日。午前中の配達を終えて、みんなでお昼を食べていた時のことだった。
「あ、お疲れ様です。ニーラマーナさん」
「こんにちはニーラマーナ様。先程はどうも」
「やぁミレイナ、キリエ。調子はどうだ?」
「······何しに来たのよ」
「ふ、通りかかっただけだ。ミレイナとキリエに挨拶するのに、お前の許可がいるのか?」
「何ですって⁉ このヒマ人ギルド長‼」
「お、落ち着けっての、シャイニー」
そう。ギルド長のニーラマーナが、様子を見に来るようになったのだ。しかも午前中にも顔を出してくれたらしい。シャイニーはそれが気に食わないのかも知れないが、俺としてはありがたい。ニナがここまでする理由は、なんとなく分かった。
「シャイニーブルー、お前の評判も聞いてるぞ。可愛い運送屋さんが荷物を運んでくれるとな」
「な、ば、バカにしてんのっ⁉」
「さぁな。ふふ」
もしかしてニナはシャイニーが気になるんじゃ、なーんて思った。まさか冒険者の資格を剥奪した事が気になって、様子を見に来てるなんて、あり得ない妄想をしてしまった。
「コウタ社長、キミのトラックの噂も聞いてるぞ。スゲーダロ出身の冒険者に聞いたが、あんな物は見たことがないと言って驚いてた」
「そ、そうっすか」
返事に困る。まさか嘘でしたなんて言えないしな。
トラックは俺しか運転出来ないし、盗まれることはないと思う。それにイヤホンがあればタマに指示を出して暴れさせることも出来るだろうし。そんなことはあって欲しくないけどな。
「近いうちにギルドから依頼を出すかも知れん。その時はよろしく頼むぞ」
「はい、ありがとうございます」
そう言って、ニナは去って行った。
ギルドの依頼ってことは、モンスター運搬か書状運びになるのかな。遠い場所だと日数が掛るから、会社を閉めて行かないと行けないから困るんだよなぁ。せっかくお客様がついて来てるのに、ここで長期休業なんてなったら困る。
「むぅ〜、ニーラマーナのヤツ偉そうに〜っ」
「そりゃ『蒼』の冒険者ですからね。偉いんじゃないですか?」
「『七色の冒険者』は《勇者王国オレサンジョウ》の国王の依頼を受けることもあるんですよね? シャイニーは今までなかったんですか?」
「ない。オレサンジョウには『橙』がいるし、あのいけ好かない高飛車お嬢様は王様のお気に入りだから、依頼はみーんな『橙』が受けるのよ」
「『七色の冒険者』ねぇ·······」
俺はミレイナが食後に淹れてくれたお茶を啜りながら思った。この世界ではカッコいい肩書きなんだろうけど、現代日本で言えば『お笑い四天王』みたいなモンだよな。それに『赤』があんなフザケたオッサンなら、他の奴らはどんなキャラしてるのか気になる。
すると俺の呟きを聞いたのか、シャイニーがニヤリと笑った。
「なーに? もしかして『七色の冒険者』について知りたいとか?」
「いや、別に」
「仕方ないわね〜、じゃあ説明してあげる。『七色の冒険者』は最強と呼ばれる7人の冒険者よ。それぞれが単独で危険種を倒せるくらいの強さを持つの」
こいつ、聞いてもいないのに説明を始めてるよ。
「『七色の冒険者』は、それぞれ『赤』『橙』『黄』『緑』『蒼』『藍』『紫』の7つの色を象徴としてるの。名前の継承方法はいくつかあるわ。アタシの場合は、先代の『蒼』であるニーラマーナに認められて継承したんだけど、他にも一騎打ちで倒して名を奪ったり、他の『七色の冒険者』の推薦でなったりといろいろあるわ」
「ミレイナ、お茶おかわり」
「はーい」
「社長、デザートにアプルの実を剥いたのでどうぞ」
「お、ありがとなキリエ」
「ちょっとコウタ‼ 聞きなさいよ‼」
「おわっ⁉ き、聞いてるよ」
シャイニーがぷんすか怒ってる。無視したワケじゃないけど、さすがに聞く態度じゃなかったな。反省反省すんません。
しばらくシャイニーのうんちくを聞いていると、休憩時間は終わりを告げる。
「さーて、そろそろ午後の配達だ。行くぞシャイニー」
「ふぅ、なんか喋り疲れたわ」
「2人とも、お気をつけて」
「今日の夕食は私が作りますので。お早い帰りをお待ちしてます」
「お、今日はキリエの料理か。楽しみだな」
「はい。腕によりをかけて作りますね」
キリエはにっこり笑うが、この話題になるとシャイニーは黙り込む。そんなシャイニーを見たキリエはニヤリと笑った。
「シャイニー、良ければ貴女も一緒にどうですか?」
「う、ぐぐ」
「き、キリエ、それは」
「すみません。つい」
以前、シャイニーが料理を作ったことがあったが、それは酷い物だった。肉と魚は生焼け、野菜炒めは黒焦げ、ご飯は水の分量を間違えてベチャベチャ、スープは塩と砂糖を間違えてクッソ甘いスープと、とにかく酷かった。
さすがのシャイニーも反省したのか、あれから料理はしない。
ミレイナはシャイニーに料理を教えようとするがシャイニーは拒否し、キリエに至ってはシャイニーをたまに煽る。
「ま、まぁそれは追々な」
「べ、別にどうでもいいし‼ 携帯食料美味しいもん‼」
「確かにそうですね。それには同意します」
「お、落ち着いてシャイニー、料理は私が教えますから、ね?」
「むぅぅぅ〜っ‼」
シャイニーはリスみたいに頬を膨らませてぷんすか怒る。
どうもキリエはシャイニーをイジって遊ぶことが多い。からかうと面白い反応をするのは理解出来るし、確かに見てて面白い。
「さ、さーて仕事仕事‼」
「は、はいっ‼ 頑張りましょうキリエ‼」
「そうですね、では」
「ぐぬぬ、覚えてなさいよキリエっ‼」
これが『アガツマ運送会社』の平常運転。
なんだかんだで上手くやってると思う。それに、美少女たちに囲まれて毎日がとても楽しい。異世界での運転屋ライフも悪くない。生き返った人生は、日本よりも充実していた。
だけど、そんな平和を壊そうとするヤツは必ず出てくる。