3・トラック野郎、少女と出会う
翌朝。俺は最後の煎餅を食べ、再び出発した。
目指すは『商業王国ゼニモウケ』だ。というかそこしか行く場所がない。
「なぁ〜、食べ物と水をなんとかしてくれ」
『畏まりました。それでは周囲をスキャンし、人体に摂取して問題のない食物を選びます』
そう、食べ物と水。
いくらトラックがすごくても、俺が死んだら意味がない。ちなみにトイレは外で済ませた。
『検索完了。現在地より南へ約4キロ先に、飲料可能な水源と果実を発見しました』
「水っ⁉ よし行こう‼」
『畏まりました。途中、モンスターとの遭遇も予想されます。武装をオート設定にして置くことをおすすめします』
「おし、任せたぜ‼」
『畏まりました。武装をオート設定にします。それではナビを表示しますので、設定ルートをお進み下さい』
するとフロントガラスにナビが表示される。いやはや、ホントにありがたいね。
「ありがとな。助かるぜ」
『恐縮です』
俺はナビを頼りにトラックを走らせた。
********************
街道を走ること20分。特にモンスターとも出会わずに走って来た。まぁ経験値は欲しいけど轢き殺すなんてしたくない。
『警告、目的地に生体反応アリ。数は2』
「生体反応? もしかして人間か⁉」
『······検索完了。生体反応データ、人間とモンスターです。現在戦闘中』
「せ、戦闘中⁉ そ、それってマズいのか⁉」
『モンスターデータ照合。モンスターは『ファイターゴブリン』です。この辺りでは強敵です。手練でも1人では対応が難しいと予想されます』
「くそ、このトラックの武装で対応出来るか⁉」
『可能です』
「じゃあ行くぞ、飛ばすからな‼」
俺はハンドルを両手で握り、アクセルを踏んで加速した。
********************
水源に到着した俺は、その光景に目を奪われた。
「おぉ·········すげぇ」
目の前には透き通った池があり、どうやら上流から流れてきた水が貯まっているようだ。
だが、そんなことに驚いているんじゃない。重要なのは、水源近くにいるモンスターと、そのモンスターと戦う人間だ。
モンスターは『ファイターゴブリン』という、俺が轢き殺したゴブリンより遥かにデカく筋肉質だ。それに格闘家みたいな構えで人間と対峙してる。
問題なのは、対峙してる人間だ。
人間が少女だというのはわかった。
長いプラチナブロンドに透き通るような白い肌、スラリとしたボディはスタイル抜群で、胸は大きく揺れその先端も美しい。
足は細く長く美しい。きっとスベスベなんだろうなと思わず見とれてしまった。
つまり、素っ裸の少女がモンスターと対峙してた。
たぶん、水浴びをしてて遭遇したんだろうな。まさかモンスターが着替えを待つワケがない。少女の手には細い剣が握られ、よく見ると肩で息をしている。
『マスター、武装を選択して下さい』
「あ、ああ」
すると、少女がこちらに気付き驚いていた。
「な、なにコレ⁉ 新手⁉」
「離れろっ‼」
俺は窓を開けて叫び、機銃をゴブリンに向かって掃射した。
未知の攻撃にゴブリンファイターはなす術もなくハチの巣になった。
『パンパカパーン、レベルが上がりました。[ベアリング弾]が開放されました。[電磁ウィップ]が開放されました。新項目[車体強化]が開放されました。[車体強化]の説明を聞きますか?』
「とりあえず後で、今はあの子が先だ」
俺はボーゼンとしてる少女の裸体をたっぷり楽しみ、脳裏に焼き付けつつ窓から声を掛ける。
「おーい、大丈夫かー?」
俺はトラックを少し前進させ、少女の近くで停車させる。眼福眼福。
「こ、これはなに? モンスター······?」
「いやいや、トラック······って言ってもわかんないか。とにかく怪我はないか?」
「は、はい。その、助けてくれてありがとうございました」
「いやいや、こっちこそありがとう」
「え?······ひゃぁぁっ⁉」
少女は自分が全裸だと気付き、身体を隠してしゃがみこんだ。
さすがに悪いと思い、俺は静かにバックした。
我ながらゲスなヤツだぜ。だが男なら見るだろ?
********************
トラックから降りて水源をのんびりと観察すること5分、着替えを済ませた少女がトラックに近付いて来た。
「あ、あの······」
「ああ、どうも」
「い、いえ。その、助けて頂きありがとうございました」
少女の顔は赤い。あれだけたっぷりと裸を見られたんだ。まぁ俺は眼福でした。感謝してます。
「私はミレイナ、『商業王国ゼニモウケ』から来た冒険者です」
「俺は吾妻幸太。えーと······運送屋だ」
「アガツマ、コウタ? ウンソウヤ?」
「コウタでいいよ。それと、う〜ん、運び屋かな?」
「運び屋ですか。なるほど······じゃあこれは?」
ミレイナと名乗った少女の視線はトラックへ。まぁ当然の疑問だ。よく知らんが、この世界じゃトラックはオーバーテクノロジーな気がする。
「まぁその、気にしないで。それよりさ、ここの水って飲める? それと近くに果実があるって聞いたんだけど」
「は、はい。水は上流の川なら飲めます。果実はあそこに」
「お、やったぜ」
俺は池の近くにある木を見つけ、赤い果実を1つもぎ取る。
「·········」
「そのままでも食べれますよ。あの、よかったら貸してください」
「え?」
「いえ、助けてもらったお礼がまだですので、よかったら簡単に調理をします」
「いいのか⁉」
「はい。手持ちの食材と合わせれば、少しはまともな料理になると思うので」
ミレイナに果実を渡し、調理をお願いした。
「このリコの実は果実と言うより野菜に近いんです。そのままでも食べれないことはないんですが、酸っぱいので······なので、お肉と合わせて炒めると、肉の脂と酸味が交わりとても美味しい炒め物が出来るんです」
「ほぉ〜」
ミレイナの荷物の近くに、即席のかまどがあった。どうやら前からここで休んでたみたいだな。火も既に着いてたし、バラ肉と野菜とリコの実を刻んであっという間に炒め物が出来た。
「さぁどうぞ。お口に合えばいいのですが······」
「おぉぉ、すっげぇ」
俺はミレイナから炒め物の皿を受け取り、スプーンでさっそく一口食べる。
「·········超ウマい」
いや、マジで美味い。
俺はかき込むようにスプーンを動かし、ミレイナが差し出した水筒の水を飲み干して完食した。
「いや〜、まさかこんな美味い料理にありつけるとは。ありがとうな、ミレイナさん」
「いえ、命の恩人ですから」
にっこり笑うミレイナはメッチャ可愛い。せっせと後片付けをして荷物を纏めてる。さて、腹も膨れたしそろそろ行くかな。
「あの、ミレイナはどうする? 俺はこのまま『商業都市ゼニモウケ』に行くけど、よかったら送ろうか?」
「······いえ、実は依頼がまだですので、それだけは果たさないと」
「依頼?」
「はい。この森のどこかにある、『シンフォニアの花』を採取しなきゃいけないんです。だから······」
「······そっか、じゃあ」
「はい······助けて頂き、ありがとうございました」
ミレイナはペコリと頭を下げるけど、俺が言いたいのはそうじゃない。というか、ここでサヨナラするほど腐っちゃいない。それにキレイな裸をたっぷり堪能させてくれた恩は、まだ返したとは思えないしな。
「俺も手伝うよ。というか手伝わせてくれ」
「え······で、でも」
「いいから、ほら行こうぜ」
「あ······」
俺はミレイナの荷物を掴み、トラックへ歩き出した。