28・トラック野郎、自衛する
「タマ、ユニックフォームに変形」
『畏まりました』
お昼が終わり、仕事を再開する。
今日の午後は冒険者ギルドの依頼で、ニナたちが討伐した危険種をギルドの管理する解体場へ運ぶ。なので運搬形態のユニックフォームで移動する。
「はぁ、会いたくない」
「まーだそんなこと言ってるのかよ。いいか······これは仕事だビジネスだ。ニナと喋りたくないなら話さなくていいぞ?」
「うー······わかったわよ」
「とにかく、気にすんな。お前は冒険者じゃないんだ」
どうもシャイニーはニナと会いたくないみたいだ。オーマイゴッドの依頼をくれたのはニナだし、ニナが会社の評判を広めてくれた件もある。仲良くは無理でも、普通に会話くらいはして欲しい。
「あ、ケンカはすんなよ。お客様だからな」
「わかってるわよ‼」
『社長。場所はゼニモウケから南東の《ゴリラの森》です。ゴリラの森はコング系モンスターの住処で、中でも最上級種がメタルコングという危険種です』
「了解。タマ、道案内よろしくな」
『畏まりました。現在ユニックフォームなので、武装は使えません。ご注意下さい』
そう言えば、トラックフォームの武装は各フォームでは使えないんだっけ。最近使ってないから忘れてたわ。でも平気か、シャイニーもいるし。
というわけで、いざ《ゴリラの森》へ‼······ってかゴリラって。
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ゴリラの森は、近くの集落からさらに奥へ進んだ先の森だった。最近ゴリラたちの動きが活発化し、街道を行く商人や冒険者たちを襲うようになったとか。
そんな中、危険種であるメタルコングという危険種が森で確認されたのでギルド長であるニナが討伐に出向いたという訳だ。
「危険種は基本的に、B級以上の冒険者じゃないと手を出しちゃいけない決まりがあるからね。たぶん、ニーラマーナ以外に上級冒険者たちがいなかったか、それとも急を要する依頼だったか······まぁどうでもいいけどね」
「ふ〜ん。ところで、そのメタルコングとやらは強いのか?」
「まーね。全身がテカテカのキモいゴリラよ。身体中が硬くてそこそこ厄介だけど、ニーラマーナなら問題ないわ。もちろんアタシもね」
果たして事実なのか、シャイニーが見栄っ張りなのか。
シャイニーの強さを見たことが無いからな。俺からは何とも言えん。危険種ってヴェノムドラゴンみたいなヤツだろ?
「メタルコングの皮は防具の素材としては一級品よ。確かに、捨てるには勿体無いわね」
「へえー」
俺はペットボトルのお茶、シャイニーはミックスジュースとおやつのポッキーをこりこり食べながら進む。すると、昼飯の後だからか、シャイニーが眠そうにしてた。
「あと1時間は掛かるし、寝ていいぞ」
「······ん」
するとシャイニーは、すぅすぅと眠り出した。
普段はやかましいが、黙ってると凄く可愛い。しかし、冒険者をクビになり成り行きで雇ったけど、シャイニーの家族はいないのだろうか。ミレイナもだが、その辺の事をちゃんと聞いてない。
この時はまだ、気にしてなかった。
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《ゴリラの森》に到着すると、ギルドの案内人が待っていた。どうやらメタルコングに縄を結び、途中までは引っ張って来たそうだ。大したもんだ。
案内人の先導でユニック車を走らせると、少し開けた場所に目的のメタルコングがいた。
「待ってたぞ」
そして、傍にはニナがいた。
青い服と鎧を装備し、背中には装飾された槍を持っている。凛々しくてカッコいい。だが、傍らのゴリラが凶悪過ぎて怖い。
俺はシャイニーを起こし、2人でトラックから降りる。ニナとシャイニーは目を合わせたが、特に何も言わなかった。
「コイツがメタルコングだ。運良く一撃で倒せてな、状態も完璧だから是非とも素材が欲しい。だが運ぶ手段が無くて困っていたんだ」
「で、でけぇ······」
大きさはヴェノムドラゴンに勝るとも劣らない。体毛は無く全身がテカテカの銀色に輝いてる。ぶっちゃけキモい。所々が濡れてるのは、氷から解凍したばかりらしい。
「ではさっそく頼むぞ。手伝いは?」
「お願いします。ワイヤーで括るのを手伝って下さい」
「わいやー? うむ、とにかく指示をくれ」
俺はニナが連れて来た冒険者たちに指示をして、メタルコングの身体にワイヤーを巻く。そしてクレーンを操りメタルコングを釣り上げ、荷台に降ろした。
クレーンを見た冒険者たちが「おぉーっ⁉」っと驚いてたのは新鮮な感じだ。後は荷台に固定しておしまい。
「うーむ、不思議な乗り物だ。確かスゲーダロで造られたと言う事だが」
「ええと、企業秘密です」
「······残念だ。是非ともギルドで所有したいところだが······ん」
「······ニーラマーナ、結界は敷いたの?」
「······ああ。だが、これは」
突然、ニナとシャイニーの顔が険しくなる。
俺は意味が分からずお互いの顔をキョロキョロ見てる。するとシャイニーが背中の剣を2本抜き、ニナは冒険者たちに言う。
「敵襲だ‼ 全員武器を構えろ‼」
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「······おかしいわね。リーダー格のメタルコングが討伐されてるのに。コング系のモンスターは群れで動く、群れのリーダーがいない今、ここの森から離れて別の場所で群れを再構築するのが普通なんだけど」
「······実は最近、モンスターたちの動きが活発化してる。それが原因かも知れない」
「なな、なんだなんだ⁉ おいシャイニーっ‼」
「うっさいわね。アンタはトラックの中に隠れてなさい。アタシが守るから」
ガサガサと、何かが藪を掻き分けるような音が聞こえる。
どう考えても友好的な感じはしない。そもそもニナが全員に注意を促してるし。
俺は邪魔になりそうだし、言われた通りユニック車の中へ避難した。
「来るぞっ‼ 全員用心しろ、相手はマッドコングだ‼」
現れたのは、3メートルはありそうなゴリラのバケモノ。
茶色い体毛にギラついた目はとても知性を感じさせない。正直なところ、何でアレに立ち向かえるのか分からない。
「へっ、来いやザコが‼」
「援護は任せて‼」
「魔術の詠唱に入る、フォローを‼」
うわー、皆さん殺る気満々じゃないっすか。剣を持った戦士がゴリラに斬りかかり、女性の放った矢がゴリラの目を穿ち、ローブを着た男の人の杖から氷の塊が飛び出した。
「な、なんだありゃ⁉」
『あれは魔術と呼ばれるこの世界の異能です。冒険者と同じくランク分けがされ、それぞれ初級・中級・上級・特級・法王級・魔神級となっています』
来たよ来たよ来ましたよ、魔術と来ましたよ。
異世界の異能らしく素晴らしいじゃないすか。もしかしたら。
『残念ですが社長には使えません』
「·········そっか」
残念。俺の夢は儚く散った······ん?
「おぉ·········すげぇ」
俺の視線の先にはシャイニーとニナが、『蒼』と『青』が舞っていた。
シャイニーの双剣さばきは凄まじく、ゴリラの手足を軽く切断して動きを止めてる。そこをニナが心臓を突いてトドメを刺す。
ゴリラのパンチなんて絶対に当たらない。それくらい2人の舞は優雅で洗練されていた。
「すげぇ······」
『社長。マッドコングの1体がこちらに近付いています』
「げぇっ⁉」
ま、マジだ。ゴリラの1体がコッチ見てるーーーっ⁉
しかも俺と目が合った。ヤバい、ヤバ過ぎる‼
『ゴルルルルルル······ッ‼』
「うひゃーーーっ⁉ たたたタマ‼ 迎撃迎撃っ‼」
『現在ユニックフォーム。武装はありません。レベルを上げて武装を入手して下さい』
「ンなヒマあるかーーーッ‼ 何とかしてくれーーーッ⁉」
シャイニーたちは気付いてない⁉ どうしよどうしよ⁉
『提案します。社長の腰にあるデザートイーグルでの撃退を推奨します』
「そそ、その手があった‼ よ、よーしっ‼」
すっかり忘れてたけど、俺の腰には護身用の銃があった。
結局一度も使わなかったデザートイーグルだが、今日初めて出番がありそうだ。というか使わないと死ぬ。
「えーとえーと、スライド引いて、安全装置を外して、えーと」
『ゴァァァァァッ‼』
「ぎゃーーーーッ‼」
ほんの数メートル先にはゴリラが。俺は心底恐怖し、少し空いた窓から拳銃を付き出す。後は引き金を引くだけ。
「うおぁーーーーッ‼」
俺はとにかく引金を引いた。反動が凄いけどお構いなし。
全弾打ち尽くし、スライドが完全に後ろに固定された。ホールドオープン状態だ。するとダッシュボードが開き何かが飛び出した。どうやら拳銃の弾丸らしい。
『社長。マガジンの交換を。マッドコングは既に討伐されました』
「そ、そっか······ふぁぁ」
穴だらけのマッドコングは、トラックの傍で絶命していた。
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「ごめんなさい······」
「もういいって、気にしすぎだ」
「でもアタシ、アンタの······社長の護衛なのに」
帰り道。シャイニーは落ち込んでいた。
どうやら俺の傍を離れてモンスターと戦っていた事を気にしてるらしい。そして拳銃の音を聞いて俺の元に来た瞬間、自分の役目を思い出したようだ。
それからはずっと謝ってる。俺としてもこれ以上は勘弁して欲しい。ちなみにニナたちは馬車で後からのんびり来る。
「ま、まぁいい経験になったよ。拳銃がモンスターにも効く事がわかったしな」
「·········」
「·········」
う〜ん、どうしたモンかね。
「よし。じゃあ罰としてポッキー禁止な」
「えぇっ⁉」
「ウソ。ホントにそうされたくなかったら、いつものシャイニーに戻ること。明日も忙しいのに落ち込んだままじゃやりにくいからな」
「······わかったわ」
「よし‼ じゃあギルドの解体場にメタルコングを降ろして、今日の仕事はおしまいだ‼」
「うん」
今日は疲れた······ミレイナとキリエに会いたいぜ。