268・フードフェスタ、また来年
翌朝。気持ちのいい目覚めだった。
昨夜はけっこう飲んだが残っていない。不思議とパッチリ目が覚め、ベッドから降りて身体をほぐすととても軽かった。
「んん〜〜······ふぅ」
背伸びしながら窓際へ、カーテンを開ける。するとフードフェスタ最終日のゼニモウケの町並みと日差しが俺を祝福してくれた······んなわけあるか。
「しろ丸、朝だぞ」
『なう?』
俺は、いつの間にかベッドに潜り込んでいたしろ丸を抱き上げ、頭をフカフカなでる。こいつ、誰と一緒に寝ても必ず俺のところに来るんだよな。可愛いヤツめ。
『なうなーう』
「はいはい、朝ごはんな」
着替えてリビングへ向かうと、もうみんな起きていた。
「おはようございます。コウタさん」
「おはようございます。社長」
「おはよう。ミレイナ、キリエ」
朝食の支度をしていたミレイナとキリエ。緩く纏めた髪に可愛いエプロン、朝から眼福ですね。
「しろ丸、ご飯にしような」
『うなーお』
俺はしろ丸用の深皿にドッグフードを入れる。するとキリエが焼いたばかりの異世界サンマを二尾乗せてくれた。
「さ、召し上がれ」
『うなーう』
しろ丸はガフガフと勢いよく食べ始める。
俺もミレイナからオレンジジュースをもらい、一気に飲む。
「はぁ〜、美味い」
「あー疲れたーっ‼ ミレイナ、キリエ、朝ごはんっ‼」
ったく、シャイニーのヤツ、朝の爽やかさをブチ壊すやかましさでリビングへ来た。
後ろにはコハクとパイもいる。どうやら日課の朝訓練らしい。
「もう少しかかりますから、シャワーを先に」
「はーい、じゃあ」
「じゃ、三人で浴びよっか。ほらほらコハク、シャイニー」
「うん、行こう」
「ちょっと、さすがに三人は狭いって······」
コハクとパイはその気だが、シャイニーが躊躇している。
するとコハクを抱きしめたパイがニヤッとした。
「まぁ確かに〜? じゃあボクとコハクは先にいただこうかなぁ〜? シャイニーもそっちのがいいでしょ?」
パイは、見事なお乳をコハクのお乳に押し付ける。すると意図を察知したシャイニーが青筋を浮かべた笑顔で言った。
「あ゛?」
「ちょ、落ち着けよシャイニー」
慌てて仲裁する俺、するとパイは逃げるようにコハクを連れてシャワールームへ。やれやれ、朝から騒がしい。
これが、アガツマ運送会社の日常だった。
朝食を終え、仕事の時間。
配達の件数も徐々に増え、ようやく仕事が忙しくなり始める。
今回もシャイニー・コハク・パイに配達を任せ、俺は事務仕事をしながらミレイナたちの手伝いをしていた。
ブーさんは倉庫の整理を終えると、隣のファンシー喫茶の営業準備を手伝いに行く。リーンベルさんとサクヤはすでに来て準備をしてるようだ。
俺はデスクの上でコロコロ転がっているしろ丸をなでながら、ミレイナとキリエに聞く。
「明日営業開始だけど、どうなるかね」
「恐らく、かなりお客様が入ると思いますよ。受付中、何度も聞かれましたし」
「確かにそうですね。ミレイナも私もかなり聞かれました」
若い女性や子供連れを中心に、隣の建物のことをかなり聞かれた。まぁ運送会社なのにあんなおしゃれな建物があれば気になるよね。
「それに、今日の夕方でフードフェスタは終了ですし、明日はお休みの飲食店がかなりあると思います。軽食も取り扱ってるお店は忙しくなると思いますよ」
「なるほどね」
ミレイナの言うとおり、この三〇日間休まず営業してたんだ。従業員が多い店ならともかく、個人経営の飲食店は休まないと倒れちまう。
すると、オフィスのドアが開いた。
「ちーっす、来たぜおっさん」
勇者パーティーか。なんか荷物いっぱい抱えて来た。
あ、そうか。キャンピングカーを取りに来たのか。
「いらっしゃい、オフィスじゃあれだし、応接室に来いよ」
「おう、さんきゅーな」
やれやれ、タメ口だけどもう気にならないな。なんだかんだで世話になったし、同じ日本人としてこれからも付き合いがあるだろう。
太陽たちを応接室に案内し、俺はタマに頼んでキャンピングカーをオフィス前に出してもらった。
俺も応接室へ向かう。
「しろ丸〜〜〜っ‼ あぁん、連れて行きたいよぉ」
『なうなうー』
「クリスちゃん、わたくしにも貸してくださらない?」
「も、もうちょっと」
クリスと煌星がしろ丸を抱きしめ、ウィンクは黙祷し、月詠と太陽は荷物を漁っていた。
俺もソファに座り、太陽たちに向かい合う。
「あのさ、オレら明日の朝には出発する。だからキャンピングカーを受け取りたいんだけど」
「だろうな。もう外に出してあるから、荷物を積み込むんだろ?」
「そうです。新しいお店を見れないのは残念ですけど······さすがに長い休暇でしたので」
「はは、でもだいぶ息抜きできただろ?」
「ええ······楽しかったです」
太陽も月詠も晴々とした笑顔だ。すると、応接室のドアがノックされた。
「来客中失礼します。コウタ社長、見ていただきたいものが」
「ん、ああ、なんでしょうか?」
「はい。ファンシー喫茶『龍のブーさん』専用の衣装が完成しましたので、是非お披露目を」
「「ぶ、ブーさん?」」
あ、太陽と月詠がカブった。店名に驚いてるようだ。
「さ、前に」
「い、いやこれは······その、女中の服装は我が国伝統の『ワ服』を用意したのだが」
「駄目です。ここはファンシー喫茶なので、それに見合った服を着なければなりません」
「う、むむ······」
「ほら、社長と勇者様にお披露目を」
「ひゃあっ⁉」
リーンベルさんの背後で黒いポニーテールがゆらゆら揺れてる。そしてリーンベルさんはスルリと背後のサクヤと入れ替わる。
「おぉ······」
「わぉ、スゲぇじゃん」
俺と太陽は驚いた。
サクヤは、フリルをあしらった可愛らしいメイド服を着ていた。しかもスカートはミニ。
「あぅぅ、こんな破廉恥な······」
「よく似合ってますよ、サクヤ」
「うぅ〜」
うーん、サクヤの顔が茹でダコみたいだ。普段のギャップと合わさり、なんとも言えない可愛らしさを感じる。
このタイミングでお披露目したのは、勇者パーティーが来てるからか。
「わぁ〜、可愛いじゃない」
「はい。この世界のメイド服でしょうか?」
「もしかしておにーさんの趣味〜?」
「ほぅ、このような服もあるのですね」
勇者パーティー、大絶賛。
サクヤの顔がますます赤くなり、もじもじとスカートの裾を押さえ涙目になっている。
「か、可愛い······おいおっさん、また美少女従業員を増やしたのかよ⁉ えーと、ミレイナさん、シャイニーさん、キリエさん、コハクさん、パイラオフ、ニーラマーナさん、リーンベルさん、アレクシエル博士、そしてこの子······総勢九人かよ⁉ オレよりハーレム築いてんじゃねぇか‼」
「違う。偶然だっつーの」
というか、ブーさんを忘れてるぞ。
何度も言うが、俺はハーレムなんて目指してないからな。
「し······失礼する‼」
あ、サクヤが逃げ出した。
その後、太陽たちは荷物をキャンピングカーに入れた。
そして、別れの時が来た。太陽たちはオフィスの前に並び、俺とミレイナとキリエで見送る。
「あれ、そう言えばカイムは?」
「ああ、あいつゼニモウケをずっと飛び回ってたぜ。メシのときたまーに来たけど、あとはずっと情報収集するとか言ってたわ」
ちなみに、餞別として缶ビールを一ダースほど太陽にあげた。
カイムも気に入ってたし、なくなったらまたやろう。
「ま、出発は明日だし戻って来るだろ」
『呼びました?』
すると、どこからともなくカイムの声が聞こえた。
俺たちは周囲を見回すが、カイムの姿は見当たらない。
『ここや、ここ』
「へ?······うおっ⁉」
なんと、太陽の『影』からカイムが現れた。
トプン、と······水の中から出てくるように。さすがに全員が仰天していた。
「おま、そんな能力があったのか?」
『ふふん。ワイはありとあらゆる影の中に潜むことが出来るんや。つまり夜はワイの時間、情報収集なら魔王より上やで』
つまり、『逃げ』なら誰にも負けないってことか。
するとカイムは、太陽の肩に飛び乗り俺に言う。
『兄さん、兄さんにはえらい世話になりました。兄さんに限り一回だけ無料で仕事させてもらいまっせ。というわけでこれを』
「お、おお。これは······お前の羽?」
カイムは自分の翼から、黒い羽を一枚毟り俺に差し出す。手に取ると三〇センチくらいの大きさに伸びた。
『これを持っていれば、どんなに離れた場所でも兄さんの影の中に入れます。何かあったら羽に魔力を込めてワイを呼んでください。力になりまっせ』
「へぇ······ありがとな。ビールいっぱいサービスしたから、なくなったらいつでも来いよ」
『へへ、感謝します』
俺はカイムの頭をウリウリと人差し指でなでる。うーん、これはこれで可愛いね。
「じゃ、おっさん、またな‼」
「コウタさん、みなさん、お世話になりました。キャンピングカー、大事に使わせていただきます」
「おじ様、みなさん、お元気で。またお会いしましょう」
「おにーさん、ミレイナさん、キリエねぇバイバーイっ、しろ丸も元気でねーっ‼」
「みなさん、お元気で」
運転席に煌星が乗り込み、助手席に太陽が座り、残りのメンバーは居住スペースへ乗り込んでキャンピングカーは走り出す。
明日の朝イチでオレサンジョウ王国に帰還し、勇者としての仕事をするらしい。
「ふぅ、なんか寂しくなるな」
「はい。でも」
「ええ、また会えます」
キャンピングカーが見えなくなるまで、俺たちは見送った。




