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異世界の配達屋さん~世界最強のトラック野郎~  作者: さとう
『第3章・トラック野郎と初めての依頼』
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27・トラック野郎、大忙し


 「これをスミッコ村の両親に届けて欲しいんだけど」

 「あの、ゼニモウケ・マネー地区三番街にいる彼女に、この手紙を届けてくれないか?」

 「私が作った料理なんですけど、今日中にウヘヘ地区の両親に届けてほしいの」


 俺たちがゼニモウケに帰ってきて4日。アガツマ運送は大忙しだった。最初は数件の依頼だったが、日に日に依頼の数は増えている。


 「では、こちらの用紙にご記入下さい。自身のお名前、相手のお名前、住んでる地区を」

 「それではお預かり致します。料金1800コインです」


 ミレイナとキリエも忙しい。記入した用紙は複写になっており、剥がした用紙を荷物に貼り付ける。そして俺とシャイニーは荷物をトラックに積み込んでいく。


 「コウタ、運送屋ってこんなに忙しいの⁉」

 「まぁな‼」


 受付はいっぱいで、待合スペースも人で賑わってる。年齢層も様々で、若い人から老人まで幅広い。

 荷物も、キチンと梱包された包みから、紙袋だけの包み、やたらいい香りのする袋や、大きな木箱など統一性がない。それぞれの荷物に複写の記入用紙を貼り付けて積み込んでいく。


 複写の用紙アイデアはタマのアイデアだ。

 このゼニモウケには23の地区に分かれ、さらに地区ごとにいくつかの番地に分かれてる。例えばゼニモウケ・マネー地区三番街とかね。

 この世界には名字がない。あるのは名前だけで、名字は貴族やお偉いさんくらいしか名乗れない。キリエのエレイソンという名字は、大聖堂の孤児たちみんなが名乗る通称みたいなものらしい。 

 それからしばらく、受付と積み込みを繰り返した。そしてお客様が落ち着き、搬入した荷物のチェックをキリエとする。


 「社長、午前の荷物はこれでおしまいです。残りは明日以降、午後の配達用の荷物分けはこちらでしておきます」

 「わかった。ミレイナは?」

 「ミレイナはコインのチェックと書類の整理を。それとお昼の支度ですね」

 「よし。じゃあ行くかシャイニー」

 「おっけー」

 

 シャイニーは作業着に剣を背負うスタイルだ。はっきり言って似合わないが、荷物の護衛という肩書きがあるのでこのスタイルは崩さない。

 午前の配達が終わると、俺とシャイニーはお昼を食べて次は近くの村や集落に配達をする。馬車では1日掛かる距離だが、トラックなら1時間ほどで到着する距離の集落が殆どだ。なので午後いっぱい使い、配達を行う。

 俺とシャイニーはガレージを開けてトラックに乗り込む。


 「さーて、今日も頼むぞ、タマ」

 『畏まりました。社長』


 俺はキリエから貰った記入用紙の複写を、ダッシュボードに入れる。


 『閲覧中············閲覧完了。ゼニモウケ内配達地区のインプット完了。最適ルートを表示します』


 そう。これこそ記入用紙の真骨頂。受付をして複写の記入用紙を書いてもらい、一枚は荷物に貼り付け、もう一枚は会社に保管。もう一枚はお客様の保管用、最後の一枚はタマのインプット用だ。この複写用紙はゼニモウケ内で安く手に入るし、タマのアイデアのおかげで仕事が捗る。

 3日前の夜にタマから提案され、夜だったが開いてる店で購入して使い始めた。はっきり言ってこれがないとやばかったね。


 「さっすがタマ、いい仕事してるわね〜」

 『恐縮です。シャイニーブルー様』

 

 フロントガラスにはゼニモウケ内のマップが表示され、細かいルートも記載されてる。配達場所には赤い点が点滅してるので、その通りに進めばいい。


 「よーし、行くぞ‼」

 「おっけーっ‼」

 『業務開始します』



 運送会社は、軌道に乗り始めた。


 

 ********************

 


 「アガツマ運送でーすっ、お荷物お届けにあがりましたーっ‼」


 荷物の受け渡しはシャイニーが担当してる。

 大きくて重たい荷物も難なく運ぶ辺り、やはり冒険者として鍛えられている。しかも人懐っこそうな笑顔で受け渡しするからこの仕事に向いてると思う。

 

 「さーて、お次はどこかしら?」

 「次はモーケモーケ地区だな。ほれ」

 「あ、サンキュー」


 俺はポイントで買った甘めのカフェオレを渡す。するとシャイニーはプルタブを開けてゴクゴク飲み始めた。缶のプルタブにもずいぶんと慣れたもんだ。


 「なんかさ、こういうのも楽しいかも」

 「ん? 何だよいきなり」

 「冒険者だった頃はさ、モンスターを倒して危険な依頼をこなしてお金を稼いでさ、それが当たり前で何とも感じなかったけど······こうやって、なんの争いや諍いのない仕事も、悪くないなぁって」

 「そうか。冒険者時代は楽しかったのか?」

 「······まぁね。強いモンスターと戦えるのは楽しかったし、倒した時の喜びもあったわ。でもさ、それは個人の喜びで、誰かと共有出来るような喜びじゃなかった。だから、こうやって誰かと共に触れ合える喜びは、なんか新鮮かも」

 「へっ、そんなの、これからいくらでもあるぞ」

 「ふふ、そうね。これからどんどん忙しくなりそうだしね」

  

 モーケモーケ地区に到着し、ナビの案内を頼りに進む。

 この地区が終われば午前中は終わり。会社に戻ってお昼を食べて、その後は外の集落周りの運送だ。


 「今日のお昼はなにかしら〜♪」

 「昨日は海鮮チャーハンだったから、今日は肉だな。たぶん」

 「よーし、さっさと終わらせてお昼にしましょ‼」



 シャイニーは気合を入れ直して宣言した。



 ********************

 


 午前中の配達が終わり、俺とシャイニーは会社へ帰還。待合スペースのお客様も捌けたのか、ロビーには誰もいなかった。


 「ただいま」

 「ただいま〜、あ〜お腹減った〜」

 「おかえりなさい。もうすぐお昼ご飯が出来ますから」

 「くんくん······やっぱりお肉っ‼」

  

 シャイニーはミレイナの傍に向かい、俺はガレージ脇の倉庫へ。そこにはキリエがバインダー片手にチェックをしていた。


 「お疲れ様です社長。午後の荷物は準備してありますので」

 「ああサンキュ」

   

 キリエは、明日以降の荷物の仕分けをしていたようだ。さすがだな。


 「それと、午後は冒険者ギルドの依頼を」 

 「ああ、危険種だっけ。たしか氷漬けにされてるんだよな」

 「はい。危険種モンスターの『メタルコング』ですね。全身が鋼の甲殻に包まれた厄介なモンスターです」

 「そいつを運べばいいのか。楽勝だな」

 「コウタさーん、キリエー、ご飯ですよーっ」


 ミレイナの呼ぶ声が聞こえてきた。

 腹もペコペコだし、ここはお昼と行きますかね。

 俺はキリエと一緒に社員用の休憩室へ。そこにはミレイナ特製の焼き鳥丼が鎮座していた。こりゃたまらんぜ。


 「運転、お疲れ様です。スタミナの付くゲイルバードの焼き鳥丼にしてみました」

 「おぉぉ〜、さすがミレイナ。美味そうだ」

 「うぅ〜ん、いい香り〜。タレも手作り?」

 「はい。少し濃いかも知れませんけど、その代わりご飯は進みますよ」

 「さすがですねミレイナ。私も調理は出来ますが、ここまでの物は作れません」

 

 俺たちは席に付き、早速食べる。

 焼き鳥はハラハラほぐれるような食感で、油の少ない鶏肉なのにジュワッと濃厚な油が出てくる。その油がタレと合わさり、ご飯と絶妙にマッチした。


 「美味い‼」

 

 みんな同じ感想みたいだ。

 さすがに声には出さなかった。ちょっとハズい。


 「それにしても、凄く繁盛しましたね」

 「確かに。運送屋って他には居ないのかね?」

 「基本的に、運送は商人が行いますけどね。完全に商人の都合で動くので、一般の人が運搬を頼むといつ届くか分かりません。ですので、時間指定まで出来る運送屋というのは珍しくもありがたい存在なのでしょうね」

 「たしかにね。生モノは厳しいけど、野菜とかお菓子は運べるしね。集落や村の子供たちにお菓子をあげたら喜んでたわ」

 「生モノ、か······」

 「コウタさん?」


 もしトラックのフォームチェンジに冷凍車があったら、生モノも運搬出来るようになるだろうな。次のレベルアップまであと10レベル上げれば次のフォームが選択出来る。その時に冷凍車フォームがあることを祈ろう。


 「それよりコウタ、午後は冒険者ギルドの依頼よね。まさか、ニーラマーナも出てくるの?」

 「多分な。今は現地で待ってるはずだ。飯食って休んだら出発するぞ」

 「うぇぇ〜······」

 「おいおい仕事だぞ。お前はアガツマ運送の社員だ、冒険者のシャイニーブルーじゃないから安心しろって」

 「······わかってるわよ」


 シャイニーはそっぽを向くが、たぶん平気だろう。

 最近のシャイニーは楽しそうだし、冒険者に未練があるようには見えない。自分をクビにしたニナと会っても問題ない·········多分。

 

 

 さーて、午後もお仕事頑張ろう‼


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お読みいただき有難うございます!
最弱召喚士の学園生活~失って、初めて強くなりました~
新作です!
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