266・太陽のハーレム
聞きたいことが山ほどある。
ミレイナはサクヤの正体を知らないのか首を傾げ、とりあえずお茶をと言ってお湯を沸かしに出ていった。
俺はサクヤに質問する。
「あの、なんでバイトを?」
「心配無用、こう見えても接客は得意じゃ。実家は甘味処を経営しておってな、女中の経験はある」
いやそうじゃなくて。
すると、リーンベルさんが補足説明してくれた。
「冒険者ギルドでアルバイトを依頼したところ、コノハナサクヤ様が是非にと言うので採用しました。お給料につきましては」
「あー、給料はこっちで持つから心配しないで下さい」
たぶん、リーンベルさんのことだから自分の給料からとか言いそうだ。営業はお任せでも経営者は俺だからな、お金で心配はかけたくない。
何かを言おうとするリーンベルさんを遮り、俺はサクヤに質問した。
「ところで、『七色の冒険者』とあろう者が、バイトなんかしていいのかよ?」
「うむ。『七色の冒険者』であろうと冒険者に変わりない。それに同じ『色持ち』としての頼みであり依頼じゃ、無下にはできん」
つまり、リーンベルさんが『紫』ってのは知ってんのね。
うーん、ホントにそれだけなのかな。
「こ、こほん。り、リーンベル殿。その、女中とあろう者が店の商品を知らぬというのは恥ずべきこと。ど、どのような甘味があるのか教えてくれぬかの? も、もちろん代金は支払う」
一気に挙動不審な動きになるサクヤ。もう俺にもわかった。
リーンベルさんは温かい視線で頷く······ははーん、リーンベルさん、サクヤが甘党だって知ってるんだな?
「営業は明後日からですが、ブーさんが試作の商品をいくつか作っています。それと、接客用の衣装もありますので合わせましょう。微調整が必要となりますのでね」
「む、衣装か。あいわかった。それが終わったら······」
「ええ、美味しい紅茶とスイーツをご馳走······いえ、試食していただきますね」
「うむ、かたじけない‼」
サクヤは上機嫌で頭を下げ、リーンベルさんとオフィスから出ていった。
うーん、これからどうなるんだろうな。
*****《勇者タイヨウ視点》*****
フードバトルの結果発表も終わり、イベントは終了した。
一位は『デーリシャスバニラ』というソフトクリームだった。テイクアウトが売りのソフトクリームで、確かにいろんな人がソフトクリームを食べながら歩いていたのを覚えてる。まさか異世界でソフトクリームを見れるとは思わなかった。
ヴァージニアはイベント終了と同時に、厳重な護衛と共に宿へ帰った。ゼニモウケでの予定は全て終わったし、あとは帰るだけだろうな。
オレたちも、そろそろオレサンジョウ王国へ帰らなくちゃいけない。たぶん、勇者にしか解決できないモンスターの討伐依頼とかが他国から入ってるはず。それにエカテリーナにも土産話をしてやりたい。
もう、ヴァージニアには会えないかもな。
現在、オレたちは宿でミーティングをしていた。
「はぁ〜、楽しかったねぇタイヨウ」
「おう、サイコーに盛り上がったな」
クリスがオレの腕にじゃれつきながら言う。このこの、可愛いヤツめ。
「いい息抜きになったわ。みんな、明日は最終日だけど、羽目を外さないで。明日の予定はオレサンジョウ王国へ帰還するための買い出しと、コウタさんたちへ挨拶、そしてキャンピングカーを受け取りに行くわよ」
「「「はい、先生」」」
「誰が先生よっ‼」
オレ、煌星、クリスがシンクロした瞬間だった。ウィンクは苦笑を浮かべている。
すると、部屋のドアが静かにノックされた。
「はーい」
煌星がやんわりした声で返事をし、ドアを開ける。
「邪魔をする。勇者タイヨウはいるか?」
「あ、確か······ヴァージニアの護衛さん?」
確かメイとか言ったな、怪我したって聞いたけど。とりあえずオレが対応する。
するとメイさんはいきなりオレに頭を下げた。
「遅くなってすまないが礼を言わせてくれ。ヴァージニアを守ってくれて感謝する」
「あ、いや······その、頭を上げて下さい。別にそんな」
「そしてこれまでの無礼を許してくれ。勇者タイヨウ殿」
「えと、その、はい」
うーん、なんかやりにくい。普通にしてくれ普通に。
とりあえず頭を上げてもらい、用件を聞く。
「我々は明日、ゼニモウケを発つ。その前にどうしてもヴァージニアが礼を言いたいらしい。突然で申し訳ないが、これから時間をもらえないだろうか」
オレは思わずみんなの方を振り向く。するとみんな頷いてくれた。
「行きます、時間ならありますから、ヴァージニアに会わせて下さい‼」
きっとこれが最後のチャンス。オレの気持ちをぶつけよう。
メイさんと一緒にヴァージニアが泊まってる宿へ来た。
「ここからは一人で行け。部屋は最上階だ」
「あ、はい」
許可が出たので宿の中へ入ろうとしたら、メイさんがいきなりオレの肩を掴んで振り向かせ、自分の顔を超接近させてきた……ちょ、近い近い、いい匂い!!
「…………感謝はしている。だが不埒なマネをすれば」
「ししし、しませんですっ!!」
くっそ怖い。オレがヴァージニアを襲うとでも思ってんのか。
メイさんはオレから手を離す。
怖いので、オレは駆け足で宿の中へ。そして最上階の特別室のドアをノックした。
「……ヴァージニア?」
「あ、来てくれたんだタイヨウッ!!」
「お……おう」
ノックと同時にドアが開き、ヴァージニアが出迎えてくれた。
ってか……ヴァージニア、風呂上がりなのか。寝間着姿だし、身体のラインが丸わかり。やっべぇ……こうして見るとめっちゃいい身体してる。同い年なのに月詠以上で煌星と同レベルってトコか。
「入って入って、お茶煎れるね」
「お、おお、失礼します」
部屋の中へ入りソファへ。そしてヴァージニアが煎れた紅茶を飲む。
美味い……ってか緊張して味がよくわからん。
「あのね、今日呼んだのは、改めてちゃんとお礼が言いたかったの」
「お礼?」
「うん。助けてくれたお礼」
ああ、あのトリケラ野郎のことか。
確かに助けたけれど、忘れて欲しいことでもある。だってヴァージニアの前でポロリしちゃったし……うぅ、やっぱ恥ずかしい。女の子に見られたことが恥ずかしい!!
「私、明日には『自然王国ネイチュラル』に帰っちゃうから……だから、ちゃんとお礼が言いたくて」
「ははは、そんなの気にすんなよ。その……助けられたのはオレもだし、おっさんやアレクシエル博士が来なかったらもっとやばかったし」
「それでも、タイヨウにお礼が言いたかったの……」
「っ!!」
ヴァージニアは立ち上がり、オレの隣に座る。
女の子の甘い匂い、風呂上がりの香りがオレの理性を壊していく。
「タイヨウ、私……」
「ヴァー、ジニア……」
心臓が高鳴る。ヴァージニアから目が離せない。
顔が近付いていく……唇が、ほんの数センチ先に……ああ。
「ん……」
重なった。
柔らかく、そしてほんの僅かに濡れている。ソフト&ウェット。
オレの手はヴァージニアの胸を触ろうと伸びる……。
『太陽』『太陽くん』『タイヨーッ』『タイヨウ殿』『タイヨウ』
そして、月詠、煌星、クリス、ウィンク、エカテリーナの顔が浮かび、びくっと弾けた。
ダメだ、みんなを裏切れない。オレの初めてはここじゃない。
「……タイヨウ?」
「悪いヴァージニア、オレってビビりのヘタレ野郎だ」
オレはヴァージニアから離れ、彼女の両肩に手を添える。
「ヴァージニア、オレは……キミが好きだ。このゼニモウケを一緒に回って、キミに心底惚れた。くるくる回る表情に、子供っぽくケーキを頬張る可愛いところ、全部好きだ」
「あ……」
「ヴァージニア、オレは……キミが好きだ。でも、他にも好きで、将来を誓い合った少女たちがいる。それでもキミが大好きだ!!」
我ながらとんでもない告白だ。でも、好きな気持ちに嘘はないし、これがオレの正直な気持ちだ。
「ヴァージニア、オレの妻として、将来を共に歩んでくれ」
言った。オレの気持ちを全てぶつけた。
どんな結果になろうと悔いはない。失望されて部屋からたたき出されても、護衛の傭兵を呼ばれても、オレは全てを受け入れる。
するとヴァージニアは、クスリと微笑んだ。
「ふふ、タイヨウってすごい欲張りなんだね」
「当然だろ、なんてったってオレは勇者だからな」
「そうだね……」
ヴァージニアは、もう一度オレにキスをした。
そして。
「私も、タイヨウが好きです。私を……お嫁さんにして下さい」
「……はい!!」
「ふふ、待ってるから、全部終わったら迎えに来てね?」
「ああ、必ず迎えに行く」
オレはヴァージニアを抱きしめる。ヴァージニアも、それに答えてくれる。
このぬくもりを胸に刻もう。ヴァージニアは故郷に帰る、でもいつか必ず迎えにいく。
こうして、オレのフードフェスタは終わった。
ヴァージニアと出会い、一緒に町を周り、一緒に戦った。
そしてヴァージニアは、オレの告白を受けてくれた。
オレの嫁として、ハーレムの一員になった。
へへへ、オレのハーレム……順調だぜ!!




