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異世界の配達屋さん~世界最強のトラック野郎~  作者: さとう
『第18章・トラック野郎とフードフェスタ』

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264・龍のブーさん

 翌日。朝食を終えて朝のティータイムを楽しんでいた。

 俺はダイニングチェアに座り、新聞を広げながらコーヒーを飲む。異世界文字もだいぶ慣れた。というか生き返ったときに翻訳機能を搭載してくれたなら、文字の変換機能も付けてくれたら良かったのにと思わなくもない。

 ミレイナとキリエは食器を洗い、シャイニーはソファでだらけ、コハクとパイはしろ丸をイジり、ブーさんは部屋に戻った。

 もうすぐ仕事の時間だが、このリラックスタイムは至福の時間だ。

「······あ、昨日の事件が載ってる」

 新聞には、純銀のトリケラトプスが暴れたことが記されていた。丁寧なイラスト付きで掲載されている。

 記事には、勇者タイヨウが人身売買組織の幹部を倒したと書いてある。それより気になった記事があった。

「······なになに、『人身売買組織の幹部リノリング、ゼニモウケ郊外の雑木林で発見される。全身に殴打の痕跡があり重症の模様。近くには粉々に砕かれた勇者の武具が発見された』か。う〜ん······全身に殴打の痕跡って、太陽のヤツそんなに殴ったのかな?」

 ま、いいか。

 コーヒーを飲み干し、新聞を折り畳む。

 そういえば、明日でフードフェスタは最終日だ。せっかくだし、今日の夜は高級店で食事でもしてみるかな。みんなに提案してみよう。

 さーて、今日も一日頑張ろう。




*****《勇者タイヨウ視点》*****



 

 ヴァージニアを送り届けた夜、宿に戻ると誰も居なかった。どうやら気を利かせたのか女子だけで夕飯を食べに行き、帰ってきたのは深夜だったようだ。なので月詠たちと顔を合わせたのが早朝。しかもオレの大活躍をみんなに話したら何故か怒られた。

「まったくあんたは……武具もないのに一人で戦うなんてバカでしょ!?」

「い、いや、ヴァージニアもいたぞ?」

「太陽くん、なぜわたくしたちを呼ばなかったのですか?」

「え、ええと……時間がなかったというか」

「タイヨウのバカー」

「ご、ごめんクリス」

「確かに、戦場となったのはチューオー区。その気になればアガツマ運送会社まで敵を誘導して一緒に戦うのは不可能でない……ですね」

「う……」

 こんな感じで、ネチネチ責められた。

 うう、褒められるかと思ったのに……でも仕方ないじゃん。

「そういえば、新アイテムはどうなったの?」

「あ、そーだ!! 聞いてくれよ!!」

 オレは武具が進化したことを説明し、トリケラ野郎をぶっ飛ばしたことを話す。

「アレクシエル博士は不満だったみてーだけど、オレは大満足だぜ。アイテムはぶっ壊れちまったけど、まだまだ改良の余地があるってさ」

「へぇ、期待できるわね……」

「確か、【端末型勝利確定神器ヴィクトリー・ソウルギア】でしたっけ。きっとすごいアイテムなのでしょうね」

「ねぇねぇウィンク、私たちも使えるかな?」

「恐らく可能でしょう。完成はまだまだみたいですが」

 ほっ、なんとか話題を逸らせた。

 そういえば、【端末型勝利確定神器ヴィクトリー・ソウルギア】はぶっ壊れちまったんだよな。アレクシエル博士は壊れたパーツを拾ってゴミ箱に捨ててたけど。

 っと、それより今日は大事な用事があるんだ。

「みんな、今日は」

「わかってる、ヴァージニアのイベントの日でしょ?」

「ふふふ、太陽くん、楽しみにしてましたもんね」

 バレてたか。まぁいいや、ゼニモウケ・フードフェスタで一番大きなイベントだし、オレたちの休暇ももう間もなく終わる。今日はいっぱい遊んでおこう。

「よし、じゃあ朝メシは外で食って、いっぱい遊ぼうぜ」

「おー!!」

「お、おー」

 クリスのマネをするウィンクが、なんか可愛かった。




*****《コウタ視点》*****




 最終日が明日だからか、ゼニモウケに滞在してる冒険者や旅行者は、思い切り楽しんでるような雰囲気だ。それでも初日から比べるとかなり人が少なくなった気がする。

 配達の方もさっぱりだ。当日の配送が数件に明日以降の配送がそこそこだ。集落への配送も数件だけある。どうやら忘れ物やお土産などの配送らしい。

 受付をミレイナとキリエに任せ、配達をシャイニーとコハクに任せる。パイはコハクとペアで、まだ数回しか行ったことがない集落への配送を任せた。

 ブーさんは倉庫の整理を手早く終わらせ、新しく建設中であるファンシーショップへ。ってかブーさんとリーンベルさんに任せてたから、内装やらはさっぱりだ。

 ミレイナに一言告げ、俺は外へ。

「……建物は普通なんだよな」

 横長の建物は、周りを囲む柵より高くて高床式住居みたいになっている。階段を上ると入口があり、壁にはオシャレな丸窓が並んでいる。柵の向こう側……つまり、道路側は中が見えるガラス張りだ。

 作業員が棚や備品を運び入れてるのを見ると、どうやら建築自体は終わってるようだ。そういえばフードフェスタ期間中には出来るって言ってたっけ。

「どれどれ……おお」

 丸窓から中を覗くと、作業員にあれこれ指示をしてるブーさんとリーンベルさんがいた。二人ともメッチャ張り切ってるように見えるのは気のせいじゃない。

「……む?」

「あ」

 ブーさんと目が合った。するとブーさんはズンズンと大股で店の入口ドアを開けた。

「ちょうどいい。社長、中へ入ってくれ、いろいろ説明したい」

「は、はい」

 うーん、ブーさんの笑顔。

 俺は言われるがまま室内へ。するとリーンベルさんがニッコリと笑って会釈してきた……うーん、やっぱこんな美人秘書っぽい人が『七色の冒険者(アルコバレーノ)』だなんてなぁ。

「さて、まずはこれを」

「は、はい」

 ブーさんは、俺に一枚の羊皮紙を見せる。どうやらこの店の図面らしい。

「まず、入口には会計を設置する。店内で買い物を終えた客がスムーズに帰れるようにな。そして店内はいくつかの専用スペースを設置する。大きく分けて『ぬいぐるみ』、『アクセサリー』、『洋服』、『小物』だ」

「なるほど……あれ?」

 確かに、図面ではいくつかのスペースに分かれているのがわかるが、それでも建物の三分の二くらいのスペースしか使っていない。一番奥はガラス張りの広いスペースだ。

「あの、一番奥のスペースは?」

「ふふふ、そこはカフェスペースだ」

「え」

 か、カフェって……喫茶店? どゆこと?

 首を傾げてると、ブーさんは説明してくれた。

「一番奥のスペースではカフェを経営する。提供するのはリーンベル嬢の手がけた特製紅茶や各種コーヒー、ソフトドリンク、そしてオレの作った各種スイーツだ」

「………え、ええと」

 どこからツッコめばいいんだ? リーンベルさんが紅茶好きなのはわかる。そういえばブーさん、甘党らしいけど………あ、よく見ると図面にキッチンスペースがある。ちゃんと冷蔵庫や水もあるし、魔導レンジなんかもある。

「全て予算内で収めた。何か足りない物やアイデアはあるだろうか?」

「えー……うーん」

 というか、ちょっと思った。

「あの、さすがにリーンベルさん一人じゃキツいんじゃ……」

「はい。なのでアルバイトはすでに手配しております、ご安心下さい」

「え」

 マジかよ。いつの間に……やっぱこの人メッチャ優秀だわ。

 驚く俺をよそに、ブーさんが言う。

「社長、今日の昼にオレの作った各種スイーツを社員で試食して欲しいのだが……」

「お、いいですね。メッチャ興味あります」

「では、アレクシエル博士も呼びましょう。僭越ながら私も紅茶を振る舞わせて頂きます」

 うーん、今日の昼は甘いモノで満たされそうだ。夜はしょっぱい焼き肉なんていいかもな。




 お昼は、ブーさん特製スイーツだった。

 俺、ミレイナ、シャイニー、キリエ、コハク、パイ、アレクシエル、リーンベルさんが注目する中、ブーさんがワゴンでスイーツを運んできた。

 だが、デザインがとんでもなかった。

 しろ丸を模したショートケーキにパフェ、カイムを模したチョコレートケーキ、フレーズヴェルグを模した飴細工やサーペンソティアを模したパフェ、オセロトルを模したパンケーキ、そして見たことがないサメみたいなカットフルーツが入ったクリームソーダ、たぶんこれが『咬鮫シャークラー』なんだろうな。

「どうだ、名付けて『六王獣スィーツ』だ。人間界に放たれた六匹の災害級危険種がスイーツになって登場だ」

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 俺たちは、ブーさんのセンスに何も言えなかった。

 でも、スイーツに罪は無い。俺はしろ丸ショートケーキの皿を掴み、みんなに確認を取って食べる。

 小皿に収まるサイズのしろ丸がケーキになって登場。こうして見るとメッチャ可愛い、なんかスプーンを入れるのに罪悪感がある。

「い、いただきます…………あむ」

 しろ丸の頭部分をスプーンで掬う。ふわっふわのスポンジと真っ白な生クリーム、そして生地の間に挟まれた小さなカットフルーツ……う、美味い。

「……ウメぇ、メッチャウメぇ」

 俺は目を閉じ、全神経を舌に集中させて呟いた。

 これほどまでに美味いスイーツを食ったことがない。

「ほ、ホントですか? じゃあ私も」

「あ、アタシもっ!!」

「では、私はこのカイムのチョコレートケーキを」

「わたし、オセロトルパンケーキ」

「じゃあボクはしろ丸パフェ食べるー」

「ね、ねぇリーンベル、このソーダって中のフルーツを食べるの?

「このスプーンで食べながら飲むんです。アレクシエル博士」

 どうやらかなり好評のようだ。デザインはともかく味は最高だ。

 あと、ここに定番のサンドイッチやナポリタンなんかも加え、ファンシーショップ兼喫茶店として営業する。

 美味しいスイーツに舌鼓を打っていると、満足したブーさんが俺に言う。

「社長、スイーツはこれでいいか?」

「ええ、最高に美味いっすよ。こりゃ間違いなく流行りますって」

「そうか。では最後に、店の名前を社長に決めて貰おう」

「………え?」

 店の名前。そうだ、名前がないとダメじゃん……って、俺が決めるのか!?

「ちょ、いや」

「社長、元は社長のアイデアで始まった計画だ。やはり店の名前は社長に決めて貰いたい」

「確かにそうですね……お願いします、コウタ社長」

 ブーさんもリーンベルさんも俺に頭を下げる。

 いやいや、急に言われても………うーん、店の名前ねぇ。

「ええと、じゃあ……『龍のブーさん』で」

 『くまのプーさん』みたいな感じで。ははは、なーんちゃって。

「ほほぅ、素晴らしい名だ!!」

「はい、いいと思います」

「え」

 ブーさんとリーンベルさんが大いに感動していた。

 ミレイナたちを見ると、なんとも言えない顔をしている。

「リーンベル、相変わらず変なセンスね……」

「おじさんも」

 アレクシエルとコハクも呆れてる。どうやらこの二人は似たもの同士らしい。

 というわけで、ファンシー喫茶『龍のブーさん』が誕生した。

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お読みいただき有難うございます!
最弱召喚士の学園生活~失って、初めて強くなりました~
新作です!
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