262・キス・オブ・ザ・サン
*****《ニナ視点》*****
ニナとサルトゥース、メイの三人は病院へ運ばれ治療を受けた。負傷こそしてるが大した傷ではない。
メイは、両手両足を拘束されてベッドの上に寝かされていた。
「くそ、外せ、これを外せ‼」
病院に運ばれて意識を取り戻したメイは、暴れに暴れた。
リノリングの狙いがヴァージニアであることを知っているので、自身が敗北した今、ヴァージニアの様子が何よりも気がかりだったのだ。だからこそサルトゥースはメイを拘束し、ニナと二人でメイを監視しつつ療養していた。
サルトゥースは、自分で切ったリンゴを齧りながら言う。
「落ち着きなよメイちゃん。そんな身体で動いてもまたやられるよ? それにヴァージニア様の護衛には勇者様が付いてるんだ」
「うるさい‼」
理屈ではわかっているが、感情がそれを許さない。
メイはヴァージニアが心配だった。すると、病室の窓に一羽の鳥が停まる。ニナは、そこそこ付き合いの長いサルトゥースのことを知らなかった。
「サルトゥース、お前まさか『魔獣使い』なのか?」
「ん、まーね。というか昔から森の動物はボクの友達だから、お願いしたらみーんな力を貸してくれたよ。このゼニモウケじゃボクの友達はこの子くらいしか連れて来れなかったけどね」
それは、サルトゥースの契約した『ウィンドホーク』というモンスターだ。
病室の窓を開けると、ウィンドホークはサルトゥースの腕を停まる。そして嬉しそうに身体を擦りつけた。
「よしよし······教えてくれ、どうなった?」
『魔獣使い』は、契約したモンスターと会話することができる。言葉ではなく心で理解するというらしいが、『魔獣使い』は素質がなければなることはできない。詳しいことはニナにもわからなかった。
ウィンドホークと何やら意思疎通をしてるサルトゥースは、ニヤリと笑う。
「メイちゃん、もう心配ないみたいだよ」
「なんだと······?」
「キミの大事なお姫様は、勇者が守ったってさ」
*****《コウタ視点》*****
トリケラトプスのような敵は漫画みたいに吹っ飛んだ。そして、格好良く変化した剣を構えた太陽は、ゆっくりと振り返る。
「へへ、オレの勝ちだぜ‼」
太陽は剣を天に突き上げ、勝利のポーズを取る。
それを見たヴァージニアは、感極まったのかポロポロ泣き出した。
そして、俺の隣のアレクシエルは。
「うーん、想定より送られる魔力が少ないわね。魔力吸収と転送の魔法陣同士が干渉してるのか······それに剣は変化したのに鎧は変化してない、やっぱり魔法陣同士の共鳴と干渉が課題ね。せっかく格好いい鎧に変化すると思ったのに。ってか終わらせるの速すぎ、もっとデータが欲しかったわ」
コイツに感動を求めても駄目だな。
そして、格好良く変化した剣を眺めていた太陽は、嬉しさを隠そうとせずに俺たちの傍へ。
「アレクシエル博士、これスゲーっすよ。とんでもない魔力が送られてくるし、あのトリケラ野郎のパンチも全然痛くなかっ」
そこまで言った瞬間だった。
太陽の鎧のバックル部分が爆発し、鎧も解除された。
どうやら【端末型勝利確定神器】が爆発したようだが、問題はそこじゃない。その爆発を見ていたのは俺とヴァージニアとアレクシエルだ。
爆発は小規模で、太陽は怪我らしい怪我はしていない。なぜわかるのかというと、爆発の衝撃で鎧は破壊され······太陽のズボンとパンツの一部も吹っ飛んだからだ。
「·········へ?」
「た、太陽······」
「······あ、わわわ」
つまり、陰部が丸出しだった。
それを見たアレクシエルは、つまらなそうに呟いた。
「やっぱあれだけの魔力を受けるのは無理か······やれやれ、まだまだ実用には程遠いわね。とりあえずデータは集まったし改良の余地はあるわね」
直後、慌てて股間を隠す太陽とヴァージニアの悲鳴が上がった。
替えのズボンはなかったので、太陽は着ていたジャケットを腰に巻いて隠した。やれやれ、男のラッキースケベなんて誰得だよ。
太陽とヴァージニアは照れつつも会話してる。
「あ、あのさヴァージニア、怪我してないか?」
「う、うん······平気だよ」
「そっか、よかった」
「うん······ありがとう、タイヨウ」
うーん、青春だねぇ。若い頃を······って、俺は若いからな。
アレクシエルは興味がないのか、俺の裾を引っぱる。
「さて、データも取れたし帰るわよ。勇者タイヨウ、グロウソレイユはまた預かるから、あとで取りに来なさいね」
「え、あ、は、はい」
「ほらコウタ、さっさと帰るわよ。リーンベルも帰って来てるだろうしね」
「はいはい、太陽たちはどうするんだ?」
「オレはヴァージニアを送っていく。倒れてる冒険者や傭兵たちもいるし、状況の説明も必要だしな」
「そっか、じゃあまたな」
そう言って、俺とアレクシエルはその場を後にした。
はぁ〜、まさかフードフェスタでこんなことが起こるとは。魔界から帰ってきて安心してた。異世界はなにが起こるかホントわからん。
「さて、帰ったら忙しいわね······課題が山積みよ」
「はぁ〜······ビール飲みたいぜ」
帰ったら、ブーさんとシャイニー連れて居酒屋でも行こうかな。
*****《勇者タイヨウ視点》*****
その後、すぐに他の傭兵や憲兵隊がやって来た。
オレとヴァージニアは状況を説明し、あとは全部任せて帰路についてる。ちなみにヴァージニアの送りだけは譲らなかった。
今は、ヴァージニアの宿ヘの道を歩いてる。どうやらこの辺りはトリケラ野郎の被害がなく、フードフェスタの喧騒に包まれている。
「あー、その、なんか食べるか?」
「うぅん、大丈夫」
「そ、そっか」
「うん」
気まずい。さっきオレのマグナムを見てからヴァージニアが素っ気ない。不可抗力でヴァージニアのおっぱい見たからおあいこだと思うのはオレだけかな。
それからほとんど無言で歩き、ヴァージニアの宿へ到着した。
「あー······着いたな」
「うん······」
「その······えーと、今日はゆっくり休めよ?」
「うん」
どうやら、ヴァージニアとは友達で終わりそうだ。
こんなことがあった以上、もう外出なんてできないだろう。最終日のイベントが終わったら、すぐに故郷へ帰るだろうな。
やべ······なんか悲しくなってきた。
「タイヨウ」
「ん?」
ふと、ヴァージニアの顔が目の前に。
柔らかく温かい、ぷるっとした感触が唇に。
あ、これってヴァージニアの唇だ。
ゆっくりと唇が離れ、ヴァージニアは花咲くような笑顔で言った。
「ありがとう、私のヒーロー」
そして、小走りで宿の中へ消えた。
「···············え?」
オレは、しばらく動くことができなかった。
*****《コウタ視点》*****
あー······やっとオフィスに帰ってこれた。
アレクシエルをラボに送り、疲れた足で玄関へ。するとしろ丸が俺を出迎えてくれた。しろ丸は、その場で一メートルほど跳躍する。
『なうなーう、なうなーう』
「おおー、跳ねる跳ねる」
しろ丸をキャッチしてなでまわす。頭をなでてひっくり返し、お腹をワシワシとなでる。すると短い足をパタパタされて尻尾をフリフリした。
すると、二階からパイが降りてきた。
「おかえりご主人ーっ、ボクもなでてー」
「はいはい、お前もキャラ変わったよな」
パイはトラ耳と尻尾をフリフリしながら俺の胸へ。とりあえず頭をなでるとパイはウニャンと鳴いた。やっぱコイツは虎ってかネコだな。
「あー、みんなは?」
「んにゃ~……ああ、帰ってるよ。でもブラスタヴァンとコハクは出てったよ~」
「出てった? どこに?」
「さぁ~……でも、すぐ帰って来るよ」
「それならいいけど……」
せっかく居酒屋にでも誘おうと思ったのに。まぁいいや、シャイニーを誘ってみるかな。
「パイ、今夜近くの居酒屋にでも行こうと思うけど、お前はどうする?」
「お酒? うぅ~ん……今日はいいや、ミレイナとコハクを誘って食べ歩きする~。もうすぐお祭りも終わりだし、いっぱい食べたいし~」
そっか、お酒が飲めないミレイナとコハクのこと忘れてた。
パイなりの気遣いなのか、それともホントに食べたいだけなのかは知らんがありがたい。
『なおーん』
「ん、キミはボクたちと一緒ね」
『うなーう』
パイはしろ丸を俺から受け取ると、豊満な胸でフカフカした。なんとも羨ましいぜ。
さて、シャイニーとキリエを誘いに行くかね。
それにしても……ブーさんとコハクはどこ行ったんだ?




