261・未完成の究極鎧身
*****《?????視点》*****
糸の絡まった『糸繰り人形』に見えた。
とある屋敷の天井から吊るされていたのは、極細の鋼糸で吊るされた人間。
数は二〇ほどで、全員が苦悶の表情を浮かべている。それもそのはず、ほんの僅かでも身じろぎするだけで、鋼糸は肉に食い込み血が流れる。
その吊るされた人間には目もくれず、一人の人間がテーブルの上にあった資料を眺めていた。
紫色のローブを纏い、フードを被っているため顔は見えない。だが、体付きから女性というのだけがわかった。
紫のフードを被った人物が器用に指を動かすと、天井に吊るされた人間の一人がゆっくりとフードの人物の目の高さまで降りてきた。もちろん降りてくるだけでも鋼糸は身体に食い込み肉が裂け、床に血のシミを作り出す。
フードの人物は、降りてきた人間に聞く。
「アプリストス幹部の裏切り、そして彼に賛同する貴方たち、そして······これから攫うであろう人物リスト」
声は、凍りついていた。
身体の痛みも忘れ、ガチガチと歯を鳴らす。
「まさか、誘拐リストにアレクシエル博士の名前があるとは。以前から貴方たちの動きは知っていましたが、彼女に手を出そうとしたのが運の尽きでしたね。ここの場所、貴方たちの活動報告書、貴方たちの名前と身分は、匿名で冒険者ギルドと憲兵隊に知らせておきましたので」
紫のフードの人物は指を巧みに操り、吊られた男たちを揺らす。肉が裂ける痛みに悲鳴が上がり、床には血溜まりが出来上がる。
それを見て紫のフードの人物は薄く微笑んだ。
「······次はありません、お忘れなく」
そして、紫のフードは闇へ消えた。
吊られた男の一人が、唇を震わせながら呟いた。
「『紫影暗器』······なんで、こんなところに」
血溜まりが、まるで華のように咲いていた。
*****《?????視点》*****
ゼニモウケ外れの小さな遺跡。ここは大昔の祭事などで使われたらしいが、詳しいことはわかっていない。
その『わかっていない』ことの一つ。この遺跡には地下が存在している。
地下は広く、恐らくは遺跡に扮したシェルターであったのだろう。ゼニモウケの有力者が、誰にも知られないように避難所でも作ったのかは不明である。だが、今やそんな地下シェルターは、人身売買組織アプリストスの『人間貯蔵庫』であった。
そして、地下では悲鳴が上がっていた。
「や、やめろ‼」「く、くそっ」「守衛は何をやってるんだ、相手は二人だぞ⁉」
アプリストスの作業員、そして護衛が倒れていた。
『荷物』を運ぶために作業をしていたら、大柄な筋肉質の男と見慣れない服を着た長い剣を持った少女が殴り込んできたのだ。
地下の入口を守っていた護衛の顔面を鷲掴みにし、引きずりながら男は言う。
「がーっはっはっ‼ オラオラどうしたどうした、もっと熱く‼ もっと燃えるように‼ オレを滾らせてみやがれやぁぁぁっ‼」
男は、赤いタンクトップに赤いズボン、黒いブーツを履いていた。そして両手には真っ赤に燃え上がるナックルを装備し、迫る護衛を殴り飛ばしていた。
真っ赤に加熱されたナックル、齢六〇とは思えない筋肉から繰り出される鉄拳は、金属の鎧や武器をあっけなく溶かし粉砕、そして焼き尽くす。
かつて『燃える鉄拳』と呼ばれ、ゼニモウケ近郊に現れた災害級危険種との豪快な殴り合いは、見る者全てに興奮と熱狂を与えたことは伝説となっている。
そう、『燃える鉄拳タイタンレッド』がアプリストスの隠し倉庫に殴り込みにやって来たのだ。
そして、もう一人の華奢ともいえる少女は、流れるような剣さばきで迫る護衛を一瞬で斬り伏せた。
「······峰打ちじゃ。ここで斬り伏せるのは容易いが、我輩は人斬りではないのでな」
刀を鞘に収め、黒髪黒目の少女コノハナサクヤは息を吐く。
動きやすいように改造された着物に、長い髪をポニーテールにして簪を刺した、勇者の子孫である『ワ族』の少女だ。
彼女は『藍蓮瞬刃コノハナサクヤ』という、新人『七色の冒険者』である。
そんな二人が、アプリストスの隠し倉庫で大暴れしていた。
「ったく、サルトゥースの野郎、このオレに雑魚刈りをやらせるとはなぁ」
あらかた護衛を倒し、職員を数人殴り飛ばして全員を大人しくさせたタイタンが呟いた。
この二人は、サルトゥースから依頼されてここにやって来たのである。もちろん秘密裏になので、このことを知るのはサルトゥースとタイタンが連れてきたゼニモウケ所属ではない憲兵隊のみ。情報が漏れるのを防ぐため、ゼニモウケと何ら関わりのない人間だけで構成された、アプリストス隠れ家の襲撃部隊である。
「ふん、おぬし言ってたではないか。『豪遊しすぎて金が尽きた、いい小遣い稼ぎだぜ』とな」
「ぎゃっはっは、違いねぇ。だが酒と女遊びは止められねぇ、それに······けっこう役得だしなぁ?」
タイタンの視線は囚われの少女たちへ。
囚われの少女たちは何も身に着けていない。しかも両手両足が拘束されているので、裸体を隠すことも出来ずにいた。
垂れ下がった目で少女たちを見るタイタンの首に、スラリと刃が突きつけられる。
「嫁入り前の娘の肌を見るな。見ていいのは彼女たちの旦那だけじゃ」
「おーおーコエーコエー、わーったよ。あとは憲兵隊に任せて撤収しようぜ」
タイタンは尻をボリボリ掻きながら地下を出ていった。
サクヤは、サルトゥースから直接依頼を受けたわけではない。タイタンが、ギルドの修練場で訓練していたサクヤを引っ張りだしたのだ。
タイタン曰く『実戦こそ最高の訓練』らしい。悔しいがサクヤは同意した。
「さて、この地下遺跡は制圧完了じゃの。この地下を見つけたくらいだし、他の施設にも手入れが入るじゃろう。お主たち、もう終わりじゃのう、良くて犯罪奴隷、悪くて一生強制労働といったところかのう?」
サクヤの脅しに、構成員の顔が青くなった。
*****《勇者タイヨウ視点》*****
黄金の鎧身形態であるオレと、純銀の鎧身······いや、獣甲形態のトリケラ野郎。
本来の聖剣が戻ってきたとはいえ、不利なのに変わりない。
「オラオラオラオラッ‼ どうした勇者ぁぁぁぁーーーーーっ‼」
「ぐ······っ、この」
なぜなら、オレは身体のダメージが大きいだけじゃなく、魔力もほとんど底を尽いている。オレの魔力を吸って鎧の硬度を維持してるのに、今は鎧の維持で精一杯だ。
つまり、かなりヤバい。
「ッッシャぁぁぁぁーーーーーっ‼」
「ぐっがはっ⁉」
テンプルにトリケラ野郎のフックがヒット。頭が揺さぶられ意識が一瞬飛んだ。頭部を守っていた兜に亀裂が入る。本来なら災害級の一撃にも耐える鎧なのに、今じゃ並の鎧と大差ない。
地面をゴロゴロ転がり、おっさんたちの近くまで飛ばされた。
「タイヨウッ‼」
「ぐ······し、心配すんなヴァージニア、オレは勝つよ」
「ああ······で、でも、うぁぁ」
ヴァージニアは、顔を押さえてオレから目を逸らす。ちくしょう、こんな悲しい顔をさせたくないのに。
すると、おっさんが言う。
「お嬢さん、目を逸らしちゃ駄目だ」
「え······?」
「太陽のことを想うなら、目を逸らすんじゃなくて応援してやれ。いいか、太陽はな、女の子の声援が何よりの力になるんだ」
「おう、えん······」
おっさんは、優しく微笑んでヴァージニアに言う。するとヴァージニアはオレを真っ直ぐ見た。
「タイヨウ······私、私、応援する‼ がんばって‼」
「·········おう‼」
ヴァージニアの声援を受け、フツフツと何かが湧き上がる。
オレの中に眠っていた力が。
「あ、終わった? 勇者タイヨウ、ちょっと試して欲しいアイテムがあるの。データ取りたいからすぐに終わらせないでよね」
眠っていた力が······ええと。
するとおっさんが、アレクシエル博士の頭をスパンっと叩いた。
「いったぁぁ〜〜っ⁉ なにすんのよこのオヤジ‼」
「誰がオヤジだ‼ ってかお前空気読め‼」
「はぁ⁉ んなこと言ってる場合じゃないでしょうが。そんな感動的ストーリーなんて必要ない、必要なのはデータよデータ‼」
アレクシエル博士がギャーギャー騒ぎ、おっさんがそれを押さえつける。さすがのヴァージニアもどうすればいいかわからないようだ。
するとアレクシエル博士が、ポケットから何かを取り出しオレに投げる。
「とーにーかーく‼ それ、【端末型勝利確定神器】使いなさい、早く‼」
「は、はい。その、使い方は?」
投げられたのは、折り畳み式の古くデカいガラケーみたいだ。開くとカラフルなボタンと液晶画面がある。
強化アイテムって初めて渡されても使い方わかんねーよ。特撮ヒーローってよく初見で使えるよな。
「金色のボタン押して音声コード入力、そんで腰のバックルに装填するだけよ‼ さっさとする‼」
「はは、はいっ‼」
こ、怖え。アレクシエル博士って可愛いのに怖えな。
オレは立ち上がり、トリケラ野郎に向かい合う。親切に待っててくれたのか。
「へ、ゴチャゴチャやかましい野郎だ。コントは終わったのか?」
「まぁな、それより······決着といこうぜ」
オレは新アイテム【端末型勝利確定神器】を開き、黄金のボタンを押す。すると液晶部分に黄金の魔法陣が輝き音声が流れた。
『コードワン・グロウソレイユ』
そして端末が黄金に輝き、腰の中央にバックルが傾城される。
オレは、マスクの内側に表示された音声コードを入力する。
「ヴィクトリー・エヴォリューション、究極鎧身」
端末を折り畳み、腰のバックルに挿入した。
すると、バックルを中心に黄金の魔法陣が広がる。
もしかして鎧も変形するのか······と思ったが、特に変形しなかった。
「魔力受信は順調、でも鎧に変化なし······うーん、鎧の反映魔法陣が上手く機能してないのかな? まだ調整が必要ね」
アレクシエル博士がそんなことを言っていた。だが感じる······圧倒的な魔力を。本来のオレ以上の魔力を。
鎧は変化しなかったが、グロウソレイユは変化······いや、進化していた。
ロングソードだったグロウソレイユが、デザインも変わり大剣であるグレートソードに進化する。両手持ちだが片手で持てる。これはすごい、バックルから送られてくる魔力が、剣とオレに纏わりつく。
オレは剣を構え、トリケラ野郎に向けて叫ぶ。
「太陽剣グロウソレイユは進化した。コイツは『太陽神剣アポロソレイユ』だ‼」
「抜かせっ‼」
トリケラ野郎は突進し、スピードを乗せた拳でオレの顔面をぶん殴る。だが、圧倒的魔力で強化された鎧に傷は付かない。というか衝撃すら来なかった。
「こ、この野郎ォォーーーーーっ‼」
「·········」
オレは両手を広げ、トリケラ野郎のラッシュを受ける。
すげぇ、全く痛くない。それにダメージもない。
「っと、ほい」
「な······このや、ろぁだだだだだだっ⁉」
オレは左手でトリケラ野郎のパンチを受け止めて軽く握りしめる。それだけでトリケラ野郎の鎧に亀裂が入り、ビキビキと骨が軋む音が聞こえる。
「すげぇ······はは、これスゲーよ」
「て、テメェ······」
「じゃ、終わらせるか」
オレはアポロソレイユを構え、魔力を込める。
「太陽神剣アポロソレイユよ、光輝なる王剣。神なる太陽王の威光」
力ある言葉は武具の力を開放するコード。魔力が光となり、アポロソレイユに集中する。
「こ、の······野郎がぁぁぁぁーーーーーっ‼」
やぶれかぶれになったのか、トリケラ野郎は四足歩行になり突進する。オレは真っ向から迎え撃った。
「必殺・『太陽王烈刃』!!」
横薙ぎに振るわれた光の剣は、トリケラ野郎を遥か彼方へ吹き飛ばした。まるで場外ホームランのように吹っ飛ぶトリケラ野郎。
「ぐっぎゃァァーーーーーっ!?」
トリケラ野郎の悲鳴が、辺りにこだました。




