260・タイヨウの意地
*****《勇者タイヨウ視点》*****
オレとヴァージニアは、トリケラ野郎と戦っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ······くそ」
「タイヨウ、大丈夫?」
「なんとか、な」
周囲にはへし折れた剣が散乱してる。傭兵や冒険者が持っていた剣だが、どれもこれもナマクラだ。トリケラ野郎が硬いってのもあるけど、斬りつけるたびに破損や亀裂が入る。
トリケラ野郎はケラケラ笑う。
「カッカッカ、お疲れのようだなぁ? まだやるかい?」
「うるせぇ!!」
トリケラ野郎は無傷。身体強化したオレの全力の剣や拳も耐える強固な鎧······くそ、武具があれば。
「勇者よぉ、悪りーが遊びは終いだ。さっさとお前を始末してそこの女をもらっていくぜ」
「うるせぇっ‼ ヴァージニアはオレが守る‼」
「タイヨウ······」
とはいえ、打てる手は少ない。
落ちてる剣は殆ど砕け、オレの魔力も残り少ない。ヴァージニアの援護も殆ど効果がないし、かと言ってここで逃げたら被害が広がる。ってか勇者は逃げないけどな。
するとヴァージニアが、オレにしか聞こえない声量で言う。
「·········タイヨウ、少し考えがあるの。手を貸して」
「え?」
「もしかしたら、あの鎧を倒せるかも」
「マジで⁉」
オレとトリケラ野郎の攻防を援護しながら、ヴァージニアはずっと観察していた。そして、何かに気がついたようだ。
オレは全身に魔力を漲らせながら、ヴァージニアの作戦を聞く。
「·········なるほどな」
「試す価値はあると思う」
「だな、やってみるか」
「うん、お願いね」
ヴァージニアの作戦、やってやるぜ。
オレは残りの魔力を振り絞り、トリケラ野郎と対峙する。
「そろそろ決着つけようぜ、トリケラ野郎」
「いいぜ。オレも飽きてきたところだ」
プシューッと身体から蒸気を吐き出し、トリケラ野郎は前傾姿勢になる。
オレは両手を前に突き出し、足を開いてどっしり構えた。
「ほう、真正面からか」
「男だからな」
「······っへ、面白え」
すると、トリケラトプスの鎧が変化する。
手足が獣のようになり四足歩行へ、鎧のデザインがより鋭角になり、頭のツノが更に前に突き出した。
「『激突犀』······コイツでケリをつけてやる」
「·········」
恐怖はない。
ヴァージニアがポツポツと詠唱をしてるのが聞こえる。それだけで力が湧いてくる。彼女を守ろうと、勇者の力が溢れてくる。
「ぶっ飛びやがれ勇者ァァーーーーーっ‼」
「来いっ‼」
四足歩行のトリケラトプスが突進する。
たぶん、車に轢かれるのとワケが違う。
でも、オレは止める。止めてみせる。
「オォォォォォーーーーーっ‼」
両手を開き、手を広げ、オレはトリケラトプスを正面から迎え撃つ。
ツノを掴み、へし折るつもりで握りしめ、その突進を止めようと思い切り両足で踏ん張る。
「ぐぅぅがァァァァーーーーーっ‼」
強化した身体でも衝撃が走る。そりゃそうだ、コイツの武器はかつての勇者の武具。過去の勇者が使った伝説の武具だ。
「ブッ飛べゃァァーーーーーっ‼」
「このトリケラ野郎ォォォーーーーーっ‼」
力を込めすぎたおかげで、両腕の血管が裂けた。
頭にも血が登ってるせいで鼻血も出る。だが両手の力を緩めることはない。両足の踏ん張りを緩めるはずがない。
「こ、の······トリケラがァァーーーーーっ‼」
オレは叫ぶ。そして。
「大いなる水神の抱擁を‼ 『水玉の真球』‼」
そんな、ヴァージニアの声が聞こえてきた。
「あぁ⁉ な、なんだコリャ⁉」
トリケラ野郎の身体は、巨大な水球に包まれてゆっくり上昇した。そして、ヴァージニアの読み通りの展開になる。
「な、なんだこりゃ、う、ごボボっ!? ガバッ!?」
空中の水球の中で、トリケラ野郎がバタバタ暴れてる。だが、暴れるだけだ。
「どんなに力があろうと、貴方も人間である以上、呼吸は必要なはず······たとえ、強靭な鎧を纏っていてもね」
「な······カバッ⁉」
つまり、溺れされて無力化する。それがヴァージニアの考えた作戦だった。
オレは地面にへたり込み、上空の水球を見上げる。
「へへ、オレたちの勝ちだぜ」
そして、水球が爆発した。
「え······」
「は······?」
勝利を確信していた故に、気が緩んでいた。
爆発した水球からトリケラ野郎が落ち、ヴァージニア目掛けて突進してきた。
オレは動けず、ヴァージニアも目を見開いてトリケラ野郎を見ていた。
そして、トリケラ野郎の手がヴァージニアの腰を掴む。
「ふぅ〜、焦ったぜ」
そんな、余裕の声が聞こえてきた。
*****《コウタ視点》*****
人の流れがようやく落ち着き、俺は壁に押し付けていたアレクシエルを開放した。
「ふぅ〜、なんとか」
「こ、この、離れなさいよ」
「おっと、悪い悪い」
疲れたのか、アレクシエルの顔が赤い。離れるとジロッと睨まれる。
「と、とにかく、この剣を太陽に届けないと」
俺が背負ってる『太陽剣グロウソレイユ』は、太陽専用の武具だ。よく見てなかったけど、今の太陽は丸腰に近いはず。
すると、アレクシエルが顎に手を当てて言う。
「確かに、過去の武具とはいえ普通の武器じゃ歯が立たないはず。いかに勇者といえ丸腰じゃ勝ち目はないわね」
「だ、だったら急がないと」
「ええ、それにいい機会だわ。試作品のテストもできる」
「え?」
するとアレクシエルは、ポケットから鈍い銀色のケースを取り出した。
「なんだ、それ?」
「あんたがくれた『神核』の魔力を受信する装置。加工はムリだったから、神核の魔力そのものを引き出して武具に反映させることにしたの。武具の調整はしてあるからあとは実験ね」
アレクシエルは銀色のケースを開く。というかケースではなく、折り畳みのガラケーみたいな物らしい。見た目も大きなガラケーで、カラフルな八つのボタンと液晶部分はガラスになっていた。なんだこれ?
「名付けて【端末型勝利確定神器】······これを使うと間違いなく勝てると言う意味を込めた強化アイテムよ。試作品だからどこまで耐えられるかわからないけど、データが取れればいいわ」
「ほぉ〜······」
アクセルトリガーが中間フォームだとすると、これを使うと最終フォームへと変身できるのか。太陽のヤツ、めっちゃ興奮しそうだよな。
「······って、言ってる場合じゃない‼ 早く届けないと‼」
「そーね。じゃあ行くわよ」
「おう‼······って、二人で行くのか」
そういえば、太陽たちのいる場所ってモロ戦場じゃね?
*****《勇者タイヨウ視点》*****
ヴァージニアが、捕まった。
「な、なん、で······」
「くくく、お嬢さん······なかなかいい手だった。だが、あの程度の水球、ライノクラッシャーの能力の一つである『噴射』で散らすことなど造作もない」
「ぐ······っ⁉」
巨大な手はヴァージニアの腰を容易く握りしめている。
魔力も少なくヘバッていたオレだが、ヴァージニアの危機に立ち上がる。
「テメェッ‼」
「おっと、ガキは寝てな」
「あがっ⁉」
立ち上がろうとしたが、思い切り背中を踏みつけられ地面に仰向けで踏み潰される。とんでもないパワーにまるで動くことができない。
「タイヨウっ!! この······う、ぐぁっ⁉」
「おっと、小賢しい魔術は打ち止めだ。大人しくしてれば痛い思いしなくて済むぜ?」
トリケラ野郎はヴァージニアの腰を握りしめる。それだけでヴァージニアに集まった魔力は霧散した。
「く、この······」
「あーもう面倒くせぇなぁ、じゃあこれならどうよ?」
藻掻くヴァージニアの胸ぐらを掴むと、ヴァージニアの服を剥ぎ取った。
「きゃあぁぁぁっ⁉」
「ほれほれ、素っ裸で晒しモンになりたくなきゃ大人しくしてな、カッカッカ」
はだけた胸を隠し、ヴァージニアは涙目で俯く。
そんなヴァージニアを見て、オレはブチ切れた。
「こ、の······ゲス野郎がぁぁぁーーーーーっ‼」
「おぉ⁉ っと、やるじゃねぇか」
「ふんがぁぁぁぁぁぁっ‼」
トリケラ野郎の足の下で足掻く。だが動かない。
「カッカッカ、大したモンだがもう終わりだ。お嬢ちゃんを組織に渡してオレは最強の軍団を作る。いかに勇者のテメェでも止められねえ」
「ん、だと······っ‼」
「カカカ、せっかくだし教えてやる。アプリストスの幹部何人かはオレに賛同してくれた。オレが作る最強の軍団の幹部としてな、今は攫ってきた中で使えそうなヤツをチョイスしてる最中だろうよ」
「な······」
「そいつらはオレの裏切りとは関係ねぇ、だから好きにやらせてる。だけど、組織に恨みは買いたくねぇからお嬢ちゃんの引き渡しはするけどな」
こ、このトリケラ野郎······なんてヤツだ。
コイツは、ここで止めないとマズい。力を付ければ厄介な組織になるのは間違いない。それこそアプリストス以上の脅威だ。
「ちく、しょう······」
「く······この、外道‼」
胸を隠すヴァージニアの罵倒も、コイツには届いていない。
足元のオレは、魔力も尽きかけて身体強化もままならない。
絶体絶命······くそ、なんてこった。
こんなとき、お約束の展開があるんだけどなぁ。現実は甘くねぇや。
「あ、いた。なんか潰されてる」
「た、太陽っ⁉ おい大丈夫か‼ ああもう、どうすれば」
「うーん、おっさんが戦えば?」
「ムチャ言うなっ‼ お前も天才ならこの状況なんとかしろよっ‼」
「そうね······あ、女の子が剥かれてる」
「なんだとっ!? っていっだぁぁぁぁっ‼」
「見るなボケ」
あれ、おっさんとアレクシエル博士の声が聞こえる。
首を動かすと、アレクシエル博士がおっさんに目潰しをしていた。何これ夢?
おっさんとオレらの距離は一〇メートルほど。するとおっさんが、腰にある拳銃を抜いた。
「たたた、太陽‼ 今たた助けるからなっ‼」
おっさんは拳銃を撃つと、トリケラ野郎の頭に銃弾が当たる。だが、弾丸は鎧に傷一つ付けられなかった。
「ンだテメェ? オレにケンカ売ってんのか?」
「ひっ······え、ええと」
「全く、なーにビビってんのよコウタ、さっさと行きなさいよね」
「バカ言うな、挽肉にされちまう‼」
アレクシエル博士の肝っ玉もスゲェけど、おっさんに気を取られたトリケラ野郎の足が少し浮いた。
「っだらァッ‼」
「な、クソガキッ‼」
オレは全力で足を持ち上げ脱出、ヴァージニアを掴む腕にタックルする。するとヴァージニアがスルッと抜け、オレはお姫様抱っこした。
「タイヨウ······」
「お待たせ、お姫様」
「······うん」
ヴァージニアはオレに抱きつく。ちくしょう、ヴァージニアってなかなかいい乳してる。
すると、トリケラ野郎は激高した。
「このガキ······ッ‼」
オレはヴァージニアをおっさんのところへ。すると、おっさんは着ていたジャケットをヴァージニアにかけてやる。くそ、それはオレの役目だが今回は譲るぜ。
「太陽、遅くなった」
「あ······オレの剣‼」
おっさんは、背負っていたグロウソレイユをオレに渡す。オレは嬉しさのあまり頬ずりしそうになった。
「へへ······サンキューおっさん、マジで愛してるぜ‼」
「やめろ」
今ならマジでおっさんにキスしてもいい。
オレはグロウソレイユを構え、トリケラ野郎と向かい合う。
「へへ、悪いな、もうオレの勝ちだ」
「ンだとこのガキ······もういい、テメーはここで殺す!!」
「やれるモンならやってみろ、『鎧身』‼」
黄金の全身鎧を身に纏い、オレは勇者としての力を振るう。
『王』をモチーフとしたグロウソレイユで、このトリケラ野郎をぶっ潰す。
ヴァージニアを泣かせた罪、絶対に許さねえからな‼




