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異世界の配達屋さん~世界最強のトラック野郎~  作者: さとう
『第18章・トラック野郎とフードフェスタ』

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259・王様とトリケラトプス

*****《勇者タイヨウ視点》*****




 トリケラトプスに向かう冒険者や傭兵がほぼ全滅。オレはヴァージニアを背にトリケラトプスと向かい合った。

 すると、トリケラトプスの頭歩がバカっと割れ、中から中年のオッサンが現れる。もしかしてこれ、勇者の武具かよ⁉

「はじめまして麗しき神話魔術師様······早速ですが、オレと一緒に来てもらえないですかね?」

「は?······ンだテメェ、なにぬかしやがる」 

「タイヨウ、待って」

 ヴァージニアはオレを抑えると、一歩前に出る。

「はじめまして異形の力を持ちし者。私は『神話を奏でる四巫女クワイエット・パヒューム』の一人ヴァージニア。貴方の行いは明確な犯罪、これ以上の狼藉は許しません······直ちに投降なさい」

 ヴァージニアは、冷たい声でトリケラのオッサンに言う。

 フワッとした雰囲気が無くなり、魔術師としての顔を見せたヴァージニアにオレは驚き、トリケラのオッサンはヒュウと口笛を吹いた。

「いやぁよ、オレとしてもアンタはどうでもいいんだ。けどよ······こんなスゲェ力をもらった以上、せめてもの義理は果たさねーとな。もう一度言う······オレと来い」

「お断りします。ではこちらは最後通告です、投降なさい」

 チリチリとした空気が流れ、トリケラのオッサンはペッとツバを吐いた。

「ま、殺しはしねーよ」

「そうですね、少しだけ眠っていただきます」

 トリケラの兜がガシャッと被さり、ヴァージニアは薄く微笑んだ。

 オレは剣を構え、身体中に魔力を漲らせた。




 ここは、チューオー区の中央広場へ続く、横幅の広い一本道。

 冒険者や傭兵が倒れ、一部の露店はなぎ倒され食材が飛び散っている。

 人々は逃げ惑い、平和なゼニモウケの道が戦場になっていた。

 そんな場所で、ヴァージニアとトリケラのオッサン、そしてオレが向かい合う。

 先手は、ヴァージニアだった。

「青き清流よ貫け、『水針アクアニードル』」

「おっと」

 詠唱破棄した初級の水魔術。

 かざした手から青い魔法陣が現れ、十本ほどの水の針がトリケラのオッサンを襲う。だが鎧は無傷だった。

 もちろん、オレも見てるだけじゃない。

「っだらァァァーーーーーっ!!」

 ヴァージニアの水針に合わせてダッシュ、そして水針がトリケラに当たると同時にジャンプして頭を狙った兜割りを食らわせる。もちろん殺すつもりはない、鎧の経験者だからわかる、斬撃は効かなくても衝撃は完全に殺せない。魔力で強化したオレの腕力から繰り出される兜割りで、脳震盪を狙う。

 だが、オレはアホだった。

 思いきり振り下ろした剣をトリケラはよけなかった。

 それだけじゃない、剣はトリケラの頭部に当たった瞬間、粉々に砕け散った。

「······なっ⁉」

「アホかお前?」

「ぐっ⁉」

 オレはトリケラに首根っこを片手で掴まれた。

 しまった、あまりに迂闊だった。

 よく考えなくてもわかる。ただの鉄の剣が勇者の鎧に効くわけない、そもそもオレの魔力を込めた腕力の一撃に耐えれるはずがない。グロウソレイユの感覚でやっちまった。

 グロウソレイユというか、オレら勇者パーティーの武具は『アンフィニウム』という、アレクシエル博士が過去の技術・勇者の武具の技術・独自の技術を合わせて作り出した特殊な金属だ。

 よく知らんが、魔力を込めると込めた分だけ硬度が上がるらしく、オレの全力でも傷一つ付かない硬度を持つ。

 普通の武器なんて訓練でしか持ってない。それに、最近は戦い続きで訓練の感覚も忘れていた。

「カッカッカ、ガキ······首をへし折ってやろうか?」

「ぐ、が······っ⁉」

 こ、こいつ······なんてパワーだよ‼ ヤベェ、息が止まる······っ!!

「穿て青き槍!! 『水の突撃槍ウォーターランス』!!」

「っおおっ!?」

「っがはっ!?」

 水の槍が、トリケラの横っ腹を直撃し、オレを掴んでいた手が離れる。

 トリケラは数メートル飛ばされ、オレはその場で転がる。するとヴァージニアが駆け寄ってきた。

「大丈夫⁉」

「悪い、助かった!!」

 それだけ言って立ち上がり、落ちていた傭兵の剣を掴む。もうヘマはしないぜ。

 グロウソレイユがあれば『鎧身がいしん』で叩きのめしてやるんだが、ない物ねだりしても仕方ない。

「ヴァージニア、どう思う?」

「······硬いね。私の初級魔術じゃ決定的なダメージは与えられない。上級や特級レベルの魔術ならわからないけど、詠唱に時間がかかるし、何よりこんな町中じゃ規模が大き過ぎて使えない······」

「つまり?」

「どうしよう?」

 つまり、ヴァージニアの魔術は牽制くらいしか使えない。

 なら、オレがやるしかないってことだ。




 オレは傭兵の剣を構える。

「ヴァージニア、なんでもいいから魔術を頼むぞ」

「······え?」

「勇者タイヨウの『力』は伊達じゃねえってとこ、見せてやるよ」

 オレはトリケラに向けて走り出す。するとトリケラも頭を突き出しながら走り出す。

「へ、ぶっ飛べやクソガキッ!!」

「行くぞコラァァーーーーーっ!!」

 オレは傭兵の剣を全力で投げつける。

 強化した腕力から繰り出される剣は流れ星のような速さで、さすがのトリケラも驚いていた。

「ンなモン効くかァァァァーーーーーっ!!」

 剣はトリケラに激突して木っ端微塵に砕け散る。

 だが、オレの狙いはそれじゃねぇ。

「魔力ゥゥーーーっ、ぜぇんかぁぁぁいぃいーーーっ!!」

 オレは全魔力を全身に注ぐ。

 単純な魔力量で言えば、オレは魔王族よりも多いらしい。わかりやすく言えばプライド地域最強のミューレイアの約六倍。

 その魔力全てを身体強化に回す······つまり、答えは?

「な、なんだとぉぉーーーーーっ!?」

「フンガァァァァーーーーーっ‼」

 トリケラの突進を正面から受け止め、ツノをへし折ろうと握力を込める。

「は、離せテメェっ!!」

「さっきの······お返しだァァァーーーーーっ!!」

 オレは片手を離し、トリケラの顔面を全力でぶん殴った。

 トリケラの顔面に亀裂が入り吹っ飛ばされ、オレの右手からも血が吹き出した。 

「っぐ······痛ぇ」

「タイヨウっ!!」

 ヴァージニア、心配すんなって。めっちゃ痛いけど我慢我慢。ってかまだ終わってない。

 トリケラはムクっと起き上がると、首をコキコキ鳴らす。

「なるほどな、テメェがオレサンジョウ王国の勇者か」

「そういうこった。降参すんなら今のうちだぞ?」

「アホ抜かせ。いいか、今のオレは勇者より強ぇえぞ?」

「寝言は寝て言え、ってかオレにパワー負けしてる時点で勝ち目なんてねぇよ、トリケラ野郎」

「馬鹿が。この『剛拳ライノクラッシャー』はそんな甘いモンじゃねえ······行くぜ」

「ヴァージニア、援護を」

「······わかった」

 ここからが、本当の戦いだ。




*****《コウタ視点》*****




 な、なんだよこれ······なんで太陽が?

 現在、俺はアレクシエルと一緒に人の波に流されていた。

「ちょ、こら、どいて······あぁもう、コウタ、コウタ!!」

「あ、アレクシエル······ここ、ここだ!!」

 これは、逃げ惑う人の流れだ。

 太陽がトリケラトプスみたいな化物と戦おうとしてるのを最後に、戦闘から逃れようとする人の流れに飲み込まれた。

 おかげで、太陽たちから随分と離れてしまった。せっかく剣を届けに来たのに。

 俺は人を掻き分けながら、もみくちゃにされてるアレクシエルの手を何とか掴む。そして思い切り引っ張り胸に抱き寄せた。

「わ、わわわ······」

「悪い。よし、端っこに寄れば······」

 俺はアレクシエルを胸に抱え、人混みを掻き分けて道の端っこへ何とか避難した。

「······ふぅ、なんとか」

「あ、わわわ······」

 アレクシエルが巻き込まれないように、道沿いにある店の壁にアレクシエルを寄せ、そこから俺が覆い被さるようにガードする。まぁアレクシエルに壁ドンしてるような感じ。

「マズいな、太陽に剣を届けないと······でも、この人混みじゃ難しいな」

「う······うん、その、うん」

 なんかアレクシエルが赤い。元から赤いけどさらに赤い······ははーん、こいつ照れてるのか?

 なんて言ってる場合じゃない。とにかく、なんとかして太陽に剣を届けないと。

 人混みが収まるまで待つしかない。でもまぁ、太陽なら強いし問題ないだろうな。

 さて、このまましばらく待つしかないな。

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お読みいただき有難うございます!
最弱召喚士の学園生活~失って、初めて強くなりました~
新作です!
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