258・デートと化け物
*****《コウタ視点》*****
俺とアレクシエルはデート? を楽しんでいた。
本来の目的であるグロウソレイユの運搬より、アレクシエルが目についた露店を回るのが中心となってる。現に、今のアレクシエルはアイス片手にご満悦の表情だ。
「ん〜、冷たくて美味しい〜♪」
「お前な、自分で買えよ」
「いいじゃん別に。このあたしと町を回れるってことが、どれだけ価値のあることかわからないの?」
「ったく、しょうがねぇなぁ······」
まぁ、可愛いから許すか······っと、一応確認するが俺はロリコンじゃないからな。見た目中学生のアレクシエルは妹みたいなモンだ。
「ねぇねぇコウタ、次はあっち行くわよ!!」
はしゃぐアレクシエルを尻目に、俺は耳に手を当ててイヤホンマイクに話しかける。
「はいはい、ってかタマ、太陽はどこだ?」
『現在、勇者太陽はチューオー区内を歩いています。社長。危険を感知しました』
「は? 危険?」
『肯定』
危険って、こんな町中でかよ?
ここでいきなりアレクシエルは背伸びすると、俺のイヤホンマイクを強奪した。
「ちょ、こら」
「むむむ? 耳にはめてたみたいだけど······うーん、なんにも聞こえないじゃん。変なの」
アレクシエルはイヤホンマイクをいじり、上下左右から観察してる。全く、いきなりすぎるぞ。
「ま、いーわ。行こ」
「っと······おいおい」
アレクシエルは、俺の腕と自分の腕を組む。イヤホンマイクを取られたけど、まぁいいや。
「ひ、人が多いし、あんたがはぐれないようにね」
「俺じゃなくてお前な」
やれやれ、この紅いお姫様は可愛いね。
*****《?????視点》*****
ゼニモウケのとある地区は、大騒ぎだった。
「な、なんだ⁉」「モンスターか⁉」「て、鉄のバケモノ⁉」
それは、純銀の鎧を纏った人間。トリケラトプスのような風貌に二メートルを超えた体格を持つ、鎧身形態のリノリングだ。
「さて、いっちょ殺るか······ッ‼」
兜の内側でリノリングは笑う。
すると、周囲の喧騒を掻き分けるように装備を統一した傭兵と、喧嘩っ早そうな中堅の冒険者が集まってきた。
「貴様、何者だ!?」
傭兵の一人が槍を突き付けるが、リノリングは首をコキコキ鳴らすだけ。
「町中にモンスターとはな」
「おい、コイツ討伐したら報酬は出るのか?」
「へへへ、傭兵共は下がってろよ、邪魔だぜ‼」
血の気の多い冒険者たちがリノリングを包囲し、傭兵たちはその冒険者を押しのけるように前に出る。これからゼニモウケをメチャクチャにしようというのに、呑気なモノだと思う。
「雑魚が······少しは楽しませろよ?」
全滅まで、五分も掛からなかった。
*****《勇者タイヨウ視点》*****
町を歩いていると、ヴァージニアが突然立ち止まる。
「ん、どうした?」
「······なんだろう、よくない魔力の波長を感じる······」
「へ?」
魔力の波長って、強者のオーラ的な何かか?
うーん、オレにはさっぱりわからん。一応オレも魔術を習得してるけど、習得してから全く使わないからなぁ。詠唱してるヒマあったら剣で斬るほうが早いしね。
「ねぇタイヨウ。私······行かなきゃ」
「え、行くってどこにだよ?」
ヴァージニアはニッコリ微笑む。そして力強く頷いた。
「やっぱり気のせいなんかじゃない。何か危険な存在が近くにいる······戦わなくちゃ」
「危険な存在って、こんな町中でかよ⁉ 冗談だろ、モンスターでも入り込んだってのかよ?」
「わかんない。でも、私は魔術師だから······戦わないと」
ヴァージニアは、先程までのヴァージニアと違う。この目は戦士の目だ。強い覚悟と信念を感じさせる、戦士の目だ。
「·········へっ」
ったく、よくわかんねーけどかっこいいじゃん。
それに、危険な存在とやらが何か知らんが、戦うならオレの出番だろうが。
オレは一歩前に出る。ヴァージニアの隣に、対等な位置に立つために。
「危険な存在ってのが何かは知らねーけどよ、戦うならオレの出番だろーが」
「タイヨウ······」
「行くぞヴァージニア、行くなら······一緒に行こうぜ」
オレは手を差し出す。すると驚いたヴァージニアはオレとオレの手を交互に見て、やがてニッコリと微笑んだ。
「······うん、行こうタイヨウ‼」
ヴァージニアがオレの手を掴む。
やっと、ヴァージニアに認められた気がした。やっとヴァージニアに相応しい男になれた気がした。
ヴァージニアと握手しながら見つめ合うと、不意に周りが騒がしくなり始める。
喧騒の方向へ顔を向けると、得体の知れない純銀の化物が向かって来るのが見えた。
「な、なんだありゃ⁉」
「タイヨウ、あれが敵だよ‼」
おいおい、ありゃモンスターなのか? めっちゃギンギンギラギラのトリケラトプスみてーじゃねーかよ。
銀のトリケラトプスは、傭兵や冒険者を蹴散らしながら向かってくる。まるでオレとヴァージニアが狙いとでもいうように。
「くそ、グロウソレイユがあれば」
現在、オレの装備は鉄の剣のみ。鎧も脱いでるし、ヴァージニアとデートするためにスターダストで買ったオシャレ服だ。
「タイヨウ、町中じゃ強い魔術を使えない。サポートするからオフェンスをお願い‼」
「おうよ!!」
だからと言って泣き言は言わねーけどな。ヴァージニアはやる気満々で、トリケラトプスと戦ってる冒険者や傭兵のアシストを早くも始めてる。
「っしゃっ‼ 行くぜっ!!」
オレは剣を抜き、トリケラトプスに向かって突進した。
*****《コウタ視点》*****
異世界の焼き芋ってすんげぇ甘いのな。
しかもモチモチのホクホク。酒のツマミにはならんけど、おやつにはもってこいだ。
「う〜ん、お芋おいし〜♪」
「だな、こりゃ美味い」
アレクシエルもご満悦。本来の目的を忘れて町を満喫してる。
というか、買い食いばかりしてたおかげで腹がいっぱいだ。こりゃ昼飯はいらないな。
「ねぇねぇコウタ、次はあっち‼」
「はいはい。こうなりゃどこでも付き合いますよ、お姫様」
「お、お姫様って······こ、このバカ‼」
「うおっ」
アレクシエルは、顔を赤くして脛を蹴ろうとして来た。だが俺は華麗に回避する。
「避けんなこのっ!!」
「やーめーろっての、このこのっ!!」
「わひゃっ!? この、頭撫でるなーっ!!」
アレクシエルの頭をガシガシ撫でると、ようやく大人しくなった。
ムスッとしたアレクシエルを宥め、買い食いを再開する。仕方ないので好きなだけ食わせてやろう。
「ほら、行くぞ」
「······うん」
アレクシエルは、俺の腕にそっと手をかける。
俺は小動物みたいなアレクシエルを素直に可愛いと思い、アレクシエルと歩調をあわせるように歩きだす。そして、美味しそうな匂いのする一軒の屋台で足を止めた。
「お、焼き栗だってよ。食べるか?」
「食べる!!」
やれやれ、このお姫様は気まぐれな猫みたいだ。
アレクシエルのワガママに付き合いながら町を満喫していると、不意に周りが騒がしくなった。
脱兎のごとくという言葉に相応しいダッシュで俺とアレクシエルの傍を駆け抜けていく人々。イベント会場にでも向かうのかね?
「なんだ? なんかイベントでもあるのか?」
「······それにしては妙ね」
確かに。俺とアレクシエルは立ち止まる。
まるで火事場から焼け出されたように逃げ出す人々を眺めていると、その原因がわかった。
「············は?」
「どうやら、あれが原因みたいね」
そこにいたのは、巨大な銀色の化物だった。




