254・トラック野郎、仕事仕事。
*****《コウタ視点》*****
フードフェスタが始まってから二〇日が経過した。気のせいかもしれないが、町の様子も少し落ち着いたような気がする。というか喧騒に慣れただけかもしれんが。
さすがのフードフェスタも、スタートから二〇日も経過すれば来場者も帰りだす。配達の依頼も徐々に徐々に増えてきた。
今日は、配達をシャイニーとコハクとパイに任せ、俺は事務所で仕事をしている。
「では、お荷物をお預かりします。ありがとうございました」
「料金は二〇〇〇コインです。確認します······はい、確かにございます。それではこちらが控えの伝票です。ありがとうございました」
ミレイナもキリエも仕事用スーツで受付をしてる。そして、預かった荷物をブーさんが倉庫に運び、地区ごとや日付毎に分けて管理してる。ウンウン、いいねいいね。会社っぽいね。
「それにしても·········」
俺の視線は、ロビーの一角に向けられる。
そこは、簡易的な売店。ブーさんやコハクの作ったぬいぐるみや木彫りを売りに出すスペースだ。
「ぬいぐるみが一つに木彫りが一つですね。合計で一八〇〇コインです。ありがとうございました」
なんか、めっちゃ繁盛してる。
売り子のリーンベルさんの手際の良さがなかったら、かなり忙しいだろう。朝のラッシュ時の駅のホーム売店みたいな盛況ぶりだ。
売店には荷物を預けた人が立ち寄るし、中には荷物を預けずに売店が目当ての人も来る。フードフェスタが始まって二週間後くらいからお客様が戻り始め、それに合わせて売店も賑わい始めた。
最初は、常連さんが見慣れないスペースに興味を持って、冷やかしをする程度だったが、しろ丸ぬいぐるみの精巧さや、コハクの作ったアクセサリー、ブーさんの作った魔竜族の伝統衣装などの出来栄えに興味を持った客が買い、徐々に徐々に買い物客が増えていった。
中でも目玉商品は、やはりしろ丸ぬいぐるみ。小さい子へのプレゼントや、発送する荷物と合わせて送るなんて人もいた。
「·········フッ」
あ、ブーさんが売店見て微笑んだ。
となると、少し問題も出てくる。
午前中のお客様が捌けて、俺は売店に向かう。
「おぉ、かなり売れてる······」
「はい。ぬいぐるみは完売、木彫りとアクセサリーも在庫が残り少ないです。衣装の方は売れるのですが、値段の高さもありまだそれほどでは······それと」
「ええ、俺も思ってました」
リーンベルさんは、売り子だから気がついている。というか見てれば誰でも気が付くだろうな。
「少し、ロビーじゃ狭いですね」
そう、販売スペースが狭い。まだ開業して二〇日ほどなのに。
ぬいぐるみも売れるしアクセサリーや服も売れる。朝なんてお客様が長蛇の列を作る日もあった。
すると、背後からブーさんとキリエが現れる。
「社長、受付をしながら見ていましたが、やはりスペースに限界があるかと思います」
「う〜ん、もともと売店なんて考えてなかったし、ロビーの一角じゃ無理があるな······」
「社長。ぬいぐるみの補充はどうする?」
「ええ、お願いします。たっぷりと」
「わかった、任せろ」
ブーさんは、のっしのっしと小屋へ戻る。その足取りが嬉しそうなのは気のせいだろうか?
すると、お盆にカップを載せたミレイナが来た。
「お疲れさまですリーンベルさん。お茶をどうぞ」
「まぁ、ありがとうございます。ミレイナさん」
リーンベルさん、立ちっぱなしだしな。ミレイナのお盆にはカップが三つ、つまり俺とキリエの分もあった。
「まさか、ぬいぐるみがここまで売れるとは。どうしますか社長。ここで売るより、小売店と契約するというのは」
「······駄目だ。それだとリーンベルさんの仕事がなくなる」
「っ······失言でした。申し訳ありません」
「いいえ、お気になさらず。ですがコウタ社長、私のことをお考えの上での決断なら、考え直して下さい。会社に迷惑を掛けてまで続けたいとは思いませんので」
「いや、そうじゃないんだ」
ここまで売れるなら、小売店と契約するのも一つの手だ。だけど、せっかくブーさんやコハクが心を込めて作った品を、他社が売るなんて何か嫌だ。ってか完全にワガママだよな、これ。
だから、俺は前から······というか、売店を作ったときから考えてたことを言う。
「よし、売店専用の建物を建築しよう」
幸い、土地はまだ余ってる。
俺の考えは、柵に沿うような横長の建物だ。その窓にしろ丸ぬいぐるみを並べれば、道路を通る人たちからも、しろ丸ぬいぐるみがよく見えるはず。敷地は広いし、横長の建物なら十分作れるだろう。
「キリエ、建築会社に連絡を取ってくれ。善は急げだ」
「わ、わかりました。行ってきます」
キリエは、ヘルメットを持って外へ。スクーターで出ていった。
運送会社の敷地に、売店という名のファンシーショップがあれば、女性客も増えるだろう。
「コウタさん、もしかして最初から考えていたんですか?」
「まぁね。いろいろ町を見て思ったけど、アクセサリー系の店ってスターダストくらいで、あとは露店ばかりじゃん。せっかくゼニモウケの中央区に会社があるんだし、ぬいぐるみや服が売れるなら店を出して本格的にやってみようかなって」
純粋なアクセサリーショップって、実はあんまり見たことがない。それこそスターダストくらいしかない。
もしかして、他社にウチの商品を卸しても、スターダストのブランドが強すぎて売れない、なんてことになるかもしれない。だったら、オリジナルブランドでこの業界に参入するのも悪くない。こっちは魔族のブーさん、コハクのブランドで勝負だ。
ミレイナから聞いたが、スターダストのアクセサリーは、宝石やネックレス、ブレスレットなどの高級品が多く、その一方でストラップみたいな手軽に持てるアクセサリーが少ない。なので、ケータイに付けるような安いアクセサリーを中心に揃えてみたいな。もちろん良心的な値段で販売する。
問題は、ブーさんやコハクにかかる負担だけど。
「ちょっとブーさんのところへ行ってくる」
俺はブーさんの小屋へ向かう······あれ、なんか思いつきそうだ。
ブーさんの部屋では、ブーさんがぬいぐるみを縫っていた。それにしても、あんな岩石を彫刻したような手で、よくぬいぐるみを縫えるよな。
「ブーさん、ちょっといいですか」
「······む、どうした社長」
「あのですね、実は·······」
俺は、外に新しい売店を作る計画を話した。
「······なるほどな。つまり、商品を増やし規模を拡大するということか」
「は、はい······その、ブーさんには負担がかかりますし、倉庫番としての仕事もあるので、その」
「いいだろう。実は、試してみたい物がまだまだある。服やぬいぐるみだけではない、カバンや靴も作ってみたくてな。それと帽子も」
ブーさん、めっちゃノリノリでした。
いやでもさ、さすがに大変じゃね?
「で、でも、その、大変じゃあ?」
「問題ない、時間なんていくらでもある。そういえば社長は知らないようだが、魔竜族は三〇日に一度だけしか眠らん。コハクはハーフだからその特性は引き継いでいないがな」
「······ま、マジですか?」
「ああ。魔竜族は戦闘に特化した種族だ。休まず戦えるように、だろうな」
ま、魔竜族すげぇ。ってかブーさんすげぇ。
「魔亀族は頑丈な甲羅を持ち、皮膚が鉄のように固くなる特性がある。魔虎族は嗅覚に特化した種族だ。魔鳥族は翼を持ち、空を飛べる。そして魔竜族は身体能力が高く、不眠不休で戦える特性を持つ。覚えておいてくれ」
「は、はぁ······」
「くくく······となると、買い出しに出かけねばな。社長、楽しみにしてくれ。オレとコハクの作る商品は、人間界でも通じるとな」
ブーさん、めっちゃやる気満々だ。
それから、トントン拍子に話は進んだ。
キリエが連れてきた建築会社······このオフィスを作った建築会社と話をして、建築会社が保有する図面をいくつか見せてもらった結果、敷地内に収まる大きさの横長の建物を建築してもらうことになった。
ブーさんは、一心不乱に作業を続け、コハクも混ざってキーホルダーや木彫りのしろ丸なんかを作ってる。
売店の建築は二日後に始まり、フードフェスタの終わりまでの完成を目指して作業が始まる。もちろん、その間も会社の営業はしつつ、新たに建築される売店の宣伝もする。
フードフェスタも、終わりが近い。
そして俺の知らない場所で、事件があった。




