253・トラック野郎、休日⑤
シャイニーと一緒にオフィスへ戻る途中。
「ねぇコウタ、あそこ行こっ!!」
「またかよ······これで三軒目だぞ」
「いーからいーから、ほらほら」
シャイニーは俺の腕を掴み、おでんの屋台へ引っ張って行く。というか異世界のおでんってかなり美味そう。
「ほら、アタシが奢ってあげる」
「マジ? というかここまでの三軒は全部俺だけどな」
「うっさいわね、男が細かいこと気にしないの。ね、しろ丸」
『うなーお』
く、しろ丸を味方につけやがって。
でもまぁ、奢りなら別にいい。異世界のおでん屋台は日本とそう変わらない。だし汁に浸かった野菜やたまごがいい色になっている。
「う〜ん、熱燗が欲しくなる」
「アタシ、たまごとつみれとはんぺん、あとタコもちょうだい」
おいおい、異世界にもはんぺんとかつみれがあるのか? もしかして俺がわかりやすいように、日本語に翻訳されてるのかな?
今更だが、なんで日本語通じるんだろう。生き返ったときに神様が翻訳機能を搭載してくれたのかな。
「じゃあ俺は、大根と糸こんにゃく、あとつぶ貝にたまごで」
「はいよ」
おでん屋台のおばちゃんは、使い捨ての入れ物に具材とだし汁をたっぷり注いで俺とシャイニーへ。
「いっただきまーっすっ!!」
「いただきます」
俺はさっそく大根にかぶりつく······うぅん、だし汁が染み込んで絶品ですな。熱燗と一緒にいただきたい。
「ほらしろ丸、あーん」
『なーう』
シャイニーはしろ丸にはんぺんを食べさせていた。よし、俺も糸こんにゃくをしろ丸にやろう。
こんな感じで、シャイニーと寄り道しながら帰路へついた。
あと少しでオフィスというところで、シャイニーが言った。
「あ、アタシ、アレクシエルのところへ行くわ。この双剣を見せるって約束したのよね」
「え、マジで? 見せていいのか?」
「うん。最初はムカついたけど、そんなに悪い子じゃないしね。それに······」
「それに?」
「······やっぱ内緒」
シャイニーは、しろ丸をモフモフしながら微笑む。くそ、なんか可愛いじゃねーか。
それからオフィスに到着し、敷地内のアレクシエルのラボへ。
ドアをノックすると、リーンベルさんが迎えてくれた。
「コウタ社長、シャイニーブルー様、ようこそお越し下さいました」
「どうも、アレクシエルはいますか?」
「約束通り、剣を見せにきたわよ」
すると、リーンベルさんは少し困ったような表情をする。
「ええと、いるのはいるんですが······どうやら何か閃いたようで、ずっとラボに籠もりきりなんです」
「何よそれ? まぁいいわ、とにかく案内してよ」
「はい。ではどうぞ」
リーンベルさんに案内され、二階のラボへ。
ドアをノックするが返事はなく、仕方なくそのまま入室した。
「うわっ、なんだこの部屋」
「羊皮紙だらけじゃん、きったないわねぇ」
部屋は、書きかけの羊皮紙が散乱し、作業机には作りかけのパーツみたいな物がバラバラに置かれ、当のアレクシエルは別の机の上で図面を引いていた。
長い赤髪は適当なポニーテールに結わえ、しわくちゃの白衣を着て頭をボリボリ掻いている。女の子にあるまじき姿だ。
とりあえず、俺は話しかけてみた。
「おい、アレクシエル」
「······ダメ、魔力の吸収スキーム······形状と、発動の魔術方程式······それに、神核から吸収したエネルギーを循環······鎧の形状と付与効果······違う、方程式が違う」
ぜーんぜん聞いてない。ワケわからん単語をブツブツ呟きながら、新築祝いにプレゼントしたボールペンで羊皮紙に何かを書きなぐってる。
するとシャイニーが顔をしかめながら言った。
「ちょっとアレクシエル、剣を見たいんでしょ? アタシが来てあげたのに無視すんの?」
「剣っ!? そうだシャイニーの剣見せて!! 核から魔力を吸い上げて循環させる構造のヒントっ!!」
「ちょ、こらっ、わわっ!?」
アレクシエルが食いつきシャイニーに抱きついた。これにはさすがのシャイニーも驚いたのか、アレクシエルを抱きしめたまま転倒した。赤い髪と蒼い髪が混ざり、とてもキレイな······そうでもないな。
「いたた······もう、危ないでしょ!!」
「ご、ごめん······って、剣見せて剣!!」
「落ち着けっての、ってアンタ臭いわよ? 風呂入ったの!?」
「そんなことより剣!!」
「ダメ、臭いやつには見せない触らせなーい。リーンベル、コイツを風呂に入れて」
「はい、畏まりました」
「ちょ、こらリーンベル!! 離しなさい!!」
アレクシエルは、リーンベルさんに引き摺られて行った。どうやらアレクシエルの気分転換とリフレッシュのために言ったらしい。シャイニーなりに気を使ってんだな。
「じゃ、アタシたちは待ってますか」
「だな」
『なうなーう』
いつの間にかしろ丸は、ソファにあったしろ丸ぬいぐるみと戯れていた。
待つこと三〇分。しろ丸をシャイニーと一緒に撫でていると、髪を濡らしたままタオルで拭っているアレクシエルが来た。
赤いキャミソールに下は短パンのラフなスタイルで、子供なのにやけに色っぽい。
「あーさっぱりした。リーンベル、ジュースちょうだい」
「はい、ただいま」
アレクシエルはソファにドカッと座ると、しろ丸ぬいぐるみを抱き寄せる。
「ふぅ、お風呂入ったら落ち着いたわ。さっそくだけどシャイニー、剣を見せて」
「はいはい、ホントせっかちなコね······」
シャイニーは、背中の双剣を抜くとテーブルの上に置く。するとすかさずアレクシエルがナルキッスを手に取った。
「······ふむ、核から魔力を吸収し、剣全体に循環させてるのかしら······それにこの材質、あたしの使ってる『アンフィニウム』より純度が高い。あたし以外でこの金属を精製できるなんて······」
まーたブツブツ言ってる。こうして見るとコイツも研究者なんだな。
すると、リーンベルさんがオレンジジュースを持ってきた。もちろん俺たちのぶんも。
「ねぇシャイニー、少し詳しく調べたいから、もうちょい貸してくれる?」
「いいけど、どれくらい?」
「うーん······一日」
「いいわよ。その代わり、今日はここに泊まるから」
「え、泊まるの?」
「ええ、別にいいでしょ?」
「あ······う、うん」
うーむ、俺の存在が希薄になってる。なんかこの二人仲良くなってるし。
「じゃ、じゃあ、さっそく作業を始めるわ。リーンベル、お客様の寝室を頼むわね。シャイニー、魔力の流れを観測したいから少し手伝って」
「はい、アレクシエル博士」
「いいわよ、こうなりゃとことん付き合ってやるわ」
どうやら俺は必要ないみたいだ。
俺は張り切るアレクシエルとシャイニーを横目に、リーンベルさんに頭を下げてラボを後にした。
オフィスに帰ると、ブーさんの部屋からカンカン音がした。そういえば、彫刻がどうこう言ってたっけ。
少しだけ部屋を覗きに行くと、コハクと鉢合わせした。
「あ、ご主人様。おかえり」
「ただいま······それ、彫刻か?」
「うん。しろ丸」
コハクが持っていたのは、木彫りのしろ丸だった。
台座の上に、可愛らしい木彫りのしろ丸が見事に彫刻されている。しかも上手いし。
「これからニスを塗って乾かすの」
「へぇ、マジで上手いな」
「えへへ、完成したらご主人様にもあげるね」
「ああ、ありがとう」
コハクは嬉しそうに外へ出た。どうやらニス塗りは外でやるらしい。
部屋の中からはまだ音が聞こえたので、ブーさんが彫刻を彫ってるんだろうな。少しだけ覗いてみるか。
そして、俺は後悔した。
「墳ッ墳ッ墳ッ墳ッ墳ッ墳ッ墳ッ!!」
上半身裸のブーさんが、巨大な丸太をノミとハンマーで彫っていた。しかも彫ってるのは、巨大なしろ丸だ。
大の男が彫刻でしろ丸を作るとは······相変わらずこの人は読めない。
邪魔するのも悪いし、俺はそっと部屋を後にした。
しろ丸を抱え、俺は自室に戻ってきた。
「······っくぁ」
背伸びをして部屋のソファに座ると、しろ丸が膝の上でコロコロ転がり甘えてくる。
「ははは、なんか疲れたな」
『なうなうなうー』
これが、俺の日常だ。
戦いなんてない、仕事をして休日には町をブラついて買い食いし、また家に帰ってくる。
明日からまた仕事。多分お客様は少ないかもしれないし、来ないかもしれない。でも決められた勤務はちゃんとこなす。
『うなーお』
はぁ、なんか眠くなったきた。
俺はしろ丸を抱え、ソファに横になる。
「晩飯まで寝るか······」
『うなーう』
俺の意識は、闇の中へ落ちていった。
このフードフェスタに、危険が迫ってるともしらずに。




