251・トラック野郎、休日④
俺は、新しい『七色の冒険者』の『藍』である、コノハナサクヤことサクヤを連れて歩いている。ってか気になっていたけど、この子が着てる服とか、どう見ても着物だよなぁ。
「なんじゃ? 吾輩の顔に何か付いとるかの?」
「あ、いや……珍しい服装だなって」
「ほう!! コウタ殿は中々見所があるのう。我等『ワ族』の伝統衣装に目を付けるとは」
「……ワ族?」
聞き慣れない言葉に、思わず聞き返す。族ってことは部族なのかな?
「ふむ、ワ族を知らぬのも無理はないのう。我々ワ族は外部との交流が殆どない部族なのじゃ。ここから遥か東にある大国、『ワ大国ヤマトナデシコ』という国を築いて暮らしておるのじゃ」
「え……や、やまとなでしこ?」
「うむ。聞いて驚くなよ……ヤマトナデシコを興した初代『殿様』は、異世界より来たりし伝説の勇者なのじゃ!!」
「はぁ……」
つまり、日本人が作った国で間違いない。ヤマトナデシコとか殿とか、確定だろ。
「さらに!! 吾輩は勇者の血を引きし『将軍一家』の出身なのじゃ!! 伝説に伝わる勇者の武具である『三将軍刀』の一本である『逢魔我時』が何よりの証!!」
「は、ははぁーーーっ」
しろ丸を地面に置き、往来で腰の刀を抜くサクヤに、俺は思わず頭を下げる。すると、気をよくしたサクヤは興奮して剣を掲げた。
「そして見よ!! これが『逢魔我時』の真の姿である!! 『武神』……」
「何をやっている」
「あ、ニナ」
なんと、サクヤの背後にニナが現れた。
その目は不審者を見る目で、往来で刀を抜いて掲げるサクヤに向けられている。うん、こりゃ完全にサクヤが悪い。擁護のしようがないな。
「む、おぬしは誰じゃ?」
「往来で武器を振り回してる不審者を捕らえに来た冒険者だ。ギルドまでご同行願おうか」
「あ……」
ようやくサクヤは正気に戻り、慌てて刀を収めてしろ丸を抱き上げる。
「コウタ社長、一緒に来てもらえるな?」
「………はい」
よく見ると、周りは見世物でも見るかのように俺とサクヤを取り囲んでいた。
ギルドに連行された俺とサクヤは、熱い茶を出され取り調べを受けていた。
といっても、ギルド長の部屋でこれまでの経緯を話してるだけだけどな。
「……なるほど、タイタンが。だが、私は何の話も聞いていないぞ」
「たぶん、あのおっさん、何も考えずに連れてきたと思うぞ」
「………」
ニナが頭を抱えてしまった。たぶんそうだと思ってるんだろう。
タイタンは美女集団とともにホテルへ消えたと言ったら、ニナの額に青筋が浮かんだのも見間違いじゃない。俺は預かった書状を慌てて渡すと、ニナはゆっくりと読み始めた。
「……なるほど、要はコノハナサクヤ嬢を預かり鍛えて欲しいということか」
機密書類なので詳しい内容は教えてくれなかったが、端的に言うとそういうことらしい。
すると、しろ丸をなでていたサクヤが会話に参加した。
「タイタン殿は、ニーラマーナ殿なら吾輩を更に高みに押し上げてくれると言った。吾輩は強くならねばならん、ニーラマーナ殿、ご教授願う」
「む……」
サクヤはソファから地面に座り、手を付いて礼をする。
見慣れない行為にニナは少し驚いていたが、少し息を吐くと言う。
「……わかった。『藍』を継承した経緯もある、サクヤ殿は『ゼニモウケ・冒険者ギルド』の預かりとする。それに、鍛えるには最適なヤツもいるしな」
「……ニナ、まさか」
「ふ、コウタ社長ならわかるだろう?」
ああ、わかるに決まってるだろ。
「あれ、コウタじゃん、何してんの?」
ギルドの外にある修練場に、俺とニナとサクヤはやって来た。もちろん目的はシャイニーに会うことだ。
『なうなうー』
「わ、しろ丸。ふふふ、ふっかふかねぇ」
『なおーん』
サクヤの手から離れたしろ丸は、シャイニーの元へダッシュ、そして足下をグルグル回るとシャイニーが抱き上げてフカフカした。
シャイニーの足下には、大の字になって寝転ぶ少年と、女の子座りで肩で息をする少女がいる。どうやらこの二人に稽古でも付けていたのか。
「で、何か用?」
「ああ、お前に頼みがあってな。稽古を付けてやってくれ」
ニナはサクヤの背を押すと、サクヤはキッチリと礼をする。
「お初にお目にかかります。吾輩はコノハナサクヤと申す。サクヤと呼んでくれ」
「アタシはシャイニーブルー、まぁシャイニーでいいわ。で、稽古を付けるのはこの子?」
「ああ、サクヤ殿は『藍』の後継者だ」
「………ふーん」
すると、シャイニーの足下でダウンしてた少年少女が飛び起きた。
「あ、藍って……『七色の冒険者』かよ!? まだガキじゃねぇか!!」
「こ、こんな子供が……? ウソでしょ!?」
「おい、おぬしら……吾輩をガキと言ったか?」
すると、サクヤの雰囲気が変わった。
チリチリと殺気のような何かを纏い、少年少女を睨み付ける。すると二人はビクッと身体を竦ませた。
シャイニーは殺気を感じても平然としてる。
「サクヤだっけ、アンタいくつ?」
「ふん、吾輩は一五、とうに元服を迎えた」
「は? げんぷく?」
まぁ日本人じゃないとわからんだろうな。するとシャイニーはすぐに表情を切り替えて言う。
「ま、いいわ。アンタの服装と見たことある剣は気に食わないけど、相手してあげる」
「……無礼な、吾輩を愚弄するか!!」
「ふふ、可愛いじゃない。相手してあげる、お嬢ちゃん」
「ッ!!」
突如、俺の隣にいたサクヤが弾けた。
サクヤは一瞬でシャイニーの間合いに入り、抜刀した。だが、サクヤの『逢魔我時』はシャイニーの『ナルキッス』で受け止められる。
「驚いた……太刀筋もあの女そっくりね」
「貴様……」
あの女とは、アインディーネのことだろうか。
サクヤはシャイニーから距離を取ると、剣を再び鞘に収める。そして帯から鞘を抜くと刀の本体を左手で掴んだ。
「見せてやる、ヤマトナデシコに伝わる『ヤマト流帯刀剣術』を!!」
「ふふっ、遊んであげる」
サクヤは再びシャイニーの間合いに入ると、剣を抜かずに鞘で突きを繰り出す。
「疾ッ!!」
だが、シャイニーは身体を捻り突きを回避、捻った勢いに任せ、『シュテルン』での峰打ちを繰り出す。
「カッ!!」
「ッ!?」
するとサクヤは、振り下ろされるシュテルンを垂直蹴りで蹴り上げた。サクヤのヤツ、突きを繰り出した体勢から垂直蹴りを繰り出すなんて、身体のバランス、体幹がかなり優れてる。
そして、垂直蹴りで蹴り上げた足を引き、逆にバランスの崩れたシャイニーに向かって突き出す。
「『甲真脚』!!」
「っと!?」
だがシャイニーは、もう一本の『セイレーン』を抜いて何とかガード。サクヤは蹴りの衝撃でバックステップしたシャイニーに追撃。抜刀体勢で地面を蹴る。
「『一閃迅』!!」
「っく!!」
真横に薙ぎ払われた高速の斬撃は、速度も相まってかなり鋭い一撃に見えた。だがシャイニーは双剣をクロスして防御、また後ろに下がる。
サクヤはそのまま追撃、刀で地面を掬い上げるように斬ると、土や礫が舞った。
「『土空閃』!!」
これにはシャイニーも目を見開き、真横に思い切り飛ぶことで土や礫の射程から逃れた……が、サクヤの狙いはまさにこれだった。
「『一の太刀・《兜》』!!」
「ッ!!」
真横に飛んだことと、土と礫に気を取られたシャイニーは、一瞬だがサクヤの姿を見失っていた。
サクヤは、一五歳ではあり得ない脚力と魔力を上乗せした足で、遥か上空にいた。
刀は逆刃になってることから、シャイニーを殺すつもりはないのだろう。だが、サクヤの狙いは肩……剣を握ることはできない。
上空からの奇襲による強烈な打撃、これがサクヤの最後の技。
だが、シャイニーは微笑んだ。
「『氷弾』」
ポツリと呟いたのは、詠唱破棄した初級魔術。
小さな氷の弾丸を、指定した方向に飛ばすだけで、殺傷力はほとんどない。
だが、上空から落ちてくるサクヤには効いた。なぜなら、落下の勢いに合わせ、小さな氷の塊が顔面に飛んできたのだから。
「なっ!?」
慌てて片手で氷を弾くが、もう遅かった。
両手で剣を頭上に構え、落下の勢いに合わせた兜割りなのに、片手を離すことで体勢が崩れた。
そして、着地まであと一秒もない。
「残念、アタシの勝ち」
サクヤは地面に叩き付けられ、首筋に剣を突きつけられた。
戦闘開始から終了まで一分弱、シャイニーの勝利だった。
あー……終わった。
サクヤがシャイニーに飛びかかったときはどうなるかと思ったけど、なんとかシャイニーが勝利して終わった。
するとシャイニーは、サクヤの首筋から剣を離しつつ言う。
「アンタ、攻撃が素直すぎるのよ。いくら速くても突っ込んでくるだけじゃアタシには届かないわよ」
「く……」
「でもまぁ、鍛え甲斐はありそうね」
「………」
シャイニーはサクヤに手をさしのべるが、サクヤはそれを拒否し立ち上がる。
「……ありがとうございました。ですが、吾輩への暴言の数々は撤回していただきたい」
「……わかったわ」
サクヤは一礼するとニナの元へ。どうやら今後のことを話すようだ。
すると、シャイニーは俺の元へ。
「なーんかワケありっぽいわね」
「だな……でも、気にしなくていいだろ」
「そうね。それよりコウタ、オナカ減ったしそろそろ帰ろう、途中で買い食いしたいわ」
「へいへい……」
シャイニーは、戦いの最中からボーゼンとしてた少年少女に何か言うと、二人は一礼して去った。
はぁ、なんか疲れたし腹も減ってきたぜ。




