249・トラック野郎、休日②
唐揚げは、露店で売っていた。
フライヤー魔道具で揚げたてを売ってる。しかも肉は高級なゲイルバードだ。もちろん購入した。
「あちちっ……うん、うんまゥ」
ほっくほくでジューシー、このゲイルバードは鶏肉なのに、濃厚な肉汁があふれ出るのが特徴だ。もちろんしろ丸にもあげる。
『なうなうー』
「ほら、熱いからな」
『なおー』
しろ丸も気に入ったのか、ホクホクした顔で食べてる。尻尾もフリフリしてるし、ご機嫌だ。
「あー……ビール飲みてぇ」
あっつあつの唐揚げといえば、キンキンに冷えたビールがよく合う。周りを見ると、冷えたエールを売ってる露店もあるが、酒を飲みながら町を歩くのはどうもなぁ。
仕方ない、普通に歩くか。
「よし、行くぞしろ丸。今度はあっちに行ってみよう」
『なう、なうなーう』
俺はしろ丸を抱え、再び歩き出した。
ちょっと歩いただけで、止まざるをえなかった。
「……………マジ?」
『うなー』
広場に繋がる広い道路を歩いていると、何やら騒がしかった。
喧噪というか、まるで火事でも起きて野次馬が騒いでるような騒がしさ。何事かと思っていると、すぐにその正体がわかった。
「あ、ご主人様」
「む……社長か」
ブーさんとコハクだ。というかメッチャ目立ってる。
なぜなら、ブーさんは5メーター近くあるクッソデカい丸太を肩で担ぎ、丸太の先にはこれまたクッソデカい風呂敷包みを背負ったコハクが座っていた。
『なう、なうなう』
「………………」
その怪力は、周囲の力自慢冒険者を唖然とさせる。袖のない胴着みたいな服から見える上腕二頭筋はガッチガチのムッキムキで、殴られれば災害級危険種すら絶命すると言われている。そしてその風貌は、見るもの全てを恐怖に陥れると言われた、魔竜族最強の『青龍王』だ。
そんな恐怖のおっさんは、とんでもない大きさと太さの丸太を抱えたまま、俺の近くで停まった。
「あの……これは?」
「よく聞いてくれた。実は材木屋で質のいい木を見つけてな……こいつを使ってコハクに彫刻を教えようと思ってな。よければ社長もどうだ」
「あー……いや、そのうち」
「む、そうか」
そして、丸太に座っていたコハクは風呂敷包みを抱えたまま飛び降り、俺に抱きついて甘えてきた。
「えへへ、ご主人様、しろ丸」
『なおー』
俺はこの風呂敷が何なのか気になったが、すぐにブーさんが答えてくれた。
「これは筒布だ。ぬいぐるみでほとんど布を使ってしまったからな、新しく買ってきた」
「はぁ………」
ホンット、この人っていろいろ規格外だ。
「コハク、行くぞ」
「はーい、おじさん。じゃあご主人様、しろ丸、またね」
「あ、ああ……」
コハクは再び丸太に飛び乗る。そして俺に会釈すると歩き出した。
というか……かなり通行の迷惑だよな、アレ。
さて、せっかくだし顔見知りに挨拶でもするか。
「ゴンズ爺さんの武器屋はこっちだっけ……」
しろ丸を抱え、俺はゴンズ爺さんの武器屋へ向かう。魔界から帰ってきて会ってないし、フラフラしてるだけだし、距離も近いし立ち寄って挨拶ぐらいはしておこう。
古いけどしっかりした造りの建物へ到着し、中へ。
「お、ここだ。こんにちはー」
『なうなーう』
店の中はガランとして、誰も居なかった。
いるのは、カウンターで新聞を読むお爺ちゃんことゴンズ爺さん。俺に気が付くと、にっこりと笑った。
「おお兄ちゃん、久し振りだなぁ。元気してたか?」
「お久しぶりです。まぁボチボチですよ」
魔界でのゴタゴタや、パイやブーさんの入社とかいろいろあって、精神的に疲れてるけどな。
「まぁ座れ、茶でも飲んでけ」
「どうも」
カウンター近くにあった椅子に座り、ゴンズ爺さんの許可を得てしろ丸をカウンターに載せる。するとゴンズ爺さんは、熱いお茶にどら焼きみたいなお菓子を出してくれた。ちなみにしろ丸にも同じどら焼きを別皿に出す。
「外が騒がしいからのぅ、茶菓子には困らんわい」
「あはは、確かに。いただきます」
『なうー』
しろ丸はどら焼きをガツガツ食べ始め、俺はお茶を啜る。渋みがあって美味い、寝起きに飲めば間違いなく目が覚めるだろう。
俺は、店内を見ながら質問した。
「お客さん、いないんですね」
「そりゃこの時期はなぁ。飲食店以外はみーんな閑古鳥が鳴いとるわい。冒険者たちは、この日のために貯めた金で豪遊するし、ギルドの依頼もゼニモウケ内の警備関連がほとんどじゃ」
「あ~……ウチの店も誰も来なくて」
「かっかっか、運送屋か。周辺の集落はみーんなこの町に来て出店を出したりしとるし、荷物を送ろうにもみーんなこのゼニモウケに集まっとる。お前さんとこもしばらくはヒマじゃろうて」
「はぁ……」
仕事がないのは大変だ。
ぶっちゃけ、金には困っていない。ダンジョンのお宝がトラックの地下ルームに大量に放置されてるし、キリエ曰く、換金すれば人生一〇回ほど遊んで暮らせるらしい。
でも、あのお宝に頼った生活はしない。それは俺の異世界スローライフとは違う。あのお金は非常用として残しておく。
「ところでお前さん……しばらく姿を見んかったが、どこに行ってたんじゃ?」
「ああ、ちょっと魔界に……じゃなくて、ちょっと遠い地域に配達へ」
「ほう、大変じゃなぁ……」
魔界なんて言っても信じるワケないし、そもそもそんなこと言う必要はない。
『なう、なうなーう』
「ん、食べたのか」
どら焼きを完食したしろ丸を一撫ですると、しろ丸はカウンターの上で丸くなる。するとそのまま眠ってしまった。
「あ、そういえば。ゴンズ爺さん、シャイニーの武具を作ってくれたんですよね?」
「ああ、そうじゃが」
「気になってたんですけど、コハクの武具もシャイニーの武具も、勇者パーティーと同じ鎧になれるんですよ、もしかしてゴンズ爺さん、アレクシエルと何か関係が?」
「アレクシエル? 誰じゃそれは」
「ええと、今の勇者パーティーの武具を作った『ルーミナス』です」
まさか、生き別れの祖父とかそんなオチか?
「わしは知らんぞ? それに、鎧になれるのはちゃーんと理由がある。実は、過去のルーミナスがこのゼニモウケに来たときに、チョチョイと教えてもらったんじゃよ」
「あ、そうなんですか……」
残念、俺の予想は外れた。どうやらアレクシエルとは関係なさそうだ。
すると、店のドアが開かれた。
「邪魔するぞ……む、コウタ社長か」
「お、久し振り、ニナ」
店に来たのは、巨乳ギルド長ニーラマーナことニナだった。
ニナはどうやら見回りの最中みたいだ。ニナにもお茶が出され、なんとなく三人で話をしていた。
「実は、護衛の依頼だったのだが、少し時間に余裕が出来てな。通常の業務もこうしてできるというわけだ」
「へぇ、ニナが受ける護衛ってのは、さぞかし重要人物なんだな」
「まぁな。だが、勇者パーティーに任せてきた」
「勇者パーティー?………そういえば、見慣れない女の子がいたな」
「会ったのか?」
「ああ、金髪の少女と一緒に町を回ってるみたいだったけど……」
「……そうか、楽しんでるようで何よりだ」
よくわからんが、あのヴァージニアとかいう少女が護衛対象らしい。まぁ仕事の話だし、俺には関係ないからあんまり深くツッコむのはやめておこう。
「そういえばコウタ社長、シャイニーブルーを借りてるぞ」
「え、シャイニー?」
「ああ、新人冒険者をしごいてもらってる」
そういえば、手紙にギルドへ行くって書いてあったっけ。
「最近、冒険者を志す若者が増えていてな、やる気はあるが礼儀と態度がなっていない者も多い、そこでシャイニーブルーが軽く相手をするというワケだ。あいつも楽しそうにやってるよ」
「あー……なんかわかるわ」
要は、生意気なガキにお灸を据える役ってことだろ。いかにもシャイニーが好きそうな役だ。
「報酬も用意してるのだが、あいつは受け取らなくてな……まったく」
「ははは、シャイニーは仕事ってより遊んでるようなモンでしょ。気にしなくていいと思うぞ」
「ふ、やはりそうか?」
ニナと他愛のない話をしていると、ニナは立ち上がった。
「さて、そろそろ行く。邪魔したなゴンズ」
「構わんよ。また来いニーラマーナ」
「ああ。ではコウタ社長、失礼する」
ニナはしろ丸を一撫ですると、店を後にした。
さて、俺もそろそろ行こうかな。
「じゃあゴンズ爺さん、俺もそろそろ失礼するよ。お茶ごちそうさま」
「ああ、いつでも来い」
寝てるしろ丸を抱きかかえ、俺は店を後にした。
さーて、もう少し町を散策してみようかね。




