248・トラック野郎、休日①
*****《コウタ視点》*****
今日は会社がお休みだ。客は相変わらず来ないけど休日はある。
基本的に、休日の朝食は前夜に確認する。俺の場合、一人の時は朝食を食べない場合が多かったが、ミレイナたちと一緒に暮らすようになってからは食べるようになった。だけどフードフェスタが開催されているこの時期は、みんな外で食べるようだ。
なので、俺は一人で惰眠を貪っていた。
「…………」
特に疲れてないけど、やたら眠いときってあるよね。
「………ん」
『なうー』
「ん……しろ丸?」
『うなーお』
すると、俺の布団の上にしろ丸がいた。
しろ丸の頭をフカフカなでて、俺はようやく覚醒する。
「あ、ふぁ……ん~、朝か」
『なうなう』
部屋のカーテンを開けると、すでに日は昇ってる。
日本時間に換算すると、一〇時を越えたあたりだろう。腹もイイ感じに空いていた。
『なう、なうなう』
「ん……なんだ、それ」
しろ丸がコンビニで買ったノートの切れ端を咥えていたので、しろ丸を抱えつつ紙を取る。すると、それはミレイナが残していったメモだった。
『コウタさんへ。出かけるのでしろ丸をよろしくお願いします。私とキリエとパイはスターダストへ、シャイニーは冒険者ギルドへ、コハクとブーさんは洋装店へ出かけます。帰りは遅くなるので、申し訳ありませんが食事はお願いします。ミレイナより』
つまり、久し振りに俺は一人か。
ミレイナとキリエとパイはスターダスト。女の子同士で仲良くお出かけなんて最近なかったもんな。買い物してランチして買い物して……いいね、楽しそうだ。
シャイニーは冒険者ギルド。そう言えば、ニナに依頼されて新人冒険者をしごいてるとか言ってたな。ニナとの確執がなくなったし、冒険者ギルドにも遠慮なく入れるようになってよかった。
コハクとブーさんは洋装店にお買い物。そう言えば、ぬいぐるみばかりじゃなくて、木彫りの置物や、魔竜族に伝わる伝統衣装を作るとか言ってたな。あくまで修行とか言ってたけど絶対ウソだろ。ロビーの売店スペースじゃ狭いかもな……この際、外に小さな店舗でも作ろうかな。
『なうなうなう』
「お、悪い悪い。というか俺としろ丸だけか……」
『なおーん』
「よしよし、そうだな……せっかくだし出かけるか。腹も減ったしな」
『なうー』
というわけで、着替えて出かけるか。
俺はありきたりなズボンとジャケットを着て、腰にガンベルトと護身用のベレッタを差す。アメリカの警官みたいでカッコいいよな。撃つ予定はないし、拳銃のないこの世界じゃ脅しにもならんけど。
財布を入れたショルダーバッグを背負い、しろ丸を抱える。
『なうなうー』
「よし、一緒に行くか」
『なおーん』
たまには一人で町をぶらつくか。チケットも何枚かポケットに入れて、気に入った店があったら入ってみよう。
というわけで、レッツフードフェスタだ!!
しろ丸を抱いたまま、俺は中央広場までやって来た。
この人だかりじゃトラックは使えないし、乗れても精々原付だろう。というか、ガレージの中にスクーターはなかった。どうやらミレイナもキリエもスクーターで出かけたようだ。
「さーて、何食う?」
『なうなう』
「ん、あっちか?」
とりあえず、中央広場をぐるっと周り、美味そうな食べ物があったら買うことにする。
相変わらず出店が多く、いろんな匂いがミックスして何が何だかわからん。歩く人たちもフツーに食べ歩きしてるしな。
ちなみに、ここは『ゼニモウケ・チューオー区』にある『チューオー広場』だ。その名の通りゼニモウケの中心で、各種ギルドや有名商店が並ぶ、ゼニモウケで最も栄えてるといってもいい場所だ。今更だが、少し外れとはいえ、よくあんな立地に会社を建てられたモンだ。
「……ん? あれは」
俺は、一軒の出店に集まる少年少女たちを見つける。
おいおい、ありゃ勇者パーティーじゃねーか。太陽、月詠、煌星の日本人トリオに、クリスとウィンクの異世界人……あれ、見たことない女の子もいるな。
少し近付くと、太陽が女の子と喋ってるのが聞こえる。
「見ろよヴァージニア、これはこうやって食うんだ!!」
「わぁっ!!」
太陽が焼きそばを豪快に啜り、女の子は目をキラキラさせてる。
「ったく、女の子にそんな意地汚い食べ方を教えないでよ」
「うふふ、ですが美味しそうな焼きそばですね……焼きそばパンはないのかしら?」
月詠は袋に入ったプチシューみたいなのを食べ、煌星は焼き芋みたいなホクホクした物を食べてる。
「ヴァージニアヴァージニア、この唐揚げも美味しいよっ」
「ふむ、このクレープも絶品です」
クリスは唐揚げ、ウィンクはクリームたっぷりのクレープを勧めてる……仲いいな。もしかして新たなハーレムか?
『なうなうなうっ!!』
「え?……あ、しろ丸におにーさんっ!!」
あ、クリスに気が付かれた。まぁいいや、別に隠れるようなことでもないし、挨拶だけでもするか。
勇者パーティーは俺のそばへ来ると、クリスがしろ丸を構い始めたので、そのまま手渡す。
「えへへ~、しろ丸~」
『なうー』
「ったく、相変わらず元気だな」
しろ丸に頬擦りするクリスを置いて、俺は太陽たちに挨拶し、最後に初めて見る女の子を見た。
「あ、紹介するぜおっさん、この子はヴァージニア、わけあってオレらと一緒に観光してるんだ」
「初めまして、ヴァージニアと申します」
「どうも、コウタです」
うーん、可愛いな。やっぱり太陽の嫁なのかな?
女性陣はしろ丸に持っていたお菓子や唐揚げを食べさせ始めたので、俺は太陽に顔を寄せる。
「………もしかして、お前の嫁か?」
「………まだ。でも、振り向かせてみせるぜ」
「おお、さすが勇者様」
ヴァージニアは、初めて見るしろ丸に少し興奮してる。クリスから受け取り、ギュ~ッと抱きしめてフカフカしていた。
「あれ、カイムは?」
「ああ、あいつならゼニモウケの地理を把握するとかで、都市中を飛び回ってるよ。有名な商家や名家を調べたり、必要そうな情報を集めるってさ」
「忙しそうだな……」
「あいつ、知らない都市や地域を調べて情報を集めるのは、三度の飯より好きだって言ってたぜ。逃げそうもないし、放っておく」
すると、女性陣がこっちに来た。
「太陽、次はあっちに行くわよ。まだ行ったことのないお店や飲食店もあるからね」
「おう、ってか月詠、なんだかんだでエンジョイしてるよな」
「う、うっさい!!」
月詠からしろ丸を受け取ると、勇者パーティーは去って行った。
男一人に女五人……変なヤツに絡まれないといいけど。
「じゃ、俺らも行くか」
『うなー』
実は、クリスの食べてた唐揚げが気になってる俺だった。
どこで売ってるのか、探してみるか。




