25・トラック野郎、面接する
異世界の勇者という不吉な単語を聞きつつ、俺はイヤな予感がビンビンとした。まるで俺の異世界スローライフをぶち壊すような、不吉な予感だ。
「ところでコウタ様。不思議な服を着てますね……『アガツマ運送』?」
「あ、ああ。俺たちは運送会社をやってるんだ。ゼニモウケ王国冒険者ギルドの依頼で、ギルド長宛てに書状を運んだんだ」
「なるほど。では仕事はもうおしまい。なので町を観光してから帰ろう……そういう事ですね?」
「そうだけど」
「ところでコウタ様。コウタ様は社長、エロ可愛いお嬢さんは秘書、蒼い人はヒラの護衛ということでしょうか?」
「………そうだけど」
「ちょっと!! 誰が蒼い人よ!!」
「え、エロ可愛いお嬢さんって、私ですか?」
的を得た質問だ。確かにミレイナはエロ可愛い。スタイルもいいし将来有望だ。ミレイナちゃんの旦那になるヤツは幸せ者だ。くそったれ、なんか悔しい。
「コウタ様。何かが足りないと感じませんか?」
「え?」
「社長であるコウタ様。可愛い秘書のお嬢さん、ヒラの蒼……会社を経営するのに必要な人材。それは経理です」
経理。
確かにそうだ。会社が軌道に乗るまではこうしてみんなで出かけたり出来るけど、忙しくなればお金の管理だってやらなくちゃならない。領収書の管理や経費の計算、みんなの給料計算だってしなくちゃいけない。全部タマに任せるのもいいけど、タマは字が書けないし何よりタマは運送で働いて貰ってるからな。
俺のイメージでは、俺とシャイニーで運送、ミレイナが会社で経理や留守番だ。名のない運送屋だし、最初はゼニモウケ内の運送を中心にこなし、大型の依頼はもっと実績を作ってからだ。
今回は初依頼だったからここまで来たが、次からはゼニモウケ内を中心に依頼をこなす。
でも、不安なのは俺やシャイニーが運送に出かけたら、ミレイナが1人になっちまう。
「コウタさん?」
「どうしたのよ、いきなり黙り込んで」
「いや、ちょっとこれからの会社について考えてた」
「それでコウタ様。提案なのですが」
手を組んで祈るようなポーズで、キリエは和やかに言った。
「私を雇いませんか?」
「は?」
「はぁ?」
「え、ええっ!?」
キリエは意味不明なことを言い出した。
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「いや、あんたはシスターだろ?」
「はい。ですが妹のクリスは楽しそうに勇者と出かけ、ぶっちゃけ羨ま………いえ、貴方との出会いは運命だと、私に神が囁くのです。祝福を受けし者に尽くせと」
クッソ嘘くせぇ。旅に出た妹が羨ましいだけじゃねぇの?
「私は学問を修めています。お役に立てるかと」
「いやいや、シスターの仕事は良いのかよ?」
「はい。神に仕える身ではありますが、この大聖堂にいつまでも囚われたくありませんし、運送屋なんて楽しそうだし色んな場所に遊びに行け………いえ、一度運送屋をやってみたかったんです」
「ウソつけ」
こいつ、欲望丸出しダメシスターじゃねーか。
だけど可愛いんだよなぁ。白髪に碧眼、スタイルは厚手のシスター服で分からないけど、逆にそれがいい。見えないけど見てみたい、だけど見えないから想像で補う……これもまたいい。
「ちなみに私、スタイルには自信があります。気になりますか?」
「そりゃもちろん……って、何を言ってんだ」
「責任を取って頂けるのでしたら全てを見せますが。もちろん生涯的な意味で」
「マジで!?」
真剣に悩んでると、後ろから殺気が。
「アンタ………」
「コウタさん……?」
「うん。やっぱやめよう」
即否定。さすがに命はまだ惜しい。
シャイニーとミレイナちゃんがいるし、女の子の従業員は………待てよ?
もし男の従業員を雇ったら……事務所にはミレイナとそいつの2人きり?
「…………………」
もしミレイナとあ~んなことやこ~んなことをしてたら………俺は立ち直れないかも知れない。だったら、可愛い女の子を雇ってミレイナと一緒に仕事させた方が安心か? でも出会って数分の胡散臭いシスターを引き込むのもなぁ………悩む。
「言っておきますが、貴方に運命を感じたのは事実です。神に祝福されてると言うのもウソではありません。それこそ勇者以上の何かを感じます」
「そ、そうか。う~ん………」
「ちょっとコウタ、あんたまさか」
「私は………コウタさんに、社長にお任せします」
「ミレイナ、あんたまで……」
エレイソン大聖堂の壁画の前で出会ったシスターの『キリエ・エレイソン』という少女。出会ってすぐに入社希望を出してきた胡散臭いシスター。そして妹には『聖女』と呼ばれてるクリスがいる。わかってるのはこれくらいか。
「よし、じゃあいくつか質問するぞ。歳はいくつ?」
「18です」
「家族構成は?」
「妹と私だけです。両親は不明で、赤ん坊のクリスを抱いた私が大聖堂に放置されていたようです」
「けっこうキツいな……妹、クリスはいくつ?」
「16で、もうすぐ17になります」
「シスターを辞めて平気なのか?」
「はい。私の代わりなんて掃いて捨てるほどいます。むしろ私が居なくなってせいせいするんじゃないでしょうか。最近は子供の預かり所とでも思われてるのか、捨て子がとても多いので、大聖堂に隣接する宿舎はパンク状態です。クリスが喜んで出て行った理由の1つですね」
「その、計算とか文字は書けるんだよな?」
「当然です。私は全シスターの中でもトップレベルの頭脳です。だからこそシスター達の頂点である、この白服を着てるのですよ?」
「そんな理由が………あと、ゼニモウケが俺たちの拠点だけど」
「問題ありません。むしろ行ってみたいですね」
「…………」
さて、どうするか。
まさかの就職希望とは。まさにオーマイゴッドだぜ。
シャイニーは難しそうな顔してるし、ミレイナは真っ直ぐキリエを見てる。
「社長はアンタよ。好きにしなさい」
「私も、社長にお任せします」
俺が2人の顔色を伺ったのがバレたのか、答えてくれる。
まぁいいか。ここで出会ったのも何かの縁だ。
初依頼のお土産に従業員もゲットしたと思えばいい、会社の部屋は余ってるし、何より美少女が増えるのは嬉しい(本音)
「わかった………じゃあキリエ、採用だ」
「おぉ、ありがとうございます」
なんか反応が乏しいな。まぁこういう性格なのかも知れないが。
とにかく、新しい従業員だ。これからバリバリ働いて貰おう。
「では、引っ越しの支度をしますのでお待ちを。荷物は少ないので数時間で終わります」
「わかった。それより、挨拶とかはしなくていいのか?」
「ええ。だれも気にしませんから」
「そういう問題なのか……?」
それはそれで寂しいな。そう思うと、キリエは音を立てずに去って行った。マジで不思議なヤツだな、掴みどころが無いというか。
「全く、何なのよアイツは」
「ええと······これから一緒に働くんですよね。キリエさん」
「ああ。唐突過ぎるけどな、悪い奴には見えないし、会社のこれからを考えると人材は必要だしな」
「それはそうだけど、何であんな怪しいシスターを?」
可愛いから、とは言えなかった。
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大聖堂内を見学してトラックへ戻ると、トラック前にキリエがいた。しかも普通の女の子らしい服を着て、足元には大きな旅行カバンが置いてある。
「早いな」
「ええ。私物はこれだけですし」
「いや、挨拶とかは?」
「軽く済ませました。どうやら他のシスターは、大部屋が空くのが嬉しいようでしたよ。私とクリスの2人だけで使っていた部屋ですからね、恐らく取り合いになってると思われます」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。聖女クリスという肩書のおかけで不自由しませんでしたからね。そのクリスが居なくなり、私も居なくなれば喜ぶのは当然でしょうね」
「なんかそれも淋しいな······」
「私は別に。むしろ新しい生活にワクワクしてます」
「ワクワクねぇ······アンタ、そんなキャラには見えないけどね」
「いいえ、凄くワクワクしてますよ? それにやはり私の目に狂いはありませんでした。貴方が神に愛された存在という事が改めてわかりましたよ。この聖遺物を見た瞬間、貴方の物と確信しましたから」
キリエはトラックを見て手を合わせ祈る。
聖遺物ってかトラックだけどな。むしろ俺の相棒で商売道具。
「改めて、私はキリエ・エレイソンと申します。これから『アガツマ運送』にお世話になります」
「私はミレイナと申します。よろしくお願いしますね」
「アタシはシャイニーブルー。ま、シャイニーでいいわ」
「ミレイナ様と、シャイニー様ですね」
「あの、様は付けなくてもいいです。同僚ですので」
「そうですか? ではミレイナとお呼びします。私もキリエで構いませんので」
「アタシもシャイニーでいいわ。年下みたいだけど許したげる」
「年下?······失礼ですがスリーサイズは?」
「歳となんの関係があんのよそれ‼」
シャイニーとキリエはワイワイ騒ぎ、ミレイナが2人の間に立って仲裁する。みんな美少女だしはっきり言って嬉しい。まさかこの俺が会社を興して美少女従業員たちを雇うなんて未来があっただろうか。
新たな期待を胸に、俺は美少女たちの輪に加わった。