247・ソーラー・オブ・マイネリーベ③/サプライズ
*****《勇者タイヨウ視点》*****
いやぁ、ヴァージニアとのデートは楽しいなぁ。
興味のある露店に立ち寄って買い食い、ヴァージニアの行きたい店であるスターダストでお買い物、アクセサリーや民族衣装みたいな服を売ってるお店を巡る。
「ねぇねぇタイヨウ、次はあっち!!」
「おーし、行こうぜ!!」
ヴァージニアは、清楚な見た目だが非常に活発だ。
気になる店があればフラっと立ち寄り、美味しそうな匂いがあればそこへ向かう。見る物全てが珍しいのか、ぶっちゃけ落ち着きがない。
ちなみに、買った物は全部オレが持ってる。ヴァージニアは遠慮したが断固拒否、荷物は全てオレが持つ!!
ヴァージニアと町を回ること数時間、買い食いはしてるが歩きっぱなしなので腹は減る。そろそろちゃんとしたメシを腹に入れる時間のようだ。
「ヴァージニア、昼飯にしようぜ」
「うん、タイヨウは何が食べたい? ここは私が奢ってあげる」
「え、いやいいって」
「ダーメ、荷物は持ってもらってるし、お礼ぐらいさせてよ」
うーん、こんな笑顔で言われたら断れん。
「じゃあ……あそこの喫茶店でランチにしようぜ」
「うん!!」
オレが目を付けたのは、オープンテラスのある喫茶店。
パラソルの下に可愛らしいテーブルと椅子が並び、男一人で入るには勇気が必要になる店だ。だがヴァージニアと一緒なら、カップルと思われる……ぐふふ。
オレとヴァージニアは喫茶店に入り、オープンテラスの席についた。
すると、店員が注文を取りに来る。
「じゃあオレ、この店の登録料理で」
「あ、じゃあ私も」
「畏まりました。少々お待ちください」
登録料理なら外れはないだろ。チケットも運営委員会のテントで買ったしな。
そして待つこと一〇分。運ばれてきた料理を見て驚いた。
「わぁ~、美味しそう!!」
「ま、マジか……これって」
「ん? タイヨウは知ってるの?」
「ま、まぁ……いや、この世界で見るのは初めてだけどな」
運ばれてきた料理は、『ハニトー』だった。
しかもデカい、ハチミツに生クリームにチョコもたっぷり乗ってる。こんなの食ったら胸焼けしそうだ。これとセットでブラックコーヒーが欲しくなる。
「いっただっきま~すっ!!……うん、甘くてフワッフワ、すっごく美味しい~っ!!」
あ、ヴァージニアはもう食べてる。
オレも食うか……全部食えるかな。
*****《ニナ視点》*****
ニナとメイは、ギルドの特別室で打ち合わせを行っていた。
「······よし」
「すまない、ニーラマーナ殿。全てはこちらの責任だ」
二人が行っていたのは、ヴァージニアが訪問予定のゼニモウケ有力者たちの確認作業。
ゼニモウケには無数の商家や名家が存在するが、やはり裏で悪事に手を染める輩は存在する。冒険者ギルドと、ゼニモウケの憲兵隊は連携をしつつ悪事を働く商家や名家を探っていた。
メイは、ゼニモウケの有力者たちとパイプを繋ごうと、これらの悪徳商人たちを確認せずに片っ端から挨拶をするために予定を入れた。そしてその予定表を共有せずにいたのが、裏目に出た。
ギルドの調査結果と挨拶予定の場所を照らし合わせ、危険がなければそのまま行く、裏が取れてない怪しい場所はキャンセル、粛清予定の商家は当然キャンセルと予定を見直した。
「·········ふむ、これは」
「·········」
その結果、実に八割の挨拶予定の商家がキャンセルになった。
つまり、ヴァージニアの予定は大幅に変更。
「く、私の見る眼の無さは恐ろしい」
「··········」
ニナはコメントできなかった。
確かに、メイの選んだ商家や名家は大物ばかりだが、まさかここまで粛清対象の家ばかりを狙うとは思わなかった。
だが、これではヴァージニアの予定は最終イベントの特別ゲストと、ほんの数件の挨拶回りだけになる。
「さて、どうするか······」
「メイ殿、提案が」
「む?」
ニナは、このポッカリ空いた予定を埋めるアイデアを提供する。実は、太陽と出会ったときに思い付いていた。
「ヴァージニア殿を、勇者パーティーに預けてはどうだろうか」
「······勇者、パーティーだと?」
「ああ。オレサンジョウ王国は中立国、そして人間界最強の勇者たちとパイプを繋げば、後々役立つと思うぞ」
「······なるほど」
確かに、悪い話ではない。
この人間界には、オーマイゴッドやホーリーシットのような対立国がいくつも存在し、それぞれが強大な武力を保有する。
中でも、オレサンジョウ王国は最強の戦力といわれる『勇者』を保有し、人間界最強でありながら、中立国として各国に名を知られている。
助けを求めれば手を差し伸べ、争いには一切関与しない。
そんなオレサンジョウ王国に所属する勇者が、ヴァージニアと一緒に町を散策している。
「歳も近いし、パイプとしてではない、いい友人として町を見て回る。それも立派な外交だと思う」
「······」
「それに、歳も近いメイ殿も護衛に付きやすいだろう」
「······ふむ」
メイはしばし考え、小さく頷いた。
*****《勇者タイヨウ視点》*****
楽しい時間は、あっという間に過ぎる。
ヴァージニアの自由時間は午前中だけだったが、とあるアクシデントで一日フルで使っていいことになった。なのでこうしてオレと町を巡っている。
だけど、その時間も終わりが近い。
「……暗くなってきたね」
「だな……」
時刻は、日本時間で午後六時前くらいだろうか。空はオレンジ色になっている。
「……私、帰らなきゃ」
「うん……送るよ」
オレの両手にはたくさんの荷物。どれもヴァージニアが自分で選び、買った物だ。
ヴァージニアは、楽しかっただろうか。
オレは、宿への道を歩きながら、ヴァージニアに聞く。
「ヴァージニア、オレと一緒で……楽しかったか?」
オレの前を歩くヴァージニアは振り返り、ニッコリ笑う。
「もちろん!! 私ね、同い年の男の子と一緒に遊んだの初めてだよ。すっごく楽しくて……ドキドキした」
「え……」
「えへへ……」
ヴァージニアの頬が赤いのは、夕焼けのせいだろうか。
そして、宿に到着した………してしまった。
宿にいた傭兵に荷物を預け、オレは宿屋の入口に立つヴァージニアに向き直る。
「今日は楽しかった……ありがとな」
「私も、タイヨウが一緒で楽しかった……」
オレとヴァージニアは、暫し見つめ合う。おいおい、これってもしかしてイケる? 出会って数時間でフラグ立った? いやもちろん大歓迎だけど……うむむ。
「あの、タイヨウ」
「あの、ヴァージニア」
「「あ……」」
見事にカブってしまい、オレとヴァージニアは笑う。
ちくしょう、しんみりしたくないが、言わないと。
「あの、ヴァージニ」
「あ、メイ!! ただいまーっ!!」
オレの背後から、ニーラマーナさんと怖い護衛の少女が現れた。
ヴァージニアはオレをすり抜け、メイと呼ばれた少女に抱きつく。
「こら、ひっつくな」
「えへへ、あのねのね、すっごく楽しかったの!!」
「落ち着け、全く……」
メイもどことなく嬉しそうに見える……なんだ、満更でもなさそうじゃん。
すると、ニーラマーナさんがオレに言った。
「護衛、ご苦労だった。勇者タイヨウ」
「いえ、オレも楽しかったです」
「そうか。ところで、キミに依頼があるんだが、聞いてくれないか?」
「え?」
ニーラマーナさんはメイを見ると、メイは小さく頷く。
「では、宿屋で話そうか」
「は、はぁ……?」
オレたち四人は宿へ。
そこで話した内容は、オレにとって驚きであり、ヴァージニアにとって最高のサプライズだった。
まさか、ヴァージニアと一緒に町を見て回ってくれなんて言われるなんてな……へへへ。
さーて、月詠たちに報告して、みんなに紹介しないとな。




