246・アレクシエル博士の発明②/天才の閃き
アレクシエルとシャイニーは、ドーナツを売ってる露店へ。
「な〜ににしよっかな〜♪」
「······」
「ほら、アンタも仏頂面してないで選びなさいよ。チョコにフルーツにシュガーに······よし、アタシはチョコにしよっと」
「······フルーツミックス」
「ん、了解」
シャイニーはドーナツを注文し、合わせてミックスジュースを購入する。そして、あちこちに設置してある空いたベンチに腰掛けた。
アレクシエルも、シャイニーの隣に座る。
「ほら」
「ん······」
ドーナツを受け取り一口食べる。すると砂糖とは違う甘さが口に広がる。
「う〜ん、美味しいわね」
「······」
「はぁ、アンタも仏頂面してないで美味しそうに食べなさいよ。アタシの奢りなんだから」
「ええ、ありがと······」
お腹は空いていたのでドーナツを完食する。研究疲れも溜まっていたので、甘い物はとても身体に染み渡った。
「はぁ、美味しかった」
「······うん」
「アンタ、何を考えてんの?」
「別に、あんたには関係ないわ」
シャイニーに言われたことが、胸に突き刺さっていた。
確かに、アレクシエルは一人だった。リーンベルは家政婦であり秘書だ。それ以上の感情はない。コウタにしても、ちょっと気になるお隣さんだ。それ以上でも以下でもない。
するとシャイニーは、独り言のように言う。
「さっきも言ったけど、アンタは昔のアタシに似てるのよ。意地っ張りで生意気で、何でも一人で出来ると思って······その結果、何度も死にかけて、でもこうして生きている」
「·········」
「アタシにはニーラマーナがいたからかな。ケンカもしたし立場上別れもした。でも今は仲直りして話す仲······アンタにはそんな人、いないの?」
「ふん、そんなのいないわよ」
「じゃあ、アタシがなってあげる」
アレクシエルは、思わずシャイニーの顔を見た。
「アタシだけじゃない、ミレイナもキリエもコハクもいる。たとえアンタが拒絶しても家に行けば会えるしね。どうせお隣さんだし」
「な······」
「アンタと話してよーくわかった。最初はムカつくし生意気だと思ってたけど、昔のアタシと同じ、他人との付き合い方がわからないのね」
アレクシエルの顔は赤くなる。そしてシャイニーから顔を反らした。
「改めて、アタシはシャイニーブルー。シャイニーでいいわ」
「あ······え」
シャイニーは、アレクシエルに手を差し伸べる。
するとアレクシエルは顔を赤くしたまま手を出し、指をワチャワチャと動かした。まるで握手すればいいのか、それとも恥ずかしくて手をどうすればいいのかわからないのか。
「ほら、握手握手。それと、自己紹介」
「う、あ、あたしはアレクシエル······」
「アレクシエルね、よろしく」
「う、うん」
戸惑いつつも、アレクシエルはシャイニーの手を握った。
まだぎこちないアレクシエルはシャイニーと露店を周り、コウタたちと合流した。
いつの間にか仲良くなり楽しそうにお喋りしてるコウタとリーンベル、最初に見た時より何故か大きく丸くなってるしろ丸を抱いたコハクがいた。
シャイニーはコハクに抱かれるしろ丸をなでる。
「……コハク、なんかしろ丸が大きく見えるけど」
「食べ過ぎた」
『なおーん』
普段の1・5倍は膨らんでいる。
アレクシエルもしろ丸をフカフカなでると、気持ちいいのか寝てしまった。
「さて、そろそろ帰るか。せっかくだし土産でも買っていくか?」
「えぇ? お菓子ならいっぱいあるわよ。あんま無駄遣いするとキリエが怒るわよ」
「ぐ……あ、そういえばキリエが言ってたな。会社で出してるお茶が切れたとか」
「確かにそんなこと言ってたけど、キリエが買うから別にいいでしょ。さっさと帰りましょ」
「いやでも、せっかく町に出たんだし……あんまキリエに任せっきりってのも」
「じゃあ買ってく? 銘柄とかわかんの?」
「………」
「アンタねぇ……」
「て、適当に買っていけばいいだろ」
「それこそムダ使いじゃん!!」
何の生産性もない話に、アレクシエルはうんざりした。
「あーもう、お茶なんていつでも買えるでしょ!! さっさと帰るわよ!!」
「うぐ……はーい」
「あはは、怒られてやんの」
「う、うるせぇ。はぁ……こんな時にケータイがあればなぁ。イヤホンマイクは耳に付けっぱなしだと鬱陶しいし、キリエに渡した予備は付けてないみたいだしな」
アレクシエルはコウタの耳を見ると、妙な材質の物体を付けているのに気が付く。
「ねぇコウタ、あんたの耳に付けてるのなに?」
「ん、ああこれか。あんまり詳しくは言えんが、離れた場所で話が出来るアイテムだ」
「………なにそれ? ダンジョンのお宝とか?」
「あー……まぁ、そんな感じ」
何故か目を逸らすコウタにアレクシエルはジト目を向ける。
離れた場所で話が出来る……少し興味があった。
「離れた場所で話……それを使えば、ここからコウタのオフィスにいる誰かと会話出来るの? そんなアイテム聞いたことないわ」
するとシャイニーとリーンベルも話に乗る。
「確かにね。上級魔術には通信魔術があるけど、消費魔力が大きいし長時間使えないし、緊急時にしか使えないのよね。魔力のないコウタでも使えるならアタシも欲しいわね」
「私も以前の職業で使っていましたが、やはり勝手が悪いですね。そもそも、使用者はもちろん会話相手も通信魔術を習得していなければなりませんしね」
コハクは興味がないのか、しろ丸を抱えたままボーッとしてる。するとコウタは独り言のように呟いた。
「さすがにトラックもケータイまでは出してくれないからな……」
「ケータイ?」
「ん、ああ……通信機器、まぁこれと似たようなアイテムだ」
アレクシエルが聞くと、コウタは適当に答える。
離れた場所でも相手と話せる道具……もし少ない消費魔力で使用できればかなり役立つ。
「……………………待てよ?」
通信魔術。
離れた場所でのやり取り。
そもそも通信魔術は、自身が作り出した通信用魔法陣を介して指定した相手の魔力を感知、そして相手が作り出した通信用魔法陣を介してやり取りをする上級魔術。
「通信………」
「アレクシエル、どうした?」
「どうしたのよ、あんた?」
「アレクシエル博士?」
「しろ丸、ジュース飲む?」
『うなー』
アレクシエル博士の身体に電気が走ったような感覚が来た。
「そう、か………そうか、そうかそうか!! その手があった!!」
「うおっ!?」
アレクシエルはコウタに抱きつき顔を上げる。
「そうよ、加工が無理なら力そのものを引き出して送ればいいんだわ!! 『神核』から魔力を吸収してその力を受信するアイテムに送る、そうすれば本人の魔力じゃないから消費も少ない……あり得ない出力の鎧身形態を維持できる!!」
アレクシエルは閃いた。
奇しくも、その技術はゴンズが『親愛双剣ナルキッス&セイレーン』に組み込んだ技術と同等の物であり、そこに通信魔術の理論を組み合わせた物である。
「つまり、受信アイテム……来た、来た来た来た、沸いてきたぁーーーーッ!!」
アレクシエルの叫びに全員がポカンとしていた。
これが『最終解放端末型神器』誕生の第一歩であった。




