237・それぞれの休日/ミレイナ編
休日のミレイナは、朝早くから掃除に励んでいた。
みんなで掃除をしたが、どうしても細かい箇所が気になってしょうがない。なので、今日は一日を使って自宅兼オフィスをピカピカにしようと息巻いていた。
他のみんなは個々で用事があるらしく、掃除をするのはミレイナ一人。というか、ミレイナが張り切ると他のみんなも掃除を手伝うと言いかねない。なのでミレイナは自室の掃除をすると言った。
朝は軽めに作り、お昼は個々で食べることにした。
シャイニー、キリエは外で。パイは勇者パーティー達と一緒、コハクはブーさんと一緒に居酒屋街の食堂に行くらしい。コウタは悩んでいたが、どうやらアレクシエルのラボで食べるようだ。
そしてミレイナは掃除の前にリビングでお茶を飲んでいた。
お茶を飲んでいると、ミレイナの肩に小さなフクロウが停まる。
『ミレイナ姐さん、お掃除でっか?』
「ええ、カイムさんは?』
『ワイは勇者パーティーが町を出るまで自由にしていいいと言われたさかい、久々の大空を楽しんできますわ』
「そう、ご飯は平気?」
『そうやな……じゃあ、お昼頃帰ってきますわ』
「わかったわ」
ミレイナはま窓際へいき窓を開けると、カイムは大空へ飛び出して振り返る。
『じゃ、行ってきますわ』
「気を付けてねー」
カイムは蛇行しながら飛んで行った。本当に自由が嬉しいのだろう。
「さ、私も頑張ろう!!」
元メイドの血が騒ぐのか、髪をゴムで結わえ掃除用具を引っ張り出し、マスクと手袋を装着する。明日から仕事なので、オフィスを重点的に掃除するため一階へ降りていく。
掃除が一段落し一息入れ、二階の居住スペースに戻る。
「ふぅ、お買い物にも行かないと」
喉が渇いたので、冷蔵庫で冷やしてあるペットボトルのミックスジュースを取りだし気が付いた。冷蔵庫の中身が殆どカラッポだ。
人数が増えたので、コウタとブーさんが家具を買いに行ったとき、新しい最新型の魔導冷蔵庫を買ってきた。これは冷蔵庫の中を氷で冷やす物ではなく、『氷』属性の魔石を敷き詰めた大型の高級冷蔵庫だ。魔石に魔力を込めるだけで中はずっと冷えたままで、古い冷蔵庫はブーさんの部屋に置いた。
「あ、そろそろお昼の時間ね」
すると、窓の縁にカイムが停まっていたので、ミレイナは窓を開ける。
『姐さん、メシの時間でっせ』
「はいはい、とはいえ冷蔵庫はカラッポだし……そうだ、外に行こっか」
『外?』
「うん。明日からフードフェスタでしょ? 露店もいっぱい出てるし、夕飯の買い出しもしたいしね」
『なーるほど、確かにあっちこっちからエエ匂いがしとる。ワイは肉が食いたい』
「はいはい、じゃあ一緒に行こっか、カイムさん」
『はいな』
こうして、ミレイナとカイムは、町へ出かけることに。
スクーターの前籠にカイムを入れ、ミレイナはキリエとお揃いのハーフヘルメットを被る。
ミレイナのスクーターのカラーはシルバーで、ヘルメットも同じ色。そしてヘルメットには可愛らしいハートのエンブレムが刻まれていた。
『人間ってホンマ凄いわ、こんな乗り物を作るなんて……魔界でもこんな乗り物見たことないで』
「人間界でもありませんよ。きっとコウタさんは神様の遣いなのかもしれませんね」
スクーターを走らせて町へ。
行き先は、よく夕飯の買い出しをする商店街へ。
以前は徒歩で向かっていたが、これからは新しい足であるスクーターを使っていく。
「さ、行くよ」
ミレイナは、颯爽とスクーターを走らせ町へ。
車とは違うシンプルな操作は楽でいい、歩き慣れた道が違って見えたミレイナは、自然と口を綻ばせる。
そして、あっという間に商店街へ到着した。
「思った通り、けっこう露店が出てる……ここからは徒歩かな」
スクーターを商店街入口に停め、カイムはミレイナの肩に停まった。
『姐さん、あっちに肉の屋台があるで』
「お肉か……うん、行こう」
スクーターのキーを抜き、早速商店街へ。コウタ曰く、スクーターには安全装置が施されているから盗難の心配はないそうだ。ちなみにその安全装置とは、悪意を持つ者がスクーターに触れた場合、高圧電流が流れるというものだった。当然だがミレイナは知らない。
カイムが言う肉の屋台はすぐに見つかった。それもそのはず、入口の最初にある屋台だったからだ。
ミレイナは屋台を覗くと、肉を薄くスライスしてパンに挟み、特性のソースをかけて食べるというテイクアウト方式のサンドイッチみたいだった。
「すみません、二つ下さい」
「はいよっ!!」
コインを支払い、葉を加工して作られた使い捨ての包みを受け取る。
「あちち、ちょっと待ってね」
『姐さん姐さん、あそこにベンチがありまっせ』
ミレイナはベンチに移動して包みを破り、カイムにあげた。
カイムは器用に羽を使ってしっかり支えて食べている。ミレイナもお腹が減ったので、包みを破いて一口食べる。
「うん、美味しい……肉汁とソースがパンに染みこんでる。それに、肉汁が染みこんだパンと肉の食感が合わさって、なんとも言えない美味しさ……」
『姐さん、解説上手いなぁ』
カイムはもう半分以上食べ終わってる。
一人と一匹のお腹は、まだまだ余裕で入りそうだ。
食べ歩きながら夕食の買い物を終え、ミレイナはスクーターに戻ってきた。
「よい、しょっと……」
『いっぱい買い込んだなぁ』
「人も増えたしね、みんないっぱい食べるし」
『でもでも、明日からフードフェスタやろ? しばらくは食事が楽になるやん』
「まぁね。それに、たぶん今日は忙しくなるから」
『へ?』
「ふふ、まだわからないけどね」
籠は前後とも埋まってしまったので、カイムは籠に入らない。
『姐さん姐さん、ワイは飛んで付いていくさかい』
「うん、じゃあ帰ろっか」
スクーターを発進させ、アガツマ運送会社へ帰る。
カイムはミレイナと並走し、そしてオフィスが見えてきた。
「あら?」
オフィスの前に、コウタとシャイニーがいる。そして近くには何故か肩を落としてる勇者パーティー達がいた。
コウタはミレイナのスクーターに気が付くと、手を振ってきた。
「おーいミレイナ、おかえり」
スクーターを停車させ降りる。
「ただいまです、コウタさん」
「おかえり、あの、早速で悪いんだけど……実は、アレクシエルのラボが完成した記念にパーティーをすることになってさ、勇者パーティー達も招いてみんなで食事ってことになったんだけど、この人数じゃ今から店を予約するのも難しいし……それで、アレクシエルのラボでパーティーを」
「ふふ、大丈夫です。食材ならいっぱい買ってきましたから」
「え」
「みなさんで食べるとなると、庭先でバーベキューなんてどうです? お肉もお野菜もいっぱい買ってきましたし、仕込みも楽ですしね」
「ま、マジ? もしかして知ってたのか?」
「いえ、なんとなく」
ミレイナはにっこり笑い、コウタは唖然とする。
「確か、バーベキュー用のセットを買いましたよね。コウタさん」
「あ、ああ。コンロと台と……」
「では、準備を手伝って下さい」
「は、はい」
ミレイナの肩に、カイムが停まる。
『姐さん、かなりやり手やな』
「あ、お前、今までどこに……」
「うふふ、今夜はバーベキュー、楽しみですね」
ようやく戻ってきた日常に、ミレイナは心を躍らせた。




