231・それぞれの休日/シャイニー編①
運転にも、かなり慣れた。
「ふんふんふ〜ん、ふんふふふ〜ん」
鼻歌を歌いながら、シャイニーはハイエースを運転する。
元々のハイエースは白だったが、コウタに頼み色を水色に変更した。なので自分の色に近いハイエースはシャイニーのお気に入り。
シャイニーは、馬車を縫うように車を走らせる。
「······全く、相変わらずこの時期は多いわね」
町の至るところに露店の建設が始まり、馬車専用の大通りは従来の半分以下の広さになっている。馬車二台がすれ違える程度で、慣れたとはいえ運転初心者のシャイニーには辛かった。
シャイニーの目的地はゴンズの武器屋。
いろいろあったおかげで新しい双剣のお礼を言ってない。それに『鎧身』の事も少しだけの気になった。
「ま、熱いお茶でも飲みに行きましょ」
お礼がメインで鎧の事はついで。
細かい事をあまり気にしないシャイニーは、ゴンズがなぜ勇者の武具を作れるかなど、どうでもよかった。
走ること数十分、目的地に到着した。
ハイエースを近くの広場に停めて、初心者向け武器屋『ゴンズ武具店』に入る。
「ゴンズ、いるー?······と、接客中。あれ?」
どうやら、接客中だ。
三人の若い冒険者達に武器を見繕ってる。そしてそれを見守るのは、ギルド長であるニーラマーナだった。
「む?」
「やっほ」
ニナはシャイニーに気が付いたが、シャイニーは片手を軽く上げるだけ。新人冒険者達に武器の説明をするゴンズを邪魔せず、『七色の冒険者』であるニナが傍にいて緊張してる冒険者達に配慮し、終わるまで邪魔しないようにした。
シャイニーは懐かしい武器屋を見回る。そして鉄の双剣を手に取り眺めていると、ゴンズの声が聞こえた。
「お前さんはいい身体しとる。おっと変な意味じゃないぞ? つまり、ショートソードより重量のあるロングソードでも軽く振り回せるじゃろう。まずはこの剣を使い、慣れたら重量を増やしていずれは大剣を使うのも悪くない。このチーム最強の攻撃力として頑張るんじゃぞ」
ミレイナと同じくらいの冒険者にロングソードを勧めていた。
メンバーは、ロングソードの少年に弓使いの少女、見習い魔術師の少女の三人だ。ソロ専門の自分と違い、きちんと役割があるメンバーで揃えている。
他の二人にも武器を薦めると、少年少女はそな武器を購入して店を出て行った。どうやらギルドへ向かい先輩冒険者に稽古を付けてもらうようだ。
「おぉ、久しいのぅシャイニーブルー、こっち来て茶でも飲め」
「ええ、ありがと」
ゴンズが勧めた椅子に座り熱い茶を啜る。
一息入れるとニナが声をかけて来た。
「用事は済んだのか?」
「ええ、あとでオフィスに来なさいよ。ミレイナが会いたがってるわ」
「······そうか」
「それと、アンタの部屋はそのままにしてあるから、よかったら戻って来なさいよ。新しい従業員も紹介したいしね」
「新しい従業員?」
「ええ、女の子とコハクの叔父さん」
「ほぅ、女の子とはのぅ······」
「······ここには連れてこないから」
パイみたいなスタイルのいい女の子が来れば、きっとこのエロジジィは鼻の下を伸ばすに決まってる。シャイニーはそう考えた。
落ち込んだゴンズは奥へ引っ込むと、お茶菓子を出して来た。
「そーいえば、さっきの子らは新人?」
「ああ、最近冒険者になりたがる子らが多くてな。ゼニモウケは依頼も多いし難易度も様々だから、初級冒険者達にとって冒険者になりやすい都市だからな。それに、最近スゲーダロに最難関ダンジョンが現れたから、ここで経験を積んでダンジョンを目指す者が多い」
「スゲーダロの最難関ダンジョン······まさか」
「ああ、コウタ社長の潜ったダンジョンだ」
「ふ〜ん」
シャイニーは煎餅を齧りお茶を飲み干す。するとゴンズは熱い鉄瓶に入ったお茶を再び注いだ。
「ニーラマーナ、あんたはここでなにしてんの?」
「見回りと新人冒険者の相手だ。それに、フードフェスタが近いからな、町の冒険者達も浮ついてる」
「ま、人間界最大の食のお祭りだしね。警備はやっぱり傭兵団を雇うのかしら?」
「ああ。前と同じ、『三大傭兵団』の一つである『黙示録の傭兵騎士団』に依頼したそうだ」
「うげ······アタシ、あいつら嫌いなのよね。傭兵団ってか騎士団みたいな固い連中だし」
「だが信頼出来る。金さえ払えばどんな仕事でもやる連中だ」
『三大傭兵団』とは、人間界最大である三つの傭兵組織で、その規模は一国に相当すると言われている。更に傭兵団トップの強さは『七色の冒険者』に匹敵すると噂されていた。
「更に今回は特別ゲストで『神話を奏でる四の巫女』の『清き聖流ヴァージニア』様が来るそうだ」
「······マジ? 人間界に四人しかいない『神話魔術師』様が、食の祭典に来るの?」
「ああ、直接の護衛に私が選ばれた」
世界に四人しかいない神話魔術師。それは『神話を奏でる四の巫女』と呼ばれ、それぞれが所属する国で重要なポストに付いている。その内の一人がゼニモウケの食の祭典に来るなど、未だかつて無かった。
「なーんか面倒な事になりそうね······」
「······言うな」
フードフェスタで何かが起こる。そんな気がした。
シャイニーは、改めてここに来た理由を思い出した。
「あ、そうだゴンズ、新しい双剣ありがとね」
「気にするな、シュテルンとエトワールもお前に礼を言っておったぞ」
「そっか······へへ」
「どれ、見せてみろ。どうせ無茶な使い方をしたんだろう? せっかくだし磨いてやろう」
「お、さんきゅ。というかゴンズ、この武具って勇者の武具と同じでしょ? どうやって作ったのよ」
「教えて欲しいか?」
「うん、気になるしね」
「じゃあお前の乳をひと揉み············いや、無理か」
「殺す」
「お、落ち着けシャイニーブルー」
シャイニーの胸を見たゴンズは俯き、それを見たシャイニーは商品の双剣を掴み、ニナが慌てて止める。
「離せこら!! ってかデカい乳を当てんな!!」
「こ、こら暴れるな!!」
「わ、わしは退散じゃ〜っ!!」
シャイニーが落着くまで、ニナは抑えていた。
ゴンズは結局、秘密を教えてくれなかった。
磨かれたナルキッスとセイレーンを受け取り、ニナとシャイニーは武具店を出た。そして近くの広場に向かうと、ニナは驚いた。
「これは······」
「いいでしょ、アタシの愛車よ」
「ほぅ······素晴らしいな」
「ふふん、ほらほら乗りなさいよ、ギルドまで送ってあげるわ」
「む、いいのか?」
「ええ、目的は済んだし、あとはのんびり町を回ろうかと思ってたしね」
「そうか、ならお言葉に甘えよう。それと、用事がないなら久しぶりにギルドに来ないか? 先程も言ったが新人冒険者が多くてな、稽古相手が足りないんだ。よければ少し稽古を付けてやってくれ、もちろん謝礼は出す」
「うーん·········ま、少しなら」
「そうか、ありがとう。では行こうか」
嬉しそうなニナを見ると、シャイニーも満更ではない。
新人相手に剣を振るうのもいいかと思いつつ、ハイエースを冒険者ギルドに向けて走らせた。




