23・トラック野郎、オーマイゴッド
オーマイゴッドの町に入る検問はゼニモウケほど混んではいない。だけど後ろからは仕方ないが、前に並ぶ冒険者グループが振り返り注目していた。
「おい、メチャクチャ注目されてるぞ」
「そりゃそうでしょ。こんな金属の塊が走ってるのよ? 馬車とかならともかく、フツーだったら驚いて立ち止まるわよ」
オーマイゴッドの町はゼニモウケに匹敵するほど大きい。商業が盛んなゼニモウケと違い、ここは参拝や観光に力を入れてるようだ。
「大聖堂ねぇ」
「ま、興味ないけど、せっかく来たんだしみんなで見よっか。ここは観光に力を入れてるから、お土産なんかも豊富なのよ」
「へぇ〜、例えば?」
「そうね······冒険者たちには嬉しい大聖堂産のお守りとか」
「お守りねぇ······」
「でもやっぱり『スターダスト』が一押しね。ここは本店があるし、本店のみ取り扱いの商品や特典なんかもあるからね。女性冒険者たちはみんな買い物して行くわよ」
「そっか。ならさ、先にスターダストで降ろすか? ギルドへの手紙は俺が運ぶからよ」
「·········はぁ、アンタはバカ?」
「んだと⁉」
「あのね。アンタだけじゃなくて、アタシとミレイナにとっても初仕事なのよ? いくらスターダストに興味あっても、仕事を投げ出して行くほどじゃないわ」
「うぐ」
グゥの音も出ないとはこの事か。
さすがに今のは軽率な発言だった。初仕事なのはみんな同じ、俺たちは仕事をしに来たのであって観光に来たんじゃない。
「わ、悪かった······」
「別に。それに、アタシとミレイナのために言ってくれたのはわかってるから······ありがと」
「お······おう」
ちくしょう、クッソ可愛いじゃねーか‼
首を傾けてニッコリ微笑むシャイニーマジ天使。ミレイナとはジャンルの違う美少女にドキッとしてる。
「なーに照れてんのよ? むっふっふ、ウブなのねぇ」
「う、うるせーよ‼ そろそろ俺たちの番だぞ、ったく」
俺は誤魔化し、検問を通過した。
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トラックを怪しまれたが何とか検問を突破。ようやく俺たちはオーマイゴッドへ入る事が出来た。
町の形はゼニモウケと似ていたが、歩く人達は女性が多い気がする。それ以外では観光客っぽい人がパンフを片手に歩いてる。
ゼニモウケと違うところは、町の中をキレイな川が流れているところだ。その川を利用したゴンドラには物資を運んだり観光客を乗せて遊覧船みたいに町の中を回っている。
ゼニモウケと町中は似てるが、1番違うのは雰囲気だな。ゼニモウケは活発なイメージだがオーマイゴッドは穏やかなイメージ。アメリカのニューヨークとイタリアのヴェネツィアみたいな? 行ったことないけど。
「キレイな町ね……」
「ああ、観光スポットに相応しい町並みだ」
シャイニーも窓を開けて町並みを眺めてる。
蒼い髪が風になびきフワフワ揺れる。さらに日の光を浴びてキラキラ光ってるように見えた。
『社長。ギルドへの最短ルートへ案内します。ナビ起動』
タマは変わらない。景色をキレイだとか思う感情はないのだろうか? フロントガラスにナビが表示される。
「なぁシャイニー、ここの冒険者ギルドに行ったことは?」
「あるけど、あそこのギルド長はメンドくさいのよね」
「何で?」
「あそこのギルド長は『七色の冒険者』の1人、『燃える鉄拳タイタンレッド』なのよ」
「ぶっはぁっ⁉」
「うぴゃあっ⁉」
名前を聞いた途端、俺は堪えきれず吹き出しブレーキを踏んでしまった。
た、タイタンレッド······まさか本名なのか? これは罰ゲームに近い。本人を前にしたらどうなるかわからん。まさかシャイニーみたいに高らかな名乗りを上げられたら······あぶねー、今ここで聞いといて良かったぜ。
「ちょっと危ないじゃない‼ 舌噛んだわよ⁉」
「わ、悪い。それと、ありがとう」
「はぁ?」
そして、ようやくギルドに到着した。
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ギルドの造りはゼニモウケと同じだった。唯一の違いは看板くらいだな。《オーマイゴッド冒険者ギルド》って書かれてるし。なんか冒険者ギルドが驚いてるようだ。
馬車を停めるスペースにトラックを停車させ、書状を持ってギルド内へ。若い冒険者たちがトラックをジロジロ見てるがタマに任せておこう。
「シャイニー、普通に入っていいのか?」
「当たり前でしょ。ここに来るのは冒険者だけじゃなくて依頼を出しに来る一般人も居るんだから」
「むしろこの時間帯は人があまり居ないと思います。討伐系や採取系の依頼にしろ冒険者たちは既に出発してると思いますよ。居るとしたら駆け出しの冒険者たちでしょうね」
元冒険者たちの話はタメになる。とにかく初仕事だし、堂々と胸を張って行こう。ちなみに俺とミレイナは作業着だが、シャイニーは護衛でもあるので蒼い戦闘スタイルになってる。こればかりは譲れないとトラックの中で着替えたのだ。
俺たちウェスタン風の扉を開く。この扉ってあんまり意味ないよな。
「え〜と、とりあえず受付でギルド長さんを呼んでもらうか」
ギルド内の間取りもゼニモウケと殆ど変わらない。依頼の掲示板も受付の数もみんな同じだな。おっと、まずは受付。もちろん女性のね。
「いらっしゃいませ。ご依頼でしょうか?」
「いえ、『アガツマ運送』です。ゼニモウケ冒険者ギルド長から書状を預かって来ました。ギルド長にお取り次ぎ願えませんかね」
俺はニナから預かった書状の筒と、証明の証であるギルド長の印が入った別紙を渡す。すると受付嬢さんは別紙を確認して微笑んだ。
「確認しました。確かにゼニモウケギルドの証。今ギルド長をお呼びしますので、別室へどうぞ」
「ありがとうございます」
よかった。不審がられる事もなく、すんなりとギルド長に会えると思った時だった。俺の背後から、ぶっとい腕がニュっと伸び、証明書を掴んだ。
「ほほう‼ ニーラマーナか、ずいぶんと久しいな‼」
野太い男の声だった。
シャイニーも驚きつつ振り返り、俺とミレイナは全く気が付かなかった。受付嬢さんも驚いてるし。
「お前も久しいな、シャイニーブルー。まさかお前が護衛を務めるとはな‼」
「······ま、いろいろあってね」
「ほほう‼ まぁ茶でも飲みつつ聞かせてくれ‼」
「······ええ」
でっけぇ声だ。俺とミレイナは振り返り······驚いた。
まず着てる服がスゴい。真っ赤な柔道着に軍人とかが履きそうなブーツと重そうな脛当てを装備してる。しかも柔道着は袖がない。まるで昭和のゲームの格闘系キャラみたい。剥き出しの二の腕はこんがりと焼け、恐ろしいまでに鍛えられてる。しかも真っ赤で格好いい篭手を両手に装備してるし、見るからに格闘家だ。
何より驚いたのは顔だ。クマにでも引っ掻かれたような傷が3本走ってるよ。しかも髪は真っ赤でライオンみたいに逆だってるしよ。
ぶっちゃけ、メチャクチャ怖かった。
俺が声にならない声を出してると、赤いクマはグチャリと笑った。
「おお‼ オレは『オーマイゴッド冒険者ギルド』の師範、『赤い鉄拳タイタンレッド』だ‼ フゥぅぅ······ッ、シュシュシュ、シュシュシュッ‼ フフ、オレの拳は全てを焼き尽くす‼」
「······っ」
駄目だ、堪えろ。
いい歳したオッサンが高らかと名乗りを挙げ、あまつさえ構えを取りシャドーボクシングを始めた姿なんて俺は見ていない。っていうか師範って何だよ。何だよその決め台詞はよ。誰も何も聞いてねーよ。
「全く、相変わらず汗臭いわね。こんなトコで暴れないでよ、他の冒険者たちが驚くでしょーが」
「ん? そうかぁ? まぁいい、用事があって来たんだろ?」
「フゥぅぅ······はい、ゼニモウケギルド長のニーラマーナから書状を預かって来ました」
俺は精神を落ち着かせて書状の筒を渡す。
ちょうどいいタイミングで助かったぜ。ここで書状を渡して荷受けのサインを貰えば依頼完了だ。
「ほうほう、書状ね。ふむふむ、うーむ、よし、あとで読もう‼」
「あ、あの。荷受けのサインかハンコを」
「おおそうか、ん」
受付嬢さんに受領書を渡し、ハンコを押してもらう。後はこの紙をニナに渡せばおしまい。初仕事は滞りなく終了する。
「悪いわねタイタン、アタシたち観光するから、アンタとお茶は飲めないわ」
「そうなのか⁉ 残念だな‼ まぁいい、しばらく滞在するんだろ?」
「ええ、何日か観光したらゼニモウケに帰るわ。また改めて挨拶に来るから、お茶はその時にごちそうになるわね」
「そーかそーか。わかった、ではな‼ シュシュシュ、シュシュシュッ‼」
「ぐふっ」
た、タイタン。しかもシャドーボクシングで帰って行った。
何だよアレは、キャラが濃すぎるだろ。シャイニーなんて比じゃねーぞ。
「たぶんアイツ、書状のことはもう忘れてるわよ。腕は立つけどすっごいアホなのよ」
「······まぁ、依頼は果たしたし」
「そ、そうですね」
俺とミレイナは終始空気でした。
ま、いいか。運送屋じゃなくて郵便配達だったけどこれで終わりだ。後は観光しよう。
「よし、じゃあ······観光に行きますか‼」
「はいっ‼ 目指すは······」
「『スターダスト』ね‼」
さぁ、ここからは遊びの時間だぜ‼