228・トラック野郎、新生活その2
ミレイナが帰って来て、モツ鍋屋の予約は完了した。
あとは夕飯まで自由時間。俺はしろ丸をモフモフしながらリビングのソファで寛いでいると、パイが俺の太ももを枕にして甘えてきた。
「えへへ、ご主人、頭なでて」
「はいはい、ほら」
「にゃぁうん······」
うーん、パイは可愛いしスタイルもいい、でもなーんかペットみたいな感覚に陥る。こうして頭をなでてトラ耳の裏をカリカリしてやると気持ち良さそうに鳴く。
『なうなうー』
「よしよし、お前もか」
『なおーん』
しろ丸の頭をなでると気持ちよさそうに鳴く。
というか、パイのやつホントにキャラ変わったな。こんな甘えるようなキャラじゃない気がする。四天将の頃はどんな感じだったのか知らないけど、人間に換算するとまだ一九歳なんだよな。
リビングには俺とパイがソファでのんびりし、キリエはダイニングテーブルで読書、ミレイナは新しく買った食器を綺麗に洗い、シャイニーは夕飯まで一眠りするとか言って部屋で寝てる。コハクは制服を作ってるブーさんの部屋にいる。
「·········はぁ」
増えたなぁ。
この世界に来て一年も経ってないのに、会社を興してから従業員がこんなに増えた。しかもみんな可愛いし強いし頼りになる。
「くふぅ······」
『なうー』
あら、パイとしろ丸が寝てる。
ブーさんの言った通り、パイはネコみたいに身体を丸めて寝ていた。トラってネコ科だっけ?
しばらくぼんやりしていると、階段を登る足音が聞こえてきた。コハクがドアを勢いよく開けたおかげで、パイとしろ丸が起きてしまった。
「みんな、みてみて、しろ丸だよ!!」
「え······あれ?」
コハクの手には、しろ丸がいた。
白いバレーボールみたいなフカフカのしろ丸は、俺の太ももでなうなうと鳴いている。
だが、コハクの手にはしろ丸がいた。
「ミレイナ、キリエ、みてみて······じゃじゃーん」
「え、あれ?」
「······おお」
ミレイナとキリエも驚いている。
何故ならコハクが取り出したのは、カラフルなしろ丸だった。
赤いしろ丸、青いしろ丸、黄色いしろ丸、黒いしろ丸、どれもこれも全てしろ丸。
『なうなうなうなう』
「あ、ぬいぐるみか」
「うん、おじさんが制服の余った布で作ったの」
そりゃすげぇ、修行とか言ってたけどやっぱ趣味だろ。
するとブーさんが階段を登って来た······ピンクのしろ丸を抱いて。
「久しぶりだから随分と腕が鈍ってる······やはり、鍛え直さなければ」
ブーさんは、俺にピンクのしろ丸ぬいぐるみを渡してそんな事を言う。
このギャップも凄いが、しろ丸ぬいぐるみの緻密さも凄い。
俺はしろ丸とピンクのしろ丸ぬいぐるみを比べてみたが、本物と遜色ない出来栄えだ。マジすげぇよブーさん。
「わぁ、かわいいです」
「ふむ、素晴らしい出来映えですね……これで満足していないのですか?」
「ああ、急ぎつつも丁寧に作ったがまだ荒い。制作時間ももっと短縮できるし、出来も本物と並べて見分けが付かないレベルまで見せられる」
「相変わらず少女趣味だねー、ブラスタヴァン」
「おじさん、もっとたくさん作って」
「ああ、いいぞ」
『なうなう』
しろ丸ぬいぐるみを机に並べ、みんなでワイワイしてるとシャイニーが起きてきた。
「おぉ!? しろ丸がいっぱい!!」
「好きに持って行け、リクエストがあればその通りに作ってやる」
「じゃあ私はこの白いので……」
『なうー』
「ミレイナ、それは本物のしろ丸ですよ」
ふむ、もしかしたらこれは……いけるかも。
俺はピンクのしろ丸ぬいぐるみを抱きながら、ブーさんに聞く。
「ブーさん、作れるのってぬいぐるみだけ?」
「いや、洋服やアクセサリー、彫金なども出来る。手先を使う仕事は修行の一つだからな」
「ご主人様、魔竜族はみんな手先が器用で、魔界には魔竜族の作ったアクセサリーや洋服がいっぱいあるんだよ」
「お前は苦手だっただろう?」
「………うん」
あらら、コハクが恥ずかしそうにそっぽ向いた。
もしかしたら商売になるかもと思ったけど、どうだろう。
「ブーさん、よかったらそれ、売ってみるか?」
「これをか? だがこんな物が売れるのか?」
「取りあえず、店の中に販売所を設けて、試しに売ってみるとか」
ロビーは広いし、ぬいぐるみを売るブースは楽勝で確保できる。ブーさんの修行がてらここで販売すれば儲けにもなるし、ブーさんがいくら作っても問題ない。
「まずは試しに売ってみて、売れるようだったら続けていこう。その時は材料費とか会社で持つから」
「構わん。だが作るからには一切妥協はせんぞ」
いやいや、この出来でまだ足りないのか……どんだけだよ。
取りあえず、ブーさんにはカラフルなしろ丸ぬいぐるみを二〇個ほど作ってもらった。これを一個一二〇〇コインで販売する。荷物を依頼しに来る人は子連れも多いし、案外売れるかもな。ちょっとした思いつきだが、上手く行けばいい儲けになる。
だが、これが予想外の結果になるとは、この時点ではわからなかった。
そして夜、俺達はいつものモツ鍋屋へ向かう。
パイとブーさんの歓迎会、久し振りにワイワイやりますかね。
歩いて一〇分ほどの、昼にブーさんと来た飲み屋街へ再び来た。
「すんすん……いい匂い」
「パイ、いっぱい食べようね」
「うん。こう見えてボクはいっぱい食べるからね、にゃふふ」
「わたしも」
ハナのいい二人はフラフラしながら歩いてる。確かに、人間の俺でもいいニオイはわかる。焼き鳥や酒の匂いが充満し、冒険者や仕事帰りの人達の喧噪が響き渡る。
「こういう雰囲気は、人間も魔族も変わらんな」
「だねー、楽しそうでいいじゃん」
元四天将の二人は飲み屋街を見て思う所があるのだろうか。
そして、馴染みのモツ鍋屋に到着。引き戸をガラガラと開ける。
「らっしゃい!! オウ社長、奥の座敷開いてるぜ!!」
「久し振り親父さん、景気はどう?」
「へへ、モチよモチ。社長こそ久し振りじゃねぇか、まーた華が増えたんだって?」
「まぁね、華だけじゃないけど……」
ミレイナ、シャイニー、キリエ、コハクと続き、パイが入ってきた。
「ほっほぉ~、こりゃまたべっぴんじゃねぇか」
「どもどもー、パイでーす」
パイは手を軽く握りスナップを利かせて挨拶する、なんか招き猫みたいだ。
そして、入口が低いのか潜るようにブーさんが現れた。
「邪魔をする」
「…………お、おう、どうぞ」
親父さん、ブーさんを見てビックリしてる。
まぁずっと美少女続きだったのに、いきなり二メーター越えのおっさんが現れれば驚くよな。
パイとブーさんも奥の座敷へ行き、俺は親父さんと話した。入口に貼ってあったフードフェスタ出品のチラシが気になったからだ。
「親父さんもフードフェスタに出品するのかい?」
「当たり前よ、この日のために新メニューも考えてたしな。へへへ、当日まで秘密だ、興味あるなら食いに来てくれよ」
「はは、もちろん。期待してるよ」
そう言って、俺も奥の座敷へ。
座敷には長い座卓が置かれ、魔道具のコンロが四つ置いてあった。しかもすでにモツ鍋がイイ感じで煮えている。やっぱ予約すると待たずに食えるからいいな。
「じゃ、飲み物は……」
俺とシャイニーがキンキンに冷えたエール、キリエはブドウ酒、ミレイナは麦茶、コハクは水、パイは果実酒にブーさんは米酒……異世界の日本酒を頼んだ。
「しろ丸、静かにね」
『なおー』
実は、こっそりしろ丸を連れてきてる。コハクの膝の上で大人しく座っていた。
飲み物が届き、俺は日本酒の入った徳利をブーさんに。
「ささ、どうぞ」
「すまん」
接待接待、今夜の主役はこのお二方だ。
全員に飲み物が行き渡り、俺は軽く挨拶する。
「えー、今夜はパイとブーさんの歓迎会ということで……二人から挨拶を。じゃあ最初はパイ」
「はーい。ボクは元獣魔四天将・白虎王パイラオフでーす。今はアガツマ運送会社の運転手補佐パイとして、ご主人のために働きまーす。過去の事は忘れて、愛するご主人のために頑張りまーっす、ちゅっ」
パイのヤツ、俺に投げキッスしてきた。
何故かシャイニーが不機嫌になるが、今夜は勘弁してくれ。
「じゃあブーさん」
「ああ。オレは元獣魔四天将・青龍王ブラスタヴァンだ。今はアガツマ運送会社の倉庫番、ブーさんと呼んでくれ。コハクの叔父として、そして人間界での修行としてこれから世話になる。畏まったりする必要は無い、気軽に話しかけてくれ」
確かに、コハクやパイ以外はまだ遠慮がある。
今の言葉もシャイニー、キリエ、ミレイナに向けていたように感じるしな。
「では、グラスを持って……乾杯っ!!」
「「「「「「「乾杯っ!!」」」」」」」
こうして、歓迎会を兼ねた親睦会が始まった。




