224・トラック野郎、魔界にさよなら
*****《勇者タイヨウ視点》*****
オレ達勇者パーティーは、天魔王城の一室に集まっていた。
「というわけで、ゼニモウケに滞在するぜ」
「ま、今回は賛成。武具の修理っていう目的もあるしね」
これからの予定を確認したところ、満場一致でゼニモウケの長期滞在が決まった。
壊れた武具の修理もあるし、フードフェスタもある。それに一番の目的は、おっさんからもらう予定である車の運転教習のためだ。
今回、オレ達はおっさんから依頼を受けてここまで来た。忘れてたワケじゃないけど、ちゃんと報酬はもらう。しかもその報酬は『車』だからな。
いくつか確認事項を終えると、軽い雑談に入る。
「というか、驚いたよなぁ」
「はい、まさか四天将のお二方が……」
「おにーさんも隅に置けないねぇ」
「確かに、不思議な御方です。あれだけの力を持つ運送屋など聞いたことがありません」
ブラスタヴァンとパイラオフの入社は、オレらも驚いた。
おっさんの会社も面白くなりそうだ、オレも入ってみたくなったぜ。
「ま、おっさんとは縁もあるし、仲良くしていこーぜ」
「ええ、あれだけの力……あたし達の戦力として欲しいわね」
「ですが、暫くは平気でしょう。わたくし達も少し休まないと」
「うんうん、ちょうどゼニモウケではフードフェスタってイベントあるし、みんなで美味しい物いっぱい食べよっ!!」
「美味しい物……甘味などでしょうか?」
魔界での戦いは終わり、オレら勇者の休暇が始まる。
*****《コウタ視点》*****
数日後、ようやくブラスタヴァンとパイラオフの準備が整った。
よく知らんが、新しい青龍王と白虎王の後継を選んでたとか。
天魔王城の広場に駐めてあるトラックの前に全員集合し、二人を待つ。
「あ、来た」
「ごしゅじ~~~んっ!!」
「うわっ!? おぉう……」
「にゃうぅ~~ん」
巨大風呂敷を背負ったパイラオフが荷物を投げ捨て、俺の胸に飛び込んできた。
この野郎、俺の胸に顔を埋めてスリスリ甘えてやがる。しかもふっかふかなパイが潰れてきんもちいぃぃですぅぅぅっ!!
「おいコラ、コウタから離れろーーーーーーッ!」
「なーによ蒼いの、ボクはご主人に甘えてるだけだもーん」
「誰が蒼いのだコラァッ!!」
「にゃっ!? 痛い痛い、しっぽ引っ張るなーーーっ!!」
ああもうカオスだよ……シャイニーとパイラオフが俺を巻き込んで暴れてる。
俺にしがみつくパイラオフに、パイラオフのしっぽを引っ張って引きはがそうとするシャイニー。
「パイラオフ、ちょっと離れて……」
「パイでいいよご主人、呼びやすいでしょ?」
うわ、こいつ可愛い。
ニコッと微笑みトラ耳をピコッと揺らす姿はマジ可愛い。
「おい、デレデレすんな」
「すんません」
シャイニー怖い。
パイを引きはがすと、パイラオフと似たような風呂敷包みを抱えたブラスタヴァンがやって来た。なんか胴着みたいなの着てるから道場破りに見えなくもない。
「おじさん!!」
ブラスタヴァンはコハクの頭をなでると、俺の前に来て頭を下げた。
「遅くなった。申し訳ない」
「え、いえ」
うーん、まだ慣れない。
だってコハクの叔父だし、プライド地域最強の四天将の一人だし。
「あの、ブラスタヴァンさん」
「なんだろうか」
「えーと……その、俺の事は好きに呼んで下さい」
「わかった。ではご主人様」
「待った」
こんな厳ついおっさんに「ご主人様」なんて呼ばれたら、俺の品格が疑われる。
「ダメか? コハクと同じだが」
「えーと……」
「では、『社長』というのはどうでしょうか」
キリエの提案は素晴らしいものだった。
ブラスタヴァンはキリエを見てコクリと頷く。
「では、社長と呼ばせて戴く。オレの事も好きに呼んでくれ」
好きに呼んでくれって言われても……どうするコハク。
「おじさんはおじさんだよ?」
いや、俺が「おじさん」呼びじゃおかしいだろ。
ここで頼りになるのが我等がミレイナだ。
「ブラスタヴァン様の呼び方ですか……」
「悪いが、『様』は止めてくれ。これから仕事仲間になるのだ、堅苦しいのはナシにしよう」
「そうですね……では、うーん」
ちょっと考え込んだミレイナは、人差し指をピンと立てて笑顔で言った。
「では、『ブーさん』というのはどうでしょう?」
俺の腹筋が破壊された。
何故か、シャイニーからボディブローをもらい正気に戻った。
「じゃ、じゃあ、これからよろしく、ブーさん」
「ああ、よろしく頼む社長」
ってかブラスタヴァンはブーさん呼びが気に入ったのか、文句を言わなかった。
ちょっと困惑したが、本人がいいならいいか。
「じゃ、みんな揃ったな。ミレイナ、頼む」
「あ……」
「ん? あ、ゼルルシオン」
ミレイナがペンダントを握りしめると、ゼルルシオンとグレミオとミューレイアが見送りに来た。
転移はちょっと中断、あいさつする。
「じゃあ、元気でなゼルルシオン」
「ああ、また来い。歓迎する」
「ミレイナ姉さん、また……」
「グレミオ、エッチな事はほどほどにね」
「ぐ……」
ミレイナの笑顔が逆にグレミオのダメージになってる。
するとグレミオは矛先を太陽に変えた。
「た、タイヨウ、また会おう」
「ああ、オメーもエロい事はほどほどにしろよ。くくく」
「……そのケンカ、買わせてもらおうか」
グレミオと太陽を無視し、ミューレイアはミレイナの前に。
「ミレイナ、お元気で」
「ミューレイア姉様もお元気で。よろしければ人間界に遊びに来て下さい、ゼニモウケの町でよければ案内しますよ」
「ふん……考えておくわ」
あれ、姉妹仲は良好に見えるな。
いつの間にか和解したのかね、そりゃけっこうなことで。
すると、ゼルルシオンはミレイナの前に。
「元気でな」
「うん、お兄ちゃんも……」
「ああ」
ミレイナはゼルルシオンの胸に飛び込み甘えていた。
ミューレイアが嫉妬するのもわかる。二人の髪がキラキラと光り、なんとも幻想的な光景に見える。
二人は離れると、ミレイナが俺の傍へ。
「じゃ、行きましょう」
「ああ」
トラックの周りに全員が集まり、ミレイナを中心とする。
ミレイナがペンダントに僅かな魔力を送ると、ペンダントが輝き地面に大きな魔方陣が輝く。
「私達を、アガツマ運送会社へ……」
そして、一瞬の浮遊感が俺達を包む。
目の前にあったのは、懐かしき『アガツマ運送会社』だ。
「ついた……」
「到着です」
ホントに一瞬で到着した。
懐かしさすら感じるオフィスに何人も出入りしてる建築作業員……建築作業員!?
「ねぇコウタ、あれって……」
「あ、そうか、アレクシエルのラボか」
「なるほど、どうやら建築中のようですね」
「わぁ、ながーい」
アレクシエルのラボは、円柱型の建物だった。
どうやらもうすぐ完成するようだ。というかまずはオフィスでゆっくりお茶を飲みたい。
「あーーーーーーーーっ!!」
なんか懐かしい声が聞こえて振り返ると、真っ赤なゴスロリ服を着たアレクシエルがいた。
ちょいと面倒だが挨拶はする、お隣になるしな。
「ようアレクシエル、ただいま」
「やーっと帰ってきたわね。ってなんかいっぱいいるし!!」
「あーもううっさいわね、キンキン騒ぐんじゃないわよ」
「はぁ? あんたとは話してないわよこの蒼」
「ンだとコラ」
帰った早々騒ぐなよ……でも、なんか帰ってきた気がする。
勇者パーティー達も疲れたのか背伸びしてるし、パイはキョロキョロ辺りを見てる。
ブーさんはコハクに案内されガレージを見て、シャイニーはアレクシエルとギャーギャー騒ぎ、キリエはいつの間にかいたリーンベルさんと一緒に世間話をしていた。
「コウタさんコウタさん」
「ん?」
ミレイナが俺を呼ぶので振り向くと、ミレイナは人差し指を横へ向ける。
俺はミレイナが指さす方を見たが、そっちは町へ繋がる道だけだ。
「なんだよ、何も……」
「ん……」
横を見た俺の頬に、柔らかいミレイナの唇の感触が。
硬直した俺は驚いてミレイナを見た。
「ただいまです、コウタさん」
そこには、輝くような笑顔を浮かべるミレイナがいた。
*****《?????視点》*****
ゼルルシオンは一人、天魔王城の玉座に座っていた。
「………やはり、貴方でしたか」
そう呟くと、まるで初めからいたかのように一人の男性が柱の陰から現れる。
「おうおう、バレとったか」
それは、毛糸の帽子を被りメガネをかけた、腰が曲がり始めた初老の男性。もしコウタがいれば『競馬場に居そうな男性』というだろう。
のっそりと、本当の老人のようにゼルルシオンに近付く。
「お久しぶりですゴーズドレン様、こうしてお会いするのは六〇年ぶりですね」
「かっかっか、わしはゴーズドレンじゃない、ゼニモウケにある初心者専用の武器屋店主のゴンズじゃよ」
「相変わらず、人間の中で生活しているのですね」
「まぁのぅ。わしの作った『魔神器』が壊れた気配を感じたから戻ってきたんじゃが、まーさかあいつらがここに来るとは……やはり、面白い」
「やはり……」
ゼルルシオンは、これで納得した。
「やはり、あの鉄の巨人は貴方が作ったのですね。『創』を司る魔王ゴーズドレン様」
ゼルルシオンはゴンズ改めゴーズドレンを見るが、ゴーズドレンは楽しそうに首を振る。
「ちゃうちゃう、あんなモンわしには作れん。ありゃ正真正銘、正体不明のバケモンじゃよ」
「……全ての魔神器を作りし始まりの魔王と呼ばれる、貴方ではないと?」
「そうじゃよ、ずーっと見とったが、ありゃ本物の神が宿ってるとしか思えん。まさか『七神』の鍵である魔神器を破壊するどころか、あのヴァルファムートを手懐けるとは……くっくっく、長生きするモンじゃ、やっぱり人間は面白い、シャイニーブルーに与えた魔神器も中々いい調子じゃし、コハクに与えた魔神器も一つ目の枷が外れた。さーて、これからさらに面白くなるぞぃ」
「………」
「かっかっか、そんな顔をするな。わしがここに来たのはお前の魔神器を直すためじゃ。ヴァルファムートの協力を得られれば更に強力な力を宿す事も不可能じゃない、期待しておけ」
「ゴーズドレン様……『ラース地域』には戻らないのですか?」
「んん? 平気じゃよ。わしの優秀な部下がよーくやっとる。というかわしの家は人間界じゃからのう、もう魔王なんぞ辞めて隠居したいんじゃが……」
「それは不可能でしょう、貴方ほどの魔王を放っておくわけがない」
「かっかっか、人気モンは辛いのぅ」
ゴーズドレンはケラケラ笑う。
ゼルルシオンは『冥王鎌サディケール』の残骸をゴーズドレンに渡す。
「さーて、ちゃっちゃと直すかの。実は、ゼニモウケでフードフェスタが開催されるんじゃ」
「……確か、食のイベントだとか」
「お、よくしっとるのぅ………ミレイナ嬢ちゃんか?」
「……………」
ゼルルシオンは、少し照れてそっぽ向いた。




