221・トラック野郎、vs守護天龍ヴァルファムート③/戦え、デコトラカイザー
デコトラカイザーを叩きのめしたヴァルファムートは、現れたゼルルシオンに向く。
『来たか、オレを封印した魔王の血族……ほう、あの女の子孫か』
ゼルルシオンは恐れずにヴァルファムートの前に出る。
「そうだ。オレは天魔王ゼルルシオン。お前を封印した『エルルシアン・セイブ・ヴァーミリオン』の子孫でありその後継だ」
『ふん、生意気そうなところはあの女そっくりだ……オレの前に出るという事は、わかってるな?』
「ああ、オレを喰らって構わん。その代わり、ここに住む民達に手を出さないでくれ」
これに反発したのは、ミューレイアとミレイナだった。
だが、グレミオやブラスタヴァンに羽交い締めされる。
「な、何を!?」
「許せ、これしかない」
「グレミオ、離して!!」
「ダメだミレイナ姉さん、見て分からないのか!? あれはこの魔界に存在する『神』の一柱なんだぞ!? いかに魔王族とはいえ勝つとか負けるとかの話じゃない!! 機嫌を損ねればヒュブリスは終わる!!」
グレミオの言い分は最もだった。
現に、圧倒的な存在のヴァルファムートの前に、誰もが恐怖していた。
ヴァルファムートは、手で器用に顎を撫でる。
『ふん、貴様一匹でオレの怒りが収まるとでも?』
「……頼む」
『くくく、ならば生け贄を用意しろ。肉は柔らかい女の肉を千匹分、そこにいる女ども全員だ。そうすれば向こう千年は大人しくしてやる、さらにこの地の守護もしてやろう』
それは、とんでもない条件だった。
ゼルルシオンも受け入れることは出来なかった。
つまり、ミレイナもミューレイアも捧げろという。
「頼む、それだけは」
『ならば話は終わりだ。貴様等を全員殺し、一匹残らず喰らうまでよ……くくく、どうする魔王よ。言っておくがあの女なら迷わず生け贄を差し出すだろうな、子孫とは言え貴様は随分と甘いようだ』
「………」
ゼルルシオンは、歯を食いしばりながらヴァルファムートを睨む。
戦うという答えも出たが、魔神器が破壊された今のゼルルシオンでは無力に近い。勇者パーティー達やグレミオ、ミューレイアも魔力を使い切ってるし、まともに戦える者がいない。
ヴァルファムートの言う通り、生け贄を差し出すべきか。
「……………」
ゼルルシオンには、出来ない。
愛すべき民は守る存在。そして最愛の家族であるミューレイアを、ミレイナを差し出すなど死んでも出来ない。
自分の命など惜しくない。だが、誰かの命を犠牲には出来ない。
「く………」
『いい顔だ、悩め悩め』
答えが出ない。
命を懸けても、この状況を打破できない。
悩むゼルルシオンを見下すヴァルファムートは気が付いてない。
デコトラカイザーのメインカメラが、僅かに発光したのを。
*****《コウタ視点》*****
「………………」
『社長。損壊率八二パーセント。経験値を消費して修復しますか?』
「経験値、まだあんの?」
『はい』
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【通常ポイント】《10458000》
【ポイント貯金】《120000》
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めっちゃあるじゃん。
あ、そっか。ケイオス・ヘカトンケイルとかいうヤツの経験値か。あのバケモノかなり危険なモンスターらしいし。それにコロンゾン大陸で狩りまくったモンスターもいるし、確認してなかったからぁ。まさか一千万越えとは。
「あ~~~、勝てねぇ」
『最初に申しました。現時点での戦力では勝利は不可能です』
「『現時点』では、だろ? こういうのってお約束じゃん、突如として新しい力に目覚めたデコトラカイザーが、あの黒トカゲみたいなドラゴンを打ち倒す!! 的な」
『社長。これは現実です』
「わーってるっての……はぁ、どーしよ」
武器は全く歯が立たないし、多少なり与えたダメージはいつのまにか消えていた。どうやらヴァルファムートは回復能力があるらしい。
「この世界に存在する『神』だっけ? ははは、俺を生き返らせた神様とどっちが格上なんだろうな」
『社長。あれは力がある普通のモンスターです。格など比べるまでもありません』
「そうか? でもさ、今の俺じゃ勝てねーよ…………あ」
あれ、なんか忘れてるような。
「…………あ、そういえば【特殊変形】ってあったよな」
『肯定。特殊条件を満たすことにより自動習得されます』
「…………それ、項目を見れるか?」
『肯定です。表示します』
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【特殊変形】
1【クレーンジャケットとショベルジャケットの習得】 済
2【自らの意思で強敵と戦い勝利】 済
3【死を覚悟しそれを受け入れる】 済
4【生存確率10%以下】 済
5【??????????】
○上記クリア特典・【??????????】解放
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「お、あと1つじゃん。なぁなぁ、最後の条件は?」
『お答え出来ません』
「え~~、教えてくれよ」
『お答え出来ません』
「なぁタマ、頼むって」
『お答え出来ません』
ダメか。もしかしたらイケるかと思ったが。
となると、俺に出来ることはもうない。
『社長。魔族と人間の反応を感知。モニターに表示します』
「ん?······ってオイ、なんで総出でここに来る!?」
まさか、ヴァーミリオン家族に四天将、勇者パーティーにアガツマ運送社員がここに来るなんて思わなかった。
冗談だろ、なんの為に俺がこんなに頑張ったんだよ。しかもなんか言ってる。
『ああ、オレを喰らって構わん。その代わり、ここに住む民達に手を出さないでくれ』
「はぁ!?」
オイオイ、何言ってんだよ。俺がお前を死なせないためにコイツと戦ってたのに、それじゃ意味ねーだろうが。
『社長。恐らく天魔王ゼルルシオンは社長が敗北したので最後の手段を取ろうとしてるのかと』
「ぐっ······それを言われると」
まぁ確かに、あそこまでカッコつけて戦ってたのに負けてる。しかもデコトラカイザーはボロボロの状態で転がってるし。
『社長。このままでは全員死にます』
「く、でもよ」
すると、今度は別の声が聞こえた。
『くくく、ならば生け贄を用意しろ。肉は柔らかい女の肉を千匹分、そこにいる女ども全員だ。そうすれば向こう千年は大人しくしてやる、さらにこの地の守護もしてやろう』
「·········は?」
生け贄?
生け贄って······まさか。しかも女の肉? そこにいる女全員って、ミレイナやシャイニーやコハクもか?
まさか、みんなを喰うつもりか?
『社長。あのドラゴンは肉体を自在に変化させる事が可能です。肉体の質量を無視した変化を何度も確認しました』
「·········で?」
『つまり、肉体を人間サイズまで縮小する事も可能です』
「·········で?」
『もし、あのドラゴンに性欲が存在したら』
「·········で?」
『もし、あのドラゴンの目的が食欲ではなく性欲だとしたら』
もう、聞かなくても十分だった。
俺は想像した。してしまった。
シャイニーやキリエがあのドラゴンの慰み物になってる姿を、嫌がるコハクをムリヤリ掴み暴行してるのを、そして……ミレイナを。
ふざけやがって、ふざけやがって、ふざけやがって。
ウチの社員に手を出すだと、おいふざけんな、神が許しても社長の俺が許すとでも?
「………タマ、あの野郎をぶちのめす。経験値消費して回復」
『畏まりました。ですが現在の戦力では勝ち目が』
「うるせぇ、あの野郎だけは許さない。ウチの社員を傷つけた報いを受けさせる。いいか、ミレイナ達は普通に恋愛して結婚するべきだ。いつか会社も寿退職して、旦那さんと一緒に夢のマイホーム、そして可愛い子供に囲まれた幸せな生活を送るべきだ。それを、それをあのドラゴンは……」
『社長。ミレイナ様達はまだ無傷です。社長の脳内での出来事は起きていません』
「やかましい!! いいか、使えるモンは何でも出せ。武装も全部出せ、核ミサイルでもいい、あのクソをぶっ殺す兵器を片っ端から引っ張り出せ!!」
俺の脳内で、ミレイナ達は裸で転がっていた。
そして悪趣味な王座にすわるのは、人間のような姿のヴァルファムート。
ぜっっっったいに許さない。
「ぶっっっっっっころぉぉぉぉす!!」
俺の魂が燃えていた。
熱い血潮が全身を駆け巡り、不屈の闘志が燃え上がる。
俺は、未だかつて無いほど怒り、燃え上がっていた。パチンコでカマ堀られた時もこんなに怒った事は無い。
そして、俺の怒りにトラックは答えてくれる。
『パンパカパーン。全特殊条件達成。新形態を獲得しました』
ちょうどいい、これでアイツをぶちのめせる。
『新形態を獲得しました。説明と操作方法を確認しますか?』
「おう、見せろ。んで殺るぞ」
『畏まりました』
ちなみに、最後の条件は『熱い魂を持ち不屈の闘志を手に入れる』だった。
タマの野郎、上手く俺を怒らせやがった。
*****《勇者タイヨウ視点》*****
天魔王ゼルルシオンは、俯いたまま歯を食いしばっていた。
そりゃそうだ、女の子千人なんて正気の沙汰じゃない。それに……ん、あれ? ちょっと待て……あいつまさか、月詠達も数に入れたのか?
「………ふざけんな」
「ちょ、太陽?」
「ふざけんな!! 月詠や煌星、ウィンクはオレのモンだ!!」
「た、太陽くん!?」
「タイヨウ殿!?」
オレはボロボロのグロウソレイユを構えて突進した。
あの野郎だけは許さない、女の子を喰うだと? ふざけんな。
「鎧身!! オーバードライブッ!!」
「な、待て勇者!!」
ゼルルシオンの脇をすり抜け、ヴァルファムートに向けて跳躍する。
アクセルトリガーを使った戦闘時間はほとんどない。だけどそんなの関係ない。
『蠅が』
「ごっはぁぁぁっ!?」
だが、オレはあっさり叩き落とされ地面に転がった。
鎧も解除され、グロウソレイユはポッキリ折れてしまう。
『さぁどうする魔王。この蠅のように抗うか、それとも要求を吞み我の守護を得るか、選択の時だ』
「………」
ちくしょう、ゼルルシオンの野郎……もし月詠達を売ったらタダじゃおかねぇ。
でも、オレはもう動けそうにねぇ。くそ、オレは勇者なのに……なんて無力だ。
「ちく、しょう……」
くそ……情けなくて泣けてきた。
オレがもっと強ければ、もっともっと強ければ……。
「………わかっ、た………要求を……」
ゼルルシオン、やめろ、やめてくれ。
「こんの変態野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ!!」
マジでビビった。
転がっていたデコトラカイザーが、いきなり立ち上がった。
ボロボロだったのに一瞬で機体は修復され、なんか変態野郎とか叫んでる。
『む? なんだ、まだやるのか?』
「当たり前だこの変態野郎がっ!! テメェみたいなクソ野郎にミレイナ達の初めてはヤラせねぇぞっ!!」
『……は?』
「「「「「「「「「「「「……は?」」」」」」」」」」」」
この場にいた誰もが首を傾げた。
ゼルルシオンですら「は?」って感じで首を傾げてる。
「テメェが女の子達を襲って子を孕ませようとしてるなんて許せるか!! いいか、ウチの従業員達の初めてはテメェのモンじゃねぇ!! ミレイナの、シャイニーの、キリエの、コハクの初めてはなぁ!! みんなの旦那さんのモンだ!! テメェみたいな身体もアソコもデカくて黒い野郎にヤラれてたまるかよコラァッ!!」
『………』
「「「「「「「「「「「……………」」」」」」」」」」」」」
意味分からん、でもおっさん、メッチャキレてるな。
「テメェには正義の鉄槌を下す!! 行くぞタマぁぁぁぁっ!!」
『了解』
でも、今のおっさんはオレには輝いて見えた。
*****《コウタ視点》*****
「重機召喚、ショベル&クレーン!!」
デコトラカイザーの隣に、巨大な二台の重機が現れた。
オールテレーンクレーン車と、世界最大級のショベルカー。二台並ぶとかなり壮観だ。
デコトラカイザーはポーズを取り、俺はこの場所に存在する全ての人に聞こえるような大音量で叫ぶ。
「超・重機合神!!」
『了解。超重機合神プロセススタート』
不思議な力場が形成され、三台の車両が宙に浮きバラバラに分解される。
そう、新たな形態とはトラックと二つのジャケットの合体。
この場にいる人達の度肝を抜きながら、バラバラになったパーツ同士が合体する。
クレーンの砲塔はそのまま腕になり、ショベルハングも腕になる。
元々二台の重機は巨大だったため、新しい形態はデコトラカイザーより遥かにデカい。そして、三つの重機と車両が合体したサイコーにイカしたデコトラカイザーが完成した。
俺は、新たに誕生した重機のロボットの中で叫ぶ。
「完成!! スーパーデコトラカイザー・ラストヴァーゲン!!」
現時点で、最強のデコトラカイザーが誕生した。
さぁて、ボッコボコタイムと行くか。




