22・トラック野郎、ビビりつつ無双
「こ、ここがデンジャー山脈か······な、なんか雰囲気がヤバいな」
「そりゃそうよ。フツーはこんなとこ来ないわよ」
俺たちが来たのはデンジャー山脈の入口だった。
標高は高く、道幅もトラック1台分くらいしかない。そもそもキチンと整備されてるとは言えない。
「いい、戦闘になっても慌てないこと。いいわね」
「お、おう」
「ここのモンスターは殆どが危険種よ。アタシでも相手にならないくらい、ヤバイのがわんさと出るからね」
「わ、わかってるよ。何回も聞いたっての」
「それならいいわ。気をつけて進みなさい」
シャイニーの顔も緊張が見える。たぶん、口に出さないと不安なんだろう。ここは社長の俺がしっかりせねば。
「よ、よし‼ 頼むぞタマ‼」
『畏まりました。武装展開。オートモードで迎撃します』
タマは変わらない声色だ。すっげぇ頼りになるぜ。
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『[ガトリングガン]展開。掃射開始』
『ギャァァァァッ⁉』
『ギャウウウウッ⁉』
ボンネットから現れたガトリングガンが、キングオークと呼ばれるブタの化物をミンチにする。
『[火炎放射器]展開。掃射開始』
『ギャオオオオッ⁉』
『グガァァァァッ⁉』
さらに、トラックに向かってきたマッドコボルトという二足歩行の犬の化物を火だるまに。
『上空にワイバーンの群れを確認。[小型ミサイル]展開。発射します』
トラックのバンボディの上部が展開し、なぜかミサイルが発射される。そして派手な音が聞こえたと思ったら、バラバラになったワイバーンの死骸がボトボト落ちて来た。
『パンパカパーン。レベルが上がりました。[手裏剣]が開放されました。[神経ガス]が開放されました』
何だろう、もう突っ込む気すら起きない。
手裏剣やらガスやらもう武装に関してツッコミを入れるのは止めよう。ここまで来るとどんな相手でも無双出来る気がするぜ。
「なんか心配して損したわ······」
「だな。お、ポイントも結構溜まって来た」
現在のポイントは[22500]だ。デンジャー山脈に入ってまだ1時間ほどなのに、もう1万ポイント以上稼げたぜ。さすが危険種は稼げるんだな。
山道は結構険しく、道も殆ど整備されてない。獣道をグングン進んで行く感じに近い。だけどエンジンもタイヤも強化してるからパンクなんかしないし、キツい傾斜も難なく進んで行く。
ここまで来るともう慣れて気にならなくなってきた。現代兵器強すぎ。
「なぁシャイニー。ここって本当に危険なのか?」
神経ガスを喰らい何匹ものキングオークが痙攣を起こして転がる姿を眺めながら、俺はそんな質問をした。キングオークは口から泡を吹き、ビクンビクンと痙攣してる······憐れだ。
「······あのね、キングオーク1体討伐するのに何人必要か分かる? 単体ですら厄介なのに、ましてや群れで襲ってくるような山なのよ?」
神経ガスを喰らい倒れたキングオークに、ダメ押しの火炎放射。キングオークの群れはこんがりと豚の丸焼きになった。
それを避けつつ道を進むと、今度は巨大な蛇が現れた。
『危険種ヘッジヴァイパー確認。[電磁ウィップ]展開。捕縛します』
ボンネットから何本もの鎖が飛び出し、大蛇の身体を拘束し電流を流す。すると大蛇の身体はビチビチ跳ね、やがて動かなくなった、
「いい? モンスターはいくつかの種類に分かれるの。一般種・危険種・超危険種・災害級危険種ってね」
「ふーん」
『前方320メートル先に超危険種デーモンオーガ確認。[レールガン]展開。チャージ開始』
ボンネットが開き砲塔が現れ、先端部分がバクンと割れた。そこから『ヂュイィィィィ······』とエネルギーが集まる音が聞こえてきた。
「まぁモンスターの格付けなんてどうでもいいや。俺は運送屋だし、モンスターと戦うワケじゃないしな」
「アタシは戦いたいなー、腕がなまるしね」
「コウタさーん、シャイニー、ご飯ですよー」
『発射します』
『バキュゥゥゥゥン······』と派手な閃光が前方に飛んで行き、デーモンオーガの頭から腹部にかけて貫通。残された下半身から血が吹き出し、そのままズズンと後ろに倒れた。
『パンパカパーン。レベルが上がりました。[手榴弾]が開放されました。[グレネードランチャー]が開放されました。デデデーン。レベル30到達。各フォームの武装解除。各フォームに換装し経験値ポイントを入手することで専用武装を入手出来ます』
お、また開放された。専用武装か。
だけどトラックフォームで無双してるし、現時点では必要ないかなぁ。まぁヒマな時にイジるか。
それより今はミレイナのご飯だ。外はタマに任せよう。
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お昼が終わり一服中。ポイントも溜まって来たし、俺は1つの決心をした。なので2人に意見を聞いておく。
「あのさ、ポイントもけっこう溜まって来たし、ここらで風呂を新しくしたいんだがどう思う?」
「お風呂っ⁉ いいわね、サイコーじゃない‼」
「私も賛成です。冒険者時代は何回も入れなかったし、一度町の外に出ると何日も入れないなんて当たり前ですしね」
「そうねぇ、川を見つけた時の喜びったらもう······」
うーん。俺にはわからん世界だ。
とりあえず賛成みたいだし、ここは1つ豪勢に。
『社長。半径25キロ圏内のモンスターを掃討しました』
「そ、そうか。早いな」
『いえ。デーモンオーガを倒した辺りから、周囲のモンスターたちが逃げ始めたのです』
「そっか。じゃあこの辺は安心だな、お疲れさん」
『はい。武装はオートモードで起動させたまま待機します』
さすがチートスキルだ。危険種だろうと何だろうと相手にならん。ホントお疲れ様です。肩を揉んでやりたいぜ。
「よーし。じゃあ風呂を買うぞ。楽しみにしとけよ」
「よろしくっ‼」
「はいっ‼」
女の子たちにはキレイでいて欲しいからな。風呂の1つや2つ買わないとな。
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「さーて、どれにする?」
運転席に来た俺たちは、フロントガラスを覗き込む。
トラックは二人乗りなので、助手席にミレイナとシャイニーが一緒に座っていた。なんか女の子同士がくっついてる姿っていいよね。俺ってやっぱ変態なのか?
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【シャワールーム】○経験値ポイント[67190]
サウナ・7000ポイント
泡風呂・6800ポイント
薬草風呂・9000ポイント
水風呂・4800ポイント
檜風呂セット・13900ポイント
露天風呂セット・23000ポイント
温泉セット・15800ポイント
以下項目未開放
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「ねぇねぇ、泡風呂ってなに?」
「えーと、ボコボコして身体を刺激する······うーん、表現が難しい」
『サンプル映像を出しますか?』
「お、そんなのあるのか。頼むぞ」
すると、フロントガラスに泡風呂の映像が現れた。
六角形の大理石の浴槽で、湯船がボコボコと泡立ってる。こりゃ気持ち良さそうだ。俺も入りたい。
「ね、ねぇ、これって煮立ってるの?」
「こ、怖いです」
『設定温度は自由に変えられます。サンプル映像では42度に設定。適温です』
「これは気持ちいいぞ〜、マッサージ効果もあるから、疲れも吹っ飛ぶぞ」
「へえー、じゃあ薬草風呂は?」
「あの、サウナってなんですか?」
それぞれの意見を聞き、サンプル映像を見ながら選ぶ。
気がつくと2時間以上フロントガラスとにらめっこしていた。
「う〜ん、檜風呂セットも捨てがたいけど、やっぱり露天風呂セットかな」
「はい。とってもキレイですし、こんなの見たことありません」
「じゃあ露天風呂セットにするか。タマ、よろしく」
『畏まりました·········設置完了』
さっそく見に行くことにする。
洗面所と脱衣所を抜け、いつの間にか設置されていた「ゆ」ののれんを潜ると、そこは別世界だった。
「おい·········マジかよ」
「す、すっご·········」
「キレイ·········」
そこは、有名旅館のパンフレットにでも載ってそうな露天風呂だった。なぜか夜空が広がり満月が輝き、竹の囲いで覆われ、囲いの外側には大きな桜の木が突き出していた。
浴槽は立派な石造りで、洗い場も設置されてる。今更だがホントにとんでもないチート能力だ。トラックってことを忘れそうだぜ。
「あ、はは······すっごい‼ ミレイナ、一緒に入ろ‼」
「は、はいっ‼」
「はいっ‼」
「アンタは出てけっ‼」
「ぐっはぁっ⁉」
シャイニーに蹴り飛ばされ、俺は脱衣所まで転がった。
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それから、ポイントを稼ぎつつ山道を進み、驚くほど呆気なくデンジャー山脈を抜けた。
ポイントばかり気にしてたので、モンスターの素材やらを考えてなかった。デーモンオーガの素材なんていくらするか分からない。それこそヴェノムドラゴン並だったかも。
「オーマイゴッドの配達が終わったら、町を観光しようぜ。シャイニー、案内頼めるか?」
「いいけど、アタシもそんなに詳しくないわ。大聖堂とスターダストくらいしかわかんないわよ?」
「そうか。じゃあその2つを見て後はブラブラするか。2〜3日くらい滞在して観光するのもいいかもな」
「そうね。本来なら往復で二月は掛かる道のりを、たったの一週間で来たんだしね」
ミレイナもスターダストを楽しみにしてるしな。準備金の100万でパーっと楽しく過ごすのも悪くない。
「·········お」
「見えた。あれが『神聖都市オーマイゴッド』よ」
オーマイゴッド······今更だけどヘンな名前。