218・プラチナの煌めき⑦/ミレイナとお兄ちゃん
ゼルルシオンは静かに語る。
「オレとお前は、前天魔王である父上と、魔王族の母上から生まれた実の兄妹だ」
そりゃそうだろ姉弟なんだし。というか、その言い方じゃまるで······聞いてみるか。
「グレミオとミューレイアは違うのか?」
「ああ。あの二人は前天魔王の遺伝子から生まれた『魔王の子供』だ。父が自らの遺伝子と優秀な魔族の遺伝子をかけ合わせて作り出された『魔工兵器』の成功作で、オレの弟妹として育てられた」
つまり、試験管ベビーってやつか。
二人の出生を知らなかったミレイナは仰天していた。
「事の発端は大昔······父の前に勇者が現れた時だ」
「え、勇者? 大昔の?」
「ああ」
「え、じゃあ、あんたも以前の勇者を知ってるのか?」
「まぁな。オレはまだ子供だったが」
おい、こいつ幾つだよ。
見た目二十代半ばくらいにしか見えないけど、実際はかなり年上なのか?
というか、俺っていつの間にかタメ口だよね。
「続けるぞ。前勇者と戦った父上は致命傷を負ったが勇者を退けた。父上は自らの死期を悟ると自らの時間を止め、まだ実験段階であった『魔王の子供計画』に自らの血肉を使うように遺言を残して死んだ。その肉体は魔術により保存され、父上の願い通りに計画に使用された。そして一九年前に完成し生まれたのがミューレイアだ。その三年後にグレミオが生まれた」
つまり、一九年前まで研究を続けていた。そしてミューレイアが生まれたのか。かなり長期の研究だったのか。
というか、なんのための研究だったのかな?
「父上は満足して死んでいったが、母上は違った」
ゼルルシオンの声は一気に暗くなった。
「母上は父上を深く愛していた。そして父上の遺言とはいえ、研究のために切り刻まれる身体を見て病んでしまわれたのだ」
ゼルルシオンは、ミレイナを見た。
「母上は長い眠りに付いた······腹の中に、お前を身籠ってな」
それは、衝撃の事実だった。
一息入れると同時に、クリスの治療が終わった。
だが、ここで話を止めるつもりはなかった。
「長い間、母上は眠り続けた。あらゆる医者やアールヴ族の魔術師に見てもらったが、母上は全く目覚めなかった」
うーん、シリアスな話だ。
ミレイナの出生の秘密を魔王の口から聞けるとは。
「父上から天魔王の称号を引き継ぎ、その証である『冥王鎌サディケール』を引き継いだオレは、自らの手で母上を目覚めさせる事にした。あらゆる魔術を探し、古代の魔術や伝承を探り、ようやく一つの魔術を完成させた。深き眠りに付いた者を目覚めさせる禁断の魔術を······」
うーむ、ここからが核心なのか。
俺もクリスもゴクリと唾を飲み聞いてる。ミレイナはゼルルシオンを支えたまま聞いていた。
「今から一七年前、母上の体調が万全の状態時に魔術を発動させた。だが結果は失敗······母上は死亡し、お前は流産に近い形で出産された。更にオレの使った魔術の影響で、お前の魔王族としての素質は最低レベルに落ちていた。全て······オレの責任だ」
そうか、だからミレイナは魔力もからっきしなのか。
なんてこった。母親のために使った魔術で母を殺し、ミレイナの全てを台無しにしたのか。
「オレは、オレは······お前に、母上に合わせる顔が無かった。オレが何もしなければ、母上はいずれ目覚めていたかも知れない。オレがお前か母上を、全てを奪った。そんなオレが兄だと? 冗談じゃない、そんな資格があるものか」
こいつ、責任感じまくってる。
うーん······でも、なんか気に食わんな。
すると、ミレイナがゼルルシオンの顔を両手で押さえ振り向かせた。
「私の名前は『ミレイナ・エインジェル・ヴァーミリオン』、御伽話に出て来る『天の国』の住人の名前。貴方の兄は『ゼルルシオン・ヘヴン・ヴァーミリオン』······天の住人が住む国の名前。ミレイナ、貴女のお兄ちゃんは強くて優しい大きな国みたいな子供、そんなお兄ちゃんを支えてあげられる、天の国の住人みたいな子に育ってね」
「······え?」
俺もクリスも、意味がわからなくてポカンとしてた。
するとミレイナはにっこり笑う。
「お母さんのお腹の中で聞いていたんです。長い間羊水に漂ってたせいか、時々お母さんの声が聞こえたような······そんな気がしました」
「·········」
「私は、貴方の妹です。確かに魔術も使えないし魔力もありません、でも······そんな事で私から逃げないで下さい」
「だが······」
「私、私は······血の繋がった家族がいるって知って、本当に嬉しかった。私を見てくれなくても、それだけで嬉しかったんです。だからお願い、私を見て」
「·········」
ミレイナは、ゼルルシオンの胸にそっと抱きつく。
やべぇ、いつの間にか俺の目から涙が······あ、クリスもめっちゃ泣いてる。
ゼルルシオンは、壊れ物に触れるような手付きでミレイナを抱こうとするが、触れていいのか悩んでる。
だから、言ってやる。
「逃げんな!!」
「っ!!」
おいおい、相手は魔王だぜ。
でも、今の俺にはゼルルシオンが純情なお兄ちゃんにしか見えない。
そして、ゼルルシオンはミレイナを抱きしめた。
「済まなかった·········ミレイナ」
「うん······」
二人のプラチナの髪が、キラキラと輝いていた。
こうして、戦いは終わった。
なんというか、ミレイナとゼルルシオンの和解だ。これをクリアしたからにはもう狙われる心配はない。あとは太陽達の武具を返して貰えばおしまいだ。
すると、ちょうどいいタイミングでみんなが起き出す。
俺はゼルルシオンにタメ口で言う。
「もう、戦わなくていいよな」
「······ああ」
「あと、みんなの武具を返してくれよ。先に仕掛けて来たのはそっちだし、それくらいはいいだろ?」
「わかった。それにオレの魔神器が破壊された今、お前の鉄巨人に抗う術はない。この戦いの勝者はお前だ」
「あーいや、そういうのは別に······」
割とマジでどうでもいい。
俺はゼルルシオンの武器を見てちょっと申し訳ない気持ちになった。
「その、魔神器だっけ。壊して悪かった」
俺がそう言った瞬間だった。
恐ろしい大地震がヒュブリス地域全体を襲った。
俺達は、既に起きてる太陽達の元へ向かう。
「おっさん、って魔王!!」
「待て、もう敵じゃない。みんな落ち着け!!」
そりゃさっきまで死闘を繰り広げた魔王がフツーに立ってれば驚くよな。しかもクリスもミレイナも一緒に。
大地震は止まったが、とにかく危なかった。まさか魔界に地震があるとは思わなかったぜ。
「·········今のは、まさか」
ゼルルシオンが何かに気が付き、天魔王城を見た。
意味がわからん、というかやめてくれ。
「う······に、兄さん?」
「兄様、これは」
あ、グレミオとミューレイアが起きた。
とりあえず険悪な雰囲気になりそうだったのでゼルルシオンに抑えてもらう。
すると、ゼルルシオンがこの場にいる全員に言った。
「マズい、この感じ······ヴァルファムートの封印が解け始めている!!」
「は? ヴァルファムート?」
ポカンとする俺達だが、魔王姉弟とコハクは仰天していた。
「ちょ、ちょっと待ってよ兄さん。ヴァルファムートってまさか『守護天龍ヴァルファムート』の事かい? アレは伝承だろう?」
「ええ、ヒュブリス地方を守る『神』にして魔界最強の七匹のモンスターですわよね? 伝承では七人の魔王に討伐されたと」
おお、そんな設定があるのか。
というか、もういい加減に帰りたい。
「そうだ。正確には討伐されていない、封印されたんだ。これは代々魔王を継承する物に伝えられる話だか、そうは言ってられん」
「あ、あの、どういう事でしょう?」
ミレイナ、さすがに『お兄ちゃん』呼びはまだ恥ずかしいのかね。
「いいか、七つの魔神器が絶対の力を持つ理由、それは魔界最強の封印されし『七神』から力の供給を受けているからだ。そして魔神器そのものが七神の封印を司る鍵でもある。魔王とは本来、七神の封印を受け継ぎし存在であり、鍵の守護者が本来の姿なんだ!!」
え、えーとつまり······その魔界最強とやらの封印の鍵は?
アンサー、デコトラカイザーがぶっ壊した。
おい、ゼルルシオンですら顔色が悪いぞ。
「に、兄様、ヴァルファムートはどちらに······?」
「······この国の者なら誰もが知ってる場所だ」
次の瞬間、天魔王城が爆発した。
それは、まさにドラゴンだった。
ヒュブリス入口のここからでもわかる。爆発した天魔王城に、巨大な漆黒のドラゴンが佇んでいた。
大きな翼、長い首、メタボな腹に短い手足。典型的なドラゴンって感じだ。
『グォォォォォォーーーーーッ!!』
とんでもない雄叫びだ。ここまでビリビリと響きやがる。
「やはり、狙いはオレか」
「え、なんで?」
「封印の守護者がオレだからな。恐らく、最初に殺されるのはオレだろうな」
ゼルルシオンは前に出ると、俺達に向かって言う。
「グレミオ、ミューレイア、住民の避難を頼む。オレは町の外でヴァルファムートを引きつける」
「な、に、兄様!?」
「死ぬ気かよ兄さん!!」
ゼルルシオンは、二人の声を無視した。
「勇者達よ、恥と知りつつ頼む。どうか住民を守る力を貸してくれ」
太陽達も困惑してる。でも、太陽なら。
「いいぜ。その代わり、あとで美味いもん食わせろよ」
「ああ、約束しよう」
太陽は月詠達を見ると、それだけで全員を納得させた。
「じゃ、アタシ達も」
「ええ、お手伝いを」
「する!!」
シャイニー、キリエ、コハクもやる気満々だ。
俺はミレイナを見た。
「·········」
ミレイナは、ゼルルシオンを見詰めていた。
ゼルルシオンは、その視線に気が付かないフリをしていた。
「······はぁ〜、ホントに、ホントにもう」
俺は普通の生活がしたいだけだ。
ずっとバトルばかりで落ち着かないし、早く帰って仕事を再開したい。それにアレクシエルもやかましそうだし、フードフェスタも近い。
ホントに、これがホントに最後だからな。
「ゼルルシオン、あのドラゴンは俺に任せろ」
俺は頭をボリボリ掻きながら言うと、全員が注目した。
「な、何を言ってる」
「オイオイ、あのサイズ見ろよ、フツーに考えて戦うのは俺だろう? 巨人ロボットと悪のドラゴン、素敵やん?」
ちょっと日本語がおかしいけど、太陽には通じた。
「た、確かに······そうだ、おっさん、おっさんの独壇場じゃねーか!! くぅ〜羨ましいぜっ!!」
こいつはバカだから置いておこう。
「ミレイナ、ゼルルシオンを頼む」
「······はいっ!!」
俺はトラックへ向かい、運転席へ。
「タマ、やるぞ」
『畏まりました。ですが現在の戦力では太刀打ち出来ません』
「·········」
ははは、もうどうにでもなーれ。




