216・勇者パーティーvs天魔王ゼルルシオン③/骸装
シャイニーさんやコハクさん、ウィンク達はしばらく動けないだろう。それは魔力を使い果たしたクリスも同じだ。
つまり、魔王の相手は日本人であるオレら三人でする。
「人間が生み出した魔神器か······中々、壮観だ」
ゼルルシオンはそんな事を言う。
確かに。黄金、赤、碧の鎧を装備したオレらは特撮ヒーローみたいだ。ここにクリスとウィンクが入ればまさに戦隊モノだな。
となるとリーダーは赤の月詠だけど······あれ、黄金のオレって追加戦士みたいじゃね?
「行くわよっ!!」
「はいっ!!」
「お、おおうっ!!」
っと、変な事考えてる場合じゃなかった。
オレら三人は同時に飛び出す。
「煌星、任せた!!」
オレと月詠はアクセルトリガーを同時に取り出す。
こいつ相手に出し惜しみは不要。というか全力で行かないと負ける。
「「オーバードライブ!!」」
超鎧身形態へ変形、まずは月詠がマグマを噴射しながら撹乱し、オレも残像を生み出しながらゼルルシオンに迫る。
「·········」
ゼルルシオンは、全く動かない。
オレと月詠が完全包囲、月詠の生み出した大量のマグマを壁にして、オレは残像を魔力で固め、ゼルルシオンに突進させた。
「『残光連刃』!!」
そして、ゼルルシオンの足元から火山のようにマグマが吹き出した。
「『大噴火』!!」
どうだ、全方位からの同時攻撃。これなら煌星の矢みたいに躱せねぇだろ!!
だけど、ゼルルシオンは微笑んだ。
「ふ······」
月詠のマグマ噴火もゼルルシオンに直撃し、オレの分身もマグマに向かって殺到する。
「煌星っ!!」
「行け、『蛇突穿刺』!!」
何本もの矢を束ね、巨大な一本の矢にして放つ煌星の技。
マグマで見えないが、ゼルルシオンが居ると思われる場所に煌星は矢を放つと、魔力を帯びた巨大な矢はマグマに突き刺さる。
「やったか······?」
「油断しないで」
「はい······」
アクセルトリガーを解除して様子を見る。目の前には固まったマグマに巨大な矢が刺さっている。オレ達の魔力も底を付きかけてるし、みんな肩で息をしている。
すると、やはり聞こえてきた。
「見事だ」
冷えて固まったマグマが砕け、巨大矢がボロリと落ちる。
マグマの中から現れたのは、ボロボロに負傷したゼルルシオンだった。
それを見て驚いたのは、オレ達よりグレミオとミューレイアだ。
「に、兄さん!? なんで」
「兄様!?」
どうやら、ゼルルシオンが負傷するとは考えていなかったらしい。
「いや、異世界の勇者とやらの全力を受けてみたくてな。ははは、素晴らしい······熱く輝くような、若く真っ直ぐな力だ」
おい、なんで、なんであんなにキラキラした笑顔なんだ。
わけわかんねぇ······これじゃまるで。
「合格だ」
「え······な、何がだよ」
「ふふ、下らん思想や賊紛いの者なら慈悲も与えず滅していたが、どうやら貴様達は違うようだ。グレミオの策を打ち破り、四天将を倒したその強さは敬意に値する」
こいつ、違う。
こいつは本当にそう思ってる。
わかっちまった······こいつは器が違う。グレミオの策や先入観で『悪』と決めつけてたけど、こいつは違う。
「オレも本気で行かせてもらう。見よ、これが正真正銘七つの魔神器の一つ、『冥王鎌サディケール』だ」
怖いとか、恐ろしいとかはもうない。
オレはこの天魔王ゼルルシオンに、敬意を抱いていた。
シャイニーさん達がやられた事も忘れ、ゼルルシオンが漆黒の魔法陣から何かを取り出すのをジッと見ていた。
現れたのは、漆黒······いや、濡羽色の鎌。
死神が持ってそうな大鎌だがオーラが違う。この世の物とは思えない何かを感じる。
「·········は、はぁ」
「た、太陽······ダメ、あれはマズい」
「ひっ······も、もう」
駄目だ、完全に身体が動かない。
改めて思う、コイツは格が違う。オレらはどんだけ低い次元で争っていたんだ······そんな絶望を感じる。
「『骸装』」
更に、鎌から魔力が溢れてゼルルシオンの全身を包むと、そこには死神をモチーフにしたような全身鎧のゼルルシオンがいた。
「死んでくれるなよ勇者、久しぶりに楽しめそうなんだ」
ゼルルシオンは楽しそうに笑っていた。
*****《コウタ視点》*****
太陽達は、あっさりと全滅した。
ゼルルシオンが死神みたいな鎌を出し、更に鎧まで装着した。魔神器とやらが魔族の技術なら、太陽達と同じ鎧を装備出来るのがわかる。
シャイニー、コハクは最初の一撃で気を失い、ウィンクも左腕の喪失のショックで倒れてる。
クリスは魔力を使い果たし、キリエも怪我の影響で倒れてる。
太陽、月詠、煌星は鎧が砕かれ、生身の状態で気を失っていた。
「グレミオ、ミューレイア、回収しろ」
「はい、兄様」
「チッ······はーい」
ゼルルシオンは、太陽のグロウソレイユを掴みグレミオに投げる。どうやら武具を回収するようだ。
俺は、一歩も動けずに腰を抜かしていた。
「······コウタさん」
「み、ミレイナ······」
ミレイナは俺の傍にしゃがみ、ポツポツと語り始めた。
「コウタさん、ここでお別れです」
「······へ?」
「なんとか、皆さんだけでも無事に帰してもらえるように説得してみます。いえ、してみせます」
ゼルルシオンは、俺とミレイナの元へゆっくり歩いてくる。
「今まで楽しかったです、本当に······楽しかった」
「お、おい、ミレイナ」
ミレイナは一筋の涙を流し、俺の頬へ口付けをする。
「······ありがとう」
ミレイナは立ち上がり、ゼルルシオンの元へ。
俺は、何も出来なかった。
ゼルルシオンとミレイナは、正面から向き合う。
「·········」
「お願いします。勇者様を解放して下さい」
「·········」
「私は何でもします。奴隷でも娼婦でも、何でもします。この命を差し出せと言うなら差し出します。だから」
「·········」
ゼルルシオンとミレイナは取引をしてる。
俺は、俺は何をやってるんだ。
腰抜かしたまま立てず、情けなく座り込んでる。
ミレイナは俺を、勇者達を守ろうと立ち上がり、あんなにも強い瞳でゼルルシオンの前に立ってる。
俺は何も出来ないのか。
違う、怖くて何も出来ないんだ。
「······ちくしょう」
背後には、トラックが止めてある。
俺の力の象徴でもあるトラックだ。今はゼルルシオンの魔術で完全に拘束されている。近付く事すら出来ない。
すると、武具を回収したグレミオとミューレイアがゼルルシオンの左右に立ち、ミレイナを見る。
「ミレイナ、帰ったらお仕置きしないとねぇ」
「悪いけどミレイナ姉さん、ボクに付き合ってもらうよ」
「·········はい」
俺は、俺は、俺は······何してるんだ。
もう、立てるのは、動けるのは俺だけなのに。
「······くそ」
涙が出た。
同時に、足腰に力が入った。
腰に差してる拳銃を抜き、震える足で立ち上がる。
俺は人生初となる、勝ち目のない喧嘩を売った。
「み、みみみ、ミレイナに近付くんじゃねぇこの野郎がっ!!」
集中する視線。
グレミオ、ミューレイア、ゼルルシオン、そして驚愕の表情のミレイナ。
震える足で一歩前に出る。
「み、ミレイナはなぁ、俺の会社の大事な従業員だ!! か、勝手に連れて帰るんじゃねぇよこのモンペ共が!! 確かにミレイナは未成年だけど、会社にゃ必要な人材なんだよ!!」
言った、言ってやった。
「なにコイツ?」
「あぁ、その乗り物を操作してた人間だよ」
「ふーん······どうする?」
「始末していいんじゃない?」
「いい? 兄さん」
「好きにしろ」
俺の啖呵は、届かなかった。
でも悔いはない。どうせ死ぬならやってやる。言ってやる。ミレイナを大事にしないクソ兄弟にぶち撒けてやる。
まずはグレミオ。
「そもそもお前、いい歳してシスコンとかキモいんだよ!! カッコつけた中二病みてーな剣を振り回してかっこいい気になってんのか知らねぇけど、見てて痛々しいんだよこの中二病患者!!」
お次はミューレイア。
「てめーはアレだ、クラスに一人はいるお嬢様キャラだ。素で『オーッホッホッホ』とか言いそうな高貴キャラだ。そういえのは大抵酷い目に合うけど、お前は間違いなくこれから酷い目に合う、予言してやるぜ」
最後はゼルルシオン。
「そもそもアンタ、なんでミレイナに口きかねーんだよ。見た目そこの陰険姉弟よりミレイナに似てるのに、なんで存在自体を無視すんだよ。こりゃアレか? 『オレには話す資格がない〜』とか言うおきまりの事情なのか?」
息継ぎナシで言ってやったぜ。ざまあみろ。
すると、グレミオとミューレイアの気配が変わった。
「ボクが殺るよ姉さん」
「いえ、私が」
「へん、来るならさっさと来いよこの雑魚共が、まとめて相手になってやる」
もう吹っ切れた。
どうせ助からないなら、爪痕だけでも刻んでやる。
すると、俺の腹に衝撃波が刺さった。
「うぶぉえっ!?」
「こ、コウタさん!!」
ゴロゴロと地面を転がる俺。ゲロも吐いちまった。
するとグレミオが、俺の手を踏みつける。
「いっがぁぁぁっ!?」
「お前、ムカつくな······少し可愛がって殺るよ」
「グレミオ、約束は半分だからね」
グレミオの蹴りが俺の腹に何度も刺さり、その度にゲロと胃液を吐く。
「ほら、立てよ」
「······ペッ」
「·········」
襟を掴み俺を立たせるグレミオの顔に唾吐いてやった。ざまあみろ。
するとグレミオの眉がピクピク動き、ボディに膝蹴りを食らわせた。
「う、げぅっ」
胃液じゃなくて血が出た。
顔も殴られて腫れ上がり、蹴られた場所の感覚がない。
「やめて、もうやめてぇぇぇっ!!」
「動かないの、ほぉら」
ミューレイアはミレイナを拘束し、俺に振るわれる暴力を見せつけてる。
ゼルルシオンは何も言わず、静かに佇んでいた。
どれくらい経ったのか、俺の視界も明滅してる。
「姉さん、交代」
「······いいわ、やっぱりトドメは譲ってあげる。泣き叫ぶこの子を見てる方が面白いしね」
「ふぅ〜ん、趣味わるっ」
仰向けの大の字で寝る俺の傍へグレミオが来た。
「その首を切断してミレイナ姉さんの目の前に突き付けてやるよ」
グレミオは腰から剣を抜き、両手で構え頭上に掲げる。
俺の意識はもう落ちる寸前だ。あれ、そういえばイヤホンどこ行った?
まぁいいや······あぁ、死ぬのかぁ。
「じゃ、バイバ〜イっ!!」
漆黒の剣が振り下ろされる。
「コウタさぁぁぁーーーーんっ!!」
ミレイナの悲痛な声が、耳にこびり付いた。
俺は、死んだのか?
『警告。生命安全率が十パーセントを下回りました』
なんか聞こえる。イヤホン······いや、脳に響いてる。
『条件四クリア。特殊変形条件残り一となりました』
いや、今さら特殊変形とか言われても。
『警告。生命安全率が五パーセントを下回りました』
あ、なんかグレミオの剣がスローで見える。あと数秒もしないうちに俺の首を両断するなこりゃ。ははは、また死ぬのかぁ。
『緊急プログラムが解除されました。説明を聞きますか?』
あー、こりゃ夢なのか? まぁ付き合ってやるか。
『緊急プログラムとは運転手の生命に関わる状況に陥った場合のみ解除されます。発動条件は運転手の生命安全率が十パーセント以下に低下することです。現在発動可能です』
ふーん。緊急プログラムねぇ。
『緊急プログラムが発動しますと、運転手の保護を最優先した自立行動を行います。その場合、全ての操作を《カスタマイズサポート》が行い運転手の生命保護を最優先とした行動を取ります』
へぇ、ってか今までだってピンチはあったのに、こんなプログラム発動した事ないぞ。
『選択して下さい。緊急プログラムを作動させますか?』
まぁいいや、よくわからんけど頼むわ。
『畏まりました。緊急プログラム《アライブ・オブ・アライブシステム》起動。トラックの全機能解放。カスタマイズサポートの権限に置きまして運転手の保護を最優先とした行動を開始します』
はぁ·····とにかくおやすみ
*****《?????視点》*****
グレミオの剣が振り下ろされた。
このまま行けば、間違いなくコウタの首を両断するだろう。
だが、違った。
「·········へ?」
グレミオの両腕が、宙を舞った。
真っ赤な何かが通り過ぎ、グレミオの両腕を肘から吹き飛ばした。
剣を握った腕が宙をクルクルと舞う光景に、ミレイナとミューレイアは唖然とし、ゼルルシオンは叫んだ。
「離れろグレミオッ!!」
「え······」
再び赤い光線が飛び、グレミオの両足を膝から吹き飛ばす。
ダルマになったグレミオは、ようやく事態を理解した。
「あ、ぁぁ、あぁぁ······あァァァァーーーーッ!?」
芋虫のようにコウタの傍でバタバタするグレミオ。
ゼルルシオンは飛び出した。
「『骸装』!!」
死神の全身鎧を装着し、グレミオの傍で鎌を構える。すると真紅の光線がゼルルシオンを襲うが、鎌でガードした。
「く······こ、これは」
冥王鎌サディケールに、小さな亀裂が入る。
同時に、トラックを拘束していた鎖と魔法陣が吹き飛んだ。
『デコトラカイザー起動。緊急プログラム発動。カスタマイズサポートの権限に置きまして変形。デコトラカイザー・アライブ起動します』
ゼルルシオン、ミューレイア、ミレイナの前でトラックが変形し、各パーツが展開する。そして、ボディカラーが真っ赤に染まる。
『運転手保護のため周辺に存在する魔王族を殲滅します』
デコトラカイザーのメインカメラである頭部が、ゼルルシオンとミューレイアを見た。




