215・勇者パーティーvs天魔王ゼルルシオン②/負傷
オレを先頭に、近接部隊は飛び出した。
オレ、月詠、ウィンク、シャイニーさん、コハクさんが飛び出し、クリスとキリエさんは詠唱を始めた。
「兄様、私も」
「いや……お前は魔力を使うな、ここは任せろ」
この野郎、また微笑を浮かべてミューレイアの方へ顔を向けやがった。
戦闘中に相手から目を逸らすなんて自殺行為だってのによ、それともオレら相手には目を逸らす余裕もあるってのか!!
「飛べ、『グライドエッジ』!!」
「焼けろ、『炎狼牙』!!」
「潰せ、『アクアスクリュー』!!」
オレの光刃、月詠の拳から炎の狼、ウィンクの槍から螺旋を描く水の竜巻が発射される。
するとオレ達の背後でシャイニーさんとコハクさんがジャンプするのを感じた。
「コハクッ!!」
「うんっ!!」
特に作戦を立てたワケじゃ無いが、これは躱せないだろう。
オレ達の放った技を回避してもシャイニーとコハクが追撃するし、それすら躱しても更に続くオレ達がいる。つまり、ゼルルシオンの動きを見て手が打てる。
オレらの技を回避すればシャイニーとコハクの追撃をどう捌くのか見れるし、二人の攻撃を捌いた後にオレらが追撃をすれば確実にダメージを与えられる。
オレは技を放った後すぐにゼルルシオン目掛け突進した。
「………ほぅ」
ゼルルシオンは武器らしい武器は持っていない、しかも構えすらない。
何故だ、オレ達の攻撃が当たらない……そんな気がした。
そしてそれは現実となる。
「ふっ……大したモノだ」
ゼルルシオンは右手の人差し指をピッと立てると、エレベーターのボタンを押すような仕草をする。
「なっ!?」
「消え……」
それだけで、オレ達の技が消えた。完全に『消滅』した。
「ッッだらぁぁぁぁぁっ!!」
「やぁぁぁぁぁぁっ!!」
それでも、シャイニーとコハクは動揺しない。
驚きはあるが、ここで剣と拳が迷えば隙に繋がる。
「………」
今度は、クイッと人差し指を軽く上に向ける。
するとシャイニーとコハクの動きが空中で停止した。
「なっ……」
「う、動け」
その光景に、オレと月詠とウィンクの動きが急停止するが、ゼルルシオンの狙いは違った。
「な、この……ぐぁっ!?」
「ぐぐぐ、離せっ……がぁぁぁッ!?」
隙を見て放った煌星の矢と、クリスとキリエさんの魔術の盾にした。
シャイニーさんに煌星の矢が刺さり、クリスの炎弾とキリエさんの氷弾がコハクさんに身体を焼き氷弾が激突した。
「返すぞ」
ゼルルシオンはそのまま二人をオレ達の元へ砲弾のように射出する。
二人を月詠とウィンクが何とかキャッチするが、酷い状態だった。
「あ、ぐぐ……」
「ゲホッ……」
シャイニーさんの身体に何本も矢が刺さり、コハクさんの身体は焼けて何ヶ所も骨が折れていた。
クリスが慌ててこちらへ走ってくる。
「仲間を気遣ってる場合か?」
「ッ!?」
ゼルルシオンがオレの眼前に。
反射的に剣を横薙ぎすると、ゼルルシオンの身体は一瞬で消え、代わりにウィンクが現れた。
「な、ウィンクッ!!」
「ぐ、がぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
オレの剣はウィンクの身体を薙ぎ、ウィンクの左腕がボトリと落ちた。
地に伏すウィンク。オレは、オレがウィンクを。
「太陽!!」
月詠の声。
オレは左右に首を振り、何が起きたか確認を。
「バカァァァァッ!!」
「え、月詠ッ!? っどわっ!?」
月詠がオレを突き飛ばし、オレは地面を転がる。
「月詠ちゃん!!」
「ぐ、が……」
「ほぅ、止めるとは」
声の方を向くと、ウィンクの左手から盗った槍を縦に振り下ろしたゼルルシオンに、その槍を『鎧身形態』になり両手で掴む月詠がいた。
だが、月詠のパワーでも負け始めてる。ゼルルシオンは片手で槍をグイグイ押してるのに対し、月詠は両手で槍を掴みつつも膝を付いていた。
「このっ!!」
煌星が背後から何本も矢を放つが、矢はゼルルシオンの手前で急停止。方向を変えてシャイニーとコハク、ウィンクの治療を行ってるクリスの元へ。
「な、や、止めろこのヤロォォォォーーーーーーッ!」
青ざめる煌星、そして飛びだすオレ。
だが間に合わない……ヤバい、クリスが。
「クリスーーーーーーッ!」
「え?」
治療に集中してたせいか、矢に気が付いてないクリス。
顔を上げたクリスの顔は、完全にわかっていなかった。
でも、姉はわかっていた。
「…………」
「き、キリエ、ねぇ……?」
「全く、ちゃんと周りを見ないとダメですよ……」
「え、あ……」
キリエさんはニッコリ微笑むと、口から一筋の血液が流れる。
そして、そのままクリスの目の前でパタリと倒れた。
「え……」
背中には、何本もの矢が刺さっていた。
*****《クリス視点》*****
クリスは、目の前の光景が信じられなかった。
何本もの矢が刺さってるシャイニー、身体が焼けただれてるコハク、左手が切断され呻くウィンク、そして………クリスを庇い重傷を負ったキリエ。
「あ、ああ……あああああ」
震えるクリス。
姉が、キリエが、自分を庇って倒れていた。
一瞬で、四人もの重傷者を出してしまった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ!」
クリスは大粒の涙を流し、武具を発動させる。
一瞬で鎧が形成され、神官を模した鎧と杖が現れる。
「やだやだやだぁぁぁーーーッ!! みんな、みんな死んじゃやだぁぁぁっ!!」
クリスは半狂乱になりながら呪文を呟き、同時に武具に搭載された機能も発動させ、アクセルトリガーを挿入する。
「光輝杖アウローラよ、闇を照らす灯よ、世界を包む光の導よ!!」
武具には魔力を吸収する機能が搭載されているが、クリスの鎧はその機能が大幅に強化されている。それは魔術の増幅機能と合わせて搭載され、更にアクセルトリガーを使用することでその効果は更に引き上げられる。
だがそれは、クリスの魔力をほとんど吸い尽くすと言う事だ。
回復に特化したクリスが魔力を使い果たす、つまりもう回復が出来ない。
だが、ここで回復魔術を使わなければ、キリエ達は死ぬ。
「聖母の慈悲、女神の愛、大いなる祝福よここに、『神よ平和の鐘を鳴らせ』!!」
クリスの全魔力を喰らい、人間最強の癒しの魔術が発動した。
純白の魔方陣が周辺一帯を包み、あらゆる負傷と病気を癒やす。それは敵味方一切関係なかった……というか、クリスはそこまで考えていなかった。
「あ……」
「姉さん、怪我が……」
ミューレイアの負傷も回復し、シャイニーとコハク、ウィンクとキリエの負傷も完全に回復。それと同時にクリスの鎧が解除され、クリスは気を失った。
*****《勇者タイヨウ視点》*****
「ほぅ、あの娘……どうやら魔族の血を引いてるようだな」
「な、んですって……っぐ」
ゼルルシオンは月詠を槍で押さえつけながら呟くと、力を抜いて月詠を槍から解放した。
月詠の傍に煌星とオレが並ぶ。
「回復魔術は『アールヴ族』しか持たない稀少魔術だ。恐らくだが、あの娘の血族にアールヴ族の血が混ざったのだろう」
「な、何を言ってんだ。クリスは人間だぞ!!」
「さぁな。大昔に人間とアールヴ族が交わり子が生まれたのだろう、先祖返りというやつだ」
「……じゃあ、オーマイゴットやホーリーシットの『聖王』や『聖女』は、魔族の血なの?」
つまり、神だの何だのってのは伝承で、魔族の血が正体ってか?
唐突に明かされた真実だが今はどうでもいい。
「とにかく、そんなモンはどうでもいい。テメーは絶対に許さねぇ……行くぞ煌星」
「はい」
オレと煌星は武具を発動させ、鎧身形態へ。
日本人勇者三人で今はやるしかない。オレは煌星に小声で告げる。
「オレと月詠で隙を作る……いいか、確実に当てられる時に射るんだ」
「……わかりました」
「月詠、羽交い締めにしてでも動きを止めるぞ」
「わかったわ」
とにかく、コイツを倒さないと帰れない。
日本人の意地を見せてやるぜ。




