表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の配達屋さん~世界最強のトラック野郎~  作者: さとう
『第16章・トラック野郎と連続タイマンバトル』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

213/273

212・コハクvs青龍王ブラスタヴァン③/コハクの秘密

「ん············あれ」

 目覚めたコハクの頭はボンヤリしていた。

 ゆっくりと身体を起こし確認する。服は破れて上半身は裸だが、武具も綺麗なままだし怪我も消えていた。

「え、なんで?」

「起きたか·······」

「あ······お、おじさんっ!?」

 声の方を向くと、ブラスタヴァンが座っていた。

 腹部から血がドクドクと溢れ、床が血に染まっている。

「大した事はない。それより上を着ろ、女の子がはしたない」

「あ、うん」

 コハクは自分の裸体に無頓着であり、ブラスタヴァンに裸を見られる事に特に羞恥はなかった。それもそのはず、ブラスタヴァンは父と母に見捨てられた時から世話になっており、一緒に風呂に入った事も何度もある。

 とりあえず適当にカーテンを胸に巻き、汚れの無い比較的綺麗なカーテンを何枚も持っていく。

「おじさん、お腹······」

「ああ、すまんな」

 先程まで戦っていたとは思えないほど二人は触れ合った。

 ブラスタヴァンの傷口を畳んだカーテンで押さえ、更にその上を包帯の代わりにカーテンでぐるぐる巻く。

「痛くない?」

「ああ、もう血は止まった。それより······覚えてないのか?」

「·········あんまり。おじさんに倒された後の記憶がボンヤリしてる」

「なら、説明しよう」

 ブラスタヴァンは先程までのコハクの状態を説明する。

 鎧が変化した事、魔性化を発動させた事、ブラスタヴァンがコハクの魔性化を抑えた事などを説明した。

「魔性化······わたしが」

「そうだ。思った通り、普通の魔性化ではなかった。二つの血が混ざりあった不完全な魔性化だ」

「二つの、血······」

「ああそうだ。お前の中に眠る二つの血······魔竜族と魔虎族の血だ」

 ブラスタヴァンは、真っ直ぐコハクを見た。

 父と母の事を何も知らないコハクに、説明する。

「おじさん、教えてくれるの?」

「ああ、お前はオレに勝ったからな。その権利はある」

「違うよ、おじさんは負けてない。だっておじさん、手加減してた。『龍神流魔闘術りゅうじんりゅうまとうじゅつ』の技を一つも使わなかったし、魔性化も使わなかった。単純な腕力だけでわたしを······」

「ははは、そうかもな······それは、オレがお前を見くびったからだ。お前相手に技は必要ないと、お前を舐めて掛かったからだ。その結果お前は新しい力に目覚め、オレを圧倒した。魔性化だろうが技だろうが、オレはお前に負けた······見事だぞ、コハク」

 ブラスタヴァンは、大きな手でコハクを撫でる。

 コハクは顔を歪め、ポロポロと涙を流した。

「全く、泣くなコハク」

「······うん」

 暫し、静寂な時間が流れる。

 ブラスタヴァンは、ついに語りだした。

「コハク、約束通り話そう。お前の母について」

「うん」

 ブラスタヴァンは、小さく息を吐く。

「お前の父は、オレの兄であり魔竜族の長である『竜帝ブラスドラ』なのは間違いない。そしてお前の母は······」

 コハクは、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「お前の母は、パイラオフの姉であり魔虎族の長『虎女帝パイラン』······つまり、お前は魔竜と魔虎の族長同士の間に生まれた子供なんだ」

 コハクは驚愕した。

 魔竜と魔虎の族長の間に生まれた子供、つまり。

「異種族の交わりを禁じてる魔竜と魔虎でありながら、その族長同士が愛し合い、子供が生まれたとなれば一族に示しがつかん。だからお前の母はお前を捨てて一族を選び、父はお前を腫れ物でも触るかのように扱った。族長として悩んだ結果だろうがオレには納得出来ん。だからオレは兄者とパイランが許せなかったのだ」

「おじさん······」

「オレは何度も兄者に言った。『コハクと向き合え』と······だが兄者は聞く耳持たず、幼いお前に愛を注がず見ようともしなかった。パイランもパイランでお前を忘れて再婚し、今は何人もの子宝に恵まれている······お前の存在は、無かった事にしてな」

 ブラスタヴァンは、本気で怒っていた。

 コハクにはそれが嬉しくもあり、同時に悲しかった。

「これが真実だ。コハク、お前の両親はお前の存在を無かった事にして今を生きている。オレは······それが許せん」

「·········」

 コハクは黙り込むが、すぐに顔を上げた。

「おじさん、教えてくれてありがとう」

「······すまん」

「ううん、お話聞けてよかった」

「······兄者が、母が憎くないか?」

「うん。お父さんはわたしを鍛えてくれたし、お母さんは顔も覚えてないからよくわからない。それに、今はおじさんが居るから寂しくないよ」

「······そう、か」

 コハクはブラスタヴァンに抱きつき、硬い胸に顔を埋める。

「それにね、今はとっても楽しいの。人間界でご主人様に助けられて、ミレイナやシャイニーやキリエと一緒にお仕事して、美味しいご飯をいっぱい食べて······毎日が宝石みたいにキラキラしてる。だからホントのこと聞けただけで嬉しいよ」

「楽しい······そうなのか?」

「うん。だから、攫われたミレイナを取り戻す。わたしの大事な日常に帰るために、わたしのお家に帰るために」

「·········」

「だから······行くね」

 コハクはブラスタヴァンから離れ、立ち上がる。

 魔族として魔界に留まるより、魔族として人間界で生きる事を選択した。その選択を止める権利はブラスタヴァンにはない。

「待て、コハク」

 ブラスタヴァンは、先程拾った青と黄色のナックルダスターをコハクに投げた。

「これは?」

「お前の鎧が解除された時にお前から分離した物だ。恐らく、お前の魔神器を強化させる道具だろう。魔性化と合わせて上手く使え」

 コハクはそれを胸の谷間に入れる。

「ありがとう、おじさん」

 そう言って、コハクは奥のドアへ走って行った。

 ブラスタヴァンはそれを見送ると、再び息を吐く。

「敗北、そして娘の巣立ち······はは、失い過ぎた。こんなザマでは『青龍王』は引退だな」

 ブラスタヴァンは引退を決意した。

 それと同時に、コハクの言う『ご主人様』に興味が湧く。

「ご主人様······ふん、人間め、まさかコハクに不埒な事をしとらんだろうな」

 あの金属の乗り物でミレイラを助けようと向かって来た人間。

 可愛い姪っ子は巣立った。だがまだ心配でもある。

「·······ふん」

 ブラスタヴァンは新しい目標を見つけた······かも知れない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます!
最弱召喚士の学園生活~失って、初めて強くなりました~
新作です!
気に入ってくれた方はブックマーク評価感想をいただけると嬉しいです
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ