206・シャイニー・ウィンクvs魔騎士部隊/姉妹連携
*****《シャイニー・ウィンク視点》*****
シャイニーとウィンクは、ひたすら戦っていた。
殺到する騎士を相手に怯む事なく剣を振り、槍を振るう。
キリエの魔術である程度は吹き飛ばしたが、それでもかなりの数が残っている。
斬っても斬ってもキリがない。二人は背中合わせになるとあっさり囲まれる。
「ったく、数ばかりゴチャゴチャと」
「ですが姉上、数はもちろん質も侮れません」
「そーね。個人の実力は上級〜特級冒険者くらいかしら。アタシもこの剣じゃなかったらとっくに倒れてたかもね」
「それは私もです。勇者の武具を魔族が欲しがる理由もわかりました」
シャイニーの双剣は魔族の騎士鎧をバターのようにスライス出来たし、ウィンクの槍もあっさりと貫通する。
「残りはどれくらい?」
「······ざっと、一〇〇〇」
「じゃ、半分はよろしくね」
「······は、はい」
それが当たり前であるかのように、シャイニーはあっさり答えた。
迷いや恐れなど全くない、ただの単純作業をこなすかのような口ぶりに、改めてウィンクは驚かされた。
「『鎧身』を使うタイミングは任せる。それに、アタシとの戦いで使わなかった『奥の手』もあるんでしょ?」
「······はい」
「別に責めてないわよ。アタシだって手札を全てを晒したワケじゃないしね」
ウィンクの脳裏に『アクセルトリガー』が浮かぶ。
恐らくそれを使えばシャイニーに勝てる、そう思った。
「気付いていると思うけど、この騎士達を統括してる団長クラスが何人か居るわ。たぶん二人は倒したけど、まだ何人か居る······ウィンク、そいつら全員倒せる?」
「······恐らく。上位騎士は鎧の装飾や形状が違いました。この騎士団の布陣からして位置はおおよそ特定出来ます」
「じゃあ作戦変更。アンタはその団長クラスを全員倒して。アタシは雑魚を全部引き受けるから」
「は!?」
先程は『半分任せる』と言ったのに、急遽変更。
その切り替えの速さにも驚いたが、何よりも驚いたのはその作戦。
「出来る? 出来ない?」
「·········」
「出来るならお願い。大将を倒して混乱に陥ったところでアタシが一網打尽にする」
「一網打尽って······この数をですか!?」
「そうよ。アンタとの戦いで見せた『氷結世界の蒼い舞姫』を使ってね。生身でも最強なのに、鎧を纏って使ったらどれだけ最強になると思う?」
「·········」
この姉は、どこまでも自信たっぷりだ。
今の自分にはマネ出来ない強さが、ここにある。
ならば、姉の期待に応えてみせるのが、ウィンクの求める強さに繋がる。
「わかりました。私の奥の手を使います」
「決まり、ふふん」
「ですが姉上、奥の手は八秒しか持ちません。その後は完全な戦闘不能、恐らく立ち上がる事も困難になると思われます」
「問題ないわ。八秒で敵大将を全員倒してここに戻れるわね?」
「······はい!!」
「じゃ、決まりね······行くわよ」
シャイニーとウィンクは武器を構え、どこか楽しそうに叫ぶ。
「「『鎧身』!!」」
蒼い白鳥を模した鎧に、青い龍を模した鎧。
圧倒的な魔力が吹き荒れ、姉妹の戦いはクライマックスに。
ウィンクの読み通り、残った兵士は千人ほどだった。
魔騎士団の総人数は二千。それぞれ百人の部隊に別れ、部隊内では更に二十人ほどの隊に別れている。
最初は、いかに勇者であろうとこれだけの人数相手に戦うのは不可能だと考えていた·········が、キリエの魔術を見て全員が考えを改めた。
現在、勇者の一人をグレミオが抑え、もう一人はミューレイアが抑えてる。残りの勇者達は金属の乗り物で先に進まれてしまった。そこで現れたのがグレミオが召喚した融合魔獣『ケイオス・ヘカトンケイル』だ。
だが、件のモンスターはあっさり倒された。
魔騎士団は、人間と勇者の恐ろしさを胸に刻み、人数こそ少ないが一人として油断しないと誓い、目の前の少女二人相手に全力で剣を振るっていた。
案の定、この二人の強さはとんでもない。
武器の性能と若いながらも熟練した動き、才能溢れる精錬された剣技と槍技で数多の騎士たちを屠っていく。
この場に残された団長は八人。
残りは最初の魔術で消滅し、少女達の剣技で屠られてしまった。
そこで団長達は連絡用魔術を使い、部隊を移動させて連携作戦を取る。内容は単純、シャイニーとウィンクを円形に包囲して疲弊させるというものだ。
当然ながら、団長と副団長は後方待機。
徐々に疲弊するシャイニーとウィンクを見て、勝利を確信していた。
二人の少女はお互い背中合わせで立ち、何かをブツブツ呟いている。
そして少女達から膨大な魔力が溢れ、全身鎧の姿に変わった。
あれが人間が造った『魔神器』だ、そう理解した。
「姉上、見てて下さい」
「お手並み、拝見するわ」
ウィンクは腰に装備していた拳銃型補助装備『アクセルトリガー』を抜いてスライドを引く。すると腰の反対側がスライドに連動し、まるでホルスターのような空間が生まれた。
「オーバードライブ・超鎧身」
ウィンクの認証コードである声に反応し、ウィンクはアクセルトリガーを腰のスロットルに装填。するとウィンクの鎧のあちこちが開かれ、蒸気を吹き出しながら展開した。
「秘技・『双蓮水竜槍』」
そして、シャイニーの目の前からウィンクが消えた。
ウィンクは全身に水を纏い、まるで高圧洗浄機のような勢いで飛び出した。
まず包囲網の中心を力任せに突破、何人もの騎士が宙を舞う。
鎧に内蔵された魔法陣がウィンクから魔力を吸い取り、その見返りと言わんばかりにウィンクの身体能力を限界以上に底上げする。おかげであり得ないスピードでも見えるし身体は動く。
ウィンクはまず円陣後方へ向かい、装飾された一際豪華な鎧にを纏う騎士と、その近くに居る騎士を狙い激突した。
声もなく吹き飛ばされる騎士。
そして円陣に沿うように走り、団長と副団長らしき騎士を全員弾き飛ばした。
円陣を一周したウィンクは、騎士を弾き飛ばしながらシャイニーの元へ戻り、そのまま鎧は強制解除、倒れてしまう。
「あね、うえ······あとは、まか、せ」
「任せなさい!!」
力強い姉の姿を見たウィンクは、そのまま気を失った。
眠りついた妹を見て、シャイニーは気合を入れる。
「っしゃ!! 行くわよ!!」
鎧から冷気が溢れ周囲を包み、魔術の詠唱すらしていないのにシャイニーの周囲は凍りつき始めていた。
「やっぱ気が変わったわ。アタシのとっておきオリジナル魔術を見せてあげる」
魔術師は、既存の魔術だけでなく、自身のオリジナル魔術を作ったりするが、魔術師でないシャイニーはニナから最低限の基礎魔術を習っただけで、自身の最も得意とする『氷』魔術を作り、極めていた。
「大地の世界よ氷りて凍えよ、風よ舞い吹雪け、全ての水よ凍り付け、紅蓮の炎に決して溶かされる事無かれ」
作ったはいいが、使い道のない魔術だった。
一人で戦う事が当たり前だったシャイニーに取って、長い詠唱が必要な魔術は必要ない道具だ。威力こそあるがこれは集団戦向きの魔術、そう思い保留していた。
シャイニーの詠唱は続く。
鎧から出るオートの冷気は他者を寄せ付けず、ウィンクが団長と副団長を倒した事で円陣は後方から崩れつつあり、誰もシャイニーとウィンクに近付けない。
武具から発せられる魔力が魔術を増幅させ規模を変える。
そうして魔術は放たれた。
「震えて凍れ、『氷世界の大災害』!!」
まず最初に、円陣の最前線にいた騎士が一瞬で凍り付いた。
次に、上空から雨のような氷の塊が落ちてきた。
大地が凍り逆さ氷柱が出来上がり、何人も転倒して串刺しになった。
周囲一帯に吹雪が巻き起こり、騎士達は更に凍り付く。
地面の氷柱が折れて吹雪に巻き込まれ、竜巻のような勢いで氷柱が舞い、残っていた騎士達を一掃した。
こうして氷の大災害は幕を閉じ、千人の騎士達は全滅した。
この結果に一番驚いたのは、シャイニーだった。
「ぜ、全滅······マジ?」
鎧を装備すれば魔力も殆ど消費せずに魔術を使える事を知っていたので、シャイニーは遠慮なく魔術を使った。
本来なら、百人程度を葬れる『氷世界の大災害』だが、まさか十倍の千人を一気に屠れるとは思わなかった。
「さすがです······姉上」
「ウィンク、平気なの?」
「問題ありません。鎧身は使えませんが戦闘に支障はありません。これも訓練の賜物ですね」
「そ、おつかれさん」
たったそれだけだが、シャイニーがウィンクを気遣ってるのはすぐに理解した。なのでウィンクも微笑んで頷く。
「さーて、雑魚は一掃したしあとは······ん?」
「姉上?」
シャイニーは右手を自分の耳に当て、目を細める。
そして右手を離すとウィンクに言った。
「アンタ、まだ戦える?」
「は、はぁ。問題ありませんが」
「じゃ、ちょっとお願いするわ」
「は、はぁ」
シャイニーはウィンクに耳打ちすると、ウィンクは驚きつつダッシュでこの場から離れた。
「······じゃ、アタシも行きますかね」
喜びも束の間、シャイニーはニヤリと笑った。