202・碧の勇者キラボシvs朱雀王アルマーチェ①/翼と矢
*****《コウタ視点》*****
プライド地域首都ヒュブリス、その正門前。
わかっていたが、門は固く閉ざされていた。
頑丈そうな観音開きの門······こういうのって詰所みたいな場所があるんだよな。ゲームとかではレバーで操作するんだけど。
「くそ、どうする······」
「ミレイナ、今行く」
「え、ちょ、コハク」
すると、トラックの前を走っていたコハクが飛び上がり、門を思い切り殴りつけた。
轟音と共に門は破壊され、残骸が飛び散る。
「コウタさん、行きましょう!!」
「おじ様、ここから見える城が目的地です!!」
「ご主人様、れっつごー」
トラックの荷台に乗る月詠と煌星と、門を破壊して振り返るコハク。
ここが魔族の住む町ってのはわかるが、俺としてはミレイナを取り返せばそれでいいので、あまり騒ぎを起こしたくない。というか町の近くの平原でドンパチやらかしてる俺らが言うセリフじゃないけどな。
もし、人間界に乗り込んで来た魔族の少数精鋭が、ゼニモウケの町に乗り込んで来たらどうなるだろうか。
俺達がやってる事はまさにそれだ。
俺は首を振って意識を切り替え、ヒュブリス内を進んでいく。
ヒュブリスの町並みは人間界のゼニモウケとそう変わらない。町のすぐ外でドンパチやってるせいか、人が少ない。この人達は全員が魔族なんだよな。
「な、なぁ、町の住人は手出し無用だよな?」
「······そうですね。非戦闘員を巻き込むなんて言語道断。そんな事をするのは勇者じゃなく虐殺者です」
「町の規模もゼニモウケ並でしょうか······大勢の住人が住んでそうですわね」
「多分、あたし達が来る事を知らされて、家の中に避難してるのかも」
そうかも知れない。
歩いてる数人はトラックを見て驚いてるし、慌てて家の中に避難してる人もいる。怖いもの見たさってやつかな。
魔族と言っても、人間みたいは人ばかりだ。玄武王みたいなモンスター系の人はいない。
俺は天井のルーフで震えるカイムに聞いた。
「カイム、魔族って見た目は関係ないのか?」
『······ここに住んでる魔族は『魔人族』って言う魔族がほとんどや。獣人系の魔族はプライド地域のあちこちに集落を作って住んどるで』
「そうなのか?」
『そうや。獣人系の魔族は個々の種族で群れる習性······いや、本能があるんや。居ないことはないと思うけど、ヒュブリスの隅っこで小さく集まっとると思うで』
「ふーん」
実は、ちょっと見てみたかった。
そりゃそうだろ、ネコミミの獣人とかフワフワ尻尾の獣人とか、異世界ではお決まりの種族だ。エルフとかドワーフとかも居るのかな。夢が広がるぜ。
「ま、とにかくあの城」
「危ないっ!!」
煌星の叫びと同時に、とんでもない振動がトラックを襲った。
何か上空から隕石でもぶつかったのかと思った。俺は思わず急ブレーキを掛けて停車する。
『警告。警告。上空に敵影あり』
「上空って······こんな町中でかよ?」
そんなやり取りも束の間、カイムが震えながら言う。
『き、来た······来てしもうた』
「え?」
『映像を表示します』
フロントガラスに写ったのは、一人の少女。
ピンクの髪をツインテールにし、フリルの付いたドレスを着てる。そして何より驚いたのは、背中に広がる白い翼。
月詠も煌星もコハクも上空を見ている。こんな町のド真ん中、しかも上空に空飛ぶ少女が居るなんて思ってない。
フロントガラスにいくつか表示された映像の一つに、トラックのバンボディに突き刺さってる白い羽が映されていた。どうやらアレが振動の正体らしい。
少女は優雅に地上に舞い降りると、トラックの数十メートル先で丁寧にお辞儀をした。
「初めまして勇者の皆様。あたちは天魔王直属部隊『獣魔四天将』の一人、『朱雀王アルマーチェ』と申します」
おい、あたちって言ったぞ。
ボーゼンとしてる俺をよそに、コハク達は臨戦態勢でトラックから降りる。
「悪いけど、あたしは子供でも容赦しないわ」
「わたしも」
「申し訳ありません、道を開けて下さらないかしら?」
女性陣は怖いです。
取り敢えず成り行きを見守ろう。戦いが避けられないとはいえ、バトル続きで疲れてきた。早くゼニモウケに帰りたいぜ。
「おぉ怖い怖い。貴女達の目的はグレミオの姉ミレイナよね? 全く、あんな子供を利用して勇者をおびき寄せるなんてねぇ」
「······じゃあ、あなたの目的はなに?」
「あたち達の目的は、勇者の持つ『魔神器』とそこの鉄の乗り物よ。そのためにあのミレイナを利用しておびき寄せたんだから。大人しく武器と乗り物を渡せば見逃してあげてもいいわよ?」
前から聞きたかったけど、『魔神器』ってなんだ?
たぶん武具の事だろうけど、なんで欲しがるんだろう。
「なぁ、なんで武具を欲しがるんだ?」
俺の質問は拡声器で大きく伝わった。
するとアルマーチェはクスクス笑う。
「まず、その魔神器は元々あたち達魔族の技術です。人間の手で作られた魔神器と、我々魔族の技術を融合させて、更なる強さの魔神器を作り出すのが目的の一つですわ」
「······そんな強さを得てどうするんだ?」
「もちろん······この七地域で最強になるため、そして魔界を統一する力にするため」
「魔界の統一って、戦争でもするのか?」
「さぁ······それはあなた達には関係ないですわ。さぁ話はおしまい、魔神器をくださいな」
どうやら、この魔界も一筋縄ではいかない事情がありそうだ。
七つの地域は仲良しってわけじゃないのか。ホーリシットやオーマイゴッドみたいな不仲な地域もあるのかも。
と、そんな事を考えてる場合じゃない。
少女は翼を広げ、まるで威嚇するようにゆっくりと上昇する。
「く、不味いわね。対空戦闘か······」
「わたし、飛べない」
いや、フツーは飛べないから。
ここは俺の出番·········とはいえ、あんな見た目小学生の少女を機銃やミサイルで撃ち落とすのは忍びない。というか俺のメンタルじゃ無理だ。
すると、煌星が一歩前に出て振り向く。
「ここは、わたくしにお任せを。月詠ちゃん、コハクさん、おじ様はどうぞお先に」
煌星は、優雅に一礼した。
月詠は少し考え、トラックの荷台に飛び乗る。
「任せたわよ煌星、気を付けて」
「はい、月詠ちゃんもお気を付けて」
「キラボシ······まかせた」
「はい、コハクさん」
え、マジで?
タイマンでいいのか確認しようとすると、月詠がバンボディを拳で叩く。
「コウタさん、ここは煌星に任せて行きましょう!!」
「え、で、でも」
「大丈夫、煌星なら勝てます······絶対に」
「······わ、わかった」
コハクは既に走り出し、俺はその後を追う。
すれ違った煌星は、柔らかく微笑んでいた。
*****《勇者キラボシ視点》*****
走り去ったトラックを見送ると同時に、煌星は弓を構え矢を番え、矢に魔力を込めてすかさず射る。
「『疾風大蛇』」
放たれた矢は複雑な軌道を描き、トラックに向けて放たれたアルマーチェの羽を全て叩き落とした。
「まぁまぁ、あたちの羽を一本の矢で撃ち落とすとは」
「申し訳ありません、貴女のお相手はわたくしが務めさせて戴きます」
上空から煌星を見下ろすアルマーチェ。
魔力で脚力を強化し、近くの建物に飛び上がる煌星。
「ふぅん······貴女、なかなか強そうですわね」
「うふふ、それは褒め言葉でしょうか。ありがたく受け取らせて戴きますね」
お互い、余裕を見せる二人の少女。
煌星は小さな筒を取り出し魔力を込めると、筒は一瞬で伸びて矢に変化した。これもアレクシエルが考案し開発した折り畳み式の矢であり、これにより煌星は大量の矢を持ち運びしている。
「先程も言いましたが、わたくし、子供でも遠慮はしません。降参はお早めに」
「くふふ、あたちは降参より先に殺しちゃいますわよ?」
ヒュブリス中央広場にて、激闘が始まった。