200・トラック野郎、vsケイオス・ヘカトンケイル②/ショベルジャケット
ケイオス・ヘカトンケイルとかいう化物は、無限に再生するらしい。ならば再生しないくらい跡形もなく消し去ればいい。
それくらい、圧倒的な超攻撃力。
現時点最強の接近戦兵器、そいつを使ってコイツを倒す。
「タマ、ショベルジャケットを使うぞ」
『肯定。流石は社長。ベストな選択です』
「へへへ、だろ?」
デコトラカイザーはトラックへ戻り、ブルドーザーへ変形する。
「デコトラフュージョン・ブルフォームっ!!」
『了解。ブルデコトラカイザー変形シークエンス開始』
黄色いブルドーザーが立ち上がり、四肢に変形する。
トラックがブルドーザーになった驚きも束の間、今度はブルドーザーがロボットに変形して太陽達はどんな反応をするだろうか。
「ブルデコトラカイザー、作業開始っ!!」
だが、そんな程度で驚いてもらっちゃ困る。
ここから更に驚きの展開が待ってるんだからな。
「重機召喚・ショベルジャケット!!」
『ブシャァァァァッ!!』
あ、化物が待ちきれないのか向かって来た。
おいおい、変形や合体の時は待つのがお約束だろうが。
でもま、そんなの関係ない。
『ブッギャっ!?』
何故なら、突如として現れた巨大なショベルカーが、巨大なアームを振り回し化物を吹き飛ばしたからだ。
「な······なにこれ」
「す、すごく大きいですわ······」
そう、コイツは世界最大クラスの大きさを誇るショベルカー。
公道を走ることは不可能。パーツをバラバラにして作業現場で組み立てる必要がある、超巨大重機のショベルカーである。ちなみにカラーはオレンジ色だ。
ちなみに、運転方法はシミュレーションで覚えたぜ。
「な、なんだアレ······あんなバケモノ、ボクは知らないぞ!?」
「オラオラ余所見してんじゃねーぞっ!!」
「グッ······このっ!!」
太陽とグレミオの戦いも加熱してるな。太陽のヤツ、余所見してんなとか言いながらこっち見てるじゃねーか。
ちなみにシャイニー、キリエ、コハクはもう慣れっこなのか特に気にしていない。
「重機合神!!」
『了解。重機合神シークエンス開始』
ショベルカーのパーツが分かれ、ブルデコトラカイザーも変形する。そしてオレンジの巨体に右腕が折り畳み式のショベルカーのバケットに、左腕がブルドーザーのバケットに変形した。
全身オレンジにゴテゴテした、いかにも防御力がありそうな強靭なボディ。左右の異なる重機の手を持つ巨神が誕生した。
「完成!! ブルデコトラカイザー・ショベルジャケット!!」
さぁ、ケリを付けようか。
ショベルジャケットは、ゆっくりと前進して化物との距離を詰める。実はコイツ、遠距離武装が一つもない。単純な格闘戦しか出来ないんだよね。
『シュアァァァ······』
お、化物の背中からカマキリの鎌が何本も生えてきた。
その数一〇本以上、どうやら攻撃方法を統一したらしい。
「『バケットアーム』スタンバイ」
『了解』
左腕のバケットが拳に覆い被さり、まるでグローブのような姿になる。
『ギシャァァァァァァッ!!』
化物が鎌を振りかざし、全ての鎌を高速で動かしてショベルジャケットを斬り刻む。
「無駄だ」
だが、ショベルジャケットには傷一つ付かない。
ギンギンと金属が擦れるような音が響くだけで、ボディにはかすり傷一つ付いてない。そんな程度の鎌じゃ無駄だぜ。
ショベルジャケットは斬り刻まれながら、拳の射程に入る。
「おぅらっ!!」
『ブガボッ!?』
爆裂鉄拳。
化物のボディに強烈な一撃を叩き込み、近くの岩石に叩き付ける。
「『ショベルハング』スタンバイ」
『了解』
今度は右手のショベルが真っ赤になる。
そう、こいつは強烈な熱を発する事が出来るのさ。
『ブッガァァァァァッ!!』
「喰らえっ!!」
岩に叩き付けられた化物が立ち上がり、それと同時に右手のショベルが伸びてムチのようにしなる。
こいつは多関節武器。右腕そのものが折り畳み式であり、ある程度の距離なら伸ばして攻撃出来るのさ。
伸ばした右腕のショベル先端は鉤爪になってる。つまり、真っ赤に見えるほど強烈な熱を持つショベルバケットがムチのようにしなるって事は?
『ギィャアガァァァァァァァッ!?』
肉を削ぎ落とし身体を焼く。メッチャエグい武器だ。
ショベルバケットの中には化物の肉がジュージュー焼けている。再生するなら肉を殺せばいい。
「見ろよ、やっぱり削ぎ落とした部分は再生しない。ありがちな展開で助かったぜ」
化物は、肉が焼かれ削ぎ落とされた事がないのか、地面をゴロゴロ転がって苦しんでる。これはトドメのチャンス。
「タマ、コマンド入力」
俺はモニターに表示されてるコマンドを入力する。冷静になってから、このコマンド入力を失敗した事はない。
「お前の命、撤去後に焼却処分してやる」
『コマンド入力成功。《アイアンメイデン・ヒートエンド》発動』
左手のバケットが外れて巨大化し、右腕のショベルバケットと合体した。まるで巨大なドラゴンの顎みたいだ。
そして連結したバケットが真っ赤に燃え上がり、地面を転がる化物目掛けて勢いよく発射、化物はバケットに包み込まれた。
『ウギャァァァァァァァァァッ!?』
バケットの中から断末魔が響き、駄目押しでバケットそのものが爆発。断末魔は消え去った。
そして、ゆっくりと開かれたバケットの中にはから出てきたのは······黒いカスだけだった。
「よし、勝利!!」
『お疲れ様です。社長』
邪魔者は排除した、さーてミレイナの元へ行くか。
*****《勇者タイヨウ視点》*****
グレミオの余裕は、焦りへと変わった。
まさかケイオス・ヘカトンケイルが倒されるとは思っていなかった。
何重もの封印を施した結界に閉じ込めてあった災害級危険種の融合モンスター、レートはSSSを越えたEXレート。人間風に言い直すならば『禁断級魔獣種』モンスター。
災害級危険種ですら厄介なのに、ケイオス・ヘカトンケイルは更にその特性を融合させることによって最強のモンスターを作る実験で生まれた失敗作の一つだ。四天将が総掛かりで何とか封印したモンスターをほぼノーダメージで倒された。
ヘカトンケイルを解放したのはデコトラカイザーの足止めであり、最悪、デコトラカイザーの残骸だけでも回収できればいいと踏んでいたのに、報告や映像には無かった姿で倒された。
「不味いな……」
「何がだコラァッ!!」
太陽の剣を盾で弾きながら、走り去るトラックを見た。
荷台には月詠と煌星とクリスを乗せ、ヒュブリスの正門へ向けて走ってる。
グレミオの予定では、兵士達と軍用モンスターで勇者パーティー達を足止めし、グレミオとミューレイアで制圧、そして魔神器を奪いトラックを回収する手筈だった。四天将は天魔王城で待機させ、いざという時の戦力として残しておいたのだが、早くも『いざという時』になりそうだった。
だが、最大の問題はそこじゃない。
「…………チ、このままじゃゼルルシオン兄さんが」
そう、ヒュブリスを越えた先は天魔王城。
ミレイナだけではない、プライド地域最強の『天魔王ゼルルシオン』がいる。
ゼルルシオンが介入すれば、勇者だけでなくトラックも回収できる。だが……それではこの案件を任されたグレミオのメンツは丸潰れ、ミューレイアにも馬鹿にされる。
「…………」
「だらぁぁぁぁぁっ!!」
「ふん」
「なっ!?」
グレミオは、振り下ろされた太陽の剣を左手で掴んだ。
もう、遊んでいる場合じゃ無い。
「悪いねタイヨウ、事情が変わった」
「あん?………っ!?」
ザワッと、グレミオの気配が変わった。
楽しむような明るさは消え、今までとは比べ物にならない魔力が吹き荒れる。そのドス黒い魔力は視覚できるほど濃厚だった。
「少し……いや、かなりキミ達を舐めていたよ。勇者パーティー達だけじゃなく、あの乗り物の護衛もここまで手練れとはね」
「よーやく気が付いたのかよ。やっぱオメェ頭悪ぃな、指揮官に向いてねぇよ」
「あはは、そうかもね……」
グレミオは剣を構え、太陽も剣を構えた。
様子見や手加減などない、本当の勝負の始まり。
「ここからは本気で行く。さっさと終わらせてあの乗り物を止めないとね」
「……じゃあ、オレも本気で行くわ」
太陽は腰に収めていた拳銃型の強化アイテム『アクセルトリガー』を取り出す。
全力のグレミオと太陽。
間もなく、決着の時。