20・トラック野郎、依頼を受ける
俺は現在、トラックを運転して国中を回っていた。
トラックのボディには俺の考えた広告が塗装されているのでいい宣伝になる。だけど忙しすぎるのはイヤだし、とりあえず宣伝はこの1回だけ。
隣にはシャイニーを乗せてのんびり走ってる。ちなみにコイツの手にはポッキーの箱があり、つぶつぶイチゴ味のポッキーをコリコリ食べていた。ちなみにポッキーは給料天引き。タマに月の消費量を計算して貰ってる。
「ふぁ……ヒマね」
「だったら事務所の掃除でもしてればよかっただろ。ミレイナ1人じゃ大変だろうし」
「……掃除はその、苦手で……それに、アタシは護衛だから、アンタが外出するなら付いていかないと」
「いや、タマも居るから大丈夫だって。むしろミレイナ1人じゃ心配だろ」
「平気よ。どうせ誰も来ないしね」
「おい」
会社が完成して3日。依頼はゼロ。
宣伝で国中を回ったのが2日前。トラックは目立つから一度回れば宣伝になると思ったけど、意外なことに誰も来なかった。まぁ忙しいのはイヤだけど、誰も来ないのは不安になる。
「はぁ~………程よく仕事して休みたい」
「何言ってんのよアンタ……」
俺は缶コーヒーをちびちび飲む。
『社長。次の交差路を左折です』
「りょーかい」
タマは俺の事を『社長』と呼ぶようになった。
まぁ立ち上げたばかりとはいえ社長ですしね。照れます、はい。
言われたとおり左折し、少しは見慣れた道を進むと、我らが『アガツマ運送会社』が見えてきた。
公園の敷地内の一角。専用のゲートを進み庭を抜け、2階建ての建物脇のガレージにトラックをバックで入れる。そしてガレージの入口から事務所に帰ってきた。
「ただいま~」
「帰ったわよ、ミレイナ」
「あ、お帰りなさ~い」
秘書服を着たミレイナが駆け寄ってくる。かわいい。
長いプラチナブロンドの髪はキレイに纏められ、17歳とは思えない大人の色香を感じる。これも着ているスーツのおかげだろうか………ヤバいな、こりゃたまらん。
「お疲れですよね、今お茶を煎れますね」
「よろしく。あ、アタシはレモネードで」
「は~い」
「お前な……」
シャイニーはクセのついた蒼いポニーテールをなびかせて自分のデスクへ座る。
いくつか渡していたポッキーの箱を開け、さっそく1本かじりついた。もういいや、コイツは置いておこう。
「コウタさん、お茶です」
「ああ、ありがとうミレイナ」
俺の社長デスクにミレイナの煎れたお茶が置かれる。さっきコーヒー飲んだとか関係ない、この甘露を体内に摂取しないと枯れてしまう。
椅子に座り、3人でお茶を飲んでほっこりしてると、シャイニーが言った。
「お客……来ないわね」
「だな、忙しいのはイヤだがヒマすぎるのもイヤだ」
「ですね……」
運び屋。つまり頼まれた荷物を運搬する仕事だ。
この国内での運搬ならそう時間は掛からないが、他国に運搬する場合は会社を閉めて行かないと行けないだろう。トラックは1台しかないし、それに俺しか運転できない。
「なぁシャイニー、どっかで依頼を取って来れないか? それこそ冒険者時代のツテで」
「あのね、アタシがギルドに顔出せるワケないでしょ」
「資格の剥奪ですもんね……」
「もう吹っ切れたし。それにニーラマーナみたいな堅物が管理するギルドなんて辞めて正解だったわ」
「お前、泣いてたじゃん」
「う、うっさいわね!!」
「まぁまぁ、仲良く……」
そんな会話をしていると、入口のドアが開きベルが鳴った。
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「邪魔するぞ」
「アンタ……っ!!」
「ほぅ、次の仕事は運び屋か……似合ってるぞ」
「……ブチのめすわよ?」
「やってみるか?」
やって来たのは巨乳ギルド長のニーラマーナとかいう美人さんだ。
さっそくシャイニーと険悪になってる。というか中で暴れるなよ?
「あーまてまて、えっと……仕事の依頼ですか?」
「……まぁそうだ。運んでほしいものがある」
「はぁ? 誰がアンタの依頼なんてムギュっ!?」
「どうぞどうぞ、座って下さい。ミレイナ、お茶」
「は、はい」
俺はシャイニーの口を封じ、ミレイナに頼んでお茶を煎れて貰う。
シャイニーは気に食わなくても客は客。しかもこの運送屋の依頼第一号だ。丁重にもてなさねば。
ギルド長をカウンター脇のソファに案内し、さっそく商談を始める。いいねいいね、なんか会社の打ち合わせっぽい。
「えー……改めまして。俺、いや私は『アガツマ運送会社』代表取締役、コウタと申します」
「ああ。私はゼニモウケ王国冒険者ギルド長・ニーラマーナだ。長いのでニナでいい。ではさっそく依頼の話だが」
「ちょっと待った!!」
ここでシャイニーのストップ入りましたー!! 何だよ一体。
「アンタ……何が目的よ。荷物の運搬ならギルド職員がいくらでもいるでしょうが。こんな出来たてホヤホヤの運び屋に頼むほど忙しいワケじゃないでしょ?」
「おい、こんなって言うな」
「ふん、簡単だ。ギルド職員じゃ頼めないからこうして来たんだ」
「はぁ?」
「あーもう、とにかく話は後!! 依頼の内容を聞かせて貰って良いですかね?」
「ああ」
ミレイナがお茶を出し、ポイントで買ったカステラを出してやる。
ニナはカステラを見て訝しんでいたが、俺の隣に座ったシャイニーがカステラをモグモグ食べていた。しかもカステラの底に付いてた底紙ごと食べたみたいで、苦い顔をして口から出していた。きたねーな。
「依頼は簡単だ。ここから東にある『神聖都市オーマイゴッド』の冒険者ギルドに書状を届けて欲しい」
「お、オーマイゴッド?」
「ああ。内容は話せんが重要な物だ。何せ『勇者王国オレサンジョウ』に現れた勇者に関係する事でもあるからな……『七色の冒険者』からの依頼だ。頼んだぞ」
「チッ……何がアルコバレーノよ」
そんなことより国の名前。なんだよオーマイゴッドとかオレサンジョウとか。嘗めてんのかこの野郎。
「報酬は前金で100万、帰還後に200万払おう」
「え」
「何だ、不服か?」
「い、いえ、そうじゃなくて」
「ならいいな。出発は早めに頼む。準備が出来たら明日以降に冒険者ギルドへ来てくれ」
「は、はい」
「では、これで失礼する」
そう言ってニナは帰って行った。
何か違う………俺としてはこっちから金額を提示するつもりだったのに、向こうのペースで話が進んでしまった。それにこれじゃ運送会社ってか郵便配達じゃねーか。
「コウタさん、初めての依頼ですね!!」
「ふん……ニーラマーナの依頼ってのがシャクだけどね」
「そうだな、それで、神聖王国オーマイゴッドって何だ?」
名前からして怪しすぎる。こいつは地雷の予感がビンビンするぜ。
「オーマイゴッドは信仰心の高い奴等が集まる国よ。まぁ神に祈って現実から目を背けてる憐れな奴等の国ね」
「ひでー言い方だな……そうなのか、ミレイナ?」
「え、ええと……信仰心が高いと言うのは本当です。あそこは奇跡の体現者と呼ばれてる『聖女』の出身国で、その奇跡にあやかりに大聖堂への参拝客が多く訪れているそうです」
「ふーん。大聖堂ねぇ……」
「何よ、もしかして興味あるの?」
「いや全く。それに行き先はギルドだしな。よし、今日は出発の準備して、明日ギルドに行こう」
「はい。では私は買い物に行ってきますね」
「あ、アタシも手伝うー」
2人は仲良く出て行った。やっぱ美少女同士が仲良いのは美しい。
俺はガレージに向かい、運転席に座る。
「タマ、明日から神聖王国オーマイゴッドに向かう。ルートは任せるぜ」
『畏まりました。推奨ルートは『デンジャー山脈』を越えるルートです。デンジャー山脈は危険種である『ワイバーン』と『キングオーク』そして超危険種である『デーモンオーガ』が生息する山脈です。度重なる買い食いで消費したポイントを稼ぐチャンスであり、トラックの経験値を稼ぐ事も出来るルートがオススメです』
「いや怖えーよ」
『残りポイント[10020]です。ポイントを稼ぐことをオススメします』
「えぇ~………」
けっこう使ったな。確かにシャイニーのお菓子は当然として、俺もコーヒーやおつまみを買ったりしてる。ミレイナのポテチはそうでもないけどな。
「う~ん……わかったよ。確認だけど、このトラックで今言ったモンスターは倒せるか?」
『可能です。ですが車体強度に不安がありますので、強化をお勧めします』
「わかったよ。じゃあ【車体強化】を頼む」
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○経験値ポイント・[10020]
[車体強化]
○車体強度 レベル10 経験値消費100
○タイヤ強度 レベル10 経験値消費100
○エンジン出力 レベル10 経験値消費100
[車体換装]
○トラックフォーム 現在装備
○ユニックフォーム
[???]
○未開放
以下項目未開放
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「どれくらいの強度があればいい?」
『推奨強度は車体・タイヤ共に15です。合計ポイント3000を消費して強化しますか?』
「ああ、頼む」
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○経験値ポイント・[7020]
[車体強化]
○車体強度 レベル15 経験値消費600
○タイヤ強度 レベル15 経験値消費600
○エンジン出力 レベル10 経験値消費100
[車体換装]
○トラックフォーム 現在装備
○ユニックフォーム
[???]
○未開放
以下項目未開放
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「なぁ……この[???]って何なんだ?」
『レベルが上がれば解放されます。現時点では選べません』
「………車体強化の項目にあるってことは、車体関係だよな? う~ん」
まぁ考えても仕方ない。
ぶっちゃけ困らないし、解放されたら考えればいいや。
取りあえず、明日から初仕事だ!!