198・エレイソン姉妹vs黎銀の魔術天師ミューレイア①/神話魔術
*****《コウタ視点》*****
戦いが始まってしまった。
作戦とかヒュブリスに侵入して情報収集とか、考えていた事が全て吹っ飛んでしまった。
「ど、どうしよう······」
トラックの周囲は囲まれ、鎧騎士やモンスターがワラワラと集まって来た。
シャイニー達も戦い始めてるし、状況がさっぱりな俺は混乱寸前だ、マジでどうしよう。
「社長、落ち着いて下さい。むしろこれはチャンスです」
「へ?」
「あのグレミオと言う少年が話した事が事実なら、ヒュブリス内はかなり手薄になってるはず。ミレイナを奪還するチャンスです」
「チャンスって、いやでもよ、そうかも知れんけど、あっちには四天将が残ってる。それに魔王だって」
「はい、なので社長はここから離脱してヒュブリスへ向かって下さい。タマのスキャンならミレイナの位置を補足可能ですし、ミレイナを回収したらすぐに撤退を」
「離脱って、こんなに敵がいるんだぞ!?」
「そうです。なので······ここは私にお任せを」
キリエは人差し指を突き出し、いつもと変わらない口調で呟いた。
「美しき虹の煌き、七色の輝きを持って貫かん。『七色の閃光花』」
とんでもない数の魔法陣が展開され、そこから炎や水、氷や風の刃が飛び出してモンスターや騎士団を蹴散らした。
俺が唖然としていると、キリエは呟く。
「ミレイナは、私にとって大事な妹です······あの子の笑顔を曇らせる存在はそれだけで『罪』です」
キリエはシートベルトを外し、助手席のドアノブに手を掛ける。
「社長、ここは私に任せて下さい。勇者パーティーを連れてヒュブリスへ」
「キリエ······」
とても強い目だった。
キリエは本気だ、本気で戦うつもりだ。
「私は生まれて初めてこの力に感謝します。この『聖王』の魔力と魔術、全力で振るわせて戴きます」
キリエの笑顔は、とても輝いて見えた。
外に降り立つキリエは魔力を漲らせ、詠唱しながら闊歩する。
「燃え上がる炎、滴る水、駆ける風、実りの大地、照らす光、包み込む闇、そして何事にも干渉されぬ時の流れ」
鎧騎士がキリエに殺到するが、二つの蒼い騎士が全てを斬り伏せる。
「全ては自然の赴くままに、全ては神が定めしエレメント、全ては大いなる力のままに」
キリエが何をしようとしてるのか、シャイニーとウィンクはわからない。だが、これは決して止めてはならない。
「ああ神よ、我の名はキリエレイソン、我が愛しければ我を愛しておくれ、我を憐れに思うなら、その眼から涙を流せ、我を愛しく思うなら、大いなる祝福を」
魔力が弾け、七色の魔法陣が展開される。
騎士団はこの神秘的な光景に目を奪われ、モンスターですらこの光景に魅入っている。
「おやすみなさい愛しき子らよ······『祝福の息吹』!!」
虹色の光が降り注いだ瞬間、騎士団とモンスターは消滅した。
この平原に存在する敵集団の、四分の一が消え去った。
「な、なによこれ······キリエ、アンタ何を」
「いえ、ちょっとした『神話魔術』です」
「·········」
シャイニーは辛うじて質問出来たが、ウィンクは完全に言葉を失っている。
そして、魔術を使いパーティーをサポートしていたクリスが駆け寄って来た。
「キリエねぇ〜〜っ!!」
「おやクリス、無事でしたか」
「うん!! やっぱりキリエねぇがあの魔術を使ったんだね。ホーリーシットの時に感じた魔力とおんなじだったから、やっぱりキリエねぇが、もが」
「その話はまた今度。それより、来ましたよ」
キリエはクリスの口を塞ぎ前を見る。
するとそこには、一人の美しい女性がいつの間にか立っていた。
豪華な装飾の施された法衣を纏い、グレミオと同じ鈍いプラチナのロングヘアをなびかせている。
「貴女、なかなかの使い手ね」
「それはどうも。ところで貴女は?」
丁寧なやり取りだが、空気はチリチリしていた。
「ふふ、自己紹介ね。私は『ミューレイア・エクレール・ヴァーミリオン』。天魔王ゼルルシオンの実妹にして魔術師団の総帥。よろしくね」
「これはご丁寧に。私はキリエ・レイソン······運送会社の受付事務をしております。お見知りおきを」
挨拶が終わり、キリエはシャイニーとウィンクに告げる。
「こちらの御方は私にお任せを。シャイニー達は周りのモンスターや騎士をお願いします」
「·············大丈夫なの?」
「はい」
シャイニーはしばらくキリエを見つめると、ウィンクの肩を叩いた。
「行くわよ、雑魚を片付ける」
「え······で、ですが、相手は」
「いいの、キリエなら問題ないわ。それに、可愛い妹もいるしね」
キリエの隣には、自信たっぷりのクリスが胸を張る。
その様子を見たキリエは目を見開くが、クリスはにっこり笑うだけだ。
「キリエねぇ、私は勇者なんだからね。一緒に戦ってもらうよ」
「······やれやれ、仕方ないですね」
キリエは苦笑し、クリスと共にミューレイアに向き直る。そしてキリエは申し訳なさそうに確認した。
「申し訳ありません、ニ対一で構いませんか?」
「ふふふ······舐められたモノね」
「さぁ、いざ尋常にしょーぶっ!!」
『聖王』・『聖女』の姉妹とミューレイアの戦いが始まった。
*****《勇者タイヨウ視点》*****
オレは、眼前のグレミオの変化に驚いた。
黄金の鎧を纏うオレに対し、グレミオの全身を覆う漆黒の全身鎧は、黒いオーラを放っていた。
「な、なんだと······」
「そんなに驚かなくてもいいだろ? それに魔神器は元々、魔族が作り出した物なんだからさ」
黒い鎧、大きく変化した右手持ちの大剣、そして左手にはラウンドシールドを装備してる。
「へへ、おもしれぇ······久しぶりに全力を出せそうだ」
「ボクもだよ。人間界の技術もなかなかだね、キミの魔力とその鎧から伝わる力は侮れない」
ダンジョンでは使わなかったが、アレクシエル博士の調整した武具は恐ろしいくらい身体に馴染んでる。まるで皮膚の上にもう一枚の皮膚を被せたような一体感だ。
はっきり言って、今の俺は負ける気がしない。
「行くぞコラァーーーーッ!!」
「アハハハッ!!」
上空に飛び上がるが、踏み込みが強すぎて地面が爆発した。
グレミオも同様で、オレ達は空中で邂逅する。
黄金の剣と漆黒の剣がぶつかり、空中で乱舞を繰り広げる。
やっぱりコイツは強い、今までで最強だ。
「アハハハッ、強いねキミ、こんなに楽しいのは初めてだよ」
「·········へっ」
楽しい。
そう聞いて、オレは思わず同意しそうになった。
ちくしょう······オレは楽しいと感じてる。こんなに剣と剣でやり合える相手はそういない。
「そういえば、キミの名前を聞いていなかったね」
「·········」
グレミオがヤバいヤツなのは間違いない。
でも、剣士としては強い。こんなにも血湧き肉踊るのは初めてだ。だからこそ敬意は表する。
「オレは太陽、黄金の勇者タイヨウだ!!」
「タイヨウ······ん、覚えたよ」
お互いに剣を構え、オレ達は飛び出した。