197・黄金の勇者タイヨウvs灰銀の暗黒騎士グレミオ①/殺しの覚悟
目の前でヘラヘラしてるグレミオは、漆黒の剣を構えたまま思いついたように言う。
「そうだ、面白いゲームを考えた。ボク達がキミらを全滅させるのが先か、キミ達がミレイナ姉さんを取り戻すのが先か、勝負しようじゃないか!!」
「ンだとコラ、そんなのオレらが勝つに決まってるじゃねーか」
「あははははっ!! じゃあ……試してみようか」
粘つくようなドス黒い殺気がグレミオから発せられ、周囲を覆い尽くす。
コイツはアレだ、快楽殺人者だ。
気迫だとか闘気だとか、そんなモンじゃない。ただ殺したり嬲ったり蹂躙したりするのが好きな、典型的な殺人者の気質だ。
見ればわかる、コイツ……目がイってる。
「お前ら、雑魚を頼む!!」
オレはグロウソレイユを構え、グレミオに向かって突進した。
それと同時に、周囲のモンスターや騎士軍団が襲い掛かってくる。
「さぁ逝くよッ!!」
「だっらぁぁぁぁっ!!」
黄金の剣と漆黒の剣がぶつかり火花が散る。
こいつ、魔力で強化したオレの腕力に合わせてきやがった。
「この……ッ!!」
オレは横薙ぎに剣を振るうがグレミオは難なく合わせ、弾かれた衝撃を利用して半回転し、そのまま反対側を斬りつける……が、これも合わせられ防御される。
オレの得意技は速攻。ひたすら切りまくる。
「だらぁぁぁぁぁぁっ!!」
「アハハハハハハハッ!!」
グレミオは楽しそうに嗤いながら、オレの斬撃を悉くガードする。
振り下ろしから軌道を変えた横薙ぎ、横薙ぎからの打ち上げ、緩急を付けた斬撃もガードされ、躱される。
オレの剣がここまで当たらないのは初めてだ。しかもコイツ、オレの剣筋を読んでるのか反撃してこない。このままじゃ不味いな。
「黄金の光よ集え、『閃光核』!!」
「むっ!?」
刀身に魔力を込めて目眩ましの光を放ち、その隙に足に魔力を送り強化、ジャンプした。
「断ち切れ、『兜断ち』!!」
そのまま脳天を叩き割る必殺の一撃をおみまいする。
悪いがオレは殺せる人間だ、もちろん月詠も煌星も。
対人戦闘訓練で、騎士団を相手にした後は実戦訓練で盗賊退治なんかもした。
最初は躊躇したし、盗賊とはいえ同じ人間を殺すなんて出来なかった。でも……とある集落を襲った盗賊団の非道なやり方を見てブチ切れた。
騎士団が討伐する予定だった盗賊団が小さな集落を襲い、その討伐をオレ達がする事になった時だ。月詠と煌星も顔を蒼くして震えていた。当然だがオレも震えていた。
でも、襲われてる集落を見てキレた。
盗賊団に囚われた若い女性が無理矢理襲われ、しかも目の前で父親を殺されて泣いていた。
小さな子供は叩かれ、ぬいぐるみを抱いた小さな女の子は売り飛ばされようとしていた。
丸太に括り付けられた大人は、投げナイフの的にされていた。どうやら盗賊の余興らしかった。
住宅は燃やされ、畑は踏み荒らされていた。
それを見たオレはブチ切れ、剣を抜くのも忘れて飛び出し、魔力を漲らせた拳で盗賊の一人を思い切りぶん殴った。
その盗賊は、内臓がメチャクチャに破裂して死んだ。死んで当然だと思った。
あとは、ひたすら殴り蹴り斬りまくった。気が付いたら月詠も混ざり、どこからか矢が飛んできた。
全て終わったオレ達は、ひたすら泣いていたのを覚えてる。
月詠や煌星は子供達を抱きしめ、オレはやり場のない怒りでいっぱいだった。
騎士団に死亡者を埋葬してもらい、生き残った子供はオレサンジョウ王国の孤児院へ、女性は教会のシスターになったり心の傷を癒やすために病院に入ったりしてる。
今でもオレ達は、勇者の報奨金を孤児院に寄付したりしてる。偽善だろうと、それしか出来ないから。
オレは、殺すのをやむを得ない場合は殺す。
そう、このグレミオみたいなヤツは殺せる。
「喰らえぇぇぇッ!!」
「……あは」
上空からのオレの一撃。
魔力と重力を上乗せした振り下ろしは防げない……はずだった。
「なっ!?」
グレミオはその場から半歩だけズレた。
オレの剣は外れ、グレミオのすぐ隣に着地する。
「あのさー、相手の視覚を封じて上空に飛びそのまま振り下ろすのはいいと思うよ? でもさー……そんな大声で叫んだらモロバレだよ?」
「っぐがぁぁぁっ!?」
グレミオはサッカーボールキックでオレを蹴り飛ばす。
魔力を込めたキックに、オレの身体は吹き飛ばされ地面を転がる。
「じゃ、そろそろボクも攻めよっかな」
「っ!?」
すぐさま体勢を立て直したのに、グレミオが隣にいた。
吹き飛ばされて一〇メートルは転がったはず、タイムラグは一秒もない、なんでコイツはすぐ隣にいるんだ。
オレは咄嗟に剣を斜めに構えてガードすると、恐ろしい衝撃が伝わってきた。
「っぐぅぅっ!!」
転びはしなかったが、地面が抉れるほど滑った。
コイツ、月詠と同じくらいのパワーがある。スピードもオレより速いし、何より肉体強化の魔術がとんでもなく上手い。
「おやおや、どうしたのかな? 攻めてこないの?」
「るせぇっ!! それなら……」
技術で劣るなら、技で補えばいい。
オレはグロウソレイユに魔力を込めながらグレミオに向かって行く。
「喰らえ、『グライドエッジ』!!」
黄金のオーラの刃が飛び出しグレミオを襲う。
こいつは牽制だ、本命は別にある。
「ハァッ!!」
グレミオは漆黒の剣でグライドエッジを弾いた。
一瞬でも注意がグライドエッジに向いた今、この技は躱せない。
「刺せ、『シャインサリッサ』!!」
グレミオの真上に展開した魔方陣から、黄金の槍が降り注ぐ。
前方のグライドエッジに注意を向けた今、お前は気が付いてない……串刺しになれ。
「甘甘、だね……『クロホール』」
「え」
グレミオの真上に黒い円盤が現れ、光の槍が飲み込まれた。
「染まり放て、『ホールリベレーション』」
「なっ……」
今度はグレミオの前方に円盤が現れ、漆黒に染まった槍がオレに向かって飛んできた。
オレはグロウソレイユを振って槍を弾く。
「あのねー、キミ如きの浅知恵が、ボクに効くわけないじゃないか」
「んのヤロ……」
剣を肩に担ぎ、グレミオはおどけている。
オレは周囲を確認すると、月詠達はモンスターや騎士軍団と戦っていた。
「あはは、気になるのかい?」
「ふん、別に」
「せっかくだし教えてあげるよ。なぜここにボクしかいないと思う?」
「あ……?」
「キミらも知ってるだろ? ボク以外にも戦力が残されてるって。それなのに何故、ボクしか出てこないと思う?」
「………」
確かに、カイムの情報じゃまだ戦力は残ってる。朱雀王、白虎王、青龍王、そしてミレイナさんの姉貴。さらに天魔王ゼルルシオン……ここは首都の前にある平原、ここでドンパチしてるのに。
「ちなみに、魔騎士部隊はこれでほぼ全員、魔獣部隊もほとんどの戦力を投入してる。魔天術士部隊は待機させ、ミューレイア姉さんは近くで成り行きを見守り、四天将は全員天魔王城で待機………くっくっく、何故だと思う?」
「…………」
オレはグロウソレイユを構え、魔力を込める。
「答えは簡単、ボクだけで十分だからさ。人間の作り出した『魔神器』も、あの得体の知れない鉄の乗り物も、ボク一人で手に入れる」
「は、お前さ、頭良さそうに見えてバカなんだな」
「はぁ?」
オレは魔力を全開にして武具を構える。
生身じゃコイツは倒せない、ならばもっと強い姿で戦えばいい。
「いいか、オレは強い……お前よりもな。『鎧身』!!」
黄金のオーラが溢れ、グロウソレイユが溶けてオレの身体を覆う。
最強の戦闘形態である黄金の全身鎧、鎧身形態へ。
「へぇ、それが人間界製の魔神器の本来の姿……」
「そーいうこった、覚悟しろよ」
「ふふふ、面白い……なら、ボクもお見せしよう。人間界製とはレベルの違う、魔界製の魔神器本来の姿を。この『暗黒剣ノワールネイト』の真の姿をね」
「あ?」
グレミオは剣を構え叫ぶ。
「『壊神』」