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異世界の配達屋さん~世界最強のトラック野郎~  作者: さとう
『第15章・トラック野郎と重機の魂』
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195・トラック野郎、魔界へ

「ついに来たな……」

 巨大なヘビの死骸の脇を抜け、俺はついに踏み込んだ。

 踏み込んだと言っても風景が劇的に変わったわけでもない。相変わらず平原は続いてるし、人工物が見えるワケでもない。それでも俺はついに踏み込んだ。

「魔界……ここにミレイナが」

 そう、ミレイナとコハクの故郷でもある魔界へ。

 トラック形態に戻り、魔界の地へと入る。

「よし、ここからだ」

 どんなヤツが相手でも、俺は絶対に負けない。

 四天将だろうが魔王だろうが、邪魔をするヤツは全員ブチのめ。

「ご主人様ご主人様、ごはんだよ」

「………お、おう、今行く」

 ちょっとシリアスだったのに、コハクの嬉しそうな声に壊された。

 まぁいい。シリアスなのは俺に合わないし、何より腹も減った。

 近くの木陰にトラックを停車させ、居住ルームへ向かう。

「ごはんごはん」

『なうなうー』

『あ、兄さん兄さん、ビール下さいな』

 しろ丸を抱えたコハクに、コハクの肩に停まるカイム。

「社長、どうぞお席へ」

「お疲れさまですコウタさん」

「おにーさん、ジュース飲む?」

 食事の配膳をしてるキリエ、月詠、クリス。

「タイヨウ殿、油を」

「はいよ、あとメシだから後にしよーぜ」

「いえ、武器の手入れは戦士にとって大事な仕事の一つ。命を預ける相棒の手入れと食事では、重さが遥かに違います」

「ウィンクちゃん、真面目ですねー」

 武器の手入れをしてる太陽、煌星、ウィンク。

 ホントに平和だな。俺がさっきまで災害級危険種と戦ってたなんて誰も知らないだろう。

 でも、そんな事を言ってもどうにもならない。とにかくメシを食ってこれからのことを話し合おう。




「ってわけで、魔界に入ったから」

 食事しながら話すと、全員が驚いていた。

 特にカイムは、コハクの肩で翼をバサバサしながら言う。

『ちょ、兄さん!? 魔界の門番『絞蛇ミドガルズオルム』は!?』

「ん、あの蛇か? 倒したぞ」

『ウソぉ!?』

 けっこうな強さだったが、特に問題なかった。

 確認してないが、経験値もかなり稼いだだろう。

「ご主人様ご主人様、すごい!!」

「ははは、ありがとう」

 あ、ちょっと気になった事がある。聞いてみるか。

「コハク、コハクはどうやって人間界に来たんだ?」

「わたし? わたしは倒せそうなモンスターだけ倒して、倒せそうにないモンスターは避けた。わたし、ハナが利くから事前に察知できたし、人間界の方向もなんとなくわかったから」

 なるほど、コハクの能力か。

 ダンジョンの迷宮でも一度も迷わなかったって言うし、警察犬みたいなハナだ。

「さて、ここからが問題だ。どうやってミレイナを救出する?」

 当然の疑問だ。

 魔界に入る事ばかりで、具体的な作戦なんて考えていなかった。

 食事を終えてソファに移動し、食後の緑茶を飲む。ちなみに日本人の俺達は美味しく飲んでいたが、異世界人のキリエ達は渋い顔をしていた。コンビニの緑茶は最高だぜ。

「まずは、状況の整理をしましょう」

「そうですね、それでは社長にお願いします」

「俺かよ……まぁいいけど」

 とりあえず、わかりやすく状況を整理するか。




 事の発端は、ミレイナが攫われた所から。

 まず、シャイニーとウィンクの模擬戦が終わりオフィスに戻った。そこでミレイナは置き手紙を残して消えた。その内容は『まおう、さらわれる、ミレイナ』ということ。つまりミレイナは魔王……魔族に攫われた。

 ミレイナが魔族で、事故でこの人間界に来たことは知っていた。攫われるというか連れ戻されたってのが正しいのかもしれないが、こんな置き手紙を残す以上、強引な連れ戻しだったのは間違いない。

 そこで俺達は、ミレイナを連れ戻すために動き出した。

 アガツマ運送会社はもちろん、ダンジョン帰りの勇者パーティー達も連れ、人間界と魔界を繋ぐコロンゾン大陸を横断し、こうして魔界に来たってワケだ。

「とまぁ、こんな感じか」

「流石です社長。よくわかりました」

「では、これからどうするか……いくつか案があります」

 この中で頭がいいのはキリエと月詠。二人を中心に話が始まる。

「まず①、ミレイナが攫われたのなら単純に力尽くで奪い返す。②、魔王と交渉してミレイナを返して貰う。③、正当な理由があるのかもしれないので、事情を聞いて判断する。ですね」

「さすがキリエさん、あたしも同じ考えです」

 うーん、会話に混ざれん。

 とにかくちゃんと説明して貰わないと。

「まず①ですが、これは最終手段です」

「え、なんでだよ?」

「………事を荒立てれば当然こちらが不利だからです。我々の戦力はこれだけなのですよ? 魔族の戦力が不明な以上、力での解決は愚の骨頂です」

 太陽の「なんで?」みたいな表情に、キリエは呆れていた。

 さすがに俺もそう思う。戦う覚悟はあるけど余計な争いはしたくない。

『ワイの知る限り、プライド地域を守護する『魔騎士団』と、天魔王城を守護する『魔天術士団』がいるハズや。特に天魔王城を守護する騎士や魔術師達は精鋭も精鋭、勇者はん達でも厳しいでっせ』

「そういう事です。それに、私達がミレイナ救出に動いている事もバレてると考えた上で行動するべきです」

「つまり、交渉ですね?」

「……それも難しいでしょう。カイム、魔界に人間は存在してますか?」

『……いや、おらへんで。大昔はいたみたいやけどな………奴隷として』

「つまり、我々の話を魔族が聞くかどうかに掛かっています。確証もない状況ではヘタな交渉は命取りです」

 ここで①と②は潰された。

 つまり、残りの可能性である③に掛けるのか。

「③……これも難しいですね。理由を探ろうにも魔族と接触しなければならない、それに、ただ単純に連れ帰っただけならまだしも、正当な理由があれば逆に私達が誘拐犯です。それに、理由を聞くなら魔族でも格式が高い者……つまり、四天将クラスか、ミレイナと同じ『魔王族』か」

『あ~……ミレイナはん、魔王族なら仕方ないわ。噂じゃ『天魔王ゼルルシオン』の妹が行方不明って言われとったし、水面下で捜索隊も組まれとったからなぁ。理由なんてなくとも、連れ戻されるのは当たり前やで』

 じゃあダメじゃん。

 これで三つの作戦は使えなくなってしまった。

 するとキリエがダメ押しで言う。

「ここで無理矢理連れ帰っても、すぐに連れ戻されるでしょうね。なんせミレイナを連れ去った魔族は、アガツマ運送会社のオフィスに乗り込んできたのですから」

「じゃあどうする?」

「…………」

 全員、黙りこくってしまった。

 考えれば考えるほどわからない。ミレイナを救い、魔族から干渉されないようにするにはどうすればいいんだろう。

 ベストなのは、誰も傷付かずミレイナを救い出し、今後一切魔族の干渉がないようにする事だが、現時点ではどうすればいいか想像も出来ない。

『あ、あの~……とりあえず、プライド地域首都の《ヒュブリス》へ向かうのはどうでっか? 少人数で顔を隠して行けば、バレることはないと思います。まずはそこで情報を集めてからミレイナはん救出に向けて新たに作戦を練れると思いまっせ』

 カイムが作戦を提案する。

 確かに、ここにある情報だけじゃ難しい。

「よし、カイムの案で行こう。目指すはヒュブリス、情報収集メンバーは……」

「あたしが行くわ。揉め事になっても対処出来る」

「じゃあオレも行くぜ」

「あ、私も行くー」

 話し合いの結果、月詠と太陽とクリスがヒュブリスの潜入、残りメンバーは待機となった。

 まずは、目立たない場所にトラックを移動させるため、ヒュブリスの近くまで向かおう。




 だけど、俺達の考えは甘かった。

 戦闘をなるべく回避する、そう考えるのは普通だが……向こうはそう思ってなかった。

 まさか、まさかの展開だ。これはキリエも月詠も予想していなかった。

 俺はヒュブリスの近くまでトラックを移動させ、町が視認できる辺りまで来た。

 そして、見えたんだ。




 平原の中央に立つ、プラチナの髪の少年を。

外伝集にバレンタイン特別編を投稿しました。

よかったらご覧ください。

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お読みいただき有難うございます!
最弱召喚士の学園生活~失って、初めて強くなりました~
新作です!
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