194・トラック野郎、コロンゾン大陸を制覇
*****《コウタ視点》*****
コロンゾン大陸の中盤にある岩場にトラックを止め、俺は居住ルームで休憩していた。
太陽達は遊戯ルームで卓球をしてる。どうやらシャイニーやコハクも混ざり、トーナメント戦を開いてるようだ。
少し様子が気になったが、戦闘疲れもありソファでだらける事にした。するとトレイにお茶とお菓子を載せたキリエが隣に座る。
「コンビニで買った紅茶とお菓子ですが、よろしければ」
「ああ、ありがとう」
ティーバッグタイプの紅茶だが、レモンの輪切りを浮かべたレモンティーだ。しかもお茶菓子はキリエの手作りクッキーだしな、かなり贅沢だぜ。キリエのファンクラブが見たら羨ましがるだろうぜ。
紅茶を啜り、チョコチップのクッキーに手を伸ばす。
「うん、美味い。さすがキリエだな」
「ありがとうございます」
しばし、無言でお茶とお菓子を堪能する。
このメンツの中ではキリエが一番精神年齢が高い。ある意味キリエと過ごす時間はとても静かに流れている気がする。
「······社長」
「ん?」
「ミレイナを、早く助けましょうね」
「ああ、もちろんだ」
俺とキリエはソファにもたれると、同時に伸びをした。
「フードフェスタまで帰りたいな。イベントも盛りだくさんだし、キリエやコハクは見た事がないんだろう?」
「はい、恐らくミレイナもですね。シャイニーはあるそうですが、話を聞いただけでコハクは興奮してましたから。それに、フードフェスタは一月ほど開かれますので、多少は猶予があります」
「え、一月!? そんな長いのか!?」
「ええ。その間、ゼニモウケの入場者数は一千万を軽く超えるそうです。あまりにも数が多く、数えるのを放棄したくらいだそうですよ」
「はぁ〜······」
一体、どれだけの食材が消費されるのか。
でもまぁ、そのための準備はしてるみたいだし。それに行き付けのモツ鍋屋も新メニューを考えてるらしい。興味が尽きないね。
「あ······」
すると、俺の腹が鳴った。
キリエに思い切り聞かれ、かなり恥ずかしい。
「社長、夕飯は何が食べたいですか?」
「·········そうだな」
ちょっと考えるフリをして、俺は答える。
「うん、モツ鍋がいいな」
いい感じにリラックス出来たので、再度運転席に座る。
ちなみに今夜はモツ鍋に決まった。キリエには感謝感激雨あられだぜ。
「うっし、行くぞタマ」
『畏まりました』
今更だが、俺はコロンゾン大陸を横断してる。
迂回したり敵がいないルートを進むのは容易だが、敢えて大陸のド真ん中を堂々と進んでいる。
これは俺の度胸を上げるためであり、現れる強大なモンスターを相手にする事により、俺の運転技術向上を図るためだ。
経験値はついでもついで、結果的に貯まっていく。
そう、俺はこのコロンゾン大陸最強になるべく進んでいる。
姿を晒し、立ち塞がるモンスターを蹂躙してひたすら進む。
予感だが、ミレイナを救うには戦いが避けられない気がする。攫われた以上、向こうも返す気はないと言う事だし、話が通じないかも知れない。なら、戦って取り返すしかない。
勇者パーティーだけではなく、シャイニーやコハクやキリエはもちろん、俺とデコトラカイザーの力だってきっと必要になるはずだ。なら、魔族すら手が出せないと言われるこのコロンゾン大陸を制覇すれば、きっと引けは取らないはず。
超危険種も、超々危険種も、災害級危険種も、出てくる敵は全部蹴散らしてやる。
「みんなと、ミレイナと一緒に、フードフェスタを楽しむんだ」
俺はハンドルを握り、岩場から出る。
そして進路を魔界へ向け、堂々と平原の真ん中を進む。
「さぁ、来るなら来いや」
もう、ビビリの俺はいない。
ここにいるのは最強のトラック野郎、吾妻幸太だ。
それから数日、俺はモンスターを蹂躙しながら進んだ。
道中の様子を太陽達には秘密にしてたので、俺がどれほどのモンスターを屠ったのかみんなは知らない。くくく、俺の強さは然るべき場所で披露してやるぜ。
経験値もメチャクチャ溜まったし、レベルも上がった。
貯めに貯めた経験値はまだ使わない。というか現在の強化で十分に対応出来る。
そして、ついに来た。
『警告。コロンゾン大陸出口まで間もなく到達します。魔界領土境界付近に災害級危険種を発見。個体名《絞蛇ミドガルズオルム》です』
「そうか、問題ない。デコトラ・フュージョン」
何が来ようと今の俺の敵じゃない。
トラックは静かに人型へ変形。右手にドライビングバスター、左手にハイウェイストライガーを装備する。
平原の中央を闊歩する、白銀の巨人デコトラカイザー。
放たれるオーラは最強。いくつものモンスターを屠った大剣ドライビングバスターに、数多の敵を引き裂いた鉄爪ハイウェイストライガー。
そして、コロンゾン大陸のラスボス……魔界の入口の門番と言わんばかりに、全身にトゲが生えた巨大なヘビが待ち構えていた。
「行くぞ……」
『ジャルルルルルルルルル……』
大剣を差し、合図をする。
ヘビのくせに知能が高いのか、鎌首をもたげて威嚇をした。
『ジャシャァァァァァァァァァァッ!!』
「行くぞーーーーーーッ!!」
コロンゾン大陸、最後の戦いが始まった。
先手必勝、ハイウェイストライガーをガンモードに切り替え、とにかく乱射しながらヘビに近付いた。
「オラオラオラオラオラぁーーーーーーッ!」
『シャガァァァァァァッ!!』
弾丸はヘビの身体に食い込み血が吹き出るが、大したダメージにはなってない。身体がデカいのでチクチクやっても効果が薄いのだ。
『ジャァァァァッ』
「っっとぉ、アッブねぇっ!!」
ヘビは溶解液を球体にして吐き出したが、デコトラカイザーを操作しギリで回避。
「うわっ、地面が溶けたぞ!?」
『警告。あの溶解液は強烈な酸です。デコトラカイザーのボディも溶かされます』
「マジか……なら、当たらなきゃいいだけだ」
ヘビは、マシンガンのように溶解液を乱射する。
俺はハイウェイストライガーを盾にしながら躱し、少しずつ距離を詰める。
『社長。防御力の高いブルフォームの変形を推奨します』
「ダメだ、このままトラックフォームで行く」
アナログスティックを巧みに操りながら、溶解液を躱しつつドライビングバスターのガトリングで少しずつ削る。地味な作業だが相手も無敵じゃない。ダメージはあるはずだ。
『ジャァ、ジャァ……ジャァァァァ』
「よし、今だ!!」
吐き疲れたのか、ヘビの溶解液が止み、荒い息を吐きながら身体を横たえた。
俺はすかさずコマンド入力をする。
「必殺!!」
『コマンド入力成功。《デコトラドロップキック》発動』
そう、それはトラックフォームの必殺技。
デコトラカイザーはトラックに戻り、アクセル全開で走り出す。
「喰らいやがれ!!」
ヘビの眼前まで走り、一瞬で変形して大ジャンプ。そして空中で回転すると、ドロップキックの体勢になり、そのままヘビの頭めがけて空中で爆発的に加速した。
「オリャーーーーーッ!!」
『ジャガブフッ!?』
デコトラカイザーはヘビの頭に着地し、そのまま頭部を踏みつぶした。
脳ミソが破裂、当然ながら即死した。
「っしゃあっ!!」
『パンパカパーン。レベルが上がりました。【従車販売】が更新されました。【遊戯ルーム】の商品が更新されました。ドドドドン。特殊条件その二をクリアしました』
「は?」
『特殊条件その二。【自らの意思で強敵と戦い勝利】をクリア。残り条件は二です』
特殊条件……ああ、特殊変形のヤツか。
まぁ確かに、今までは仕方なしに戦ってた。タマのアドバイスを無視してトラックフォームで戦ったし、ある意味自らの意思で戦った。
勝利の余韻に浸るのもつかの間、タマが質問してきた。
『社長。何故トラックフォームで戦い続けられたのですか?』
「ん、ああ……その、自信があったしな。それにあれくらいの敵、トラックフォームでも倒せないとな」
まぁそういうこと。
左を制する者は世界を制す。トラックフォームを制する者は魔王を制す。なーんてな。要は一番使い慣れてるトラックフォームで、どんな敵も倒せるようになりたいだけだ。ちょっとガキかもしれんが、今回は許してくれや。
『理解しました。お疲れ様でした』
「お、おう、納得してくれたのか?」
『はい』
「………」
ホントかな?
まぁいい、とりあえずトラックに戻り少し休憩。
魔界は目と鼻の先、ここからは未知の領域だ。