193・プラチナの煌めき④/ミレイナとバレッタ
*****《ミレイナ視点・会議室》*****
天魔王城・最上階会議室。
現在、ここでは緊急会議が開かれている。議題はもちろん『人間界から来る勇者パーティー達と、ミレイナを奪還するために来る得体の知れない乗り物を操る集団に対する作戦会議』である。
メンバーは五人。
『灰銀の暗黒剣士』グレミオ。
『黎銀の魔術師』ミューレイア。
『青龍王』ブラスタヴァン。
『白虎王』パイラオフ。
『朱雀王』アルマーチェ。
プライド地域の最強戦力であり、単体が災害級危険種を遥かに超える戦闘力の持ち主である。
飾り気の無い、質素な造りの円卓に座り、この一件の総司令官に任命されたグレミオはニコニコしながら話し始めた。
「さて、さっそく始めよう。ミューレイア姉さんは知ってると思うけど、復習も兼ねて最初から説明するよ」
「………ふん」
ミューレイアは、グレミオと顔を合わせようとしない。
グレミオは苦笑し、事態を知らない残り三人に向けて話を始めた。
「今回みんなを集めたのは、人間界から来る『勇者』達を倒し、彼らの持つ『魔神器』を回収して貰うためさ」
「はぁ? 勇者って、先代の『天』を倒した勇者?」
パイラオフは円卓に肘をつき、足をパタパタさせながら聞く。
するとため息を吐いたのはブラスタヴァンだ。
「パイラオフ、人間の寿命はせいぜい一〇〇年だ。我々魔族とは違う」
「あ、そっか。じゃあ、最近召喚されたっていうガキの方か」
「······続けるよ。その勇者パーティー達が、どうやらコロンゾン大陸を抜けてここへ来る。キミたちは王城で待機してほしい」
「ちょっとグレミオ、どういうことですの?」
これに異を唱えたのは、一〇歳ほどの少女。
ピンクの髪をツインテールにして、フリフリのピンクドレスを着た可愛らしい少女だった。だが、もちろん普通の少女では無い。彼女の背中には、天使のような白い翼が折り畳まれていた。
そう、彼女こそ『朱雀王アルマーチェ』
魔鳥族最強の少女であり、魔界の空を統べる王であった。
「ま、ボクに任せてってことさ。ふふふ」
「······報告では勇者パーティー達は、我等の放った眷属を打ち破ったと聞くが」
ブラスタヴァンが深く頷くが、実際に太陽達が倒したのはオセロトルだけである。サーペンソティアとフレーズヴェルグはコウタが倒し、シャークラーは行方不明、ヴァルナガンドに至ってはペットとして飼われてる。カイムは死を偽装し、勇者パーティー達の案内鳥になっていた。
深い情報が入ってこないので、グレミオもそこまでの情報を掴んでいない。
するとアルマーチェが憤慨した。
「そうですわ!! 人間の勇者め……わたちの可愛いフレーズヴェルグを……許せない!!」
「ボクのワンコ達もやられちゃったしねぇ……」
「……オレもだ」
四天将の三人はそれぞれの眷属を思う。
「ま、ボクに任せてよ、それと······」
グレミオは指を鳴らすと、円卓の中央に光の球が現れ、映像が映し出された。
『デコトラカイザー!! 配送開始!!』
そこに写っていたのは、デコトラカイザーだった。
四天将の三人は驚愕していた。
「なんだアレは……鉄の巨人か?」
「わぁお、ボク初めて見たよ……」
「お、大きいですわね。それに堅そう……」
「問題は、これをどうするか。これも捕らえて解明すれば、きっとボク達の大きな戦力になる。つまり、プライド地域で最も強い力を得るってことだ」
「では、勇者パーティーを殲滅した後に、我々全員で捕らえればよかろう」
「そう簡単にいくかねぇ……」
ブラスタヴァンの言葉に、パイラオフは苦笑する。
「それと、聞きたいんだけど、どうして勇者パーティーは魔界に来るのさ。まさかまーだ魔王を倒すとか言ってんの? 魔王様が人間界を荒らしたのって、もうかなり前じゃん」
パイラオフの問いに、グレミオが応える。
「人間は、やられた事の重みをいつまでも忘れられないのさ。だから世代を超えて魔族に復讐しようと挑んでくる、異世界からわざわざ人間を呼び出してまでね。でも今回はそれが理由じゃ無い、むしろ本来の目的に勇者パーティー達が乗ってるだけさ」
「本来の目的……ですか?」
「うん。勇者パーティーの……いや、この鉄の巨人の持ち主の目的さ」
ミューレイアを除いた三人は、眉をひそめる。
「鉄の巨人の目的は一つ………ミレイナ姉さんを取り戻すことさ」
ミレイナに与えられた部屋は、六畳ほどの個室だった。
ベッドに机にクローゼットと、必要な物は揃っている。クローゼットの中には、かつて着ていたメイド服が入っていた。
「…………」
ミレイナは、ベッドサイドに座り落ち込んでいた。
ミレイナがメモを残した理由は、間違いなく助けて欲しいから。でもそれを逆手に取られてしまった。グレミオは間違いなく、トラックの力や勇者パーティー達の持つ武具を狙っている。
「コウタさん、シャイニー、キリエ、コハク、しろ丸……」
名前を呼ぶだけで、楽しかった思い出が蘇る。
天魔王城での思い出もあるが、人間界での思い出に比べたら楽しいことよりも辛いことの方が多い。ミューレイアの嫌がらせや、グレミオの性的な視線やイタズラ。メイド仲間も良くはしてくれたが、やはり辛いことの方が多い。
初めて見た兄であるゼルルシオンは、まるでミレイナに無関心だった。
空気のような、路傍の草のような、報告など必要ないくらいどうでもよさそうだった。
でも、ゼルルシオンは間違いなくミレイナの『兄』だというのは、ミレイナにも理解出来ない「何か」が間違いないと告げている。
「でも、私の居場所はここじゃ………」
すると、ミレイナの部屋のドアがノックされた。
ミレイナは立ち上がり、恐る恐るドアを開ける。
「やっほ、ミレイナ」
「バレッタ……」
「んふふ、ほらこれ」
バレッタは、紫色の液体が入ったボトルにグラスを二つ、そしてバスケットに焼き菓子を持っていた。
「話を聞く約束でしょ? ピオーネジュースとクッキー持ってきたから、一緒に食べよ」
「……ありがとう、バレッタ」
天魔王城での一番の親友、バレッタはニッコリ微笑んだ。
ミレイナはベッドサイドに座り、バレッタは椅子に座ってミレイナの話を聞いていた。
焼き菓子は半分ほど食べ終わり、ピオーネジュースの瓶は空になっていた。
「……なーるほど、いろいろあったのね」
「うん……」
ミレイナは、人間界の出来事をバレッタに話していた。
コウタとの出会いやアガツマ運送会社の仕事、そしてたあくさんの思い出。
話を聞き終わったバレッタは、ベッドサイドへ移動する。
「ミレイナ、あんた帰りたいんでしょ? ここじゃない、コウタさんって人間の元へ」
「………うん」
「ふぅん……好きなの?」
「うん、コウタさんは、私を助けてくれた人だし、ずっと一緒に仕事をしてたから」
「いや、そーじゃなくて……その」
「?」
バレッタは、ミレイナの「好き」が「愛」してるの好きではなく、友人の自分に向けるような「好き」であると理解した。
「ま、ここよりは居心地いいでしょうね。ここはあんたを奇異の目で見るヤツはいるし、その……グレミオ様みたいに」
「うん……でも、バレッタは違うよ。バレッタは私を友達として見てくれるでしょ」
「まぁね。同い年だし、ミレイナは可愛いから構いたくなっちゃうのよね~」
「も、もぅ、変なこと言わないでよ」
「あはは」
二人は、楽しそうに笑い合う。
「ねぇ、その『コウタさん』は、ここに来るの?……というか、コロンゾン大陸を抜けて来れるの?」
「うん。コウタさんは必ず来る………来てしまう」
ミレイナは、不安になった。
グレミオやミューレイアが、コウタを、勇者パーティー達を捕らえようとしてる。
勇者パーティー達は破格の強さだし、デコトラカイザーの力があれば負けるなんてあり得ない……だが、グレミオやミューレイア、獣魔四天将の強さはそれに匹敵する。さらに、兄であるゼルルシオンもいるのだ。
「………」
「ミレイナ?」
「………どうしよう」
ミレイナは、己の顔を覆う。
コウタなら勝てるかもしれない、だがグレミオ達やゼルルシオンが動けばどうなるかわからない。
「ミレイナ、今日はゆっくり休みなよ。明日から久し振りにメイドの仕事なんだからさ」
「………うん」
だが、ミレイナには何も出来ない。
今はただ、待つことしか。